軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私怨と

俺が決闘の代理人に名乗り出た理由がいくつかあるとして、その一つを挙げるとすれば私怨がある。

攻略対象の男性キャラに対する私怨。

前世で妹に無理矢理させられた乙女ゲーで攻略させられた五人。

何が悲しくて野郎を口説き、甘い台詞を聞かなければいけないのか。

そうした思いが沸々と蘇ってきて俺に囁いたのだ。

やっちまえよ、って。

闘技場内。

転がっている破片やら邪魔な物を片付け、アロガンツを運んできたボックスも闘技場の外に出されてしまった。

中央で立って待っていると、何やら殿下たちの様子がおかしかった。

アロガンツのマイクが殿下たちの声を拾う。

『俺が行く。ブラッドの軟弱野郎は確かに弱いが、アレは脅威だ。お前たちじゃ荷が重い』

『――舐められたものだな。私がお前に負けるというのか?』

グレッグとクリスが言い争いをしており、殿下とジルクは俺の方を見ていた。

『バルトファルトの奴はダンジョン攻略者だったな。そうか、これだけの鎧を持っていたからこその自信か』

『ロストアイテムでしょう。ですが、ここまで強い鎧が眠っているなど聞いたことがありません。見た目から言えばパワータイプのようですが』

闘技場の雰囲気は番狂わせが起きたという事でざわついていた。

俺が負ける――殿下たちの勝利を信じて疑わない生徒たちが沢山いるのだ。オマケに大金もかけている奴も多い。

マイクが拾う声には「これくらいして貰わないと見に来た意味がないぜ」とか「でも次で終わりよね」などと安心しきっている声がする。

ルクシオンはデータの修正を行っていた。

『先ほどの戦闘データから槍での戦闘方法を修正しました』

「ご苦労さん。おっと、次はグレッグか」

赤い鎧に金色の装飾がされた鎧の中に入ると、大きな槍を持って闘技場内に降り立つ。

ルクシオンは相手の状態を確認。

『表面に修復箇所を確認。傷などから推測すると、戦闘経験があるようです』

「あぁ、こいつは強いんだよ。強いんだけどさぁ……」

グレッグ・フォウ・セバーグは、荒々しい見た目と同様に五人の中で冒険者として一番活躍している。そして実戦に重きを置くタイプだ。

それはいい。

ゲームでも戦闘面で頼りになるキャラだと俺も思っていた。

グレッグが槍を俺に向けてくる。

『バルトファルトって言ったな。その名前は覚えておいてやるぜ。だが、調子に乗るのもここまでだ。ロストアイテムで強力な鎧を手に入れたみたいだが、しょせんは鎧の力だ。お前の力じゃない』

まさにその通り、反論一つ出来ない正論に拍手を送りたくなる。

「それがどうした? お前、パーティー会場でも思ったが、口が良く回る奴だな。お喋りがしたいなら今度お茶にでも誘ってくれよ」

遠回しに口だけ野郎と煽ってみると、効果はてきめんだった。

『……ぶっ潰す!』

審判が試合開始を告げた。

『はじめ!』

槍を振り回し、俺との距離を詰めてくる。

先ほどの戦闘を見ていたのか、俺に攻撃をさせないつもりのようだ。連続で攻撃してくるのだが――。

『おらぁ! どうした! こんなものかよぉぉぉ!』

槍で突く、斬る、払う、などの連続攻撃を持っていたスコップで防ぐ。

金属同士のぶつかり合いによる火花に加え、相手の槍が淡く光を帯びていたので実にまぶしかった。

ただ、こいつ――。

「動きは良いんだよ。根性もある。けどさぁ……お前はもっと道具にこだわれや!」

スコップで槍を弾き飛ばすと、鎧の性能差から相手がバランスを崩した。軽量タイプであるために、重量差もあって弾かれる形になったのだ。

グレッグの赤い鎧が空を飛んで距離を取ろうとしていた。

元々鎧は空を飛ぶ兵器でもある。

しかし、左手を伸ばしてグレッグの右足を掴んだ。

『こ、こいつ!』

槍で左手を攻撃してくるが、傷一つはいらない。

グレッグの使用している鎧は旧式の鎧で、着飾っているだけで量産品だった。

この男、能力はあるのにゲームと同じく道具にこだわらない。道具にこだわるのは二流とでも思っているのだろう。

おかげで戦争パートではよく沈み、そのたびにゲームオーバーになったことが何度もあった。

変なプライドなど捨ててしまえ!

