軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

積み上がる金貨ばかりが報酬になるとは限らない

通り過ぎたり迷ったりしながら、乗合馬車と徒歩を組み合わせて移動すること、おおよそ二週間。俺達は漸く小高い山林の麓にある、小さな農村に辿り着くことができた。簡単な木の柵で囲われただけの村に近づいていくと、大分くたびれた装備に身を包む中年の男が誰何してくる。

「ん? 誰だお前達は?」

「俺達はアントラの町から来た 開拓者(ピオニー) です。実はこの辺の森に、珍しい薬草が生えていると――」

「ぴおにぃ? 何だそりゃ?」

名乗った俺に、しかし門番っぽい男が訝しげな視線を向けてくる。そっちに引っかかられるのはちょっとだけ予想外ではあるが、想定を超えるものではない。

「あー……知らないですかね? 半年前までは『 月銀の剣団(ルナリオン) 』って名乗ってたんですけど」

「そっちは知ってるさ! じゃあ何でそんな変な名前を言うんだよ!?」

「いや、その……ほら、魔王が倒されて半年経って、 夜人形(ナイトウォーカー) が随分と減ったでしょう? もう奴らと戦って倒すのがメインの仕事じゃなくなったってことで、名前が変わったんですよ。本当に何も知らないですか?」

「…………言われてみれば、そんなことを聞いたような気がしなくもねぇな」

曖昧な笑みを浮かべて言う俺に、門番の男がばつが悪そうに顔を逸らす。小さな村でも行商人くらいは来るだろうから情報は伝わってるはずだが、それをきっちり覚えているかと言われれば話は別なんだろう。特に組織の名前なんて、一般人からすりゃどうでもいいだろうしな。

「えっとですね、それで――」

「まあいいや! そういうことならここをまっすぐ進んで一番でかい家が村長の家だから、話があるならそこでしてくれ! ということで、通ってヨシ!」

「あ、はい。どうも……」

あっさりと通されて、俺達は村の中に入る。そうしてあぜ道を歩く俺の隣から、ティアがそっと話しかけてくる。

「何か、予想と違ったわね」

「だな。まさか組織の名前の方しか突っ込まれねーとは思わなかったぜ」

この世界における冒険者的な立ち位置にあった、「 月銀の剣団(ルナリオン) 」という集団。魔王の眷属から人々を守るその組織は、元凶たる魔王が打ち倒されたことでその役目を終え、その在り方を変えることを余儀なくされた。

そうして新たに作られたのが、ここに来るまでに俺達が登録した「 開拓者(ピオニー) 組合」と呼ばれる組織だ。一周目の時には存在しなかったものなので詳しく聞いてみたが、仕事内容としては雑用の向きが強い冒険者という感じだった。

今後 夜人形(ナイトウォーカー) が減った代わりに強い獣や魔獣が出現するようになれば他の世界と同じようになるのかも知れないが……まあそれは当分先の話だろう。

少なくとも俺達にとっては、組織の改編期ということで新規登録であることが目立たない現状は好ましい。ただ前身となる「 月銀の剣団(ルナリオン) 」の印象があまりにも強すぎるせいか、新組織の名はまだまだ定着してないようだが。

「せっかくエドに言われて、色々な話を考えてたのに」

「ははは、心配しなくても無駄にはならないと思うぜ? 流石に村長さんにはもっと詳しく聞かれるだろうしな」

俺達が途中の町で「 開拓者(ピオニー) 」として登録したのは真実だが、珍しい薬草の方は当然ながらでっち上げだ。せっかく考えた話を披露しそこねたティアが軽く頬を膨らませるので、俺は冗談めかして肩をすくめておく。

そんな話をしつつ言われた通りに歩いていけば、すぐに二階建ての大きな家の前に辿り着いた。周りは全部平屋なので、間違いなくここが村長の家だろう。

「こんにちはー! 村長様はご在宅でしょうか?」

「はいはい、どちら様ですか?」

外からそう声をかければ、三〇代前半くらいの優しそうな女性が扉を開いて現れる。彼女に俺達がやってきた理由を伝えると、すぐに中に通された。その後はおそらく村の集会場としても使っているであろう大きめの部屋で待っていると、程なくして先程の女性よりまあまあ年上の、四〇代くらいの男性がやってきた。

