軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黄昏の街で、誰そ彼を問う

「ところでエド。お前仕事はいいのか?」

「え?」

ひとしきり旧交を温めたところでジグにそう問われ、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。仕事……仕事?

「そうだよね。確かエド、今日は爪モグラの退治をするって言ってなかった? もうそろそろお昼だけど、行かなくていいの?」

「……………………」

ブランの言葉に、俺の頭の中に当時の記憶が湧き上がってくる。そうだ、確か俺は爪モグラの巣を潰すために森に入って……? あれ? でも俺は今ここにいるぞ?

「ヘッヘッへ。なあエド、ルナリーティアさんに酒の酌をしてもらえるなら、俺が手伝ってやってもいいぜ?」

「うるせーよ馬鹿タルホ。テメーには一生頼らねーから気にすんな。つっても……ハァ」

ニヤニヤ笑うタルホを無視して、俺は席から立ち上がり受付の方へと歩いて行く。そこにいるのは若くて綺麗な受付嬢……ではなく、厳ついオッサンだ。現実は非情である。

「ん? 何だエド」

「すみません親父さん。俺の受けた依頼の受領書ってあります?」

「ハァ? まさか無くしたのか!?」

「いやぁ、それがちょうど中身を確認しているときに、これまた丁度いい具合に風が吹いてきまして……」

「風に飛ばされたって……お前この仕事何年目だ?」

「ご、五年目です……」

俺が雑傭兵になったのは、成人まもなくの一五歳だ。普通に仕事を受けて三年残れば新人脱出、五年でおおよそ一人前という感じなので、俺は既に一人前と言われる程度の立ち位置にはなっている。

つまり、風で飛ばされるなんて初心者丸出しの失敗は相当に恥ずかしい。恥ずかしいが、仕方ないのだ。一応鞄の底を探ってはみたが、流石に受けた覚えのない依頼の受領書までは入ってなかったからな。

「まったく、最近は頑張ってるかと思ったんだが……ほれ、持ってけ」

「ありがとうございます。じゃ、お前等! 俺は仕事行ってくるから!」

「行ってきまーす!」

「おう、またな!」

「じゃーねー」

「お前はどうでもいいけど、ルナリーティアさんに怪我させるんじゃねーぞ!」

親父さんから予備の受領書を受け取り、タルホ達に挨拶をして、俺とティアは集会所を出た。するとティアがひょいと俺の隣に並んで話しかけてくる。

「楽しい人達だったわね」

「まあな。口は悪いし金遣いも荒いし、女癖も悪いんだが……それでも悪い奴らじゃねーよ」

「それだと悪口にしか聞こえないわよ?」

「アイツ等なら、それで十分さ」

「フフッ、そう」

アホ共に絡まれていたというのに、何故かティアがやたらと上機嫌だ。まあ機嫌がよくて困ることはないので、俺はそのまま屋台で適当に買い食いしてから町を出て、目的地へと向かう。徒歩で二時間ほどの距離なので、ちょうどいい腹ごなしだ。

「っと、ここかな? すみませーん、爪モグラの退治依頼を受けてきたものなんですけど」

「あー、そうかい。随分遅かったね?」

「申し訳ありません、ちょっと色々立て込んでまして」

畑から出てきた依頼主に、俺はペコペコ頭を下げる。本来の予定からおおよそ半日ずれ込んでいるので、全面的にこっちが悪い。

「まあいいけど。でもどうするんだい? この時間じゃ巣を潰すのまでは難しいだろうけど、せめて畑に来てるのだけはどうにかして欲しいんだけど……」

「ああ、それなら問題ありません。ティア、森の方を頼めるか?」

「任せて!」

俺の頼みに、ティアが胸を張って答える。爪モグラの巣は普通に土が盛り上がって見えているので、効率を考えないなら子供だって見つけられる。となればエルフであるティアが森の中でそれを見つけるなんて、タルホをおだてて酒を奢らせるより簡単だ。

「で、畑の方は俺がやります。日暮れまでには十分終わると思いますんで」

「そうなのかい? じゃあまあ、頼むよ」

依頼主の男性が、半信半疑といった表情を浮かべて仕事に戻っていく。実際動かない巣と違って、畑の中にいる爪モグラは当然地中を移動するので、見つけるのも退治するのも割と手間がかかる。

それは当時の俺であれば、普通に半日かかる仕事だ。今からでは日が落ちて巣に戻る爪モグラを何匹も取り逃してしまったことだろう。

が、今の俺は違う。「 失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス) 」と「 旅の足跡(オートマッピング) 」を組み合わせれば、地中の爪モグラの動きまで一目瞭然。そして場所がわかるなら、退治するのも楽勝である。