アロガンツの左手が、グレッグの鎧の右足首を握りつぶす。そこに本人の足がないのは知っているので握りつぶしたが、鎧の構造を知らない女子も多くヒッ! という悲鳴のような声が聞こえてきた。

引き寄せてスコップを頭部に突き刺す。スコップを手放した右手で槍を持っている左手を覆うように握って潰した。

グレッグが持っていた大きな槍も音を立てて曲がる。

「ほらほら、逃げてみろよ~」

いたぶるように今度は右手を掴んで握りつぶすと、グレッグの叫び声が聞こえてきた。

『ちくしょうがぁぁぁ! 放せよ!』

「……放すかよ、ば~か」

機体性能に任せてグレッグの鎧を破壊していく。グレッグ自身は傷つかないように注意しながら、鎧の腕を引き抜いた。

グレッグの生身の腕が出てくる。

アロガンツの大きさは一般的な鎧よりも一回り以上も大きい。

『いたぶって楽しいのか! お前は男じゃねー! 騎士なら騎士らしく戦いやがれ! 鎧のおかげで勝っているだけだろうが!』

何か叫んでいるので不満をぶつける。

「騎士? まだ正式な騎士じゃない。ついでに言わせて貰えれば、決闘に旧式の鎧で出てきて負ければ鎧のせい? 新型を用意しなかった自分の準備不足を嘆いた方が良い。いや、侮っていた自分を恥じた方が良いよ。でも言い訳が出来て良いよね。僕は鎧の性能差で負けたんです、ってさ!」

鎧の胸部装甲を引き剥がすと、グレッグの顔が出てきた。

圧倒的な力を前に手も足も出ないのが悔しいのか、その顔は驚きから徐々に怒りに変わっていく。

まるで子供が玩具を破壊していくように、アロガンツはグレッグの鎧を破壊していく。俺がグレッグだったらトラウマ物の光景だろう。

まぁ……止めないけどね!

グレッグは鎧が使えないと分かると外に出て鎧の破片を持って俺の前に立つ。

『ふざけんなっ! 俺はまだ負けていない。死ぬまで戦ってやるよ!』

道具なんか気にしないで自分の力を信じている姿には感動すら――いや、どうでもいいな。こいつにも苦労させられた。

「え~、でもさぁ……」

『さっさとかかってこいやぁぁぁ!』

鎧の破片で何度も斬りかかってくるグレッグに対して、俺は無抵抗を貫いた。

だってダメージなんかないし。

そもそも、鎧と生身では勝負にならない力の差が存在するのだ。

「――流石に弱い者いじめは嫌いなんだよね」

すると、グレッグの動きが止まった。

『な、なんて言った。今なんて言ったぁぁぁ!』

「お前らみたいに弱い奴をいじめられないよ、って言ったんだよ」

『ふ、ふざけんな! 俺たちがいつ弱い者いじめを――』

「アハハハ! お前、本当によく喋るよね。まぁ、人を舐めて旧式の鎧なんかで出てくるくらいだから、よっぱど実力に自信があったんだろうけど……お前程度の奴なんか世の中ゴロゴロいるからね。俺も実力的にトップじゃないし、アレだけ決闘を申し込んだ時に強気に出てくるから少しは期待したのにこのざまって……お前、本当に雑魚すぎ。俺もこんな雑魚を時間をかけていたぶっても後味が悪いから、手早く終わらせたいの。この気持ち、分かんないだろうな~」

君は弱いんだよ、って言うのを丁寧に遠回しな言い方で教えてあげた。

俺ってなんて優しいんだろう。

『うわぁぁぁああああぁぁぁぁあぁぁぁ!!』

グレッグが叫びながら攻撃を仕掛けてくるが、その姿は勇ましいと言うよりも哀れ、だった。大勢の前で雑魚呼ばわりした相手に、雑魚扱いを受けて負ける……悲惨すぎて心が痛む。まぁ、嘘だが。

