軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 マジシャンブラッド

リオンたちがアルゼル共和国で復興作業を手伝っていた頃の話だ。

王国の飛行船の多くが戻り、残ったのはリオンを中心とするメンバーだった。

アンジェもリビアも戻ってしまい、リオンとマリエ――そして、愉快な仲間たちが残っていた。

そんなリオンたちは、瓦礫の撤去作業をしている。

作業用の鎧があるため、作業速度は速いのだが――共和国全体を考えると、とてもではないが手が足りない状況だった。

瓦礫を撤去した場所では、マリエがカイルとカーラと共に炊き出しを行っている。

列を作っているのは、共和国の民たちだ。

「ちゃんと並びなさい!」

鍋を持ち、お玉で叩いて声を張り上げるマリエはエプロン姿である。

大勢の人たちに食事を用意しているためか、髪は後ろで縛ってポニーテール姿だ。

我先にと群がり、列など出来ていない。

時には鍋ごと奪おう、もしくは食料を盗もうとする者もいる。

「うるせぇ! さっさと渡しやがれ!」

だから――。

『あ? 何だって?』

リオンが乗る鎧が近付き、鎧用の道具を地面に叩き付けた。

振動で全員が黙ると、リオンは続ける。

『お行儀よくしていれば飯が食える。簡単だろ? 文句がある奴は前に出ろ。盗みを働いた奴は、こいつで叩き潰してやる』

「――あ、いや」

『さっさと並べ!』

鎧を前に、先程まで暴れていた住人たちが俯いて黙ってしまう。

最初はやり過ぎだとリオンも思ったが、時には武器を持ちだしてくる人間もいる。

甘い顔をしていられなかった。

そんな光景を、作業をしながら見ていたブラッドは大事にならずによかったと安堵して一度深く呼吸をした。

「面倒にならなくてよかったよ」

そんな呟きを聞いていたのは、近くで作業をしているグレッグだった。

『本当だよな。それにしても、バルトファルトの奴は気を使いすぎじゃないか?』

他のメンバーから見れば、リオンは復興作業に関して気を使いすぎているように見えた。

むしろ、自分たちが作業を手伝っているのだから、炊き出しなど不要だと思っている。

「僕もそう思うよ。鎧に乗っている僕たちはともかく、マリエたちは生身で外だからね。危険なことはして欲しくないよ」

作業を再開しようとすると、ユリウスが全員に通信で指示を出した。

『全員、休憩だ。鎧は補給を行うから、全員降りて食事をしてくれ。バルトファルト、お前はどうする?』

リオンは住人たちに睨みを利かせていた。

『お前らの後で休憩に入る』

誰かが見張っていないと危険と思ったのか、リオンは降りないようだ。

ブラッドは肩をすくめつつ、

「なら、お先に休ませてもらうよ」

鎧から降りて食事をしている五人――と、エリクの六人。

六人とも疲れた顔をしていた。

食事を済ませ、体を休めているとブラッドは子供たちを見かける。

行き場のない子供たち。

暗く沈んだ表情をしていた。

そんな子供たちを見て、エリクが悲しそうな顔をしていた。

「――親を失った子たちだ」

「そうか。それなら――」

「殿下、いけません」

「ジルク?」

その言葉に、ユリウスは何かを言いかけるも、ジルクに止められた。

「これは共和国の問題です。我々には助けられるだけの力はありません」

共和国全体の孤児を助けられるわけもない。

全員が俯いてしまうと、ブラッドが立ち上がった。

「なら、せめて今だけは笑顔にさせてあげないとね」

座っていたクリスがブラッドを見上げ、

「笑顔? お前、あの子たちを笑わせられるのか?」

「笑わせる? 違うよ。僕はお金を稼いでいた時、マジックを披露していてね。これでも人気のマジシャンさ」

全員が疑った視線を向けると、ブラッドは顔を赤くして怒った。

