軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

入り込む余地がないというなら、相手の立ち位置を変えてやればいい

魔獣に限ったことではなく、生き物の死体の処理というのは相応に手間がかかるものだ。森の奥で一、二匹倒した程度なら放置しても適当に食われて終わりだが、村の近くでそれをやると餌を求める別の魔獣の集団を引き寄せてしまう。

おまけに、数も問題だ。少数ならそれこそ森の奥に運んで捨てるでもいいのだが、何十という数になるとそうもいかない。仮に人気の無い場所まで運ぶにしても、こんな量をひとまとめに捨てては食い尽くされるより前に腐る可能性が高く、怠惰の代償は疫病などの取り返しの付かない形で払わされることになるのだ。

ではどうするか? 一番楽で確実なのは、火で焼いてしまうこと。だが森の中にある村の側で大量の死体を焼くなんて馬鹿なことをする奴はいないので、最終的には「地面に穴を掘って埋める」という答えに辿り着くわけだが……

「あー、疲れた…………」

体長が一メートル以上あるオオカミのような魔獣の死体が二三体。それだけのものを埋める穴を掘るのは、結構な重労働であった。この世界にやってきたのは昼を少し回った頃だったはずなのだが、全ての作業を終えた今はとっぷりと日も暮れ、赤から黒に変わりつつある空の闇を、俺が設置した野営用のカンテラが明るく切り裂いている。

「お疲れ様エド」

「お疲れ様です、先輩!」

「ありがとなティア。あとお前は手伝えよルカ!」

「嫌ですよ! ボクはそういう肉体労働には向いてないですから!」

「チッ」

村の中にある、竈場のすぐ近く。労いの言葉と共にティアが差し出してくれた優しい湯気の立つカップを受け取りながら、ルカには思い切り文句を言う。だがルカは何処吹く風ととぼけるばかりで、腹立たしいことこの上ない。

が、確かにルカの体はこの手の労働に向いているようには見えないため、あからさまに責めることもできない。できないんだが……

「なあルカ、お前なら死体の浄化とか、そういうのくらい楽勝だろ? 何でやらねーんだよ?」

「えー、何の話ですか? ボクはただの美少年剣士ですよ? 先輩がお望みなら、美少女でもいいですけど」

「これっぽっちもお望みじゃねーよ……くそっ」

今この場でルカが「神の欠片」の集合体たる「神の使徒」であることを知っているのは俺だけだ。ルカがそう話したならローレンツのルカに対する態度がおかしいし、ティアは記憶を消されたままだからな。

だからこそ、とぼけられると追求ができない。更に言うなら別に仕事そのものをしていなかったわけではなく、魔獣の襲撃に怯えた子供達の相手とか、村のお年寄りと一緒にちょっとした問題の解決なんかはしていたので、サボっていたと追及するわけにもいかない。

何というか、ルカは以前からこういう要領のいい奴なのだ。実際俺も何も知らなかった頃は、無邪気な後輩として色々面倒みてたしなぁ。

「ははは、どうやらエドにはルカの本質が見えているようだな」

ただし、味方が皆無というわけではない。どうやらローレンツもまた、ルカの媚びた態度に惑わされていない人物のようだ。流石は勇者、人を見る目がありまくる。そしてそんなローレンツの態度に、ルカが不満そうに頬を膨らませる。

「えー、勇者様ってばボクに厳しくないですか? ボク、これでも立派に役に立ってると思いますよ?」

「それに関しては疑っていないさ。確かにルカの剣の腕は素晴らしい。だからこそ私とルカはパーティを組んでいるわけだからな」

「フフーン、そうですよね! ボクってば超一流の剣士ですから! なので、もうこれ以上剣士は要らないですよねー!」

「……………………」

意味深に流し目を向けてくるルカに、俺は無言のまま内心で歯噛みをする。これだけ露骨な態度なら、言われずとも分かる。つまりルカは俺に先んじて勇者に出会い、俺と被る役割で仲間になったのだ。

それはおそらく、俺を勇者パーティに加入させないため。勇者の仲間になれなければ、俺は、俺達はこの世界から出ることができないのだから。

確かに目の付け所はいいと言わざるを得ない。特に無理矢理勇者を操るとかじゃなく、普通に実力で仲間になっているというのが嫌らしい。これだと強引にルカを追い出して俺が後釜に……っていう一番簡単な手段が使えないからな。

