軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夢と浪漫は大事だが、それを現実に落とし込むのはもっと大事だ

「ぐぉぉ、いってぇ……何だってんだ?」

「大丈夫エド!? うわ、赤くなってるわよ、痛そう……」

「何で突然床が消えたギョ? 不思議なこともあるもんだギョー」

強かに打ち付けた額を擦る俺に、ティアは心配そうに声をかけてくれ、ギンタは突然開いた床の方を気にしている。この様子だと、どうやらあの声が聞こえたのは俺だけらしい。

ま、俺としてはその方が好都合だ。ティアは問題無いが、ギンタに魔王云々の説明をするのは色々と面倒だからな。にしても……

(魔王因子って何だ? 魔王じゃないと開けられない? ならこの遺跡は『 丘の人(エルタータン) 』じゃなくて、魔王が作ったのか? それとも『 丘の人(エルタータン) 』が魔王の力を利用していた……?)

たった一言なれど、そこから生み出される疑問は大量。だがたった一言であるが故に、そこから推測できることが妄想以上になることはない。ぬぅ、もっと情報が欲しいが……この遺跡を探索すれば何かわかるか?

「っていうかエド、空いた穴の中には何があるギョ? その位置にいたら何もわからないギョ!」

「お、おぅ。そうだな……あー、これか?」

蓋が消えた穴の深さはおおよそ一五センチほど。自分の体をどかして改めてそこを見ると、なかには二〇センチほどの黒い棒が入っていた。

「何それ? 剣? それにしては変な形だけど……」

「ふむ、こいつは鍵みたいだな」

五センチほどの柄に鍔のようなものが付き、その上には一五センチほどの刀身。そのどちらもが四角い棒だが、刀身の方はそこに不規則かつ無数に四角いへこみができている。さっきの声が『ゲートキーΩ』と言っていたから、きっとこれで開く扉があるんだろう。

「鍵!? 隠し金庫の中に隠されていた鍵で開く扉とか、もの凄いお宝が眠ってそうだギョ! 早く! 早くその扉を探すギョ!」

「わかったわかった。んじゃ探してみるか」

興奮するギンタを宥めつつ、俺は手にした鍵を腰の鞄に突っ込む。そうして遺跡の探索を再開したわけだが……

「ギョォォ、扉が見つからないギョ……」

行ける場所はあらかた行き尽くしたというのに、この鍵が使えそうな扉は影も形も見つからなかった。いくつかの遺物は発見できたので初仕事自体は成功と言ってもいいだろうが、不完全燃焼な感じは否めない。

「これだけ探してないってことは、違う遺跡にあるのかしら? エド?」

「ふむ、調べてみるか」

水が大分赤く染まってきたこともあり、これ以上の探査は現実的ではない。浪漫には欠けてしまうが、俺はやむなく「 失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス) 」を起動する。

「現れろ、『 失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス) 』。捜し物は、この鍵で開く扉の場所だ」

その問いかけに、金属枠の中に巨大な扉が映し出される。それが消えた後には普通に羅針が方向を指し示すが、こっそり「 旅の足跡(オートマッピング) 」と組み合わせても場所が特定できない。この遺跡の範囲内はほぼ記録し終えているので、つまり扉があるのはここでないというのが確定したわけだが、それよりも重大な気づきが一つある。

「ねえエド。今の扉、鍵穴っぽいのが二つなかった?」

「ああ、あったな。てことは、同じような鍵がもう一つあるのか」

白と黒が互いを追いかけ合うような不思議な形をした扉には、それぞれの部分に穴が一つずつ空いていた。というか、考えてみれば「ゲートキー」ではなく「ゲートキーΩ」という呼び方をしていた時点で、最低でももう一つ「ゲートキー」と呼ばれるものが存在しているのは予想できたことだ。

とは言え、それがあと一つなのは僥倖だ。三つも四つもとなると探すのが大変だからな。最悪ニコの世界の時のように「 不可知の鏡面(ミラージュシフト) 」で扉だけ抜けるという手もあるが、今回は鍵の在る遺跡そのものも調べたいので、それは本当に最後の手段である。

