軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

力押しができるのは、力のある奴だけである

「うぉぉぉぉ!? おいエド、今のは一体どういうこった!?」

「フフーン。どうよ? 俺の見事な腕前に――」

「無様に剣を弾かれて泣きべそをかくお前を、俺が格好良く助ける計画が台無しじゃねーか!」

「知らねーよ!」

勝手な妄想をほざくタルホを、とりあえず俺は引っ叩いていく。だがそんな俺の頭にも、何故かジグが拳を落としてくる。

「イッタ!? ちょっ、何するんですかジグさん!?」

「何するじゃねーよ馬鹿! アーマジロの素材が台無しじゃねーか! こいつの報酬のほとんどは素材なんだぞ!」

「あ…………」

アーマジロの買い取り価格は、一匹で銀貨一枚。そう考えるとかなりいい値段に思えるが、実際には討伐報酬が銅貨二〇枚で、残りは全て素材を売却したときの値段だ。

で、アーマジロの素材で値がつくのは、当然ながらその固い甲羅である。ハンマーで叩いた場合は、多少へこむが減額も少ない。火で燃やすのも、甲羅そのものは熱に強い……熱せられた中身が茹で上がるから弱点なのだ……ため、中火でじっくりあぶる感じのブランの魔法もそれほど素材を痛めたりはしない。

が、俺がやったのは…………

「あーあー、どうすんだこれ? 端がちょっと欠けてるとかならまだしも、完全に真っ二つなんて買い取りしてもらえねーぞ?」

「その点、ティアさんは凄いよね。お腹から一突きだから、甲羅は全然傷ついてないし。ここまで完全な状態でアーマジロを倒せる人は滅多にいないよ?」

「えへへー、ありがとうブラン。貴方の魔法も凄かったわよ?」

「そ、そうかな? レナ以外の女の人に褒められるのって珍しいから、ちょっと照れちゃうな」

大げさにため息をつくジグを横に、ティアとブランが楽しげに笑い合う。それを呆然と見つめる俺の肩に、ニヤニヤと笑うタルホが腕を回してくる。

「うーん、よくないなーエド君。いいところ見せようと調子に乗っちゃったのかなー? でも、お金にならない倒し方しちゃ駄目だよねー? もう一回、俺が素晴らしい手本を見せてやろうか?」

「……うるせーよ」

ウザい。キモい。あと口が臭い。平素ならウザ絡みしてきたタルホを殴るのは全人類に保障された権利なのだが、今回ばかりは俺の対応が悪かったので言い返せない。

というか、まあ、うん。ちょっと格好つけようと思っていたことは否定しない。だがそんな小さな見栄が、まさかここまで理不尽な運命を呼び寄せるとは……っ!

「でも、本当に綺麗に両断されてますよね。いい剣を手に入れたって言うのもあるんでしょうけど、やっぱり先輩は凄いなぁ! よーし、これはボクも負けてられないぞ」

と、そこでジグと一緒に俺が両断してしまったアーマジロを見ていたルカが、そう言って腰の剣を抜く。極めて薄く細いその剣は本当に金属製かと疑いたくなるほどに柔らかくしなやかで、手に持つだけでフォンフォンと刀身が揺れ動くほどだ。

「おいルカ、本当にやるのか? どう考えてもその武器でアーマジロは無理だろ?」

「フッフッフ、それはどうでしょう? 先輩、ちゃんとボクを見てくださいね!」

「ははは、わかってるよ」

こっちに向かって笑顔で手を振るルカに、俺は同じように手を振って応える。するとルカが近くのアーマジロに狙いを定め、ゆっくりとそちらに近づいていく。

「ほーら、怖くない怖くない……ありゃ?」

猫なで声を出すルカだったが、残念ながらアーマジロには通じなかったようだ。丸まったアーマジロが回転しながら突っ込んで来ると、何とルカはその体の下に剣を差し入れ、びょいんとしならせることでアーマジロの体を上に跳ね上げた。

「は!? 嘘だろ!? 何であんな剣でそんなことできんだよ!?」

「コツがあるんですよ。知ってますかタルホさん? 柔らかいっていうのは、アダマントより壊れないんです! とどめだ!」

「キュイー!?」

打ち上がったアーマジロが自重で地面へと叩きつけられると、キュウっと鳴き声を上げて伸びた。その気を逃さずルカがアーマジロの複数重なった甲羅の隙間に剣を突き入れると、内側を斬られたアーマジロは悲鳴をあげて絶命した。

