軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新世代

崩壊した聖樹神殿の代わりに、レスピナス家にある学園の会議室で七大貴族となった共和国の当主会議が開かれていた。

議長は巫女であるレリア――その後ろにはクレマンが控えている。

「こ、これより会議を始めます。最初の議題は――」

そんな会議の場で机に拳を振り下ろす男がいた。

フェルナンの弟である【ユーグ・トアラ・ドルイユ】だ。

長い金髪が特徴のレリアよりも一年上の先輩に当たる。

フェルナンの次の当主だった。

「どうしてこの屑がここにいる? 兄貴はこいつのせいで死んだんだぞ!」

ユーグが指を差すのは――セルジュだった。

ラウルト家の新当主となったセルジュは、全ての罪をアルベルクが背負ったために当主になれた。

セルジュ以外の親戚は逃げた。

何故なら、今のラウルト家には何も残っていないからだ。

あるのは莫大な借金とアルベルクが背負った汚名。

セルジュは黙っている。

「ユーグ先輩、今はそんな話をしていません」

レリアが議長として注意すれば、

「大事な話だろうが! こいつのせいでどれだけの人間が死んだ? 貴族だけでどれだけの被害が出た? ドルイユ家の領民がどれだけ死んだと思っているんだ! それにこの場を見ろよ――七大貴族として復活したのに、五人しかいない理由は誰のせいだ!」

