軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルトファルト領から王都にやって来た飛行船から下りたのは、ノエルだった。

茶色い革製の旅行鞄を持ち、港に立つと背伸びをする。

「地面っていいわよね」

そんな感想を口にするノエルが王都に来た理由は、学園に入学するためだ。

今年から二年生として編入する。

続いて飛行船から下りてきたのは、フィンリーだった。

ボブカットで、毛先は内側にカールしている。

小柄のスレンダー体型で、可愛い感じの女子だった。

「――もう最悪」

だが、表情が不満そうで、魅力を台無しにしている。

ノエルは、義理の妹になるフィンリーに顔を向けると困った顔をする。

「あんたね、いい加減にしなさいよ。飛行船の中で、ニックスさんに散々言われたでしょうに」

「お兄ちゃんに色々と言われたから腹が立つのよ。なんで私は奴隷を買えないのよ。学園に来たら、夢のような生活が待っていると思ったのに」

フィンリーの世代は、劇的な転換期を迎える世代だ。

国や学園の方針が変わり、専属使用人という亜人種の奴隷を持つことは品がないとされている。

品――というよりも、国が徹底的に排除した形だ。

無理につれて学園に入学しようとすれば、退学処分もあり得た。

「王国の風習って変わっているわよね。堂々と愛人を連れ回すとか、どうかと思うわよ」

「別にいいじゃない。今まではそれが普通だったのに」

フィンリーたちの世代から言わせてもらえれば、急に言われても困る、というのが本音だった。

バルトファルト家の飛行船からは、ニックスやジェナも下りてくる。

「王都に来るのも久しぶりだな」

ニックスがそう言うと、私服姿のジェナは泣きそうになっていた。

「懐かしの王都――私、もうここに住むわ」

感動して泣いているジェナを見て、フィンリーは舌打ちをしていた。

「何よ。全部お姉ちゃんの奴隷が、お兄ちゃんに手を出すから悪いんじゃない。私たちまで巻き込んで、最低よ」

ジェナが言い返す。

「私のせいだって言いたいの? そもそも、リオンに手を出したから専属使用人の制度が消えたんじゃないからね。逆恨みしてんじゃないわよ」

いがみ合うようになった二人の姉妹。

それを見て、ノエルは苦笑いをするしかなかった。

(――レリアは元気にしているかな?)

