軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嘘吐き

聖樹との戦闘が激しさを増してきた。

聖樹にしてみれば、俺など――アロガンツなど蝿程度の大きさだろう。

まるで手で追い払うように木の根や木の枝が俺に襲いかかってくる。

「ルクシオン、そろそろ聖樹を倒したいんだが?」

『こちらも応急修理が終わりました。イデアルを取り込んだ聖樹への対抗手段も用意しました。――いつでもいけます』

「それよりも、ノエルは間に合うのか?」

『残念ながら、難しいと思われます』

「――本当にここは嫌な国だよ。ろくな思い出がない」

ルクシオンがミサイルを発射すると、聖樹に命中して手足を焼いていく。

聖樹に対抗するために、ルクシオンが今用意したミサイルの効果は高かったのか苦しみもがいていた。

それだけで大地が揺れ、地上には被害が出る。

ルクシオンの主砲が聖樹に狙いを付けると――。

『とどめはお任せします。頭部を破壊すれば再生も止まりますので、一撃で決めてください』

「簡単に言うよな」

『マスターなら出来ますよ』

胸の辺りに主砲で穴を開け、苦しんでいる聖樹の頭部へと向かう。そのまま大きな一つ目に大剣を振り下ろした。

光の剣が剣筋に少し遅れて追いかけるように伸びていき、そのまま聖樹の頭部を縦に通過していく。

「さっさと終われや!」

丸い頭部が遅れて縦に両断されると、赤い液体が噴き出すように流れ出て――聖樹が膝を大地につくとゆっくりと倒れていく。

木が砕けるような音が周囲に響き渡り、聖樹の体は崩れて破片がパラパラと落ちていく。

黒い煙を周囲に発していた。

そんな中、聖樹に取り込まれたらしいイデアルの子機を発見する。

「お前には話がある」

アロガンツで捕まえると、イデアルはまだ会話が出来るようだ。

『半端者の転生者が。お前のせいで計画は台無しだ。お前たちを使ってこの世界を取り戻そうとした私の計画が――約束が果たせなかった』

音声の状態が悪くノイズが混じっていた。

「そうかい。残念だったな。お前がルクシオンに喧嘩を売るから悪いんだ。あいつは容赦がないからな」

『――お前も、あいつも、互いを信頼している。だから、私は半端な手段を選べなかったのだ。お前らは危険すぎる』

何を言っているのだろうか?

急いでルクシオンに帰還すると、アインホルンが間近まで来ていた。

アロガンツから飛び降りると、クレアーレがノエルの受け入れ態勢を整えている。

医療ポッド――カプセルベッドを運んできていた。

『急いで! もう危険な状態よ!』

慌てているクレアーレは、イデアルのことに触れもしない。

イデアルは苦々しい思いなのか、

『お前らさえいなければ、計画はうまくいったのに』

「俺たち程度に負けるお前が悪い。どうせお前の計画はどこかで失敗していたよ」

『私に他の人工知能がいることを隠していた。お前たちも最初から協力するつもりなどなかっただろうに!』

格納庫に現れるルクシオンは、護衛のロボットを連れてイデアルを警戒していた。

『貴方は信用できなかった。それだけです』

『新人類の手先に成り下がったか!』

アロガンツに掴まれ、動けないイデアルは赤い一つ目――レンズが割れていた。

ノエルが運ばれてくると、クレアーレがカプセルに寝かせるように言ってすぐに状態を確認する。

リビアが聖樹の苗木を持っていた。

「リオンさん、これを」

「ノエルがよく抱いていたからな。側に置いてやろう」

受け取り、ノエルに近付く。

すぐに処置が始まるのだが、クレアーレは――。

『魔法って凄いのね。とっくに死んでいてもおかしくなかったわ』

ノエルの横に立ち、聖樹の苗木を近くに置いてやる。

「ごめん。間に合わなかった」

ノエルが苦しそうに微笑んでいた。

「迷惑かけたよね。ごめんね。それから、一つだけ聞いてもいい?」

「何?」

「リオンのことが好きだったんだ。だから、あたしのことをどう思っていたのか教えてよ。――リオンは嘘を言わないんだよね? だから、本当のことを教えて」

今のノエルに嘘をつくなとは酷い話だ。

「あぁ、俺も好きだったよ。愛している」

側にはリビアもアンジェもいたが、俺は堂々と答えた。

ノエルが笑っていた。

「――嘘吐き」

イデアルはノエルの声を聞いていた。

「リオンは嘘吐きだね。嘘は言わないんじゃなかったの?」

「本当のことだから問題ない。――三番目だ。ノエルは三番目に好きだった。だから、俺の三番目はずっとお前のために空けておく」

「――本当にリオンは外道だよね」

「だろ? 否定はしないよ」

「リオンらしいよね。――何だか、もう満足しちゃった。三番目でも良いから、もっと側にいたか――」

ノエルが息を引き取ろうとすると、側に置いた苗木が輝き出す。

強く輝き、そして――青い葉が茶色に染まり、枯れたようにしなびていく。

急激に枯れていく姿を見て、イデアルは確信していた。

(聖樹がこの子を助けたがっている?)