こいつらは自分の実力を知った方が良い。

審判が流石に止めに入る。

『……勝者、リオン・フォウ・バルトファルト。グレッグ・フォウ・セバーグは下がりなさい。両者の健闘に拍手を!』

覇気のない同情に満ちた審判の声に、グレッグは膝から崩れ落ちてその場に座り込む。

闘技場内はパラパラとした拍手が俺たちに送られていた。

俺は呟く。

「これで残り三人か」

ルクシオンの奴は俺に冷たい。

『なんとも酷い結果ですね。相手をここまで追い詰めるなんて常人には躊躇われますよ』

「知るかよ。こいつらは現実を知った方が良いんだって。調子に乗った奴は嫌いなんだ」

『鏡を用意いたしましょうか? マスターにも当てはまるピッタリの言葉ですね』

……自覚はあるが言われるとやはり腹が立つ。

観客席では生徒たちがドン引きしていた。

「今の試合は酷いだろ。騎士の戦い方じゃないぜ」

「馬鹿、決闘だろうが」

「これで二人抜きだな。まぁ、クリスが止めるだろうけど……」

決闘内容に観客たちは、グレッグが意外にたいしたことがなかったと口を揃えて言っていた。

「あいつ実は弱いんじゃないか?」

「実戦が~とか、五月蠅かったのにこの程度かよ」

「期待していたのに残念。弱い男って興味ないわ」

アンジェリカはグレッグとの試合内容に冷や汗をかく。

「ここまで差を見せつけるか」

アンジェリカはグレッグが弱いとは思っていない。

それ以上にリオンが強すぎたのだ。

グレッグは運が悪すぎたのだ。本人が道具に頼るのは二流という考えを持ち、旧式の鎧を扱っていたが……最新式を用意していても歯が立たなかったのはアンジェリカの目から見ても分かる。

それだけの力の差がある試合だった。

(そもそも、王国で手に入る鎧で相手になるのか?)

オリヴィアの方は少し怒っていた。

「リオンさんが勝って嬉しいですけど、今のはやりすぎです。後でグレッグさんに謝罪するべきですよ!」

本気でそう思っているオリヴィアに、アンジェリカは首を横に振った。

「止めておけ。余計にグレッグのプライドを傷つけるだけだ」

ただ、アンジェリカは小さく俯く。

(……弱い者いじめ、か。バルトファルトにしてみれば、私もただの小娘なのだろうな)

リオンがグレッグを煽った際に「お前らみたいに」と言っていた。アレは、パーティー会場で味方のいない自分を責め続けたユリウスたちへの嫌味なのだと察する。

本人は気が付いていたのか、それとも無意識だったのか分からない。

「そうか……私は弱いのか。惨めだな。もっと――」

アンジェリカは空を見上げた。

(もっと強くなりたかった)

