軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝利の価値は、相手に勝ちを認められることにこそある

「ティア、右下、三番目のやや大きめな瓦礫。こっちは押さえるから、対処してくれ」

「了解……いいわよ」

「よし」

何重にも張り巡らされたトラップを、俺達は慎重に回避、あるいは解除しながら進んでいく。水中という特性を最大限に生かした配置は地上に生きる俺達とは発想が違うため、常に周囲を広く警戒し続けなければならない。

「ふぅー、抜けたか……にしても、いくら何でも罠が多すぎねーか? これ初心者向けの訓練なんだよな?」

「そんなこと私に言われても……前の時はどうだったの?」

「………………」

思わず愚痴めいたものを零した俺に逆にティアが問い返してきて、俺は薄れかかっていた昔の記憶を掘り起こしていく。そこでは俺とギンタが二人揃っておっかなびっくり遺跡を探索している思い出があったが……

「いや、流石にこんな厳しいのはなかったな。まあこの訓練をやったことがあるわけじゃねーから、偶々だったのかも知れねーけど」

当時の弱っちい俺と、特に優秀というわけでもない未成年のトレジャーハンターであるギンタ。俺達が行けるような遺跡は当然既に何度も誰かが探索したような場所であり、本当に危険な罠なんてのはとっくに解除されてしまっている。

なので残っていたのは稀にあるどうでもいいような罠だけだったし、ひっかかる理由もついうっかり見落としたとか、そんなのだ。ここまで露骨に侵入者を阻むような大量の罠なんて、そもそも存在している場所を見たことすらなかった。

「なら、やっぱり訓練だから厳しめにしてるってことじゃないの?」

「……かもな。さて、これでこの部屋の罠は大体解除し終わったし、そろそろ探すか」

安全が担保されてる訓練だからこそ厳しくするというのは、確かに理に適っている。己の疑問に一定の納得を得たことで、俺達は部屋の瓦礫を丁寧に動かしながら、目的の遺物を探し始める。

が、一通り解除したとは言えまだ罠が残っている可能性はあるし、何より捜し物は手のひらに乗る程度の大きさの偽遺物。やろうと思えば大抵の瓦礫の隙間に押し込めるだろうから、二重の意味で油断はできない。

「せめて左手が使えりゃ、もう少し効率があがるんだが……」

「やっぱり治療扱いにしてもらった方がよかったんじゃない? 本物の罠だったと想定してもその余裕はあったし、それでもなお片腕が使えなくなるほどの負傷だったなら、私なら中に入らずに町まで引き返してたわよ?」

「はは、そりゃそうだと俺も思うんだが……まあ、そこは男の意地ってことで」

「ハァ、仕方ない人ね」

苦笑しながら言う俺に、ティアが呆れた声で答える。それこそ訓練だからではあるが、最初の最初でやられて終わり……というのは俺自身が納得できなかったのだ。ああ言いながらも付き合ってくれるティアに感謝しつつ瓦礫を動かし……っと、来たな?

「ティア」

「ええ」

俺の短い警告に、ティアがサッと瓦礫の影に身を潜める。勿論俺も近くの瓦礫に身を隠すと、通路の奥からゆらりとギンタが姿を現した。

「ギョーギョーギョー。襲っちゃうギョー。強くてこわーい魔獣だギョー!」

間抜けっぽい歌を口ずさみながら、ギンタが部屋を通り抜けていく。この際俺達の痕跡が気づかれてしまうとギンタは丹念に部屋を探し始めるのだが……どうやら今回は素通りしてくれるようだ。

「…………いったな。よしティア、俺達も次の部屋に移動しよう」

「わかったわ。私だってここまできて失敗にはなりたくないし、慎重にいきましょ」

その後も俺達は、適時罠の突破と解除を繰り返し、瓦礫を漁ってギンタから身を隠し続ける。そうして精神をすり減らしながら遺跡中を探し回ること、おおよそ三時間。

「あった!」

遺跡の片隅に置かれていた、しっかり形を残している棚のなか。そこにお目当ての偽遺物を見つけて、俺は思わず声をあげて拳を握りしめた。そうして漸く辿り着いた成功への欠片を手にした瞬間、再びギンタの声が背後から響いてくる。

