軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国の姫

神聖魔法帝国が保有するアルカディアは、小島が浮かんでいるような大きさだった。

浮遊要塞、機動要塞――様々な呼び方がされている。

そんな要塞の主人はミア――【ミリアリス・ルクス・エルツベルガー】だ。

小柄で濃い茶髪をポニーテールにしている。

今はドレスを着用し、ティアラやら装飾品を身につけていた。

ただ、その紫色の瞳は悲しそうにしていた。

要塞内部から外を見ている。

少し前まで病弱だったが、アルカディア内部では体調がいい。

ミアの側には、世話をする侍女たちの他に黒い球体に肉眼が一つだけの魔法生物がいた。

ブレイブと似ているが、中身はまるで違う。

『マスターミア、どうして悲しそうなのですか?』

ミアは魔法生物に答える。

「――どうして友達と戦わないといけないのかな?」

帝国はこれから王国へと攻め込むために、大急ぎで準備をしていた。

アルカディアの周囲には軍艦が沢山浮かんでいる。

総力戦を挑もうとしていた。

『王国は旧人類側の存在です。このまま我々が存在すれば、自分たちのみが危ういといずれ気が付くでしょう。また、我々のことを知っている人工知能たちがいます。奴らは王国に集まり、いずれ帝国に牙をむきます』

やられる前にやる。

それだけだ。

これは戦争ではない。

生き残るための戦いだった。

ミアも父親――皇帝である【バルトルト】から事情は聞いているし、何度も説明を受けた。

だが、納得できない。

「王国には友達もいるの」

『帝国にもご家族や友人がいます。彼らに滅んで欲しいと言えますか?』

ミアは首を横に振る。

「言えないよ! 言えないけど――」

ミアは心を痛めていた。

(私は一体どうしたらいいの。――騎士様、どうして側にいてくれないの)

本来なら側にいるべき【フィン・ルタ・ヘリング】は、帝国最強の騎士として序列第一位に復帰した。

そのため、今は戦いに備えて忙しく動いている。

ミアの側にはいてやれなかった。

魔法生物がミアを見て、この戦争に勝てるのか心配していると感じたようだ。

『マスターミア、問題ありません。旧人類側の兵器は寄せ集めのようなもの。このアルカディアを沈めるのは不可能です』

「――おじ様――いえ、皇帝陛下はそうは思っていなかったわ。ブー君も警戒していたし」

ブー君――ブレイブは、旧人類側の兵器を警戒していた。

それについて魔法生物は、警戒しすぎだと言う。

『慎重な個体のようですね。確かに無傷とは言いませんが、我々の勝利は揺るぎません。勝率は八割と試算しております』

「二割は負けるって事だよね?」

『奇跡でも起きない限り、王国が勝利することはありません。それに、バルトルト陛下は他国にも協力を求めています』

確実に勝利するため、帝国は王国と争っているラーシェル神聖王国や他の国に協力を求めていた。

全てが新人類側の国ではないが、生存競争が始まっているなど思っていない他国は王国にいる英雄――リオンを警戒して手を組む方向で話が進んでいた。

『それにしても皮肉な話ですね。王国にこの戦争の真実を知る英雄がいるために、他国が我々に協力するのですから』

たった一人で共和国を倒した男。

数々の戦いで勝利したリオンは、国内よりも他国で高く評価されていた。

そのため、他国が帝国に協力する理由を作ってしまっていた。

「リオンさん――騎士様と友達なんだよ」

『フィン殿は戦うと約束しました。一対一なら不安ですが、この状況ならフィン殿が勝つでしょう』

ミアは俯く。

(――騎士様、前に泣いていたのはこれが分かっていたからなんだ)