「となると……なあギンタ。これからのことなんだが……」

「勿論、もう一つの鍵を探すギョ! で、その変な模様の扉も開けて、中のお宝をゲットするんだギョッ!」

問う俺に、ギンタが勢い込んでそう叫ぶ。どうやらやる気は十分のようだが、だからといってそのまま頷くことはできない。

「いいのか? 別の鍵や扉が何処にあるのか……は方角だけならわかるけど、どのくらい遠くにあるのかはわかんねーんだぞ? それこそ何ヶ月とか、下手すりゃ何年もかかるかも……」

「うぐっ……な、何年は流石に困るギョ。成人の日には流石に家に帰りたいギョ。なら、無理のない範囲で探すのはどうだギョ? とりあえず普通に遺跡探査をしながらその方角を目指して、時間的にヤバそうだったら一旦トゥーライまで戻るとか……駄目かギョ?」

「いや、ギンタがそれでいいならいいぜ。俺達の方も別に急ぐわけでもねーし、何なら成人してちゃんとしたトレジャーハンターになってから、改めて探しに行くってのでもいいわけだからな」

「おお、それなら何の問題も無いギョ! ギョォォ、初めての遺跡探査でこんな大きな発見と目標を得られるなんて、これは本当に歴史に名前が残るかも知れないギョ……!?」

「ははは、だといいな」

扉の向こうに何があるのかにもよるが、それによっては本当にギンタの名が歴史に刻まれる可能性は十分にある。長いこと魔王が活動していないせいか完全に一般人の能力しか持ってないギンタだが、それでも勇者であることに変わりはない。きっかけさえあれば活躍できる素養は確かにあるのだ。

「なら長期目標はそれでいいとして、とりあえず今日のところはそろそろ船に戻って休むか」

「そうね。明日はまた別の遺跡に向かうの? それとも一旦町に戻る?」

「うーん、正直二、三日くらいかかると思ってた移動が、半日で終わってたからなぁ。これならもう一つくらい別の遺跡に行ってもいいと思うんだが、ギンタはどうだ?」

「そうギョね。食料はまだまだ大量にあるし、三日くらいで辿り着ける遺跡だったらもう一つ行くのもアリだと思うギョ」

「ならそうすっか。本当に、距離がわかればなぁ……」

「誰だってできないことくらいあるわよ。というか、方角がわかるだけでも相当よ?」

「そうだギョ。それにオレ達が世界を巡れば巡るほど、その魔導具でわかる範囲が広がるギョ? ならそれもまた楽しみの一つだギョ!」

「なるほど、そういう考え方もあるのか」

旅をすればするほど効果が上がる……それは短期間で世界を「追放」され続ける俺にはあまり馴染みのない観点だ。だがそう言われれば確かに世界を巡るのが今よりもっと楽しくなる。

たとえそれが他の世界に行けば意味のなくなるものだったとしても、記録と共に刻まれた記憶は、思い出として永遠に俺の中に残るのだから。

「フッフッフ、それなら世界を巡り尽くす勢いで旅でもしてやるか。なあギンタ、この世界の果てってどうなってるんだ? あとは『ここに行けたら凄い』みたいな場所とかは?」

「へ? 世界の果てなんて、俺にもわからないギョ。行けたら凄いのは……ああ、『底なしの谷』って言われる場所があるギョ。そのなかだけは昼でも暗くて、潜った人が誰も戻ってこないって話だギョ」

「へぇ? ならその谷の底に行ってみるのも楽しそうだな」

「ギョハッ!? 何言ってるギョ! そんなの全然楽しくないギョ!」

「何だよ、未知の場所を探索するってのは浪漫だろ? それにそんな場所になら、それこそスゲー遺物とかあるんじゃねーか?」

「浪漫はあるけど、死ぬのは嫌だギョ。オレはちゃんと現実を踏まえたうえで、安全かつ快適に浪漫の上澄みだけをかすめ取っていきたい派なんだギョ!」

「おぉぅ……ギンタ、お前以外と慎重だな?」

「当然だギョ。浪漫や憧れを現実と混同したら、あっという間に死んじゃうギョ。オレはあくまでも生きて伝説を残したいんだギョッ!」

「はいはい、いつまでも馬鹿な話をしてないで、いい加減船に戻りましょ? 暗くなったら大変よ?」

思わず話し込んだ俺達に、ティアがパンパンと手を叩いて割り込んでくる。そんなティア先生に引き連れられて特に何事も無く船へと帰り着いた俺達は、しっかりと夕食を済ませて寝袋に潜り込む。

こうして初めての本気の遺跡探査は、新たな目標を生み出しつつ成功裏に終わるのだった。