軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新人類

『は~あ、ゴタゴタしていたから、これの設置が遅れたわね』

クレアーレが設置しているのは、大型のレーダーのような物だった。

イデアルから回収した装置を整備し、ようやく設置できるようになった。

随分と酷く損傷しており、整備に時間がかかったのだ。

作業用のロボットたちが、クレアーレに抗議している。

『遊んでいたから? 違います~。ちょっと実験を楽しんでいただけです~。マスターも認めてくれました~』

そうしている間に装置が稼働する。

すると、クレアーレは青い瞳を光らせる。

『――嘘でしょ』

作業ロボットたちも静かになり、そしてしばらくすると慌ただしく動き出した。

『イデアル、あんたが恐れたのってまさか』

ダンジョンの地下三十階。

フィンがどうしてもと急かすから、俺たちはミアちゃんのイベントを消化するべくダンジョンの遺跡部分に来た。

大きな石版があり、文字が淡く光っている。

こいつは、王国では目印代わりだ。

貴族はこの石版がある場所まで来られないと、一人前と認められない。

リビアが地面に座り込む。

「や、やっとつきました~」

その姿にアンジェとノエルが、違った反応を示す。

「リビア、よく頑張ったな」

「いや、普段から運動不足なだけよね?」

ここまでナビゲートしてくれたルクシオンが、石版を見て不満そうにしている。

『新人類が使っていた文字ですね』

「読めるのか?」

『“我々は勝利する”と書かれています。それ以外は、劣化して読めなくなっていますね』

フィンの隣に浮かんでいる黒助が、ルクシオンを煽っていた。

『勝ったのは俺様たちだからな!』

『――今なら負けませんが?』

『今やっても俺様たちが勝つよ!』

フィンはそんないつもの光景を無視して、ミアの肩に両手を触れている。

「ミア、大丈夫か?」

『はい! もう、調子がいいくらいです。えっと、これに触るんですか?』

俺たちが頷くと、ミアちゃんが石版に触れるのだった。

エリカが言うには、これでミアちゃんは覚醒するらしい。

ミアちゃんが石版に触れると、文字が強く輝き出す。

「綺麗だな」

『そうですか?』

不満そうなルクシオンと違って、リビアは興奮していた。

「凄い。ミアちゃんに反応しているような――ミアちゃん?」

だが、様子がおかしかった。

ミアちゃんが苦しんでいる。

「ミア、おい、どうしたんだ、ミア!」

フィンが慌ててミアちゃんを抱きしめると、涙を流していた。

「騎士様、私ね――急に胸が苦しくなったんです」

「息が出来ないのか? な、なら、すぐにマスクを!」

「違うんです。悲しくて、そして辛くて――凄く悲しい声が聞こえてきたんです」

その言葉に、黒助が急に周囲を見渡しはじめた。

『――この感じは、まさか』

ダンジョンが僅かに振動している。

揺れるダンジョンが落ち着き出すと、ミアちゃんが立ち上がるのだった。

「声が聞こえます」

そう言って、倒れるミアちゃんをフィンが抱きしめる。

「ミア? ミア!」

俺はすぐにフィンに声をかけるのだった。

「馬鹿、予定通りだ。すぐに外に運ぶぞ」

「わ、分かっているが、様子がおかしかった。エリカちゃんが言っていた内容と少し違わないか?」

エリカが言っていたのは、ミアは覚醒すると意識を失い倒れる。

本来なら攻略対象の男子たちに運び出され、そこから特殊な能力に目覚めるらしい。

これまでの病弱設定が消えると言っていた。

「細かい部分まで覚えていなかっただけじゃないか? 息はあるし、安定もしている。すぐに運び出してやろう」

「あ、あぁ――」

フィンがどうにも落ち着かなかった。

それは俺も同じだ。

妙な胸騒ぎがしてくる。

神聖魔法帝国。

皇帝であるバルトルトは、帝国の大地の下――海の中にいた。

発掘した海中でも活動できる飛行船に乗り込み、目指したのはチートアイテムである【アルカディア】の眠る場所だ。

フィンからの報告で、ミアは今日にでも覚醒すると聞いていた。

だから、待っていたのだ。