バシッと部屋に響く音がした。

頬を叩かれた俺は、涙目の相手を見て責められない。

アンジェの声は震えていた。

「お前は――私たちを信じてくれないのか? どうして一人で戦おうとする?」

アンジェとリビアは、どうやら事情を知っていたようだ。

お喋りな奴、と思いながら、俺はルクシオンに視線を向けた。

だが、ルクシオンは何も答えない。

「リオンさん、一人で無茶をしないでください。私たちはリオンさんが死んだら――」

ポロポロと涙をこぼすリビアは、途中で口元を手で押さえた。

俺は俯きながら苦笑いをする。

「――どうにもならないよ。それに、この戦いに他は邪魔だ」

部屋の隅では、ノエルが腕を組んで壁に背中を預けていた。

「邪魔って――酷い言い方よね」

だが、自分たちでは役に立てないと理解しているのか、それ以上は言わなかった。

アンジェが俺の顔を両手で挟み、自分の顔に近付ける。

「帝国の動きがこちらにも伝わってきた。帝国は総力を挙げて王国を叩くつもりだ。それだけじゃない。他国にも協力を求めている。――相手は使える手を全て使っているんだ。それなのに、お前はどうして!」

帝国側の転生者たちは本気だな。

だけど、俺には無理だ。

俺には王国で社会的な地位がある。

だが、帝国側の転生者と違って、俺には準備する時間も絶対的な権力もない。

俺一人が声をかけて集まる戦力など少ない。

集まってくれるのは親しい人たちだけだろう。

――そんな人たちに、命を捨てろとは言えなかった。

「俺には人望がないからね」

「そうやって誤魔化すつもりか? お前のことだ、巻き込みたくないと思っているのだろう? だが、この戦いは生存競争だ。我々にも知る権利はある」

「知ったところで――どうにもならないよ」

権利はあるだろう。

だが、知ってどうなる?

知れば混乱して民衆は騒ぎ出す。

それに、こんな話を本当に信じるだろうか?

前世で言うなら、実は古代に滅んだけど今よりも進んだ文明があって――と言っているのと同じだ。

とても胡散臭い。

そして、戦場で怖いのは裏切りだ。

無理矢理戦力をかき集めても、帝国側が有利だと裏切る貴族たちも出てくる。

特に領主貴族たちが危険だ。

彼らは言ってしまえば、小さい国の王様だ。

王国はそんな彼らを強大な軍事力で黙らせ、親分をやっているに過ぎない。

だから、もっと強い奴が出てくると平気で裏切る。

更に、自らが力を持てば王国を滅ぼしに来る。

従えている王国も気が休まらないはずだ。

少しだけ――女尊男卑の風潮を作った気持ちが分かってきた。

そもそも、王国にとって領主貴族は信用できない相手だった。

そして、今は俺も同じ気持ちだ。

「アンジェ――分かっているだろう? 俺が声をかけたところで、王国は力を貸してくれるのか? 全力で協力してくれるのか?」

アンジェの視線が俺から離れた。

「それは――約束できない」

下手をすれば、王国さえ敵に回る可能性がある。

何しろ、生存競争と知っているのは俺たちくらいだ。

王国の上層部だって知らない。

そんな上層部が、本気の帝国を前にどう対応する?

戦うだろうが――もしも、敵が俺を差し出せば見逃すと言えばどうだろう?

王国は間違いなく俺を売る。

悲しいが、それがホルファート王国だ。

俺一人の犠牲で帝国が矛を収めるなら、きっと差し出すはずである。

ま、色々と考えた結果――みんな邪魔だ。

「邪魔なんだよ。勝率が下がるから当てにしない」

アンジェが俺から手を離した。

「――リオン、お前の気持ちは変わらないのか? お前は、最後まで私たちを信用してくれないのか?」

「信じているよ。だから、生き残って欲しい」

アンジェが涙を流した。

「お前は本当に酷い男だよ。ユリウス殿下以上に最低だ」

「――そう思うよ。だから、俺みたいな男は忘れた方がいい」

そう言って部屋を出ようとすると、アンジェが俺の背中に抱きつく。

「リオン、もしも本当に私を信じているなら、王国をもう一度だけ信じてくれないか? 私が必ずまとめてみせる」

「無理だよ」

このグダグダな国に何を期待すればいいのか?

