軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

笑顔の価値は、いつだってプライスレス

「チッ、まさか魔術師まで控えていたとは……」

眼前に立ちはだかるティアに、お嬢様は露骨に顔をしかめて舌打ちをする。そしてそんなお嬢様に、執事の男が油断なく構えたまま三歩下がって横並びになり、言葉を続ける。

「お嬢様、ここは一旦退くのが宜しいかと」

「クロード、この私がこんな小娘に負けると?」

「誰が小娘よっ!」

お嬢様の言葉にティアがいきり立って抗議の声をあげるが、執事の男はそれを無視して会話を続ける。その視線の先にあるのは、とっくに回復しているのを隠して木にもたれたままで様子を窺う俺の姿だ……これはバレてるか?

「そうは申しませんが、先程の一撃からすると容易く倒せるほどの相手とも思えません。そして遺憾ながら私の方も先程の一撃で決着はつけられませんでした。となると……」

「……ああ、確かにそうね」

お嬢様の視線が、未だに尻餅をついている男の方に向く。俺と執事の男、ティアとお嬢様がそれぞれ対峙すれば、この場の争点である尻餅男が一人で逃げる……つまり戦う意味がまるで無くなる。それを正しく理解したお嬢様は、あっさり割り切るとティアに向かって言い放つ。

「いいわ。この場は預けてあげる。でも次に会ったときは……」

「あら、次があるとでも――」

「いい、ティア」

「エド……わかったわ」

のっそりと立ち上がった俺の言葉に、ティアが僅かに剣を引く。事ここに至ってしまえば、こいつらは見逃した方が選択肢が広がってくれる。

というか、下手に倒してしまうと次の一手が打てなくなるのでマジヤバい。

「では、ごきげんよう。行くわよクロード」

「ハッ。それでは、失礼致します」

綺麗なカーテシーを決めたお嬢様が背を向ければ、執事の男も一礼してその場を去って行く。そうして二人の姿が見えなくなったところで、ようやくにしてティアがその体から緊張を解いた。

「ふぅ。とりあえず終わったわね」

「あー、そうだな…………」

ニッコリと笑うティアの笑顔に、しかし俺は内心で頭を抱える。確かにこの場は切り抜けたが、問題は逆……切り抜けてしまったことの方なのだ。

「あ、あのっ! 助けてくれてありがとうございました!」

悩む俺に、背後から声がかかる。振り向けばそこには俺達の助けた男が立っており、こちらに向かって深く頭を下げていた。

「それじゃ、僕はこれで! 本当にありがとうございました!」

「いや、ちょっと待て」

「……えっと、僕に何かまだ?」

首を傾げる男に、俺はあのお嬢様達を見逃したことで手に入れた札を切る。これが通らなかった場合、相当に厳しいんだが……万が一の場合はそうなったら考えよう。

「アイツ等が引いたのは俺達がいたからだろ? ここで一人になったら、また襲ってくるんじゃねーか?」

「えぇ!? た、確かにそれはそうかも……?」

「だろ? だからほら、せめて町までくらいは一緒に行こうぜ。別に無理に事情を聞き出したりとか、恩に着せて金を払えなんて言わねーし。まあ酒の一杯くらいは奢ってくれてもいいとは思うけどな」

「そう、ですね。そのくらいなら……わかりました。では少しの間ですが、引き続き宜しくお願いします」

「おう、任せとけ!」

如何にも頼りなげなその男の言葉に、俺はドンと胸を叩いて笑顔で答え、その内心でホッと胸を撫で下ろす。良かった、どうやら影からこっそりつけ回すという最悪の選択はしなくて済んだようだ。

「一応軽く自己紹介しとくよ。俺はエドで、こっちはティア。アンタは?」

「エドさんとティアさんですね。僕はトビーと言います」

「トビーだな。じゃ、護衛も兼ねるって事で俺達は少し後ろから着いていくから」

「わかりました」

そう言って歩き出すトビーの背後を俺とティアは言葉通り少しだけ遅れて着いていき……そんな俺の手に、ティアの指先がそっと触れる。

『ねえエド、着いていくってことは、このトビーって人が勇者なの?』

『ああ、そうだ。そうなんだが……』

『?』

苦い顔で頭を掻く俺の顔を、ティアが小首を傾げて見てくる。いきなりの大失敗を告白するのは何ともばつが悪いが、こればかりは隠していいことは無い。

『さっきの戦闘な、実はあれに負けるのがこの世界での冒険の始まりだったんだよ……』

思い出した記憶によると、ここは第〇一六世界。初めてここにやってきた俺は大体同じ流れでトビーを守るべくあの二人組に挑み……その結果あっさりと気絶させられ、トビーは「大事なもの」を奪われることになる。