「ということで、討伐完了です! どうです先輩? ボクもなかなか凄いでしょ?」

「おう! 大したもんだぜ」

嬉しそうに駆け寄ってきたルカが撫でて欲しそうに頭を差し出してくるので、俺は希望通りにその頭を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めるルカの顔は、まるで猫のようだ。

てか、本当にスゲー腕だ。これだけ腕利きなら俺達よりずっと稼げる奴らとつるめるはずだが…………いや、確か年齢を理由に軽んじられたことがあって、それで俺達と一緒にいる……んだったか? 何か多分、そんな感じだった気がする。

「これで全員一匹ずつ倒したんだっけ?」

「いや、違うぞ。ジグさんがまだだ。ですよねジグさん?」

「ぐっ……」

「あれあれー? まさか最年長の腕利き剣士であるジグさんが、このまま一匹も倒せないなんてことないですよねー?」

「あ、当たり前だろ! 見てやがれ! どこだ! 次のアーマジロは何処にいやがる!」

タルホに煽られ、ジグが歯噛みしながら周囲を見回す。程なくして獲物は見つかるが……悲しいかなジグは普通の剣士であった。幾度も斬りつけるも今ひとつ有効打を与えられず、最後にはルカを真似して甲羅の隙間に剣を差し入れた結果、今際にビクンとアーマジロが体を震わせたことで、挟まれていた剣がペキンと折れてしまった。

「ああっ!?」

「あー……」

「ありゃりゃ」

「うわぁ……」

「やっちまったか」

「折れちゃったわねぇ……」

俺達全員が何とも言えない視線を向けるなか、ジグが悲しい顔で折れた剣を見る。一応アーマジロを仕留めることはできたものの、まあまあ傷だらけな甲羅と討伐報酬だけでは明らかに赤字である。

「は、ははは……ちょっと前に研ぎに出したばっかりだったのに……」

「そういうこともありますってジグさん! な! みんなもそう思うだろ!?」

「そうだね。相性の悪い相手と無理に戦ったんだから、仕方ないよ」

「すみませんジグさん。ボクが余計なことを言い出したばっかりに……」

「タルホもブランもルカも、そんな顔するんじゃねーよ! これは俺が決めて俺が始めたことだ! だから悪いのは俺で……くっ」

「あー……あの、ジグさん? 実は俺、鍛冶もちょっとできるようになったんで……よかったら直しましょうか?」

「えっ!?」

おずおずと申し出た俺に、ジグが驚きこっちを向く。

「い、いけるのか? ちょっと刃が欠けたとかじゃなくて、完全に折れちまってるんだが……」

「まあ、何とか……このくらいなら」

受け取った剣を手に、俺は曖昧な笑みを浮かべる。名だたる名剣ならともかく、これだと普通に鋳つぶしてからの打ち直しなんだが、ジグの心の負担を考えて、そこは秘密にしておこう。補修と打ち直しじゃ金が全然違うしな。

「つっても、流石に今すぐじゃないですよ? 町の鍛冶場を借りないとですし」

「いい! 十分だ! あーよかった、これで剣を買い直すとかなったら、割と本気で頭を抱えるところだったぜ。

よし、今日の勝負は俺の負けだ! 酒は奢ってやるから、今すぐ帰るぞ!」

「いや、流石に今のジグさんに奢ってはもらえないですよ……なあブラン?」

「そうだね。じゃあ僕とタルホで依頼を片付けておくから、エド達はジグさんと一緒に町に戻ってよ。で、報酬の半分をエドに渡すから、それでジグさんの剣を直してもらうってことで」

「え、いいのか? それだと働きの割に、お前達の取り分が少なくねーか?」

俺の問いかけに、しかしブランは穏やかな顔で微笑む。

「いいんだよ。困ったときはお互い様だし、エドだって……ね?」

「……わかった」

意味深な視線を送ってくる辺り、どうやらブランには俺が自腹を切るつもりであることがばれているらしい。ならここで固辞するのも無粋ってもんだろう。

「じゃ、帰りましょうか先輩。ジグさんの面倒はボクが見ますから」

「おう、悪いなルカ。じゃ、行こうぜティア、ジグさん」

「はーい。もうちょっと暴れたかった気もするけど、仕方ないわね」

「うぅ、俺の剣……」

「はいはい、大丈夫ですよジグさん。町に着くまでは、ボクと先輩がジグさんの剣になりますから」

「剣……ルカが俺の剣? お前やっぱり男だったのか?」

「? どういうこと?」

「気にするなティア。耳が腐るから」

この状況でも下ネタを突っ込んでくるジグに苦笑しつつ、俺達は揃って町へと戻っていく。

なお、数日後に「神の剣を手に入れた!」とはしゃぐジグが一騒動起こすことになるのだが……それはまた別の話である。