軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

笑顔で選べる失敗には、成功よりも価値がある

「うわぁぁん! エドさーん!」

「うおっ!?」

ということで、ティアの精霊魔法の力まで借りてこっそり宿まで戻った俺を出迎えたのは、泣き顔の勇者様であった。

「何だよジンク、どうしたんだ?」

「どうしたじゃないですよ! 何かスゲー疲れたと思ったら宿にいるし、ドーマとケインも一緒にいるし! 何ですか光の巨人って! 説明とか言われても、俺だって何もわからないですよ!」

「あー、そうか……うんうん、悪かったな」

興奮してまくし立て来るジンクに、俺は苦笑を浮かべてその頭を撫でる。確かにあの流れだとジンクも色々知ってそうに思えるだろうが、実際には必要最低限のことしか話してねーからなぁ……特に自分が気絶した後のことなんて説明できるはずもない。

そしてそんな俺の前には、圧を感じさせる目で俺を見つめるドーマとケインの姿がある。

「なあ、説明してくれよエドさん! 何が何だか全然わかんねーよ!」

「そうですよ! 途中から何も聞こえなくなっちゃいましたし、ハイド君が……そうだ、ハイド君はどうなったんですか!?」

「わかったわかった。じゃあ説明してやる。いいか、あれは…………」

「あれは…………?」

「全部夢だ!」

断言する俺の前で、ドーマ達が思いっきりずっこける。とは言えすぐに体勢を立て直し、次の言葉を待つように沈黙するが……俺から言うべきことはこれで終わりだ。

「…………え? マジで!? いや、それは流石に俺達を馬鹿にしすぎじゃね?」

「いくら何でも、それで納得はできないですよ! もっとちゃんと教えてください!」

「……そうか。ならこれは忠告だ。世の中には知らない方がいいことが割とある。お前達にとって、さっきの出来事は間違いなくそれだ。『全部夢だった』で済ませるのが最も穏便な手段なんだが……それでも知りたいか?」

ならばこそ、俺は真剣な表情でそう告げる。知らない、わからないというのは確かに不安だろうが、それは同時に何の責任も背負わないということだ。少なくとも大した実力もない一五、六の駆け出し冒険者が不安を解消するためだけに背負うには、この秘密はあまりにも重すぎる。

その意図は、きちんとドーマ達に伝わったようだ。彼らもまた真剣に悩み……おずおずとケインが尋ねてくる。

「あの、その 夢の話(・・・) って、ジンク君は知ってるんですか?」

「ん? そうだな。全部じゃねーけど、知ってることはある。全部秘密にしてたら、ここに連れてくることすらできなかったからな」

「……なら、僕達も知りたいです」

「いいのか?」

念を押す俺に、ドーマとケインが力強く頷く。

「いいさ! ジンクが知らねーって言うなら、俺達もそれでいいかとも思ったけど……でも知ってるっていうなら、俺達が知らねーのは駄目だろ」

「だよね。巻き込まれるのも誤魔化すのも、全員一緒がいいよ」

「ドーマ、ケイン……っ! エドさん。エドさんが俺達に気を使ってくれてるのはわかってますけど、でも……っ!」

仲間の言葉に、ジンクもまた覚悟を決めた目を向けてくる。そんな顔をされちまったら、もう答えは一つしかない。

「わかった。じゃあティア、頼む」

「はーい、結界を張るわね」

俺の頼みに、ティアがさっきと同じ風の結界を室内に張ってくれた。これでよほど注視している相手でもいなければ、中の会話が漏れ聞こえることはない。大丈夫だとは思うが、こういうのは念を押しておいて間違いはねーからな。

「さて、じゃあお前達の望み通り、夢の出来事を話してやる。が、忘れるな? 何度も言ってるが、これはあくまでも夢の話だ。おそらく誰かに話しても与太話として流されるだろうが……万が一それを 真に受ける(・・・・・) 奴がいたとしたら、お前達全員揃って、 夢の世界にお引っ越し(・・・・・・・・・・) だ。

知ることに対する責任を負う覚悟を決めろ。本当にいいんだな?」

最後の確認に、ジンク達三人が互いの顔を見合わせてから、黙って頷く。それを見た俺は、細心の注意を払って入念に結界を維持し続けてくれているティアをそのままに、ここまでに起きたことを話していった。

魔王の治める国の一つ、妖魔国へと出向いたこと。そこの女王に 四人目(・・・) の魔王の討伐交渉を持ちかけたこと。その際にドーマ達のすぐ側に魔王がいてビックリしたこと。焦った俺達が妖魔国の女王に頼んでここまで跳ばしてもらったこと。そして何より……ドーマ達が仲間だと思っていた、ハイドが魔王であったことを。

「そんな、ハイド君が魔王!? いや、でも、あの光の巨人は……」

「何でだよ!? 俺達普通に上手くやってたじゃん! なのに、どうして……」

「各自思うことはあるんだろうが、それに関しては俺は何も言えん。俺はあくまで客観的な事実……じゃない、夢の話を伝えただけだ。それをどう受け止めるかは、お前達自身の問題だ」

一見突き放すような言葉だが、現実問題としてそれ以上に言い様がない。途中でドーマ達からも聞いた話によると、どうやら魔王ハイドは二ヶ月もの間、ドーマ達の仲間として活動していたようだ。

そこでどんなやりとりがあって、ドーマ達とハイドにどんな関係が生まれていたのか? 俺とハイドの関係をこいつらが知らないように、ハイドとドーマ達の関係もまたこいつらだけのものなのだから。