レスピナス家の復興。

ただ、同時にフェーヴェル家、プレヴァン家の当主は不在。

グランジュ家の当主となってしまった教師――ナルシスは片手で顔を隠している。

「私が当主になるくらいには、どこも人手不足だろうね」

そしてバリエル家の当主の席には――エリクがいた。

父が重傷。

残った親族では、当主の地位に耐えられないと逃げ出したのだ。

この危機的状況を乗り切るためには、あの戦争で王国側に味方をしたエリクしかいないと家臣たちに説得されてこの場にいる。

エリクは書類を見ていた。

「空いた席二つに座りたいと言っている貴族もいるが、援助の見返りに貴族の地位を求める商人もいるな」

貴族の中には、旧六大貴族は統治者として相応しくないと声だかに叫んでいる者たちもいた。

ユーグは笑っている。

「そいつはいい。数ならすぐに揃うな。数だけなら!」

レリアがオロオロとしている。

「だ、だから、しっかり話し合いをしないと」

「話し合い? お前ら馬鹿にしているのか! お前らが好き勝手にしておいて、今更話し合いとか寝ぼけたことを言うなよ!」

尊敬していた兄を失ったユーグは、セルジュたちが許せないようだ。

セルジュの胸倉を掴み上げ、そのまま殴りはじめた。

「お前が! お前が余計なことをしてあの伯爵を怒らせたせいだろうが! お前は喧嘩を売る相手も選べないのか! お前が死ねばよかったんだよ!」

「くっ!」

セルジュは殴られるだけだった。

抵抗はしない。

レリアが助けを求めるように周囲を見るが、ナルシスも止めに入らなかった。

「――悪いね。私も随分と家族を失ってしまってね。結婚したばかりの嫁も失っているんだ。――余裕がないんだ」

ユーグが疲れるまでセルジュへの暴行が続き、そして終わるとユーグの荒い呼吸だけが聞こえてくる。

しばらく沈黙が続くとエリクがこの場を仕切り出す。

「ユーグ、気はすんだか? そろそろ会議を始めないと時間の無駄だ」

「ちっ! お前は良いよな。バルトファルト伯爵と親しいから、俺たちとは立場が違うからよ」

エリクは目を閉じる。

「――議長、はじめてくれ」

当主代理も満足に集められない共和国の現状を、この会議の場が物語っていた。

エリクはマリエとの別れを思い出す。

それはエリクが家臣たちに迎えられた日のことだった。

屋敷の玄関先で、エリクがマリエにすがりついている。

「姉御! お、俺の何がいけなかったんですか!」

マリエはエリクに家に戻るように言った。

それが、エリクには捨てられたように感じたのだ。

「馬鹿ね。今のあんたに満点は上げられないけど、七十点はあげるわよ。十分に働いてくれたし、私はあんたを見限っていないわ」

「なら! それなら何で「戻れ」なんて言うんですか! 俺も王国に行きます!」

マリエが肩をすくめる。

「あんた、迎えに来た家臣の顔を見なさいよ。泣きそうになっているじゃない」

振り返れば、エリクの情けない姿に泣きそうになっていた。

「知りませんよ! 俺を捨てておいて、今更どの面下げて迎えに来るのか逆に聞いてみたいですね」

そんなエリクにマリエは拳骨を振り下ろした。

「このお馬鹿!」

「あ、姉御ぉ!」

涙目のエリクに、マリエは声を張り上げる。

「帰れる家がある。待っている家族がいる。そこに不満を言ってどうするのよ! 私なんか、実家に帰れないのよ」

エリクが俯くと、マリエは迎えに来た家臣たちを前に怒鳴り散らした。

「お前らも何でエリクを見て悲しそうなのよ! 情けないのが自分たちだって分からないの? エリクに助けてもらうために来たくせに図々しいわね。お前ら、兄貴をけしかけてボコボコにしてもらうわよ!」

家臣や騎士たちが背筋を伸ばした。

「も、申し訳ありません!」

「どうせ兄貴と親しいエリクを迎えれば、優遇してもらえると思ったんでしょうけどあり得ないから。でも、それを理由にエリクを冷遇したら、兄貴が怒るからね! ――たぶん」

リオンの名前が効き過ぎたのか、家臣たちが青い顔をしていた。

「そ、そのようなことはありません。バリエル家の当主として、エリク様に戻っていただきたいのです。これは当主様のお考えでもあります」

「――魂胆が見え見えなのよ。私、そういうのに敏感なの」

普段から下心を持っているマリエにはお見通しだった。

マリエはエリクに小声で話をする。

「どうしても駄目そうなら言いなさい。私が兄貴に頼んであげるから」

「姉御。でも、俺は姉御と一緒が良いです」

「立派な男になったらいくらでも会ってあげるわよ。あんた、ここでみんなを見捨てて王国でノンビリ暮らせるの?」

エリクが首を横に振ると、マリエが肩を叩く。

「それでよし! あんた、少しはマシになったから認めてあげるわ。あの五人よりマシだからね。――頑張りなさい」

涙を流すエリクは、こうしてマリエと別れるのだった。

――会議の場。

エリクはマリエのことを思い出していた。

(姉御、見ていてください。俺はきっと、姉御に胸を張れる立派な男になります)

そんなエリクの内心を知らないレリアが、議題を説明する。

「で、では、魔石の保有量と価格についてです。共和国で保有している魔石の量は、国内消費だけを考えると一年持ちません。聖樹から得られるエネルギーは、とても少なく国内全てをカバーすることは出来ないと専門家が――」

