軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どれほど純粋な想いであっても、相手が受け入れなければ呪いでしかない

「シネェェェェェェェ!!!」

「うわっ!?」

叫び声をあげた魔女の黒髪が、茨となってルカの体に巻き付いていく。それはさっきまで散々喰らった攻撃と同じように見えたのだが、何故かルカが顔をしかめて身をよじらせる。

「あ、これ思ったより丈夫だ!? 先輩助けて! ヘルプー!」

「おいおい、何やってんだルカ!」

慌てて近づくと、俺はルカを縛っていた茨を「 夜明けの剣(ドーンブレイカー) 」で切り離す。見た目に反して固い手応えのそれは、確かに普通の茨ではない。

「ありがとうございます先輩。茨ならともかく、髪の毛に巻き付かれてると思うと、何だか気持ち悪くて力が出なかったんですよ」

「気持ち悪いって、油断しすぎ――」

「き、き、き、気持ち悪いだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

苦笑するルカに注意しようとすると、再び魔女の狂声が響く。今までルカだけを見ていた目が、ギョロリと俺の方にも向けられた。

「男はみんなそうだ! 私の魅力に気づかない! ならそんな目、要らないだろぉ!」

「うおっ!?」

茨となった無数の髪が、俺の目に向かってまっすぐに伸びてくる。回避も迎撃も容易ではあるが、元が髪だけにその量は膨大であり、このままでは埒があかない。

「チッ! 俺とルカでこのまま引きつけとくから、ティアは魔法で援護してくれ! 勇者様は魔女の本体を!」

「わかったわ!」

「承知した!」

「ってことで、やるぞルカ!」

「うぇぇ、気持ち悪いですー」

「まだ言うかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ブワッと膨らむように広がった魔女の髪が、俺とルカを包み込むように伸びて茨を展開する。しかもそれがグルグルと高速で渦巻き始め、中に閉じ込められた俺達はこのままでは棘のヤスリで削り殺されそうだ。

「これ、どういう仕組みなんですかね?」

「知らねーよ! てか真面目に対処法を考えろ!」

「え? 対処法も何も、放っておけばいいのでは? 魔女さんは親切にもボク達を囲んでくれましたから、 今なら(・・・) 普通に身を守っても平気でしょ?」

怒鳴る俺に、ルカがキョトンとした顔をする。確かにローレンツの視線がないなら、「 不落の城壁(インビンシブル) 」を使ってしまえばこの程度の攻撃は無傷でやり過ごせるのは間違いないのだが、それには一つ大きな……決して看過できない問題がある。

「俺の『 不落の城壁(インビンシブル) 』は、体は守れても装備までは守れねーんだよ! ここから出たら丸裸でしたとか、変態じゃねーか!」

「丸裸!? いやん、先輩のえっち!」

「ふざけろ!」

両手で胸を押さえる仕草をしながら阿呆なことを口走るルカを無視して、俺は徐々に小さく狭くなっていく茨の檻を必死に斬りつける。だが高速で回り続けているせいで斬っても斬っても隙間が生まれず、徐々に迫り来る尊厳の危機に必死に抵抗していると……不意に茨の動きが止まった。

「今だ! 出るぞルカ!」

「あ、はい!」

その隙を見逃さず、俺は辺りを囲む茨の一角を切り裂き、空いた空間から飛び出す。すると外ではティアの魔法で生じた蔓草が、魔女の茨の髪と絡み合ってその動きを止めていた。