闘技場の片付けが終わると、降りてきたのはクリスの青い鎧だった。

大きな大剣を両手に持ち、背中には違う種類の剣も背負っていた。

若き剣豪――剣士ではなく、剣豪だ。

ゲーム内ではただの剣士よりも格が高く、実力を認められた称号のようなものだ。

父が剣聖で、幼い頃から厳しく育てられてきたらしい。

冷静だが感情を表に出すのが苦手。

だが、剣を持てば無敵の剣士様……俺はこいつも嫌いだった。攻略が難しいキャラだったのもあるが、こいつ剣しか使わないのだ。

そのため遠距離攻撃を持たないので戦争パートでは苦労させられた。というか、クリスを含めた三人に癖が強すぎて何度もゲームオーバーになった。

今思い出しただけでもムカムカしてくる。

鎧並に大きな剣を構えるクリスは、前世風に言うのなら示現流の構えに似ている。耳横に手を持ってきた構えだ。

クリスが喋った。

『――俺は二人のように油断しない。最初から全力を出す』

「そうか。なら、俺も全力を出そうか」

未だにスコップを持っているのが腹立たしいのか、俺に突っかかってくる。

『いつまでそんな道具を持っているつもりだ? この場に相応しくない』

「それを決めるのはお前じゃないよね?」

審判が開始を告げた。

『はじめっ!』

――まぁ、なんだかんだと言って強いキャラだと思う。実際、他二人と違って油断もしていない様子だ。

一直線に俺に向かって斬りかかってくる動きには迷いがない。

「ルクシオン、ドローンを展開しろ」

『ドローンを展開します』

後ろに下がりつつ後ろの武器コンテナから次々にドローンを出していく。球体ドローンには銃器が取り付けられていた。

その数は八つ。

『――なっ!?』

驚いた顔をするクリスに向かい、俺は。

「射撃開始、っと」

操縦桿のトリガーを引いたら、それに合わせてドローンたちがクリスの青い鎧に向かって射撃を開始した。

慌てて避けようとするクリスだが、八機のドローンに囲まれてはどうしようもない。マシンガンを取り付けたドローンの攻撃に、ダメージを蓄積させていく。

防御をしていては勝てないと思ったのか、ドローンを攻撃しようとするが操作しているのはルクシオンだ。

『無駄です』

どれかを攻撃しようとすると、回り込んだドローンに後ろを攻撃される。

だが、クリスもすぐに対応して壁際に下がると回り込ませないように対策を取った。取ったのは良いが……。

「はい、詰みね。負けを認めてくれるかな?」

スコップを担いでほとんど動かない俺に、クリスが感情的になる。

『お前は! お前はこんな戦い方で満足か! 騎士道の欠片もない。こんな戦い方をして!』

剣へのこだわりは認めるが、ハッキリ言って興味がない。

「言いたいことはそれだけかな? これは試合じゃない。決闘なんてどんなに取り繕っても殺し合いだろうが。銃に頼ったら駄目? そんなルールは聞いていないね。そもそも、お前ら五人を相手している俺こそ同情されるべきじゃないのかな? いや、すまない。一対一を五回すればいいだけだから、これは同情されなくても仕方がないね。それにしても、圧倒的な差がありすぎるから、確かに真面目に手加減を考えているところだったんだ。君たちの言う正々堂々とした騎士道も考えてあげようじゃないか」

ペラペラと話を続けていると、クリスが動こうとした。ルクシオンが見逃すはずもなく、一斉に八機のドローンが俺の周囲に浮かんで射撃を開始。

すぐに動けなくなったクリスが大剣を盾代わりにして屈み込む。

『馬鹿にして……こんな戦いは誰も認めない!』

「結構だ。大事なのは結果だ。お前たちは負けて、俺が勝つ。過程なんて気にする奴は少ないからね。あぁ、でもお前たちは頑張った、って言ってやるよ。無様に負けたと言えば角が立つから」

『うわぁぁぁぁぁ!!』

弾丸の雨の中を突き進み根性で俺のとこに来るクリスは、大剣を振り下ろした。クリスの魔力と剣速により、まるで光の刃に見えたそれを左手で受け止め、大剣を握りつぶす。

「流石は最強の剣士様、お見事でした」

鎧から煙が吹いたところで、審判から勝者の宣言が行われる。

『クリス・フィア・アークライト戦闘不能! 勝者……リオン・フォウ・バルトファルト』

俺の名前を宣言する時、どうにも言葉に力がない気がする。

鎧の中からすすり泣く声が聞こえてきた。

『……どうしてだ。どうして私は負けたんだ。誰よりも努力してきた。私は誰よりも頑張って……認められたかったのに』

家庭の事情もあって努力するしかなかったクリスには同情するが、それとこれとは話が別なので気にしない。

「不幸自慢はご自慢の彼女にするんだな。同情してくれるぞ」

『本当に屑ですね』

ルクシオンの言葉が妙に心に刺さった。いや、俺だってちょっとやり過ぎたかな、って思っている。

観客席に不安の声が上がる。

「お、おい、クリスが負けたぞ」

「なんだよ。あんなの卑怯じゃないか」

「……なぁ、リオンってソロでダンジョンを攻略して男爵位を得たんだよな? もしかして、強いんじゃないか?」

「ま、待ってよ。ならこのまま勝負が決まるの? 私、全財産を賭けたのよ!」

絶対に勝てると思っていた賭けが、実はそうではなかったと知って焦る観客たち。同時に、リオンを馬鹿にしていた生徒たちは認識を改め始めていた。

オリヴィアが泣きそうな顔になる。

「アンジェリカさん、私……凄く悲しいです。リオンさんが勝ったのは嬉しいんですけど、こんなの酷すぎます」

アンジェリカはオリヴィアを言いくるめる。

「馬鹿を言うな。気を抜けばリオンも負けていたかも知れない男だぞ。それだけ相手を警戒したと言うことだ」

「そ、そうなんですか?」

頷いてクリスについて語る。

「宮廷貴族で伯爵家の地位にある。剣術指南役の家だ。クリスの父は王国一の剣士で剣聖の称号を得ている。あいつ自身、一段下がるが、剣豪の称号を得ている男だからな」

オリヴィアは素直に感心していた。

「凄いんですね」

「あぁ、凄い男だよ」

(そんな男でも手も足も出なかったという事は……乳兄弟のジルクは焦っているのだろうな)

