軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その理不尽を憤るには、些か遠くに立ちすぎた

「何だかんだ、先輩ってやっぱり優しいですよね。今もボクみたいなのに気を使ってくれてますし」

「それはまあ、多少はな」

あくまでも低姿勢に見えるルカの態度に、俺は軽く苦笑しながら言う。ちなみにだが、こんな風に暢気に話をしているのは、ルカのなかに俺に対する敵意や悪意が全く感じられないからだ。

無論、それは気を許すという意味じゃない。子供は無邪気に蝶の羽を毟るが、羽を毟られた蝶からすれば「悪意がないから許す」なんて言えるはずもない。ましてや俺は毒虫らしいので、そこにどんな意思があろうとなかろうと、手を出してくるなら相応の態度は取らせてもらう。

が、それは最後まで話を聞いてからでいい。俺は決して「言葉の通じない毒持ちの羽虫」ではないのだから。

「それで、えーっと、何処まで話して……まあいいや。とにかくボク達は、先輩をどうにかするために神様にこの世界へと送り込まれたわけです。

先輩に自死を選ばせ、そこで『終わらせる』ことが出来れば最上。そこまではいかずとも、先輩が死んで次のループに行ってくれれば十分。そして最低でも先輩がこれ以上力を取り戻さないようにする。そんな目標のためにボク達は直接、間接、様々な手段で先輩にアプローチしたわけですが……」

そこで一旦言葉を切ると、ルカが猛烈に渋い表情になって、額に手を当て大げさに顔を横に振る。

「まさかです。遂に先輩を出し抜いて次のループに送り込めたと思ったら、いきなり世界が倍に増えたうえに、先輩は力も記憶も取り戻して復帰しちゃったじゃないですか!

ええ、もう、大変ですよ! 好転したと思った状況が無理矢理白紙に戻されたどころか、想像すらしていなかった負債を生み出しちゃったわけですからね。まったく予想していなかった事態に、神様は大慌てでボク達の役目を『先輩への対応』から『増殖した世界を元の状態に戻す』に変更し、ボク達もそのために必死に頑張りました。

でまあ、それも何とか滞りなく終わったので、改めて先輩への対応に戻るかってことになって……そこでボク達は、考えたんですよ。ああ、これ今までと同じ事を繰り返しても駄目だなって。なのでボク達も、先輩を見習うことにしたんです」

「俺を見習う? どういう――っ!?」

その言葉の意味に気づき、俺は反射的に身構える。するとルカの背中から白い大きな翼が生え、その体が直視できないほどの白い光に包まれる。

「そう、ボク達も力を結集したんですよ。先輩にやられちゃったり、世界の剪定で力を使い果たしちゃったモノもありましたけど……今の僕は、七八個の『神の欠片』が寄り集まって出来たモノ。先輩風に言うなら『神の欠片』の 一つ上(・・・) の存在という感じですね。

まあ名称が被るのはアレなんで、個人的には『神の使徒』とでも呼んでもらえた方が嬉しいですが」

「ぐっ……」

目を細めて何とか向き合う俺の前で、ルカの体から発せられる光が徐々に弱くなっていく。それがぼんやり光っているくらいまで収まったところで俺が顔を庇っていた腕を下ろすと、顔から眼鏡の消えたルカがクイッと片足を曲げて立ち、まるで役者か何かのように戯けたポーズを決めた。

「ということで、これが先輩の『お前は誰だ?』という問いに対する答えです。納得していただけましたか?」

「ああ、わかった。よーくわかったさ。ただ、そんなお偉い使徒様がこんなところで何やってるのかって疑問は新たに生えてきたけどな」

常人では近づくどころか直視することすら許されず、遠くに光を感じただけでひれ伏してしまうだろう圧倒的な存在感。単純な戦闘力では軽く俺を凌駕すると否が応でも実感させられてしまったルカが、しかし俺を殺しにやってきたとは思えない。

というか、もしそれが目的なら、とっくに殺されているはずなのだ。記憶を弄られ「後輩」であったルカに不意打ちされていたら、おそらく俺はバーンにそうされたときよりも更にあっさりと仕留められていた気がする。

だが、俺は今も生きている。ならばルカの目的は? そう探る俺の前で、ルカはほにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべる。