「んじゃ、話はこれで終わりだ。で、どうするジンク? もう一回旅立つにしても、少しここで休憩してくか?」

「……それなんですけど」

問う俺に、しかしジンクがこれまでにない困り顔で俺の方を見てくる。言いづらそうに何度も顔を逸らしたり下を向いたりして……しかし最後にドーマ達の方を見てから、意を決したようにその口を開く。

「俺、旅をやめようと思うんです」

「「えっ!?」」

驚きの声をあげたのは、ドーマとケイン。だが俺は慌てることなく、ジンクの目を見て話しかける。

「ふむ、何でだ?」

「あの、その! エドさんには散々お世話になって、悪いと思うんですけど! でも、やっぱり俺……」

「落ち着け、別に責めてない。だからもう一回聞くぞ? 何で旅を辞めようと思ったんだ?」

「…………ドーマ達が、危なかったから」

「おいジンク、それはどういう――」

「シッ。今は静かに話を聞きましょう?」

口を挟もうとしたドーマを、ティアがそっと押しとどめる。俺はそっちにチラリと視線を向けてから、続くジンクの言葉を待つ。

「さっきのことで、思ったんです。ああ、そうか。俺が旅に出ている間に、ドーマ達が危ない目に遭ったり……それこそ死んじゃったりすることだってあるんだって。はは、馬鹿ですよね。そんなの当たり前で、わかりきってたことなのに……

でも、それに気づいちゃったら、もう駄目なんです。俺は……俺はこいつらと一緒にいたい」

「ほぅ? つまり強くなって誰もが知るような英雄になる夢は諦めると?」

「それは……っ! 諦めたくはないですけど、でも俺は……どちらかしか選べないなら、それでいいです。英雄になることより、こいつらの仲間であることの方が、俺にはずっと大事なんだ! だから……もう旅には行けません! 俺は……ここでドーマやケインと一緒に強くなります!」

「…………そうか」

決意の籠もった眼差しに、俺は心からの笑みを浮かべてその肩を叩く。するとジンクが戸惑った表情を浮かべたので、俺は笑いながらその答えを伝える。

「エドさん?」

「いいかジンク。口さがない奴は、お前のことを『強くなる機会を逃した馬鹿』とか『旅から逃げ出した臆病者』なんて言うかも知れない。

だが、俺は違うと思う。お前は自分の栄達じゃなく、仲間と共に生きる未来を選んだんだ。それは世界を救う英雄と同じくらい価値のあるものだ。それをはっきり口にできたお前を、俺は心から祝福し、尊敬する」

「そんな……っ!? だって俺、自分で言い出したことなのに……ドーマ達に背中を押されて……なのにこんな……」

「はは、回り道しなきゃ見えないことだってあるさ。それに選んだ道を逸れたり引き返したりしちゃ駄目なんてことはない。旅に出て、少し強くなって、色んな経験をして……それで自分の本当の想いに気づけたなら、それでいいじゃねーか。

ほら、俺の方は問題ない。それより今回も、そいつらが待ってるぞ?」

ポンと背中を押してやれば、ジンクがドーマ達の方へと体を向ける。そこには複雑な表情を浮かべるドーマとケインの姿があり、その後ろではティアが慈愛に満ちた笑顔で少年達を見守っている。

「ドーマ、ケイン。俺……」

「馬鹿だなジンク! せっかく送り出してやったってのに、全部放りだして戻ってくるのかよ!?」

「ご、ごめん。次に戻ってくるときは、世界最強の剣士になるって約束したけど、でも、俺……っ」

「仕方ないなぁ、ジンク君は。ま、でもいいんじゃない? ジンク君が約束を守らないのはいつものことだし」

「へ!? いや、待てよケイン。俺そんなことないだろ!?」

「そうでもないよ? ほら、ジンク君が『これは絶対必要になるから!』って買った道具で、結局使わなかったの結構あるし。ジンク君が旅に出ちゃったから僕の部屋に置いてあるけど、あれ結構邪魔なんだよ?」

「それは……そういうこともあるかもだけど、でも約束を守らないのとは違わないか?」

「細けーことはいいんだよ! だから……あれだよ! どうでもいいから気にすんなってことだよ!」

「ドーマ……ケイン……い、いいのか?」

「だからいいも悪いもねーんだって! 二年かかる小便が二ヶ月になっただけの話だろ! つまんねーこといつまでも悩んでるんじゃねーよ!」

「ドーマ君、またそれ!? もうちょっと上手いたとえはないの?」

「う、うるせーな! ケインだって、何だよ今の! 俺でもどうかと思うくらいのこじつけだったじゃねーか!」

「そんなの仕方ないじゃない! 僕だってそんなすぐに気の利いたことは思い浮かばないよ!」

「なら俺と同じじゃねーか!」

「おいドーマ、ケイン! そんなことで喧嘩――っ!?」

言い争いを始めた二人に、ジンクが仲裁の声をかけようとする。するとニヤリと笑った二人が、ジンクに向かって手を伸ばす。

「おら、ジンク! 戻ってきたんなら、やることあるだろ?」

「フフッ、おかえりジンク君!」

「…………ああ! ただいま!」

左手でケインの、右手でドーマの手を掴み、目から涙を溢れさせたジンクが言う。こうして勇者ジンクの短い英雄譚は、今回もあっさり幕を下ろすのだった。