豪奢な椅子に座っていると、目の前の光景に家臣たちがざわつきはじめる。

「皇帝陛下!」

「ご覧ください、遺跡が!」

「信じられない」

バルトルトは立ち上がる。

浮かびはじめた遺跡を追いかけるように、飛行船も浮上していく。

「機動要塞“アルカディア”――ミアの血で無事に目覚めてくれたか」

ミアの覚醒と同時に目覚めた兵器。

事前に、ミアの血を採取して遺跡に登録しておいた。

その兵器こそ、新人類の砦。

旧人類が恐怖し、人工知能たちが何とか沈めた凶悪な兵器だった。

魔素を作り出し、地球を死の星にした元凶である。

「陛下、周辺の魔素の濃度が急上昇しています!」

「モンスターが発生します!」

「急いでここから離れます!」

飛行船を操る部下たちの声を、バルトルトは一喝する。

「不要だ。このまま遺跡の近くにいればいい!」

叫ぶと咳き込むバルトルトに、周囲の者たちが駆け寄ってくる。

だが、手で制す。

「問題ない。むしろ、今は少し楽になったくらいだ」

ミアと同様に、バルトルトも最近は体調を崩しはじめていた。

その理由も理解している。

(前世の妹が熱中していたゲーム知識が、まさか役に立つとは思わなかった)

浮上するアルカディア。

楽園と名付けられたその要塞は、六角形の台座の上に城が存在している。

それぞれの面に、赤い目が描かれている。

(これで、帝国の民は救われる)

バルトルトは宣言する。

「我が娘――ミア――ミリアリス・ルクス・エルツベルガーを王国より呼び戻せ」

家臣が目を見開く。

「へ、陛下、ミア様は皇族に関わらせてはならぬと、ご自身で仰っていたではありませんか」

「状況が変わった。ミアは我ら帝国民の女帝となる存在だ」

(そう、我ら新人類の血が強い帝国民には、覚醒したミアの力が必要なのだ)

海面から浮上し、魔素を周囲に放出しはじめる機動要塞。

その周囲にはモンスターたちが出現するも、バルトルトたちを襲おうとはしなかった。

「これはいったい」

バルトルトは、外の空気が入ってくるとこれまで以上に力がわいてくるのを感じる。

目を閉じる。

(小僧――フィン、すまなかったな。お前には伝えられなかったよ)

フィンの報告から、王国に住む転生者と親しいという内容があった。

だから、伝えることは出来なかった。

(これは生存競争だ。我ら新人類と、旧人類の血を色濃く残した者たちとの――)

帝国の民は新人類の血が濃い。

皇族は更に濃かった。

そして、王国の民は――旧人類の血が濃いのだ。

旧人類と新人類の戦いは、まだ終わってなどいなかった。

二週間後。

フィンは迎えに来た帝国騎士から事情を聞き、冷や汗を流していた。

「――何だと?」

目の前の若い騎士は、帝国の序列第三位の騎士だ。

帝国で三番目に強い騎士。

いわゆる天才騎士だ。

若くして剣聖の地位に就いた美形の少年だ。

少し生意気なところはあるが、フィンを慕っている。

「貴方の護衛騎士の任を解くそうです。ミア様は皇族に正式に復帰され、継承権第一位になりますからね」

「ふざけるな。――ふざけるなよ! どうしてミアが帝位を継ぐんだ!? あの子は女の子だぞ! 他の皇族が黙っていないはずだ!」

騎士は困った顔をする。

拗ねたような顔で説明するのだ。

「僕も詳しくは知りませんよ。ただ、皇帝陛下は皇族の方たちを説得しました。僕だって意外ですけど、皇族の方たちの大半が認めましたからね。一部は条件付き賛成です」

帝国からの使節団。

手紙を出した時期を考えても、あまりにも来るのが早かった。

(あの糞爺、何を考えていやがる!)

「――ミアは、留学先に戻ってこられるのか?」

「先輩、分かっていませんね。もう、留学なんてさせている暇はないんです。ミア様には後継者としての教育が待っていますから。それに――陛下は王国と距離を置くつもりですよ」

フィンが驚く。

「何だと?」

「大使館も引き上げます。僕たちが人員を連れて帰りますから」

「お、お前、それがどういう意味か分かっているのか? 帝国は王国を見限ったのか? 王国が内乱状態になると思っているなら間違いだぞ。リオンがそんなことをさせるわけがない」

