軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

現れた荒くれ者! なお誰のこととは明言しない

『世界転送、完了』

「フゴッ!?」

第〇〇三世界。俺達が出現したのは、狭くて暗くて……いや、狭っ!? きっつ!? 何だコリャ!?

「ちょっ、何ここ!? エド、ちょっと苦しいんだけど!?」

「馬鹿、動くなよティア! 俺だってきついんだぞ!?」

「そんなの知らないわよ! あーもう! んぎぎぎぎ……!」

小さく体を折りたたむようにして、俺達は謎の閉鎖空間にみっちりと詰め込まれている。えぇ、何これ? こんな経験一周目ではしてないはずなんだけど……!?

「ぐっ!? ああ、そうか……おいティア、まずは落ち着け」

「こうなったら、魔法で吹き飛ばしてやるんだから! 風を束ねて――」

「待て待て待て待て! やめろティア! 大丈夫だから!」

ズキンと走った頭の痛みと同時にここが何処だかを思い出し、俺は慌ててティアを止める。ここで下手にでかい魔法を使われたりしたら、全員揃って 海の藻屑(・・・・) となるのが確定だ。

だが、俺の体もまた自由がきかない。そりゃ本来一人で来るはずの場所に二人で詰め込まれたら、いくらティアが小柄だからって隙間なんてあるわけないのだ。

「ルナリーティアの名の下に――」

「やめて!? 本当にやめていただけますかティアさん!?」

「これか? おい、大人しく出てこい密航者ども――」

「『ストームブリンガー』!」

「へぶあっ!?」

閉じられていた箱の蓋があけられ、覗いたオッサンの顔にティアの精霊魔法が炸裂し――

「へぇ、こいつらがその密航者かい?」

「へい、姐さん!」

「姐さんじゃなく、船長と言いな!」

「へぐっ!? す、すんません姐……船長……」

俺とティアは、広い甲板の中央に正座させられている。後ろ手に縛られて武器も取り上げられ、二〇人ほどのオッサン達に囲まれている様は正しく絶体絶命という感じだ。

そしてそんな俺達の前では、これまた厳ついオッサンが仕立てのいい豪華な服を身に纏った妙齢の美女に頭をひっぱたかれている。はち切れんばかりの胸と尻をした三〇代くらいと思われる赤毛の女性こそ、この船の船長だということを俺は知っている。

「まあいいさ。アンタ達、名前は?」

「俺はエドです」

「ルナリーティアよ。その……ごめんなさい。いきなり乱暴な事をしちゃって……」

「ああ、別に構やしないよ。ウチの男共のムサい顔が見えりゃ、そりゃ悲鳴の一つもあげたくなるってもんだ」

「ちょっ、酷いですよ姐さん!」

「船長と呼びなって言ってるだろう!」

「ごはっ!?」

船長の女性が投げたナイフが……勿論柄の方だが……抗議の声をあげた男の額に直撃する。うわっ、割とえげつない音がしたぞ。あれは痛そうだ。

「で? このアタシの船に密航するたぁ、どういう了見だい? 事と次第によっちゃこのまま海に放り投げることになるんだが……」

そう言って船長の女性が両手を広げて見せる。そう、ここは周囲に陸地すら見えぬ外洋の真っ只中。であればここは小国も同じであり、俺達の生殺与奪の権利を握っていると 思い込んでいる(・・・・・・・) 船長に対し、俺は丁寧な言葉遣いで話しかける。

「まずは貴方の船に無断で乗り込んだ無礼をお詫び致します。ですが、俺達にも事情がありまして……できれば半年ほどこちらの船でご厄介になれませんか?」

「……アンタ、耳がついてないのかい? アタシはその事情とやらを聞いてるんだけどねぇ?」

「申し訳ありませんが、それをお答えすることはできません。それをお伝えすると、貴方達も俺達の事情に巻き込んでしまいますから」

「ほぅ? つまりアレかい? 人の船に無断で乗り込んできた明らかに厄介事を抱えている奴を、何の理由も聞かずにこの船においてやれと?