そしてそれをきっかけに、俺は勇者トビーと一緒にあの二人組から「大事なもの」を取り返すために様々な場所を巡り、一緒に戦う……というのが一周目の流れだったのだ。

だが、今回俺達は「大事なものを奪われる」という前提条件を蹴っ飛ばしてしまった。何も奪われていないのだからトビーには俺達と一緒に行動する意味がなく、結果として勇者パーティに加わるという目的を達成できない。それでは困るということでどうにかして同行しようと食らいついているのが現状なわけだが……それを説明されたティアは、実に微妙な顔つきで俺を見てくる。

『何よそれ!? なら何で最初にそう言ってくれなかったの!?』

『いや、俺もなかなか思い出せなかったんだよ。ってか、思い出した瞬間にあの執事の爺さんの一撃を食らっちまって、その後は何も言う前にティアがでてきたから』

『……ひょっとして、私の出るタイミングが悪かった?』

ションボリと肩を落とすティアに、俺はそっと繋いだ手に力を込める。

『まさか。俺が間抜けだっただけさ。ただまあ、ここからどう巻き返すかは悩みどころではある』

『何か手はあるの?』

『今必死に記憶を探ってるんだが、微妙だな。悪いんだけど、ティアはトビーと雑談しててくれねーか? その会話から情報を拾って、町に着くまでの間にはどうにかして同行できるように作戦を立てるから』

『わかったわ』 「ねえ、トビー。ちょっといいかしら?」

「ふひゃ!? な、何?」

俺から手を離したティアが、サッとトビーの隣に移動して話しかける。突然肩が触れそうな距離で話し始めた美女に対し、トビーが顔を赤らめながら話をしているが……あー、あれは後でちゃんと言っておいた方がよさそうだ。ティアの距離の近さを勘違いして告白からの玉砕は、もう両手で足りないくらいは見てるし。

とはいえ、これで雑多な情報と考える時間の両方が得られるようになった。ならばまずは俺の中にある情報を整理しておこう。

目の前の男は、トビー。この世界の勇者であり、「大事なもの」を運んでいる……らしいが、それが何なのかはわからない。一周目でも最後まで教えてもらえなかったし、あの様子だと今回も素直には教えてくれないだろう。

対して、金髪縦ロールのお嬢様の名はパーム・モイスチャー。通称は「欲しがり姫」。元はどこぞの貴族だか王族だかだったのが、「自分が欲しいと思ったものは必ず手に入れる」という悪癖のせいで追放されるも、むしろ自分を縛る枷が無くなったとばかりに世界中を荒らし回る盗賊だ。

かなりの高額で指名手配されている犯罪者だが、捕まっていないのは従者であるクロードの強さは勿論、本人も優れた魔術師であるが故。欲しい物は何でも奪い、自分から奪おうとする者は悉く返り討ち……何とも厄介な存在だが、今後の流れを考えるとただ倒せばいい敵というわけでもないのがまた厄介だ。

ちなみに、何でそんな相手からトビーが今まで無事だったかと言えば、トビーの才能が「逃げる」ことに特化しているからだ。いわば「逃走の勇者」とでも言うべき才能の持ち主であるが、それでも現状ではどんな敵からも必ず逃げられるなんて技量ではない。実際今回追いつめられていたのは、パーム達から逃げるために逃走用の道具を使い果たしたからだしな。

(うーん、やっぱり鍵はトビーが何を何処に運んでるのか、だな。それがわかれば目的地まで護衛するって線で誘導を……いけるか?)

「へー、そんなものまで備えてるのね」

「ま、まあね! 今回はちょっと仕込みが足りなかったけど、普段ならあんな奴らなんてパパッと置き去りにできるはずなんだ!」

「凄い凄い! なら今度、それを実際に見せてもらったりできる?」

「いいとも! じゃあとりあえず次の町くらいまでは一緒に行こうか?」

「やったー!」

「……………………」

悩む俺の前で、ティアがあっさりとトビーと同道する約束を取り付ける。一瞬だけこちらに視線を向けてパチリとウィンクをするティアの顔に、俺は何とも間抜けな表情で半笑いを浮かべてしまう。

あー、そうか。そうだよな。俺が糞みてーな作戦をこねくり回すより、可愛い女の子に頼まれればそりゃ引き受けちゃうよな。ははは……

「勝手に決めちゃったけど、エドもいいわよね?」

「あぁ、勿論いいぜ。これも縁ってやつだからな」

「あ、そうか。エドさんも一緒なんですね……」

「そりゃそうよ! 三人で楽しく旅をしましょうね!」

「は、はい! そうですね、楽しく旅をしましょう!」

「……まあ、うん。楽しくな」

こうして俺達は、初手を大失敗したにもかかわらずあっさりとトビーの勇者パーティに加入することに成功した……いやぁ、ティアさんマジ半端ないっすわー。