「ほっ!」

「ピャッ!?」

軽く土を掘り返すように剣を振るうと、鼻先を引っ叩かれた爪モグラが飛び出してくる。三〇センチほどの体長の爪モグラが、その体と同じくらい長くて立派な爪で俺をひっかこうとしてくるが……

「ていっ!」

「ブニャッ!」

返す刃で真っ二つ。当時の俺が勝てるくらいの魔獣なのだから、今の俺からすれば目をつぶっていても倒せるような雑魚だ。ホイホイと手早く処理していけば、ほんの一時間ほどで畑にいた二〇匹以上の爪モグラの退治が終了した。

「ふぅ、こんなもんかな」

「アンタ凄いな! いや、若いのに本当に大したもんだ」

「ははは、ありがとうございます」

俺の働きっぷりに、依頼主の男性が大喜びで拍手喝采してくれる。当時ここまで手放しに褒められることはなかったので、何というか新鮮な気分だ。

「エドー! こっちは終わったわよー!」

と、そこで近くの森の方からティアが戻ってきた。森の中で戦ってきたにしては汚れの一つもついていないが、ティアに限って心配する要素はない。

「巣は幾つあった?」

「六つよ。この近くだけでよかったのよね?」

「ああ、十分だ」

討伐部位である爪モグラの尻尾をごっそりを抱えるティアに、俺は笑顔で頷く。

ティアであれば、森中の爪モグラの巣を見つけて潰すこともできるだろう。が、たとえ魔獣であろうと、殺しすぎると生物のバランスが崩れて意外な問題が発生することがある。俺達が報酬分しか働かないのは強欲や怠惰からではなく、そうするのが誰にとっても一番都合がいいからなのだ。

「ということで、これで依頼完了ってことで問題ありませんか?」

「勿論です。いやぁ、昼を過ぎても来ないからどんな人が来るのかと思ってましたが、この腕前なら納得ですよ! ありがとうございました」

「アハハハハー」

適当に笑って誤魔化す俺の前で、依頼主が受領書に自分の名前を書き入れてくれる。それを受け取り日が暮れるギリギリで町に戻ると、俺は再び集会所に行って受け付けの親父さんにそれを提出した。

「親父さん、これ」

「アン? お前今更できませんでしたじゃ……って、おぉ? 何だよ、完了してるじゃねーか!? どうやったんだ!?」

「どうって、そりゃ普通に頑張ったんですけど……」

「はー! 何だおい、お前いつの間にそんなに腕をあげやがった? それとも何かコツでも掴んだのか?」

「いやいや、ティア……彼女が手伝ってくれたからですよ。森の中の巣をあっという間に見つけてくれましたし」

「へー、そうなのか。ま、いいや。んじゃ、これが報酬な」

俺の後ろでニコニコしてるティアを一瞥してから、親父さんが俺の手に銀貨を二枚乗せてくる。それを確認して腰の鞄にしまうと、改めて親父さんがティアに話しかけてくる。

「んで、お嬢さん……ティアさんか? 一応聞くんだが、エドに弱みを握られてるとか、騙されて安い金でこき使われてるとかじゃねーよな?」

「へ!? いえ、そんなことはないです。エドとはいい仲間ですから」

「そうか。まあ昼間あんだけ楽しそうに話をしてたから平気だとは思ってたが、確認くらいはしとかねーとな。

おいエド、今後もそのお嬢さんを連れ回すなら、ちゃんと登録しておけよ? 未登録の奴をいつまでも連れ歩くなんざ、後ろ暗いことをしてますって言ってるようなもんだからな」

「わかってますよ! 明日か……遅くても明後日には支部の方に顔を出します」

「ならいい。んじゃお嬢さん、エドに変なことをされそうになったら、遠慮なく言ってくれ。俺がぶん殴ってやるから」

「はーい! だってエド。変なことしちゃ駄目よ?」

「しねーよ! 親父さんも勘弁してくださいよ」

「ガッハッハ! じゃ、またな」

豪快に笑うオッサンに背を向け、集会所を出る。辺りは大分暗くなっており、本来ならばそろそろ寝床の心配をするべきところなんだが……

「なあティア。俺って何処で寝てたんだと思う?」

「えぇ? それを私に聞かれても……普通に近くの宿で部屋を取ってるとかじゃないの?」

「うーん。その辺の記憶が曖昧というか……」

こうして思い返してみると、俺の中にはそういう「日常生活」の記憶がスッパリと抜け落ちている。何年もこの町で暮らしているはずなのに、何処に宿があるのかすらわからない。

「なら、とりあえず適当なところで休む? この規模の町なら、大通りを歩けば何処かに宿はあるでしょうし」

「そう、だな。とりあえずそうするしかねーか」

知っているのに知らない場所。見てすら思い出せないのに、一歩踏み込むだけで「懐かしい」と思ってしまう施設。自分でもどうしようもない感情に振り回されながら、俺はティアを連れて夜の町を歩いて行った。