「何をやってるか、ですか。それは勿論、本来の目的の遂行ですよ。ただし今までとは少し方針を変えましたけど」

「? どういうことだ?」

「前に先輩を殺した時は大変なことになったって、さっき言ったばっかりでしょう? となると今の先輩を普通に殺したら、あれより更に大変なことになる可能性があるわけです。それは嫌なんですよ。後始末をするのはボク達なんですから! 絶対にノゥ! です!」

「お、おぅ。そうか」

力強く断言され、俺は微妙に引き気味で相づちを打っておく。まあ、うん。そうだな。次は世界が三〇〇個に増えますとかなったら、そりゃ大変だもんな。

「先輩だって他人事じゃないんですよ! まったく……まあとにかく、ボク達は失敗から学んで、先輩を無理矢理どうにかするのは悪手だと気づいたわけです。なので、この世界を創りました!」

「創りましたって……え、この世界って、ルカが創ったのか!?」

世界の創造ともなれば、それは正しく神の所業だ。それが多少集まったとはいえ、欠片程度でどうにかしたという事実に、俺は思わず驚きの声をあげる。そしてそんな俺の声に、ルカはちょっとだけ得意げな顔で大きく頷きながら話を続ける。

「そうですよ! ほら、ここしばらく先輩にちょっかいをかけてなかったでしょう? それって頑張ってここを創ってたからなんですよ! まあ神様と違って所詮ボク達は欠片の集合体でしかないですから、創ったって言ってもこの辺だけなんですけどね。

いやー、大変だったんですよ! いきなり倍に増えた世界の数が元に戻ったことで、概念的な空間の膨張の余韻が残されていたこととか、 基底情報(テンプレート) だけとはいえ神様が先輩のなかに『ここがどんな世界か』をちゃんと書き込んでいたりとか、そういう幾つもの要因が重なったからまだ何とかなりましたけど、それでもロスタルの町とその周辺のいくつかの村を創るのが限界でした」

「へ、へー。そうなのか……」

町とその周辺の村……つまりこの半年ほどで俺が回った場所が、この世界のほぼ全てらしい。それを世界と呼ぶにはあまりにも狭いが、だからこそ欠片の集合体でも何とかなったのだと言われれば納得できる。

いや、逆か。神本体ではない欠片だから、どれほど集まったところでこれが限界だったのだろう。俺の力の欠片である魔王だって、俺の「終わりの力」は極めて限定的にしか使えない感じだったからな。

「……じゃあ、母さんやタルホ達も、ルカが創ったのか?」

「そうですね。ただ人間に関しては、神様の用意した基底情報に先輩のなかにある『この人はこんな感じだろうな、こういう人であったらいいな』という想いを被せたうえで再構成した感じになります……ガッカリしちゃいますか?」

「…………いや、納得した」

こちらを伺うようなルカの言葉に、俺は皮肉っぽい笑みで応える。元からいた人間を洗脳して母さんに仕立て上げていたとかなら怒りもするだろうが、そもそも存在しなかった人間を、俺の願いを反映する形で新たに生み出したというのなら、怒ったり悲しんだりする余地がない。

そうか、母さんは……タルホ達は……俺の理想、想像から生まれていたのか……

「そういう意味では、町や村にいる『ただの人』を創るのが実は一番大変でしたね。なにせ何の情報も思い入れもない人達を、何千人と創らなきゃいけなかったので。先輩も覚えがあるでしょう? この世界に来てまもなくの頃とか」

「あー! そういうことだったのか……」

多くの他人で構成されている町はともかく、俺が生まれ育ったはずの小さな村で妙によそよそしいというか、人間味を感じない人がほとんどだった理由がそれなのか。そりゃそうだ、神だって「村人その一」とかにいちいち個性を設定なんてしてねーよなぁ。

そしてそういう人達もまた、俺がここで暮らし触れ合うことで「この人はこういう人だ」という印象が勝手に固まっていくからこそ、今では個人として認識し、普通に話ができる存在になったのだろう。

「そうかそうか。何かスゲー納得したというか、スッキリしたけど……で、結局そこまでして、ルカは何がしたかったんだ? それだけ手間をかけて世界を創って、俺を呼び込んで……どうするつもりだったんだ?」

それこそが、この話の一番重要な部分。その答え次第では、俺とルカは即座に敵対することになる。気を引き締め心を落ち着け、覚悟を以て問う俺に、ルカは人懐っこそうな笑みを浮かべて答える。

「それは勿論……先輩に永住してもらいたかったんですよ!」