「エド!? 大丈夫?」

「助かったぜティア!」

「ギィィィィ! 乳臭い小娘が、私の邪魔をぉぉぉ!」

「ティアさんはエルフですから、魔女さんより年上なのでは?」

「はっ!? 若作りのババァが、私の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁ!!!」

「えぇ!? 何かもう、色々酷くない!?」

「ヒデーから魔女なんてやってんだろ!」

ショックを受けるティアを横目に、俺は魔女に向かって飛びかかっていく。魔女は俺を迎え撃とうとしたようだが、絡まった髪は上手く動かせないようだ。

「まずは一本!」

「ギャァァァァ!?」

攻撃も防御もままならない魔女の右腕を、俺の一刀が切り落とす。

「なら、こっちはボクが!」

「ウギャァァァ!?」

次いで、ルカが左腕を切り落とす。すると失った腕を補うように、肩口の切断面から茨が生えて腕のような形になった。

「よくも私の美しい体を! その罪、命で購えぇぇぇ!」

茨の腕を俺とルカの両方に向けると、どす黒く変色した茨が俺とルカをそれぞれ目がけて伸びてくる。見るからにヤバそうな攻撃ではあったが……

「購うべきは、お前自身の罪だ」

「カハッ!?」

気配を隠して回り込んでいたローレンツの剣が、魔女の胸を背後から貫く。すると茨の腕は力を失ってしなびて、髪もまたただのボサボサの黒髪に戻ってしまった。

「そん、な……どう、して…………」

「お前が何者であったのかは、調べてもわからなかった。あるいはここでその真実を知れば、お前に同情することもあるのかも知れん。

だが、ただ血縁であるというだけで幼い少女に罪を押しつける行為だけは、どんな理由があろうと容認されることはない。

他者に罪を問うのなら、己の罪もしっかりと抱いて眠れ、黒薔薇の魔女よ」

「あ、あああ…………あどにす、さま……………………」

もがくように手を伸ばし、だが何も掴むことなどできずに黒薔薇の魔女が崩れ落ちる。己の分を超えた力を扱った代償なのか、その体は人の状態を保つことすら許されず、黒い灰と成り果てた。

それと同時に、屋敷中を覆っていた茨も同じように灰と化し、まるで罪を隠す雪のように、灰色の絨毯が降り積もる。

「終わった、か……」

「何だかちょっと、悲しい感じね」

「戦いはいつだって、虚しいものなんです……で、あってます?」

「……さて、では改めて屋敷の中を調査するか」

剣を収め、区切りを付けるようなローレンツの言葉に皆で頷き、俺達は改めて屋敷の中を探索していった。そこで俺は 偶然にも(・・・・) 寝室の奥に隠されていた部屋を見つけ、そこにあった黒薔薇の魔女の日記を皆で読むことになったのだが……

「…………えぇ? これが真相?」

「これはまた……確かに業の深いことだ」

「まあ、人間なんてこんなもんですよね」

そこに書かれていたのは、事件の真相、魔女の真実。一二〇年前、魔女はこの地を治める領主の男に恋をしたが、領主には既に婚約者がおり、完全な横恋慕だった。一応想いは告げたが、普通に断られたらしい。

だが、魔女は諦めきれない。自分の方が美しい、自分の方が相応しいと自分磨きに精を出したが、それでどうにかなるほど世の中は甘くない。時間と共に若さは失われ、募る思いは呪いとなり、気づけば魔女はこの地にて「黒薔薇の魔女」と呼ばれる存在になっていた。

当然、当時愛していた領主はとっくに寿命で亡くなっている。だが相手が死んだ程度で想いが消えるなら、魔女なんてものになっていない。自分を選ばなかった男に延々と愚痴を言いながら魔法で領主家を覗き続けていた魔女だったが、あるとき生まれた女の子の顔を見て、衝撃を覚える。その少女……今の領主の娘であるミーシャが、自分から恋人を奪った……と魔女が勝手に思っている女とそっくりの顔だったのだ。

かつての記憶が屈辱と共に蘇り、抑えの効かなくなった魔女は少女に呪いをかけた。あとは憎き女と同じ顔の娘がジワジワと衰弱して死んでいくのを愉悦の目で見届けるだけ……となったところで現れたのが、俺達というわけである。

「人ってここまで自分勝手になれるものなの? 理解できないっていうか、正直ちょっと怖いわ」

「あ、呪いを解く条件が書いてありますよ。えーっと……眠りについた娘よりも自分の方が美しく素晴らしい女性であることを認め、涙ながらの謝罪と共に惨たらしく娘を殺せば呪いは解ける……?」

「つまり、呪いで死ぬか親の手で殺されるかの二択ということか? 単なる逆恨みで、何と残酷な……」

「仕方ねーよ。心なんてのはいつだってままならないもんで……それを全部救ってやれるほど、俺達は強くも賢くもねーんだからさ」

もしも俺が飛ばされるのが一二〇年前の世界なら、この人を諫めて別の道を歩ませる手段もあるのかも知れない。が、既にこの状態になってしまっている魔女を救う方法なんて、俺には何も思いつかない。

全ては救えない。だが救えたものもある。崩れ落ちた魔女の遺灰をチラリと横目に見て……こうして俺達の冒険に、また一つ結末が刻まれるのだった。