ユリウスたちがいる場所を見れば、ジルクの姿も鎧も見えない。

青ざめているマリエをユリウスが慰めており、その姿を見るとアンジェリカは胸が締め付けられるように苦しかった。

(……殿下)

クリスが闘技場から運び出され医務室に向かう中、ジルクは次の試合の準備を行っていた。

鎧の整備士に指示を出していく。

「ありったけの武器を積み込みなさい。弾丸も魔弾を使用します」

整備士が目を見開く。

「試合で使う代物じゃありませんよ!」

「これは決闘です!」

普段優しいジルクが余裕を失うほどに焦っていた。

緑色の鎧は各部に羽のような飾りが付いている。

そんな鎧に重厚感のあるライフルや、剣ではなく斧が持たされた。まるで戦場に行くかのような装備だ。

「飾りを外して追加の装甲を取り付けてくれますか。それから、手榴弾の類いも用意して貰いますよ」

整備士が困っていた。

「ジルク様、今ある部品では限界があります」

ジルクは俯き、そして顔を上げた。

「構いません。出来る限りの事をしなさい」

大急ぎで装備を変更する周囲に目もくれず、ジルクは頭の中で戦い方を考えていた。

(なんとしても私で止めなければ。それが出来なくとも、ダメージを与えなければ殿下の評価が)

乳兄弟、親友……しかし、ジルクはユリウスのために生きてきた。ここで負ければ、ユリウスの評価が著しく下がることになる。

そのために、ありとあらゆる手段を執ることにした。

近くに置かれていた爆弾を一つ手に取る。

「……少し出かけます」

鎧の装備を換装させ、一人ジルクは部屋を出て行く。

「ふぁ~、疲れた」

一時休憩を挟むことになり、俺は鎧から出て背伸びをしていた。

トイレを済ませて戻ろうとするとオリヴィアさんとアンジェリカさんが駆け寄ってくる。

「リオンさん、どこに行っていたんですか!」

「心配したぞ」

二人の反応に俺は首をかしげる。

「え、何?」

二人は顔を見合わせていた。

「いえ、あの、具合が悪そうだと聞いたので」

俺は目を細めた。

「俺が? トイレに行っていただけだよ」

アンジェリカさんが少し怪しんでいた。

「お前の姉を名乗る者が現れた。顔はオリヴィアが確認したが……お前の顔色が悪いから見てきて欲しいと言っていた」

次女が俺の心配? まずあり得ない。

殿下に喧嘩を売ってから顔を合わせていないが、きっと迷惑をかけたと思う。だが、このタイミングで話しかけてくるだろうか?

そう思っているとルクシオンが俺に話しかけてくる。目の前の二人には聞こえていない。

『マスター、機体に爆薬がセットされました。マスターの姉君がセットしましたが、指示した者がいますね』

……だろうな。

脅されたと考えるのが一番だろう。

俺が殿下に喧嘩を売った事で学園では肩身が狭かっただろう。そこをジルクが利用した、と。

俺も屑だが、ジルクも屑野郎だな。

『調査の結果、次の対戦相手が可能性は一番高いかと』

俺は小さく溜息を吐いた。

二人に向かって。

「そっか……実の姉には分かるか。実は大きい方を我慢していたんだよね。お腹痛くてさ。漏れるかと思った」

俺がそう言うと、オリヴィアさんがオロオロと困っていた。

「そ、それは仕方がありませんね」

アンジェリカさんは冷たい視線を向けてくる。

「女子の前ではもっと言い方があると思うが?」

「そうだね。お花を摘みに行っていました。闘技場に花壇なんてないけど」

そう言うと、オリヴィアさんが苦笑いをしていた。

アンジェリカさんが額を手で押さえている。

「その言い訳は……まぁ、いい。普段から直さねばいざという時にミスをするぞ。それより、もうすぐ時間だ」

「なら、行くとしますか」

闘技場へと向かうと、ルクシオンが情報をくれた。

『爆薬のセット位置は背中になります。鎧はそこに重要機構があるので、こちらを本気で潰しにかかってきていますね。爆薬の量から計算すると、一般的な鎧ならば中の操縦者の生命に関わってきます』

