軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悩んでも答えが出ないなら、悩まないのも手ではある

「う、あ…………何だ……!?」

クラクラする頭を押さえながら、俺は何とか身を起こす……そう、身を起こした。ってことは、倒れてたってことか? 暗い、何が……いや、それより!

「ティア! ギンタ! いるか!?」

「あいたたたた……私は平気よ」

「オレも平気だギョ……一体何が起きたギョ……?」

必死に叫んだ声にはすぐ側から返答があって、俺はホッと胸を撫で下ろしつつ次は周囲を確認する。ここは船の操舵室。非常用の照明が照らす船内には目立った破損はなく、浸水などの心配は……いや、それは最初から必要ないだろ。くそっ、まだ少し動揺が残ってるか……

「何だか周りが真っ暗だギョー。いつの間に夜になったんだギョ?」

「いつの間にか気絶しちゃうなんて……どういうこと? 攻撃を受けたって感じじゃなさそうだけど」

「わからん……なんで、ひとまず状況を整理してみよう」

部屋の中央、照明の下に身を寄せ合って声を掛け合う。さしあたって危険が迫っているという感じでもないので、ここは現状の把握を優先したい。

「まずは、あれだ。二つ目の鍵を手に入れたけど、ギンタの成人の儀があるからってことで、トゥーライに向けて船を出した……んだよな? 流石にこれが食い違ってるとかなりヤバいと思うんだが」

「大丈夫、私も同じよ。普通に船に乗って、ギンタが船を動かし初めて……多分二時間くらい? 私の記憶だとちょっと水が赤くなってきてる感じだったから、そのくらいよね?」

「多分そうだギョ。そうしたら突然船がガクンと揺れて、あと全身が締め付けられるような感じで苦しくなって……」

「全員が気絶。で、気づいたらこの状況ってわけか」

どうやら各自に記憶の食い違いはないらしい。が、それは同時に情報が何も増えていないということでもある。特に全員が一斉に気絶していたというのが痛い。俺が防げなかったなら、攻撃ではないとは思うが……

「うーん、わからん! ならとりあえずわかるところから調べていくか」

言って、俺は現在地を知るべく「 旅の足跡(オートマッピング) 」を起動しようとする。仮に俺達が気絶している間に船が流されていたとしても「 旅の足跡(オートマッピング) 」は発動しているはずなので、こいつを見ればおおよその現在地はすぐにわかるはずだが……あれ?

「表示されない? なら、現れろ、『 失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス) 』!」

何故か発動しない「 旅の足跡(オートマッピング) 」に首を傾げつつ、俺は今度は「 失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス) 」を起動してみる。だがやはり俺の手の上には何も現れない。ならばと「 不落の城壁(インビンシブル) 」や「 半人前の贋作師(コピーアンドフェイク) 」、果ては「 火事場の超越者(リミットブレイク) 」すら使ってみたが、どの能力も発動する気配すらない。

「さっきから何やってるギョ?」

「エド? まさか……!?」

「ああ。どうやらここでは俺の力は使えないらしい」

不思議そうに首を傾げるギンタはともかく、察したティアの驚きの言葉に、俺はこれ以上無い程に苦い表情で答える。

追放スキル(まおうのちから) が発動しない。これは極めて由々しき事態だ。本来ならそうなった原因から探らなければならないところだが、幸か不幸か俺はこの世界において「魔王の力が上手く働かない」場所に一つだけ心当たりがある。

「ここが、魔王の封印されてる場所……?」

「ギョ? 何でエドの魔導具が使えないと魔王が封印されてることになるんだギョ?」

「いや、それは……まあいいだろ。それよりちょっと外を調べてみようぜ」

もしここに魔王がいるというのなら、俺にとっては千載一遇の機会。そう提案する俺に、ギンタが軽く顔をしかめて言う。

「こんなに暗いのに、外に出たら危ないギョ?」

「それは私が照明の魔法を使うから平気よ。ということで、私も一緒に行くわね」

「ああ、頼む。ギンタはどうする? 危ないと思うなら、ここで待ってても――」

「馬鹿なことを言ったら駄目だギョ! 当然俺も一緒に行くギョ! こんなところで一人にされるなんて、物語なら絶対最初に死ぬ役目だギョ!」

「おぉぅ、そうか。ならみんなで一緒に行くか」

勢い込むギンタに、俺は苦笑して肩を叩く。確かにこんな訳の分からない場所で一人取り残されるのは嫌だろうしな。

ということで三人揃って船を下りると、徐にティアが精霊魔法の詠唱を始めた。

「光を集めて照らすのは 黄(おう) を讃える満月の玉、鈍の光を宿して象る一対二眼の精霊の瞳! 輝き瞬き暗きを砕け! ルナリーティアの名の下に、顕現せよ『フェアリーライト』!」