思い出す故郷は――きっと大変だろう。

ニックスは、喧嘩をしている姉妹とノエルに声をかける。

「みんな行くぞ。俺も忙しいんだから、あまり面倒をかけないでくれ」

ニックスが王都に来た理由は――お見合いだった。

ノエルも歩き出すと、ニックスの隣を歩く。

「ニックスさん、お見合いっていつするの?」

「明日から毎日六人と面会だって。それでも数日で終わらないから困るよ」

押し寄せてきた身上書の山。

それだけ、バルトファルト家と縁を結びたい貴族が存在していることを意味している。

ジェナだけは悔しそうにしていた。

「リオンの伝を使えば、王都にいるお金持ちと結婚できるのに」

それを聞いたフィンリーは、ジェナに余裕の笑みを向けた。

「姉さんは諦めたら? 母さんが、絶対に余所には出さないって怒っていたもの。ま、私はお兄ちゃんの伝でお金持ちの貴公子と結婚するけどね」

「――あんた、順番は守りなさいよ。私の方が先に結婚するんだからね!」

「そんなの決まってないじゃない! というか、姉さんを待っていたら、いつまで経っても結婚できないわよ!」

「何ですって!」

喧嘩する姉妹を見て、ニックスは両手で顔を覆う。

「姉妹で醜く争うなよ」

賑やかなバルトファルト家の一団。

だが、港は騒がしく、目立ってはいなかった。

ノエルが周囲に視線を向ける。

「人がいっぱいね」

学園への入学を前に、大勢の人が港に集まっていた。

「――リオンたちは元気にしているかな?」

ノエルは、リオンに会えることを楽しみにしていた。

学園。

入学式を前に、学生寮が慌ただしい時期に――問題が起きていた。

「アーレちゃん、元気でな!」

「いじめられたらちゃんと言えよ」

「いつでも戻ってきていいんだぜ」

ノエルがリオンに会うために、男子寮に足を運ぶと玄関は大騒ぎだった。

「え、何これ?」

男子寮を退寮するらしいのは――見た目は女子のアーロンだった。

アーロン――アーレは涙を拭っている。

「みんな、ありがとう。学園では今まで通りに声をかけてね」

大勢の男子たちが涙を流している。

中には職員も混ざっていた。

ノエルには何が起きているのか分からない。

困っているノエルを見かけたのは、アンジェだった。

これからリオンに会いに行くようだ。

「ノエル、もう来ていたのか」

「アンジェリカ? これってどういう状況? 何で、女子が男子寮を退寮するの?」

意味が分からないノエルに、アンジェは目をそらした。

「――男から女になった。そのため、男子寮を退寮させるそうだ。詳しい説明は出来ないぞ。私も意味が分からないからな」

性転換など、ホルファート王国でも異例のことだった。

学園側も苦慮した結果、アーレを女子寮に移すことにした。

「王国って変わっているわよね」

ノエルのそんな感想に、アンジェは言い返したいが何も言えないようだ。

「あれが普通と思うなよ。違うからな。だが、今はそんなことよりも、大事なのはリオンの方だ」

真剣な表情をするアンジェを見て、ノエルは何か起きたのかと不安になる。

「何かあったの?」

「――来れば分かる。こっちだ」

二人はリオンの使用する部屋へと向かう。

侯爵で三位上という高い地位を持つリオンに用意されたのは、ほとんど男子寮近くにある一軒家だった。

そこでノエルを待っていたのは――。

「エリカちゃんは!」

『尊い!』

「そして、エリカちゃんは!」

『美しい!』

「おまけに!」

『可愛い!』

部屋の中、ノエルはクレアーレと叫んでいるリオンを見ていた。

「――え、何これ?」

アンジェが右手を額に当てている。

「エリカ様と面会してからずっとこれだ」

リオンとクレアーレが高笑いをしていると、リビアが声をかけていた。

「リオンさん、しっかりしてください! ルク君も何か言ってあげて!」

黙っていたルクシオンが、リオンに報告する。

『マスター、次のエリカとの面会ですが、献上する品をご用意いたしました。白金の延べ棒を三十キロほどご用意しております』

「そうか。他には?」

『各種問題なく取り揃えております』

「でかした!」

いつもなら嫌みや皮肉を言うルクシオンまでもが、リオンに同調している。

リビアが泣きそうになっていた。

「リオンさんたちが壊れた」

そんなリビアに、リオンは慌ててフォローする。

「それは酷くない? 俺は普通だよ」

「明らかにおかしいじゃないですか! 戻ってきてから、ずっとエリカちゃん、エリカちゃん、って!」

「い、それはその――む! アンジェとノエルが来た!」

言い返せず、こちらに視線を向けてくるリオンにアンジェが溜息を吐いていた。

「リオン、これで面会は何度目だ? お前、毎日のようにエリカ様と面会していないか?」

「申請したら許可が出たんだ。だから、お土産を用意しようと思って」

「――それで白金三十キロだと? お前は馬鹿なのか? いったいどれだけの価値があると思っている?」

「いや、でも、今の王宮だと色々と入り用だろうし」

「もらった相手も困るようなものを渡すな。ルクシオン、お前も止めろ」

『必要だと判断しましたので、拒否させていただきます』

白金とは、この世界では金の上位互換で――魔法的な価値を併せ持つ金属だ。

美しい輝きに加え、利用価値も高い希少金属だ。

お土産に渡すような品ではない。

ノエルはリビアに声をかける。

「ねぇ、何があったの?」

「リオンさん、婚約予定の王女様と面会してから変になったんです。アーレちゃんも、ルク君も様子がおかしくて」

急遽婚約が決まったエリカと面会し、まるで洗脳されたかのように溺愛しているという話だ。

ノエルはリオンを見る。

だが、それ以外の部分は以前と変わらないようにも見えた。

(これ、いったいどうなっているの?)