普段優しそうな奴が一番怖かった……確かに、よくある話だ。

闘技場に行くと次女の姿はなかった。

まぁ、話をしないのはありがたい。俺も何を話せば良いのか分からないし、それよりも爆弾なのだが……隠すように取り付けられていた。

アンジェリカさんが相手を見る。

「ほら、相手がお待ちかねだ。ようやく本気になったらしい」

戦場にでも出るような装備で闘技場に出てきたジルク。

鎧の中に入ると、ルクシオンが俺に。

『どうやら特殊な魔法に反応して爆発するタイプのようです』

ゲームでもそういう爆弾はあった。

「ジルクみたいなタイプが一番怖いよな。特出するのは射撃の腕で、それ以外には特徴がない。けど、性能的には射撃以外も平均的だからどこでも活躍できる万能タイプでもあるんだよ」

殿下が近接戦闘に秀でており、ジルクは中、長距離を得意としているキャラだ。癖がなく使いやすく優秀。ゲームでは頼りになったキャラだった。

まぁ、攻略難度が高く腹立たしいのは変わらない。

闘技場に降り立つと、ジルクが声をかけてくる。

『――君は強い。敬意を表しましょう』

「それはどうも」

審判が開始の合図を出すと同時にジルクは右手に持ったライフルを俺に向けた。最初から空を飛び、問答無用で引き金を引くと手榴弾まで投げつけてくる。

『煙幕です』

「容赦がないな」

周囲が白い煙に包まれる。

ジルクは白い煙に包まれた闘技場でギリギリの高さまで飛ぶ。

あまり高く飛びすぎては失格になるので、ギリギリの距離まで上がってそこからライフルや手榴弾で敵を真上から攻撃する戦い方を選択した。

「これで沈んでくれれば良いのですがね」

あまり使いたくない手を使った。

リオンの実姉に接触して爆弾を渡したのだ。ジルクが直接渡したのではなく、その間に男子生徒を挟んでいる。

事が公になってもユリウスの評判を傷つけないため、生徒の暴走として処理するためだ。

煙に包まれた闘技場だが、ジルクの目には魔法陣が浮かび上がる。その中には煙の中でジルクを探しているリオンの姿があった。

「君は危険だ。ここで処理させて貰いますよ」

ライフルの引き金を引く。

軍でも使用している対鎧用のライフルは貫通力がある。学園の決闘に持ち出すのはあまりいい顔をされないが、相手はリオンだ。

ここまで圧倒的な差を見せつけてきた相手にそんなことを言っていられない。

「……殿下に逆らった時点で君の人生は終わっている。ここで華々しく終わらせてあげますよ」

弾丸はリオンの頭部に命中した。鎧の頭部だが、角度的に貫通すれば中の人間も怪我を負うのは確実だ。

しかし。

「な、なんだと!」

リオンは何事もなかったかのように空を見上げている。

手を振っていた。

「ちっ!」

手榴弾を投げつけ、そしてライフルを構える。ボルトアクションで弾丸を装填し、引き金を引く。

爆発に巻き込まれても平気な姿で立っている鎧を前にジルクは奥の手を使った。セットした爆薬を作動させるため、特殊な魔法をリオンに向かって放つ。この魔法自体は何の意味もないが、爆弾と反応して大きな爆発を起こした。

