軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

運命を動かすのは、いつだって小さな気づきである

「もう一つの同じ世界に、移住させる……っ!?」

それは俺からすると、完全に埒外の発想だった。確かにそれなら、全く異なる世界への道を繋げることや、時の因果を遡った過去に存在を送り込むことに比べれば、格段に必要な力は減るだろう。

なにせ、移動する必要がないのだ。かつて神の欠片に同調した時に見た光景が正しいのであれば、重なり合って境目が曖昧になっている壁にちょいと穴を開けてやるだけで、そっちに移動できるはずなのだから。

「いや、でも、そんなこと……」

「できない?」

「む…………」

問うてくるティアに、俺は黙って考え込む。他の手段に比べればグッと……それこそ比較にならないくらい難易度が下がっているとは思うが、かといってそう簡単に「世界の壁」なんてものが破れるはずがない。

とにもかくにも最初に立ちはだかるのは、当然ながらそれを実行する力をどうやって確保するのかという問題だ。終わる寸前のこの世界のなかでは、何をどう絞ってもそんな莫大な力を捻出することなんて――

「……いや? 待てよ?」

その時ふと、俺の頭の中にヌオーの言葉がよぎった。俺が世界を終わらせることで、世界の力を丸ごと取り込むというものだ。

確かにこの世界は終わりかけている。が、まだ終わってはいない。小さくしぼんだ残りかすのような世界であっても、世界そのものを力に変えて使い捨てるつもりなら、重なり曖昧となった世界の壁に、たかだか数百人を通す程度の小さな穴を穿つくらいはできるんじゃないだろうか?

「俺がやれば……いやいや、冷静になれ。問題はそれだけじゃないだろ」

この世界の最後の住人である妖精達と魔王を助けるためであるなら、終わりかけの世界に俺がこの手で終焉をもたらすというのも選択としてはありだろう。引っ越し費用を捻出するために古い家をぶっ壊して金にする、みたいなものだしな。

だが、問題はそれだけじゃない。たとえそうやって力が得られるのだとしても、今度はそれを振るう俺の体が保たない。あの時の「銀翼の剣」のような強力な因果で結ばれた媒体がなければ、単なる人間の体ではそんな力に耐えきれないのだ。

「俺と魔王は無理だ。かといって妖精達は……」

俺や魔王は世界に遍在しないので、もう一つの第〇二四世界とは何の因果も結ばれていない。かといって移住させる妖精達を媒体として酷使するのは本末転倒だ。どちらかと言えば脆弱である妖精の体にそんな力を通したら、俺も妖精達も全部纏めてはじけ飛ぶ未来しか見えない。

「なら俺の体の耐久力をあげる? 事前に追放してもらったうえで、制限時間ギリギリに『 終わる血霧の契約書(ブラッドエンジン) 』を使ってやれば……流石に博打が過ぎるな」

完全に死にさえしなければ、「白い世界」に戻った時点であらゆる傷は回復する。その特性を利用すれば相当な無茶も効くはずだが……それでも たかが(・・・) 一〇〇倍でどうにかなるかは甚だ疑問だ。

人の領分を大きく超えた力を使うのだから、そこは人の何倍とかではなく、人を超越した存在とならなければ確実とは言えない。それこそ人を超えた人とか、人の一つ上の存在とか……

「おぉぅ……?」

つい最近聞いたばかりな気のする単語が、無造作に俺の思考を横切っていく。俺の力の欠片から脱却し、自分という存在になることを望んだ魔王ハイド。奴曰く人の一つ上の存在へと至るに必要な条件は、魔王の力、勇者の力、そして最後は……神の力。

「…………やべぇ、全部あるぞ?」

魔王の力は当然俺が持っている。で、勇者と神の力を宿した妖精は、その辺を飛んでいる。それを回収することができれば……あれ、いける? あいつが全てを費やして目指していた目標が、こんなあっさり達成できちまうのか?