リビアは、続きを話す。

「マリエさんも、王女様と面会したんですけど――やっぱりおかしくなちゃって」

「マリッチも?」

リビアは部屋の窓を見る。

「――リオンさんが王女様のために色々とするのを見て、自分もやるって言い出したんです。“ちょっとエリカのためにロストアイテムを見つけてくる!”って、ユリウス殿下たちを連れて冒険に出ました」

それを聞いたノエルは思う。

「王国ってやっぱり変わっているわよね。それで、いつ帰ってくるの?」

リビアも言われて、

「あれ? そういえば、新学期も近いのに戻ってきませんね」

クレアーレが二人に近付いてきた。

『そうね。もうそろそろ戻ってこないと新学期に間に合わないわね。もしかして――遭難していたりして』

「いや、それはさすがにないでしょ」

ノエルが笑いながらそう言うと、リオンやアンジェ――そしてリビアも冷や汗を流していた。

ルクシオンが言う。

『マリエたちのことですから、可能性は高いですね。そろそろ回収に向かいましょうか』

森の中。

そこには鉈を振り回すマリエの姿があった。

「みんな、もう少しよ!」

険しい森の中。マリエは先頭を進んでいた。

全ては、エリカにロストアイテムをプレゼントするためだ。

毎日のようにリオンがエリカにプレゼントを届けるので、それを見ていて自分にも何か出来ないかと考えた。

自分にはリオンのような財力もチートもない。

ならば、どうするか?

――自分で見つければいい、という答えに辿り着いた。

ゲーム知識を思い出し、自分でも探せそうなアイテムを回収するために冒険に出たのだ。

「マリエ、言いたくはないが――ここは前に通った場所じゃないか?」

傷だらけの泥だらけになったユリウスが、皆の気持ちを代弁する。

「え?」

カイルが森の中を見渡して、

「ここを通るのは三度目ですよ。ご主人様、僕たち――遭難していませんか?」

「え!?」

カーラが息を切らして、その場に座り込んでいる。

「マリエ様――も、もう、食糧が残り少ないです。それに、早く戻らないと新学期が始まってしまいますよ」

「――嘘」

立ち止まったマリエに、グレッグとクリスが話していた。

森の中、さすがの二人もふんどし姿ではない。

「なぁ、飛行船の場所ってどっちだ?」

「ふっ、この森の中で分かると思うのか? 分かっていれば迷子になどなっていない」

ブラッドとジルクも話をしている。

二人は地図やら道具を持ち、この森について考えていた。

「既に三日も迷っているってことは――ここ、結構危ない場所かな?」

「でしょうね。もっと入念な準備をしてくるべきでした」

そして、ユリウスがマリエに言う。

「遭難してしまったな。だが、こういう時は助けが来るのを待とう。幸い、バルトファルトには俺たちがどこにいるのか伝えてある。迎えに来るまで、一ヶ月もかからないはずだ」

ユリウスたちは冒険者の末裔だ。

こういう状況での行動方法は教え込まれており、この程度では慌てない。

グレッグとクリスが動き出す。

「なら、俺は枯れ木でも探してくるかな」

「私も使えそうなものを見つけてくる」

ブラッドは、地図をしまってメモを取り出した。

「この辺りに何があるか調べてくるよ」

ジルクは荷物を降ろして、道具を取り出していた。

「では、私は雨風をしのげる場所を作りましょうか」

皆が活き活きとしていた。

ユリウスなど――。

「とりあえず、肉を確保だな。串焼きにして食べよう」

しばらく森の中で過ごす気満々だった。

「ちょっと! 何でそんなに余裕なのよ!」

「何で、って――遭難したら動かないのが基本だぞ、マリエ。だが、安心して欲しい。森の中でも俺たちは生きていける!」

こういう時だけたくましいのがユリウスたちだ。

お前ら、もっと普段から頼り甲斐を見せろとマリエは思うのだ。

「あれ、ちょっと待って。このままだと新学期に間に合わないの?」

「うむ!」

――マリエはその場に立ち尽くす。

(ちょっと待って、それだとエリカの入学式に間に合わないじゃない!)

エリカの入学式には参加したいと思うマリエは、頭を抱えて叫ぶのだった。

「お兄ちゃん助けてぇぇぇ!」

その声に応えたのか――木々が揺れると上空にアインホルンが現れる。

カイルとカーラが手を握りあい喜ぶ。

「侯爵来たぁぁぁ!」

「これで助かりますね、マリエ様!」

確かに助かった。

だが、マリエは地面に崩れ落ちる。

(ロストアイテムを――回収できなかった。これじゃあ、エリカにプレゼントを渡せない)