新しい苗木では、聖樹の代わりなど務まらない。

十年、二十年しても、たいして変わらないだろう。

ナルシスが資料を見ながら、

「売らなければ半年程度は持つが、周辺国がどう動くかが気になるね」

ユーグは顔を背けている。

「その半年後には、いったいどこから魔石を買うんだ?」

レリアが困っていた。

「そ、外から買うしかないと思います」

「あぁ、そうだよ。国内で採掘される魔石じゃ足りないから買うしかない。――で、その金はどこから手に入れるんだ?」

賠償金だけではなく、復興のための費用もある。

非常に苦しいのが共和国だった。

「え、えっと――」

「おい、セルジュ。お前はどうするよ? 何か言ったらどうだ?」

困っているレリアから、ユーグはセルジュに話を振った。

「空いている席二つを売るしかないと思う」

そんなセルジュの答えに、ユーグは大喜びだ。

「だよな! 商人に売って金を得る。――そして俺たちは、築き上げてきた歴史も功績もない奴らと肩を並べるわけだ。金で貴族の椅子を売る状況――お前はどう思うよ?」

ユーグの標的にされているセルジュは何も言えなかった。

ナルシスが助け船を出す。

「バルトファルト伯爵に一つ席を用意できればよかったんだけどね。彼、絶対にいらないって固辞しちゃうから」

レリアが俯いてしまう。

「め、名誉貴族として迎えるのはどうでしょう?」

ユーグはレリアを見た。

「それよりも良い方法がある。この場で結婚していないのは、セルジュ、エリク――そしてあんただ、巫女様。ナルシスさんは嫁を失ったばかりで酷だが、お前らはただのフリーだからな。商人の息子や娘を嫁に迎えれば、余った席と合わせて五人の商人から金を引っ張り出せるよな? 巫女様の旦那になれるって言えば、きっと商人共がこぞって金を積み上げるぜ。大富豪の爺さんたちが大喜びだ!」

セルジュが立ち上がった。

「そ、それは――」

ただ、自分が何も言えない立場だと思い出し、俯いて歯を食いしばる。

「――俺だけにしてくれ。俺なら受け入れる」

ユーグは動じない。

「たった一人分で足りるのか? いいか、俺たちにはこれしか売るものがねーんだよ! 誰かさんたちのおかげでな!」

セルジュが狼狽えて何も言い返せないでいると、エリクが助け船を出す。

「――別に席を七つと決める必要はない。議会を用意すると言って、席を増やしてもいい。他にも方法はあるさ。それに、魔石の消費量は節約すれば数年は持つ。今までのように贅沢にエネルギーを消費するのは止めるべきだな」

マリエのもとで節約生活を学んだエリクが、この場で一番まともだった。

レリアが嬉しそうに頷いていた。

「そ、そうです! それについても議論しましょう」

エリクの提案に賛成するレリアは、解決策が出たと思い安堵していた。

ただ、エリクは楽観視していない。

(やれることを全てやったとして、それでも足りないのが今の状況だな。問題は周辺国の動きだな)