アンタ、このアタシを舐めてるのかい?」

正座する俺達を高い位置から見下ろしていた船長の女性が、底冷えのするような目で俺を睨み付けてくる。そこから感じられる威圧はこの女性が確かに実力で船長の地位を得ているという裏付けではあるが……俺をビビらせるには殺意と狂気が全く足りない。

「まさか。なので――」

俺は腕に力を込め、縛られていた縄を切る。無論俺の腕力では到底無理なので、これはティアがこっそり精霊魔法で縄に切れ込みを入れてくれていたからだ。

そうして自由を取り戻すと、俺はその場に立ち上がって拳を握る。こっちはそこまで得意じゃないが、手加減するには丁度いい。

「この拳を持って、俺の有用性を証明して見せましょう」

凶悪な笑みを浮かべる俺に、船長の女性がぞくりとその身を震わせる。暴力の臭いに楽しげな表情を浮かべるあたり、流石は……っと、それは今はいいか。

「ハッ! 粋がるじゃないか! おいお前達、その坊やが口先だけの男かどうか試してやんな!」

「へいっ、船長!」

船長の女性の言葉に、まずは三人のオッサンが俺の周りを囲んでくる。しかし薄笑いを浮かべた顔はニヤニヤと緩んでおり、誰一人武器を抜いていない……つまり俺の方こそ舐められている。

「おうボウズ、この俺が海の男の洗礼って奴を…………?」

オッサンの言葉が終わるより前に、俺の拳がオッサンの腹にめり込む。一瞬だけ「 追い風の足(ヘルメスダッシュ) 」を発動させた俺の動きに気づけた奴はこの場にはいない。

「……一人」

「て、てめぇ!? 調子に――っ」

驚いたオッサンが腰の剣に手を掛けるが、遅い。抜かれる前に再び「 追い風の足(ヘルメスダッシュ) 」で突っ込んで殴れば、床に転がるオッサンの数が増える。

「二人」

「く、くそっ!? おい誰か、加勢しろ! 切り刻んで魚の餌にしてやる!」

慌てた三人目の声に、周囲を囲んでいた男達が獲物を抜いて俺の方にやってこようとする。だがまだまだ……危機感が足りない。

「ぐっ!?」

「げはっ!?」

「そんなっ!?」

一人、また一人と俺の拳によって男達が沈んでいく。直線しか移動できない「 追い風の足(ヘルメスダッシュ) 」だが、そうであることを看破できる冷静さと、この速度に対応するための最低限の実力が伴わない相手にとって、俺の進撃を止めることはそもそも不可能。

「どうなってんだオイ!? 誰かこいつを何とかしろ!」

「お、おいガキ、止まれ! この女がどうなってもいいのか!?」

と、そこで俺の背後からそんな声が聞こえ、振り返って見ると拘束されたティアの首に鈍く輝くナイフが押し当てられている。手段としてはありがちだが……

「おいおい、それはやり過ぎだろ?」

「何言ってやがる! 今更そんな――」

「違う、お前じゃない」

勘違いした男の声を否定し、俺は苦笑しながら俯いている相棒に目を向ける。モゴモゴと動く口元から察せられる詠唱は、些か以上に強力なものだ。

「――顕現せよ、『ヴォルテクスオーラ』!」

瞬間、ティアの周囲に巨大な竜巻が出現し、ティアにナイフを突きつけていた男をあっさりと吹き飛ばす。一秒にも満たない短時間とはいえ、突然現れたそれに甲板の男達は騒然となり、それを見たティアは得意げに笑う。

「フフーン。どう? 悪いけど、私は守られるだけの女じゃないのよ?」

「良かった、ちゃんと加減したんだな。本気だされて船を真っ二つにされたらどうしようかと思ったぜ」

「そんなことするわけないでしょ!? エドは私を何だと思ってるのよ!?」

「そりゃお前、俺が待てって言ったのに話を聞かねーで魔法をぶっ放したお転婆お嬢様ですが?」

「ぐっ!? それはだから……悪かったわよ」

ニヤリと笑って言う俺に、ティアが耳をピコピコ動かしながらそっぽを向く。とは言えあんまり虐めるのは可哀想なので、俺は改めて船長の方に向き直ると、貴族のように綺麗な一礼をしてみせる。

「どうでしょう? 船長殿のお眼鏡に適いましたかな?」

「フッ、ハッハッハ! なるほどなるほど、そんだけ強けりゃ確かに厄介事込みでも使い道はありそうだね。いいだろう。

お前等、良く聞きな! 今日からこの二人はお前等の仲間、新入りだ! 文句のある奴は名乗り出な!」

高らかに宣言する船長の言葉に、表立って異論を唱える物は誰もいない。仮にいたとしても床に転がる人数が増えるだけなので当然だが。

「よしよし。じゃあ改めて名乗ろう。アタシはこの船の船長でレベッカだ。 海賊船(・・・) スカーレット号に、お前達を歓迎しよう」

「ありがとうございます、船長」

「ありが……えっ、海賊船!?」

差し出されたレベッカの手を俺がガッチリと掴むなか、素っ頓狂なティアの声が広い青空に染み渡っていった。