「お前たち、信用していないな! だったらここで見ていろ」

ブラッドは、小道具を荷物から取り出すと子供たちの前に出た。

「僕は天才マジシャンのブラッド。君たちにとっておきのマジックを披露しよう。お代は君たちの笑顔さ」

子供たちはブラッドを見上げて困惑している。

ブラッドはポケットから何かを取り出す。

本来なら隠さなければいけない道具のようだが、丸見えだった。

「ほら、タネも仕掛けもないよ。それじゃあいくよ――あ、あれ? 火が点かないな。壊れたのかな?」

何もないところから火を出そうとしたらしいが、失敗したらしい。

ズボンの後ろにあるポケットに道具をしまい込むと、悩んだあげくに魔法で火を出現させた。

「これでどうだ!」

子供たちも、魔法は珍しいのかパラパラと拍手をしている。だが、どうみてもマジックとは違うのではないか?

そうした困惑が顔に出ていた。

グレッグが呆れている。

「これで天才? あいつ、結構稼いだんだよな?」

クリスも不思議がっていた。

「三流以下にしか見えないぞ」

天才だと言い張りながら、まったくマジックが出来ないブラッドにみんな困惑していた。

すると、ボロボロのスーツを着た小太りの男性が近付いてきて――ブラッドに抱きついた。

「ブラッドきゅん!」

みんなして「ブラッド“きゅん”!?」と驚いていると、どうやら男性はブラッドの顔見知りらしい。

「マネージャー!」

「やっと見つけたよ、ブラッドきゅん。それにしても、こんなところでネタを披露するなんて、君は根っからの芸人だ。また、一緒に頑張ろう。君となら天下だって取れる! だって君は天才だから!」

こいつは何を言っているんだ?

ブラッドの手品を見て、どこに素質を感じるのかとみんな疑問だった。

「――駄目だよ。僕は国に戻らないといけない」

「そんな! ブラッドきゅん、一緒に芸人の道を極めよう!」

しつこい男性に、ユリウスが話しかける。

「失礼、その――ちょっと話をしてもいいだろうか?」

マネージャーが頷くと、ブラッドは再び子供たちの前で下手な手品を披露する。

どう見ても才能を感じない。

不器用すぎて、トランプを持ち出すと混ぜる段階でタネを落としていた。

その様子を見ながら、

「あいつにマジシャンの才能があるのか? そもそも、あいつはまっとうにマジシャンとして稼いでいたのか?」

すると、

「誰かは知らないが、君はブラッドきゅんを見て手品の才能を感じるのかい?」

「――なら、なんで芸人の道にあいつを引き込むんだ?」

才能がないのに芸の道を進める理由が分からない。

すると、マネージャーがブラッドを見る。

「見ていれば分かる。そろそろだ。きっと何かが起きる」

「何か?」

ユリウスもブラッドを見ていると、自信満々に下手な手品を披露してお尻の部分から煙が出ていた。

それは、先程失敗した手品の道具から火が出ていた。

「熱っ! ぎゃぁぁぁ、僕の尻が燃えてるぅぅぅ!」

ブラッドが騒ぎ出し、尻を叩いて火を消すと、綺麗にお尻が出た形になる。

ブラッドは、そのまま自信満々に笑顔で手品を続けた。

「ちょっと失敗したかな? でも、大丈夫。天才マジシャンは慌てないのさ。さて、次のマジックは――」

振り返ると、子供たちの目の前にブラッドのお尻が出てきた。

子供たちがクスクスと笑いはじめている。

ユリウスは何となく察してしまう。

マネージャーはそんなブラッドに、瞳を輝かせながら視線を注いでいた。

「子供たちの笑顔を見たかな? 彼は天性の――お笑い芸人だ。彼ならきっと新しい時代を築ける」

ユリウスは納得した。

「そっちかぁ」

芸人と言っていたが、マジシャンではなくお笑い芸人だった。

本人は自分が天才マジシャンだと疑っていないのがポイントだ。

そのまま下手な手品と失敗を繰り返しながら、ブラッドは子供たちを笑顔にするのだった。