「……………………」

「エド? そろそろ話しかけても平気?」

「あ、ああ。悪い。ちょっと考え込んじまって……」

「別にいいわよ。で、どう? 私の考えは実現できそうなのかしら?」

「できる……かも、知れない」

それまでのアイディアと違って、ティアの「もう一つのこの世界に移住する」という考えには、実行に必要不可欠な条件が現状でほぼ全て揃っている。

勿論、俺が終わらせた世界の力を利用するにはどうすればいいのかとか、そもそも勇者や神の力をどう扱えばいいのかなど、わからないことはまだまだ沢山あるが……それでもおそらく、これは実現可能な策なのだ。

それでもなお、気になることが一つあるとすれば――

「なあティア。俺が人間を辞めたら、ティアはどうする?」

「ほぇ? 人間を辞めるって……辞めるとどうなるの?」

「どう? あー…………どう?」

魔王ハイドは「一つ上の存在」という漠然とした表現しかしていなかったので、具体的にどんな感じになるのかはわからない。一つ上……一つ上って何だ?

「肉体がなくなる? いやでも、ヌオーくらい上位の存在でも体はあったよな? となると、体がでかくなるとか丈夫になるとか……あとは寿命がなくなる?」

「ふーん。それってエドが元の魔王の体に戻るってこと?」

「へ!? 言われてみれば、そんな感じに近い、のか?」

確かに、本来の俺……終焉の魔王エンドロールに寿命なんてものはない。魂が永遠ならば肉体なんてのは飾りみたいなもので、やられたところで再生するし加齢で劣化したりもしない。何なら消滅したとしても、すぐに新しいものを作り直すことだってできるだろう。

そしてそれは、外見程度どうにでもなるということだ。魔王時代はもっと大きくてゴツい体つきをしていたような記憶が薄ぼんやりとあるが、当時の力があるのであれば、この脆弱な人間の器を再現することも、見た目だけこの状態にして魔王の体とすることもできる。その辺は俺が自分をどう定義、認識するかだからな。であれば……

「……多分、見た目とかは何も変わらねーと思う」

「なら中身は?」

「それも変わんねーだろうな。あくまでも俺は俺だ」

俺が本当に普通の人間であれば、大きな力に干渉されて性格が変わってしまうこともあるかも知れない。が、終焉の魔王である俺の魂が、「人間の一つ上」程度の力を得たくらいで変化するとは思えない。

「なら何も問題ないじゃない。っていうか、これすっごく前にも言ったことあると思うけど、世界を移動する度に若返ってる私達って、そもそも最初から普通の人間とはほど遠い存在でしょ?」

「…………そう言えばそんなこと話したことあったな」

あれは確か、俺が魔王だと思い出した直後のことだっただろうか? 二人きりの「白い世界」で、確かにティアとそんな話をした記憶がある。

ということは、あれか? 人間モドキだった俺が、力を得て一つ上の存在……回収率一割で魔王には戻れねーだろうから、魔王モドキか? になったとして、それほど大きな違いはない……のか?

「それに……これも何度も言ったわよ? エドの心がエドのままなら、私はずっと一緒にいるって。だから変な心配なんてしないで、エドはエドのやりたいようにやればいいわ」

「ティア……」

毛布にくるまったまま、芋虫のようにずり寄ってきたティアが、鼻の触れそうな距離に顔を近づけてニッコリ笑う。

「それで? 私のアイディアを実現させるために、どんな無茶なことを思いついたの? 今は時間があるんだから、ちゃんと説明してくれなきゃ駄目よ? 危ないことをしないといけないなら、ちゃんと二人でやりたいもの」

「そう、だな。ああ、今回の思いつきはとびっきり危ないぜ? 何せ俺の手でこの世界を終わらせないといけないからな」

「ええっ!? エドがそんな魔王っぽいことを言うなんて……これは成長したわねって喜ぶべき? それとも『人の心をなくさないで!』って泣いて縋るところかしら?」

「お前なぁ……いや、間違ってもいねーのか?」

生憎と知り合いの魔王に「ちょっと世界を滅ぼそうと思うんだけど」と相談された経験はないので、正解はわからない。が、少なくともティアは俺の目の前で楽しげな笑みを浮かべている。

「ほらほら、それで? 何でそんなことをする必要があるの?」

「ああ、それはな――」

そんなティアに、俺は頭の中でこねくり回した内容を説明していく。こうして俺達は、人知れず世界を滅亡させる計画を夜遅くまで話し合うのだった。