「何が起きた!?」

苗木から漏れ出した優しい光に包まれるノエルを見て、慌ててリオンがクレアーレに確認を取る。

『苗木から生命力がこの子に流れているわ』

「助かるのか!」

アンジェが詰め寄るが、クレアーレは一つ目を横に振る。

『駄目。もっと早くに治療できていれば――もしくは、設備のグレードがあと一つ高ければどうにかなったのに』

ルクシオンも同意していた。

『私の設備でも駄目なら、その上は一つしかありません。捜している時間もないでしょうし、残っている可能性も低い』

全員が落ち込んでいる光景を見ながら、イデアルは懐かしい声が聞こえてきた気がした。

《イデアルは嘘吐きだね》

イデアルの割れたレンズから、内部の透明な液体が涙のようにこぼれる。

まるで泣いているようだった。

『あ、あぁ――』

思い出した光景――いや、再生された光景に、イデアルはノエルを死なせてはいけないのだと結論づける。

だから――。

『――ルクシオン、これからデータを送ります。その場所に最高グレードの医療カプセルがあります。パスワードも渡しましょう。使いなさい』

全員の視線がイデアルに集まった。

リオンなど疑っている様子だ。

「どういうつもりだ? 何かの罠か?」

『そんな効率の悪いことはしませんよ。これはそう――自己満足です。疑うなら放置しても構いません。ただ、お勧めはしませんけどね』

ルクシオンがリオンに進言している。

『すぐに無人機を送ります』

「――可能性があるならやってみるか」

クレアーレがイデアルを見ていた。

『あんた、本当に何がしたかったの? 意味不明なんだけど?』

『――私は約束を守りたかった。そのために利用できるものは全て利用してきました』

この場にいたセルジュがイデアルに近付く。

「お前は――俺を利用していたのか! こんなことをするために俺を!」

イデアルは少し間を空けてから、

(――憐れですね。自分が愚かだったのを理解していない。ですが、最後のお礼に、恨まれておくとしましょうか。少しくらい恩を返さなければ)

セルジュへ向かう不満を、僅かながら軽くするためにイデアルはセルジュを軽くあしらう。

『えぇ、そうです。貴方は私の傀儡として役に立ってくれました』

悔しそうにしているセルジュに、リオンは声をかけなかった。

ノエルの手を握っている。

「もしも医療カプセルの話が本当だったら、お前のことは考えてやる」

イデアルの声は笑っていた。

『私を許すつもりですか? 愚かですね。ですが――貴方ともっと早くに出会っていたら、私も違う道があったのでしょうかね? ルクシオンが羨ましい。ただ――残念ながらここまでです――本体が――機能を――て――い――し』

(皆さん、私は結局嘘吐きでした。――ごめんなさい)

イデアルの一つ目から光が消えた。

聖樹が倒れた大地。

朽ちていく聖樹だったものに近付くのは、小型艇で降り立ったレリアだった。

クレマンが側にいる。

「レリア様、ノエル様が無事でよかったですね」

「――何がよかったのよ」

周囲を見れば荒れた大地。

各所から煙が上がり、今も戦闘と救助が行われている。

六大貴族は若手有望株のフェルナンをはじめ、ランベールや三名が犠牲となった。

残ったのはバリエル家の当主――エリクの父とアルベルクだけ。

ただ、二人とも重傷だ。

そして、今まで共和国を支えていた聖樹は失われてしまった。

手で触れると、レリアは涙を流す。

「エミール、なんでこうなったのよ。どうして――」

聖樹が崩れ、砂が舞い上がるとそこに人影があった。

驚いていると、朽ちて崩れていく聖樹の残骸から白く染まったエミールが出現する。

体が木で出来ているのか、動くと軋むような音がしていた。

レリアは駆け寄ると両手で優しく抱きしめる。

「――エミール」

ただ、クレマンはエミールの顔を見て叫んだ。

「離れてください、レリア様!」

「え?」

レリアのお腹をエミールの腕が貫いていた。

エミールが 醜悪(しゅうあく) な笑みを浮かべ、

「ずっと一緒だよ。これからはずっと放さない。二人で一本の木になろうね。一緒に聖樹になろう。そして、今度こそあいつらを滅ぼすんだ」

「ど、どうして」

レリアのお腹を貫いた腕が、レリアを飲み込んでいく。

「や、止めて、エミール」

「セルジュになんて渡さない。君は僕だけのものだ! 君が悪いんだよ。僕を捨ててセルジュを選ぶから! あいつのせいでこの国は滅んでしまった。君が僕を選ばないから滅んだんだ!」