攻めてくるのか、それとも様子を見るのか――周辺国の動きはまだ見えてこない。

王国へと出発する日。

港に来ると王国から迎えの船が来ていた。

その中の一隻は実家の飛行船だった。

他には公爵家の飛行船も見える。

リコルヌも接岸しているところだった。

「あれ? 親父が来たの? 外国は嫌だって言っていたじゃないか。それより、目の青たんはどうしたの?」

親父の片目には殴られた後が痛々しく残っていた。

夫婦げんかでもしたのかと思っていると、

「――リオン、言い訳があれば聞いてやる。俺に隠し子がいると嘘を吐いた理由を言え」

その話を聞いて俺は思い出した。

二人が――アンジェとリビアが俺に妹がいると疑った理由だが、実はマリエが俺のことを兄貴と呼んでいるのを聞いたためらしい。

それを最終的に、エリクがマリエを姉御と呼ぶように、俺を兄貴と慕っていると勘違いしてくれた。

――エリクありがとう。

借金の利子は少し減らしてやるからな。

「あぁ、あれは誤解だったんだ。めんご、めんご」

謝ると親父の拳骨が振り下ろされ、これが本気で怒っているのか滅茶苦茶痛かった。

「おかげで家の中が修羅場なんだよ! お前、戻ったら母ちゃんに絶対説明しろよ! いいか、絶対だからな!」

両手で殴られた場所を押さえながら、

「お、おぅ――ごめんなさい」

痛みに耐えて返事をしたら、親父が神妙な顔付きになる。

「それから――お前、大丈夫か?」

「何が?」

「こういうのは後から来るんだよ。お前は普段ヘラヘラしているくせに、裏でこっそり悩むから心配なんだ」

――後から人を殺して悩む人も多い。

聞いたことがあるな。

訓練された兵士でもきつい、と。

ルクシオンやクレアーレにカウンセリングを受けたが――少しは効果があるのだろうか? 夜中に飛び起きる回数は減ってきている。

「平気じゃないけど、なんとか大丈夫」

「そうか――お前、しばらく戦争には出るな。ゆっくり学園生活を楽しめ。どうせ遊んでいられるのは今だけだ」

その大事な学生時代に、これだけ頑張っている俺はもっと褒められていいはずだ。

「俺は悪くないのに、厄介ごとが次々に舞い込むんだ」

「お前のせいで家庭内が修羅場になった俺の顔を見て、もう一回同じ事を言ってみろ」

「俺は悪くないのに、厄介ごとが次々に舞い込むんだ」

親父の顔を見てもう一回言ってみたら、もう一発拳骨をもらった。

すると、接岸したリコルヌからアンジェとリビアが降りてくる。

タラップを駆け下りて、二人が俺に飛び付いてきた。

「リオン!」

「リオンさん!」

「二人とも元気だね」

笑っていると、親父が「浮気をしたのはこいつなのに、どうして俺が浮気を疑われないといけないんだ」とぼやいていた。

おい、ふざけるな!

――俺は浮気なんかしていないぞ。

騒がしいリオンたちのすぐ近く。

マリエは旅行鞄の上に腰掛けていた。

足をブラブラさせながら、

「ハードな留学生活だったわ。というか、後半は仕事しかしていなかった気がするわね」

気が付けばアルゼル共和国での半年間は、勉学よりも騒ぎの方が多かった。

この一ヶ月など、忙しいリオンたちの世話に忙殺されていた。

カーラも疲れた顔をしている。

「でも、中途半端な時期に戻ることになりましたね、マリエ様」

「そうね。留年にならないかが心配よね。あ、留年ならもう一年学園に通えるわ!」

妄想しているマリエに、カイルが現実を突きつける。

「いや、戻ったら幽閉じゃないですか? だって、留学って体で追放されたわけですし」

「――あ」

マリエがそのことを思い出して頭を抱えていると、駆け寄ってくるエリクの姿が見えた。

「姉御ぉぉぉ!」

マリエはヤレヤレという感じでエリクのもとへ向かう。

エリクは周囲も憚らず泣いていたので、マリエが慰めている。

「俺、今日も頑張りました!」

「よしよし、その調子で頑張りなさいよ」

カーラが溜息を吐く。

「エリク君、こっち側だと思ったのに実家に戻っちゃいましたね」

カイルが腰に手を当てて残念そうにしながらも、

「家に戻れるんだから良いじゃないですか。僕なんか実家がありませんし」

エルフの里には戻れない。

そう思っていると――。

「あ、カイル! ようやく会えたぁぁぁ!」

エルフの女性がカイルに飛び付いた。

リオンの実家で雇われているメイドの【ユメリア】だ。

「か、母さん!」

小柄でぽわぽわした感じのエルフの女性は、カイルに会えて嬉しそうにしていた。

「カイル、元気だった?」

「どうしてここにいるの! 仕事は!?」

ユメリアは腰に手を当てて胸を張る。

大きな胸が揺れるのだった。

「えっへん! 今回は領主様に言われて飛行船でお仕事なの! あとは、伯爵に伝えることがあってきたのだ!」

嬉しそうに仕事をしていることをアピールしていた。

カイルが「そ、そう」と恥ずかしそうにしている。

「伯爵なら向こうだよ」

リビアとアンジェに抱きつかれているリオンを指さすと、ユメリアは照れている。

「邪魔をしたら悪いかな、って」

「それもそうだね」

リオンに遠慮しているらしい。

そんなリオンの近くでは、同じように遠慮している一人の若者がいた。

――ジャンだった。