実際、今はリオンが王国を守っている。

内乱にはなっていなかった。

貴族たちが何を考えているのかまでは分からないが、王国はここ数ヶ月平和だった。

「王国の外道騎士ですか。僕としては、王国の次期剣聖候補が気になっていたんですが、今は落ちぶれたみたいですね。おっと、話が逸れましたね。先輩、陛下のご命令ですよ」

騎士から書状を手渡され、受け取り乱暴に開くと内容に驚いた。

「何て書いてあるんです?」

内容は目の前の騎士も知らないようだ。

そこには『ミアのために今は従って欲しい』と丁寧に書かれていた。

「――戻れと書いてあるだけだ」

「先輩は陛下のお気に入りですからね」

「そんなんじゃない」

「そうですか? でも、周りから見れば、特別待遇だと思いますよ。ま、僕は先輩の実力を認めているので、別に問題ありませんけどね。では、失礼します」

騎士が部屋を出ていくと、フィンは手紙を握りつぶすのだった。

「――何でだよ。ちくしょう」

手紙の内容に、怒りのぶつけ先がなくフィンは涙を流した。

そこには『王国と争うことになる。旧人類の兵器には注意せよ』と書かれていた。

ブレイブが姿を見せる。

『相棒――先手必勝だ。ここでリオンをやれ』

その言葉に目を見開く。

「黒助、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」

睨み付けるが、ブレイブは譲らなかった。

『相棒がミアを助けたいなら、あいつは必ず敵に回る。戦場であいつの相手をするな! 俺様でも――相棒やミアを守り切れる自信がない。だから、相棒――今ここで決断しろ。あいつらもすぐに気が付く。そうなれば、リオンが相棒を殺しに来る!』

自分を心配するブレイブを前に、フィンは俯くのだった。

「――分かっているんだよ。あいつをここで倒すのが、正解だって分かっているんだよ」

帝国からの使節団が乗り込んできた日。

ルクシオンが持ち込んだ情報に、俺は愕然としてしまった。

「――エリカの体調が崩れた?」

同時に持ち込まれた情報は、新人類の凶悪な兵器が目覚めたという事実だ。

『魔素の濃度が急上昇しています。復活したのは間違いありません。データからするに、完全な状態ではないようです』

「――そうか」

『マスター、ご決断を』

「――駄目だ。ミアちゃんは殺せない」

『目覚めた“アルカディア”のマスターはミアです。間違いありません。私とクレアーレで既に調査済みです!』

ミアちゃんが覚醒した日に、アルカディアという兵器が蘇った。

魔素を大気中にばらまき、そのせいでエリカは再び体調を崩してしまった。

『攻撃許可を求めます』

「兵器の方を潰す」

『――無理です』

ルクシオンがいつになく余裕がなかった。

『アルカディアを潰すために、過去に我々は大艦隊を失いました。それでも、沈めることしか出来なかったのです。破壊できなかったのです』

過去のデータから、ルクシオンは無理と判断したようだ。

ルクシオンよりも戦闘に特化した戦艦も多く、今の俺たちよりも戦力は充実していた。

しかし、万全の態勢で戦っても――相打ち。

旧人類も新人類も、決定打に欠ける状態になり、そこからは互いに血で血を洗う戦いが続いたようだ。

『ブレイブも既に気が付いているはずです。あちらが先にマスターたちを攻撃する前に、先制するべきです』

完全ではないとはいえ、ルクシオンでは勝てないと判断したらしい。

「手を取り合える可能性は?」

『ありません。これは生存競争です。今まではバランスが取れていたのです。そのバランスを崩したのは――我々です』

聖樹の暴走でバランスが崩れた。

そのせいで、帝国側では苦しむ人が増えたらしい。

データが少なかった。

まさか、帝国民が新人類側の血が濃いなんて思わなかった。

逆に、王国側は旧人類の血が濃いようだ。

ミアちゃんは新人類の血が覚醒し、エリカは旧人類の先祖返り。

元から相容れない存在だったのだ。

「一緒に生きていく方法は?」

『――ありません。どちらかが、窮屈な暮らしを強いられることになるでしょう。どちらもそれを認められないはずです。マスター、これはエリカだけの問題ではありませんよ』

「どういう意味だ?」

『王国民をクレアーレが調査しました。結果、旧人類の血がより濃くなっているそうです』

これから生まれてくる子供たちは、そのように旧人類の血を復活させていくらしい。

ジェナのお腹の中にいる子供を思い出した。

そして――エリカの笑顔が思い浮かぶ。

「――そうか。聖樹のある島ならどうだ? 聖樹は魔素を吸うんだろ?」

『聖樹の成長速度を考えると、全てを助けるのは不可能です。同時に、帝国は聖樹を見つけて焼くはずです』

自分たちにとっては損にしかならないから、見つけたら伐採するよな。

「何だよ、また詰みか」

『攻撃の許可を。今なら、まだ間に合います。アルカディアの復活と同時に、我々の仲間も目を覚ましています。ミアを殺害後、機能を停止したアルカディアを今度こそ破壊します』

俺は手で顔を隠して笑うのだった。

「最初から敵対する運命だったわけだ。笑うよな。どうして――」

――迷っている自分が情けない。

イデアル――そうか、お前はこんな俺を頼れないと判断したのか。

『マスター!』

ルクシオンの赤い一つ目が強く光った。

「ルクシオン、命令だ――」