そう思っていると、アンジェは――。

「まとめる方法が一つだけある。お前にも負担があるだろう。私や――リビアだけではない。ノエルにも覚悟が必要だ。だが、私たち三人はもう覚悟を決めた。お前が認めてくれるなら、王国をまとめてみせる。お前の力になってやれる。だから――お願いだ。一度でいいから、私を信じてくれ」

俺が黙っていると、リビアが俺の前に立った。

「リオンさん、お願いします。私たちに手伝わせてください」

真っ直ぐ俺を見ていた。

普段なら、泣くのはリビアで、アンジェが堂々としているはずなのに――今日は立場が違っていた。

ノエルが照れくさそうに髪をかく。

「あたしも出来ることをするからさ。だから、あたしたちのやることを認めて欲しいんだけど」

何をするつもりなのだろうか?

俺はルクシオンを見る。

「お前は三人が何をするか知っていたのか?」

『はい』

「――三人を危険なことに巻き込むなよ」

『既に巻き込まれているのです。それに、マスターよりは安全ですよ』

どうするべきか悩んでいると、アンジェが泣きながら俺に言う。

「リオンには悪いとは思う。だが、この方法なら国はまとまる。お前の力にもなってやれる。お願いだ。話だけでも聞いてくれ」

俺は髪をかく。

「ルクシオン、大丈夫なのか? ――三人が危険な目に遭わないよな?」

『――多少危険はあると思いますが、護衛は付けますよ。それなら、問題ありません』

「そっか――なら、好きなだけやってくれ」

「リオン?」

アンジェが俺から離れた。

「好きにすればいい。俺の負担なんて考えなくていいから――自分のことを優先してくれ」

きっと戻ってなど来られない。

だが、このまま三人を突き放したら、何をするのか分からない。

ルクシオンの管理下に置いた方がいいだろう。

「なら、説明を――」

「悪いけど、少し急ぐ。――話は後で聞くよ。ルクシオン、いくぞ」

『はい』

今は回収するべきアイテムがある。

俺は三人を残して部屋を出た。

早く三人から離れたかったのだ。

せっかくの決意が揺らぎそうになるから。

リオンが出ていった部屋。

残された三人は微妙な雰囲気だった。

「――やはり、信じてくれないのか」

どこか諦めたような声を出すアンジェを、リビアが抱きしめる。

「大丈夫です。リオンさんは信じてくれますから」

そうは言っているが、リビアもリオンが自分たちを信じていないのを感じている。

それよりも、何か隠しているような気がした。

ノエルはポケットに手を入れる。

「それより、これからどうするの?」

アンジェは涙を拭う。

すると、その瞳に輝きが戻り、強い意志を示していた。

「私はこれから実家に行く」

リビアが頷いた。

「気を付けて」

「あぁ、大丈夫だ。敵対したから怒っているだろうが、流石に命までは取らないさ」

リビアも今後の話をする。

「私はアーレちゃんとヴァイスの回収に向かいます」

ノエルは肩をすくめる。

「なら、私は聖樹の若木と――共和国関係だね。あっちに手紙は出したけど、どんな反応が返ってくるか分からないのが怖いけど」

アンジェが先程は泣いていたと思えない堂々とした態度を見せた。

「ならば行動開始だ。この戦い、勝つだけでは終わらないからな」

アンジェたちは勝利後を想定していた。

リオンは勝つことばかり考えているが、その後を考えていないからだ。

仮にリオンが勝ったとしても、事情を知らない王国からすれば帝国に一人で勝利した危険人物扱いを受ける。

ルクシオンが無事ならいいが、最悪リオン一人で生き残ってしまえば危険だった。

「あいつには生き残ってもらう。私はあいつを幸せにすると約束したからな」

リビアも笑顔で頷いた。

「そうですね。約束しましたもんね」

ノエルは鼻の頭を指でかいている。

「その話、私は知らないけどね」

アンジェは小さく笑っていた。

「後で聞かせてやる。だが、惚気話だから後悔しても遅いぞ。――さて、リオンの許可はもらったから、行動開始だな」

アンジェがそう言うと、リビアは少し不安そうにするのだった。

「リオンさん、ちゃんと話を聞いていませんでしたけどね。――大丈夫かな?」

ノエルはポケットに手を入れたまま、首をかしげるのだった。

「分かっているんじゃないの。――多分だけど」