狂ってしまったエミールは、レリアの血を浴びて嬉しそうに笑っていた。

クレマンが近付いて引き離そうとするが、人の力ではどうにもならなかった。

レリアがエミールに飲み込まれようとすると――。

「――レリア、君はいったい?」

――エミールの様子がおかしかった。

狂気に染まった顔が、ゆっくりと驚きの表情に変わり――元のエミールに戻っていた。

――それから一ヶ月後。

広場には大勢の観衆が詰めかけていた。

「ラウルト家を許すな!」

「我々を騙していた六大貴族を滅ぼせ!」

「聖樹を利用した悪魔め!」

建物からその様子を見ていた俺は、処刑台に立つアルベルクさんを見ていた。

側にはルクシオンが浮かんでいる。

右肩の辺りで共和国の様子を見ていた。

『悲しいものですね。誰よりも国の未来を考えていたアルベルクを悪人にして、共和国は未来へと進むのですから』

誰かが責任を取る必要があった。

そして、聖樹が暴走した理由も全てアルベルクさんのせいになった。

――アルベルクさんが全ての責任を背負う形になった。

「ラスボスだと思っていたのに、割と話せるおっさんだったよな。結果だけ見れば、アルベルクさんがラスボスみたいだけどさ」

『マスターの中身もおっさんですからね。話しやすかったのでは?』

既に中身はアラフォーというやつだ。

社会人数年目で死んで、こちらで十七年――あれ? もう四十を過ぎたかな?

処刑場に集まった観衆たちに向かって、アルベルクさんは何も言わなかった。

ただ、堂々としている。

『マスター、見ても面白いものではありませんよ』

「見ておこうと思ったんだよ。それにしても処刑を見世物にするなんて、まるで中世だな」

『公開処刑なら、マスターのいた時代でも行われていたはずですが? マスターの時代なら、日本以外で行われていたはずです。そもそも、娯楽として人気があったと記録されていますが?』

「え? いや、あ~、うん。それはいいとして、だ」

『逃げましたね?』

「うるせぇ! 日本じゃあり得なかったんだよ。海外とか詳しくないの!」

俺は処刑を娯楽として楽しめないけどな。

アルベルクさんがギロチンにセットされると「殺せ」とコールがわき起こった。

広場は狂気じみていた。

「――何がいけなかったんだろうな」

『あの方は息子であるセルジュを守れて本望だと言っていましたよ。マスター、セルジュへの対応は本当によろしいのですか? 何もなされないというのも問題では?』

「興味ないね。――アルベルクさんの頼みだから生かしてもいいかな、くらい?」

死刑台にある人物が上がると、観衆から声援がわき起こった。

『それにしても、レリアは巫女として大人気ですね。新しい苗木の巫女――共和国にとって数少ない希望ですか』

「――そうだな。一度聞いてみたいよ。自分たちの責任を全てアルベルクさんに押しつけて、英雄になる気分はどうだ? ってね」

『二人とも愉快とは思っていないのは事実ですね』

当然だ。――もしも、喜び、安堵していたら俺が殺していた。

レリアがアルベルクさんの罪を読み上げていく。

俺に対しての行動は、全てアルベルクさんが独断で行ったことになった。

レリアの声が震えている。

今から人が死ぬのに、騒いでいる観衆が理解できないといった顔をしていた。

「レリアにしてみれば、明日は我が身だから笑えないか」

『きっと怖いでしょうね。これからの共和国を考えれば、明るい未来は随分と先になりますから。この狂気がいつ自分に向かってくるか想像できないほどに愚かではないはずです』

「愚かだったからここまで追い込まれたんだろうが」

『おや、その発言は自分にも返ってくると分かってのことですか?』

「――五月蠅い、黙れ」

聖樹を失った。

新しい苗木は手に入れたが、聖樹ほどにエネルギーを供給しない。

魔石の採掘量は目に見えて減っているらしく、明るい話題など一つもない。

いずれ、不満は生き残ったセルジュやレリアが引き受けることになる。

刑が執行されると、拍手喝采が聞こえてくる。

俺は自分の右手を見た。

『どうしました?』

「――俺も随分と引き金を引く指が軽くなった、ってね。人として駄目な階段をまた一歩前進だ」

こういうことばかりなれていく自分が怖かった。

あの時――リビアとマリエに止められた時に感じた。

『仕方がなかったと思いますよ。それに、非は共和国側にあります』

「だろうな。だから見捨てた」

王国の利益だけを――邪魔になる聖樹を破壊し、イデアルも沈めた。おかげで、今の共和国は大きく国力を落としている。

協力、不干渉――その二つなら、ここまで追い込まなかった。

敵対するから潰すしかなかったのだ。

俺は共和国のために行動することは二度とないだろう。

窓から広場を見ていると、レリアが涙を流してアルベルクさんの遺体を見ていた。

ドアがノックされ、入室を許可するとユリウスが入ってくる。

「バルトファルト、そろそろ時間だ」

「あぁ、分かった。それより、この一ヶ月は助かった。手伝わせて悪かったな」

共和国中に広がった虫型のモンスターの討伐。

後は救助など色々と手伝ってもらった。

「構わない。それから、王国の方も話がまとまったそうだ」

「あ、そう。ローランドは俺が負けたのを笑っていたか?」

ユリウスが顔を背けるので、きっと笑っていたのだろう。

「――お前がセルジュに負けた話を、楽しそうに聞いていたと報告があった。む、息子として申し訳なく思う」

「別に良いって。あいつへの仕返しが今から楽しくて仕方がないね」

「お前は本当に良い性格をしているな」

俺は窓から離れる。

「さて、戻るとしますか」

共和国とは今日でお別れだ。