だが、甘く見てもらっちゃ困る。こちとら勇者の仲間になることにかけては、あらゆる異世界でも並ぶ者なしと言われる……ような気がする上級者なのだ。

「確かにこれだけの魔獣を倒せるなら、ルカの剣士としての腕は確かなんでしょう。ですが魔法関連はどうです? 攻撃、補助、防御に回復と、魔法の使える人員が一人は欲しいでしょう?」

「そうだな。確かにもう一人か二人くらいは仲間を増やそうと考えているし、それには魔法系の技能を修めた者を……と考えてはいるが」

「はいはーい! ボク! そういうことならボクの出番です!」

ローレンツの答えに、ルカがすかさず手をあげる。ティアをねじ込んで、それをきっかけに自分も……という俺の考えを読んで、その可能性も潰すつもりなんだろう。だが……クックック。

「ボク、こう見えて魔法も得意なんですよ! なのでその辺もバッチリお任せですよ!」

「そうなのか? いや、しかしルカが魔法を使っているところなど、私は見たことがないが……」

「そーなんですよぉ! まあ確かに剣が一番得意なんですけど、魔法だって負けず劣らず超一流なんです! 見ててくださーい……ほら!」

ルカがパチンと指を鳴らすと、暗い空に光の球が浮かび上がる。

「これは……照明の魔法か?」

「そうです! そしてまだまだ……えいっ、えいっ!」

パチンパチンと重ねて指を鳴らすと、その度に燃えさかる火球が、揺らめく水球が、固そうな土の塊が、そしてそれらを吹き散らすように、最後に小さな風が巻き起こる。その一連の光景に、ローレンツは勿論、ティアも驚きに目を丸くした。

「うわ、凄い! 全部の属性を扱えるってこと?」

「しかも小規模とはいえ、全てを無詠唱とは……ルカ、君は本当に優秀なんだな」

「そーなんです! ボクってば凄く優秀なんですよ! だから勇者様の仲間は、僕一人で十分――」

「いやあ、素晴らしい!」

俺は得意げに胸を反らすルカの言葉を遮って、大きな声でそう言いながら賞賛の拍手を送る。確かに実に素晴らしい……何せ俺の思惑通りに動いてくれたからな。

「……先輩? 何だか凄く悪い顔をしてますよ?」

「いやいや、気のせいだろ。ルカがあまりに凄くて、思わず笑みがこぼれちまっただけさ。勇者様だってそう言ってただろ?」

「そうですけど……え、何でしょう? これボク、何かやっちゃいましたか?」

まだ答えには辿り着いていないようだが、それでも自分が俺に乗せられたことにくらいは気づいたんだろう。ルカが目に見えて狼狽し始めるが、もう遅い。

「ですが勇者様。これだけ何でも出来るというのなら、補充要員は魔法師に限らないのでは? 全てをルカ一人に任せるのはあまりにも負担が大きすぎますし……どうです? 俺とティアを雇っていただけませんか?」

「ん? エド達をか?」

「ちょっ、何言い出すんですか先輩!? 剣士はボクだけで間に合ってますよ!?」

「だから今言ったろ? ルカが剣しか使えないっていうなら、確かに同じ技能しかない俺を雇う意味は薄いだろう。でもルカは何でもできるってんだから、逆に言えば追加の仲間は相応の実力さえあれば、どんな技能を持っててもいいってことだ。

なら、剣士の俺と精霊使いのティアっていう、前衛と後衛の揃った人員をパーティに加えるのはいい選択だと思わねーか? だってルカはその時々に応じて、前衛を厚くすることも後衛から魔法をぶっ放すことも、何なら回復魔法だって使えるんだろ?」

「うぐっ!? それは、まあ…………使えますけど…………?」

「ならやっぱり、俺達が入るのがバランスが取れていいじゃねーか。どうです勇者様、勿論腕前の方を確認していただいてからで構いませんから、考えていただけませんか?」

「そうだな……いいだろう。ここで会ったのも何かの縁だ。魔王討伐を目指す旅に相応しいと判断できる実力があるなら、君達二人を雇おう。

とはいえ流石に今日はもう遅いから、実力を見せてもらうのは明日でどうだい?」

「んがっ!? そんな、勇者様!?」

「勿論大丈夫です! やったなティア、俺達も憧れの勇者パーティに入れるまたとないチャンスだ!」

「ええ、そうね。頑張りましょうエド!」

「おう!」

「フフフ、明日を楽しみにしておくよ」

俺とティアが笑顔で希望を語り合い、その様子を見てローレンツもまた楽しげに笑う。

「うぅぅ、何でこんなことに。これじゃせっかくのボクの作戦が……」

そしてこの場で唯一、ルカだけはその場にしゃがみ込み、しょぼくれた顔で地面に落書きをしていた。