唱え終わったティアの手から、ふわりと光の球が浮き上がる。そうして照らし出されたのは……しかし底なしの闇だけだ。

「……お願い、もう少し強く光って」

不安げなティアの呼びかけに、光の球の光量があがる。その結果俺達の影は長く伸びたが、やはり世界には闇しかない。つまりかなりの広範囲にわたって、この周囲には光が浮かび上がらせる対象が何も無いということだ。

「こんなに明るいのに、真っ暗なままだギョ……」

「だな。なあギンタ、一応確認なんだが、俺達の船が走ってた場所に、こんな開けた場所は……」

「あるわけないギョ」

「だよなぁ」

足下に視線を落としても、そこには石ころ一つ転がっていない黒い床が光の照り返しで白く輝いているのみ。そもそもこの時点で通常の地面とは全く異なるものなのだから、ここがまともな世界の片隅じゃないのは明白だ。

「どうするのエド? 下手に歩いたらここに戻ってくるのも難しそうだけど……」

「そう、だな……おぉぉ!?」

どうしようかと考える俺の腰から、不意に小さな振動を感じた。慌てて手を突っ込んで確認してみると、震えていたのは黒い鍵。

「? 何かブルブルしてるギョ?」

そしてそれはギンタも同じだったらしい。ギンタもまた腰の鞄から手に入れたばかりの白い鍵を取り出すと、二本の鍵からそれぞれ光の筋が伸びていく。

「ギョォォォォォ!? これは一体どういうことだギョッ!?」

「光の道……これってどう考えても誘われてるわよね?」

「だな。でもまあ、これに乗らないって手はねーだろ」

黒鍵からは輝く黒が、白鍵からは眩い白が線のように伸び、その間が道となって暗い世界に刻まれる。試しに手にした鍵を色々と動かしてみたが線の指し示す方向は変わらなかったため、万が一横道に逸れたとしても、これなら迷うことはなさそうだ。

「ならまあ、ご招待にあずかりますか。ってかこうなると、俺達がこの変な場所に飛ばされたのも、この鍵を集めたからなのか?」

「可能性としては高そうだけど、その割には反応が鈍くない? 普通そういうのって手に入ったらすぐじゃない?」

「それは俺も思うけど、でもこの反応だぜ?」

「むぅ、そうよね……」

鍵を集めたことがきっかけだというのなら、俺達が跳ばされるのはギンタが鍵を手に入れた瞬間でなければならない。それが数時間遅れるというのは確かに微妙な線ではあるが、かといって今鍵が反応しているのも事実。

「ギョォォ、エド達はいっつも難しいことばっかり考えてるギョね。そのくらいなら誤差だギョ。おおらかな気持ちで受け入れた方がいいギョ」

「誤差!? えぇ、それは考えとして、あり……なのか?」

「考えたってわからないから、別にどっちでもいいギョ! それより成人の儀の前に扉の場所にまで辿り着けたことの方が重要なんだギョ! これで友達に自慢しまくれるんだギョーッ!」

「……ギンタ、お前本当に凄いな」

そのぶれず動じない生き様に、俺は割と本気で感嘆の声を出す。「細かいことはいいんだよ!」の精神をそこまで拡大できるなら、人生における苦悩を七割くらい削減できる気がする。

「今ひょっとして、さりげなく馬鹿にされたギョ?」

「んなことねーって。なあティア?」

「え、私に振るの!? えーっと……うん、悩みが無いのはいいことだと思うわよ?」

「そうだギョ。悩みの半分は悩むための悩みだから、悩まないというのは人生を快適に過ごすとても賢く有効な手段なんだギョ!」

「……ど、どうしよう。凄く頭が悪そうなのに、凄く頭がよさそうにも聞こえるわ」

「ギンタお前、本当にスゲーなぁ」

物事の真理を言い表している気がそこはかとなくしなくもないギンタの発言に感心したりしつつ、俺達は光に誘導されるままに暗闇を歩いていく。そうして一〇分ほど歩いて辿り着いたのは、以前に見た白と黒の火の玉が追いかけ合うようなデザインの扉。まるでそれ自身が発光しているかのように闇の中にくっきりと浮かび上がる威容は、見間違えることなどできるはずもない。

もっとも、あの時とは決定的に違うことが一つある。ぴっちりと閉じていたはずの扉が――

何故か、ほんの少しだけ開いていた。