「直撃ならダメージくらい!」

しかし、闘技場にリオンの姿が見つからない。爆風が止んだ後に姿を消していた。

「どこだ。いったいどこに!」

そんなジルクは、急に太陽が隠れ、影が出来た事に違和感を覚えた。空は青く雲一つなかったのに、と。

見上げると、すぐ後ろにリオンの姿があった。

『やあ』

「っ!」

急降下しながら振り返り、ライフルを構えるとリオンが向かってくる。

引き金を引くが、リオンの鎧は弾丸を弾いてしまった。

「直撃したはずだ!」

『きつい一発だったさ。いろんな意味で、ね』

口ぶりから色々と察していると判断したジルクは、戦斧で斬りかかった。リオンがスコップで受け止めると、闘技場の観客たちに聞こえないように話しかける。

「――君は何も分かっていない」

『鏡を見て発言しろよ。お前らの方は正気じゃない』

「殿下と決闘をするつもりか? 君は貴族として死んだのも同じだ」

『それは良い! 上級クラスなんて反吐が出る! 解放されるならそれこそ何だってやってやるよ! ……てめぇみたいになっ!』

普通の男子ならここまで言えば察するだろう。察しが悪くても、デメリットを言えば何かしら交渉の余地が生まれる。

だが、リオンは逆にやる気を見せていた。

ジルクはマリエの顔を思い浮かべる。

不思議な女性だった。まるで自分のことを理解し、そして自分の理想そのものの女性だった。

夢中になるのに時間はかからなかった。

王宮にはいない。普段、周りにいる女性とは違って本当に心が安らいだのだ。

「私は! 初めて理想の女性に出会った!」

『良かったな、競争相手が一人減るぞ。存分に恋愛ごっこを楽しむと良いよ』

リオンのスコップによる攻撃をライフルで受け止めると、そのまま弾かれライフルが地面に落下した。

そして、ユリウスの顔も浮かぶ。

マリエの事で話をすると、とても嬉しそうに話す大事な親友の姿が。

「お前に何が分かる! 殿下も私も本当に愛しているんだ! 独占したいんじゃない。彼女に幸せになって欲しいんだ!」

『なら身を引けば?』

淡々としているリオンだが、その攻撃は一撃一撃が重かった。

「私はどんな手を使っても君には負けない。もしも殿下に何かするつもりなら、私の全てを賭けて君を――いや、君の家族にも責任を取らせる!」

愛した人が同じだった。

それは最初悲しく、身を引こうと思ったが……その程度で引き下がれるほどの愛でもなかった。

ジルクは自分のためではなく、ユリウスやマリエのために何でもする覚悟を持っていた。

『……決闘にそんな脅しは卑怯だね』

「何とでも言うが良いさ」

二人は空の上で戦っており、闘技場の観客たちは見上げている状況で声など聞こえていない。

ジルクは手応えを感じ、このまま畳みかけようとすると――。

『“私はどんな手を使っても君には負けない。もしも殿下に何かするつもりなら、私の全てを賭けて君を――いや、君の家族にも責任を取らせる!”』

――自分の声で、先ほどの台詞が聞こえてきた。

「な、なんで」

そういう魔法があるとは聞いていなかった。知らないだけで存在しているのかも知れないし、新しく開発されたのかも知れない。

そして、リオンが声を真似たという事もなかった。

『先に脅したのはお前だ。だから、俺も脅すことに決めた。そうだな、これをお前の実家に持っていこう。家族はどう思うかな? 決闘で負けそうになったから脅したなんて貴族として終わったのも同然だよね! あ、それとも大事な殿下やマリエに聞かせてやろうかな? きっと軽蔑すると思うよ。いや、やっぱり学園に提出しよう! 全校生徒に聞いて貰わないとね!』

ジルクはすぐに立て直す。

「そ、そんな声だけで証拠になんかなるものか」

声を録音する機械や魔法などこの世界にはまだなかった。そのため、これを証拠にするという概念もない。

『ならないけど疑うよね? それで、実際に俺の実家に圧力がかかるとみんな思うんだ。やっぱりあいつがやったんだ、って。でさ、殿下も疑われると思うんだ? みんな思うよね。殿下がそんなことをやらせたのか、って! お前の大事な殿下の評判は確実に落ちるよなぁ!』

嬉々として話を進めるリオンに、ジルクはなるべく冷静を装う。

リオンの猛攻を凌ぎながら、なんとか切り抜けようとするのだが――。

「殿下は関わっていません。私の判断です」

『それはお前が判断することじゃないよね? 周りは嫌でも結びつけるし……それにお前ら、アンジェリカさんの時は話も聞かずに決めつけたよね? アレがどうして自分たちには起きないと思っているのかな?』

ジルクは焦って言葉に詰まる。

そう、自分たちはアンジェリカの言い分を聞き入れなかった。マリエをいじめた件について自分は知らない、指示を出していないと言うアンジェリカの言葉を無視したのだ。

「あ、あれは!」

『もういいや――沈めよ』

リオンの声が冷たいものになった瞬間に、空中で踏みつけられたジルクはそのまま地面に向かって落ちていく。

そうして、地面に叩き付けられ意識が遠のく。

『姉貴にも迷惑をかけたけど、それよりも脅した連中はどうするかな?』

既にリオンはジルクへの興味を失っていた。何しろ、ジルクの鎧は地面に叩き付けられボロボロで動けそうにない。

最後に思ったのは――。

(殿下、こいつは危険です。戦ってはだ――め――です)

そこで意識は途切れた。