「どうもお待たせしました。私がこの村の村長で、ロハスと言います」

「どうも初めまして。俺はアントラの町からやってきた 開拓者(ピオニー) で、エドと言います。こっちは俺の仲間で……」

「初めまして村長さん。私はルナリーティアです、よろしくお願いします」

「エドさんに、ルナリーティアさんですね。こちらこそ、よろしくお願いします」

挨拶をして頭を下げる俺達に、村長のロハスも頭を下げて返礼してくれる。この手の小さな村では余所者に冷たい態度を取る人も多いんだが、どうやらここはそういう感じじゃないらしい。これは僥倖だ。

「それで、こんな何もない村に、一体どんなご用で?」

「実は――」

ここで漸く、俺は用意していた嘘話を切り出した。するとそれを聞いたロハスが、何とも難しい顔で腕組みをして唸り始める。

「むむむ、そんなことが……私もこの村の生まれですけど、そんな話は誰からも聞いたことはないんですが……」

「確かに、人間が見つけるのは困難でしょう。でもほら、私はエルフですので」

「そう、ですね。確かにこの村にエルフの方が訪れたことなどありませんから、そう言われれば……」

「それに、こういう言い方はあまりしたくないのですが、薬草があるのはこの村の近くの森の中であって、村の敷地内ではありません。そこでそちらが見つけられなかったものを我々が勝手に見つけるだけですので、咎められる謂れもありません」

「む…………」

横から口を挟んだ俺の物言いに、ロハスがしかめっ面になる。それが真っ当な理屈で、自分達が損をするわけではないとわかっていても、「自分達の手の届くところにあるらしい金目の物を持っていかれる」のはどうしても面白くないのだろう。

まあ、それは当然の心理だ。人間ってのは綺麗な感情だけで動いてるわけじゃねーからな。だがそれをこっちがちゃんと理解していれば、上手く対処する方法は幾つもある。例えば……

「ですが、我々としても薬草がいつ見つかるか、そもそも本当にあるのかを確かめなければなりませんから、ある程度の期間この村に滞在を……宿がないということなら、村の敷地内の隅にでも天幕を張る許可をいただいたり、少量の食料を売っていただいたりはしたいのです。

で、どうでしょう? その代わりと言ってはなんですが、こちらの村で困りごとがあれば、俺やティアが格安でお力をお貸しします」

そう言って、俺はニヤリと笑う。そう、金目の物をただ持っていかれるのが気に入らないというのなら、持っていく俺達がこの村に金を落としてやればいいのだ。

と言っても、こんな小さな村に大金を使えるような場所があるはずもないし、かといって俺達に直接金を渡されても困るはずだ。使い道のない大金というのは管理に手間がかかるし、妬みや恨み、疑心暗鬼を生む災厄にすらなり得るからな。

だからこそ、俺は別の手段を選んだ。無償に近いような格安で俺達の技術を提供することで、間接的に金を払うという方法だ。そんな俺の提案に、ロハスの眉がピクリと動く。

「お二人が、ですか?」

「ええ。俺は鍛冶が出来ますし、ティアも精霊魔法で色々とお役に立てるかと思います。報酬の方も先程の許可や食材費、あとはちょっとした小銭くらいでお受けしますよ?」

人口一〇〇人にも満たない小さな村であれば鍛冶の仕事は幾つもあるだろうし、農村であればティアの精霊魔法も色々と活用法がある。これなら村人達が必要とすることを直接頼めるので、ロハスとしても利益の分配に頭を悩ませる必要がない。

それに人というのは、顔を見て話せば安心する。得体の知れない余所者が村の側をうろつくのではなく、自分達を手伝ってくれる若者が御用聞きをしているのだと言うことになれば、村人の反応も全く違うだろう。

即ち、互いに利益しかない提案。ならばこそロハスはほんのわずかに考え込んだだけで、その顔を上げて俺に向かって手を伸ばしてきた。

「わかりました。そういうことでしたら、よろしくお願いします」

「ありがとうございます。こちらこそよろしく」

「よろしくね、村長さん」

俺がその手をガッチリと握り返し、ティアが笑顔でそう告げる。こうして俺達は、ひとまずこの平和な村に入り込むことに成功した。