『ギョッギョッギョッ。やーっと遺物を見つけたギョね。ならここからは……』

「まっすぐに追いかけるギョ!」

「チッ! ティア!」

「了解!」

姿を現したギンタに、俺とティアは即座に反対方向へと逃げる。交戦が禁止されている以上二人でまとまっていても的が大きくなるだけだからだ。

するとギンタは俺の方を追いかけてきたので、まっすぐ突っ込んでくるギンタを強く床を蹴って身をよじることで回避する。

「一応言っとくけど、窓から外に出るのは禁止ギョ! 狭い遺跡内部を入り口まで逃げ切るのが訓練なんだギョ!」

「わかってるよ!」

ギンタの動きは、鋭いとまでは言えずともそれなりの勢いがあり、何よりしなやかだ。生まれた時から水の中で生活しているだけあって、重力のくびきが緩いという水中の特性を当たり前のものとして理解し、利用してくる。

だが、俺の方はそうもいかない。咄嗟の判断にはどうしても「地上の常識」が頭をよぎるし、何より地上を生きる俺の体は、水中に適応したギンタの体よりどうしても動きが鈍くなる。それでも室内には壁、床、天井と足場が多いので何とか回避に成功し続けているが、それが何処まで続くかは……っ!?

「お、どうしたギョ? まさか諦めちゃったギョか?」

「……………………」

突然足を止めた俺に、ギンタがニヤリと笑みを浮かべて言う。だが俺はそれに答えず、ゆっくりと右手で腰に下げた剣の柄を握る。

「え、ちょっと待つギョ。武器を使うのは駄目だギョ!? それで斬られたりしたら、痛いじゃすまないギョ!?」

「ギンタ、そこを動くなよ」

「いやいやいやいや!? 何言ってるギョ!? これは単なる訓練だギョ! そんな、オレを怪我させてまで勝ちにこだわる場面じゃないギョ!?」

慌てたギンタが、顔の前で大げさに手を振って声をあげる。それでも俺は意に介さず、この後の動きをはっきりと思い浮かべていく。

――ここは水中。普通に剣を振っても勢いが殺されちまう。なら必要なのは強さではなく、滑らかさだ。水を切り裂くんじゃなく、水の隙間を通す感じで……

「え、え!? 本当にギョ!? ご、ごめんだギョ! まさかそこまでエドが怒るなんて思ってなかったギョ! ほ、ほら、土下座! 土下座とかしちゃうギョ!」

「…………頭を下げろ!」

「ギョヒィ!? オレが悪かったギョーッ!」

俺の叫びに合わせて、ギンタがその場で綺麗な土下座をする。ならばこそ俺は その奥(・・・) に向かって、流麗に腕を振るった。

「ギシャァァァァ!?」

「ギョォォォォ!? な、何だギョッ!?!?!?」

水は空気とは違う。地上で勢いよく腕を振っても起こるのはそよ風だけだが、水中で同じように腕を振るえば、その力は結構な距離を伝達される。ならば俺の水を通す刃は、ギンタの背後から迫ってきていた魔獣の体を真っ二つに切り裂いた。

まるで金槌のような形をした魚型の魔獣が、赤い血霧をまき散らしながら沈んでいく。それを目の当たりにしたギンタは、驚愕にぱっくりと口を開いた。

「ま、魔獣!? いつの間に来てたんだギョッ!?」

「なあギンタ、滅多に来ないってのは、絶対に来ないってわけじゃねーんだ。俺達の訓練に熱中し過ぎて、油断したな?」

「は、ははは……そうみたいだギョ…………」

剣を収めて話しかける俺に、尖った牙をガチガチとかみ合わせながらギンタが引きつった笑みを浮かべる。色々な感情が渦巻いているんだろうが、俺はそんなギンタにニヤリと笑って声をかける。

「で、どうする? ここから仕切り直して、まだ追いかけっこを続けるか?」

「そんなの決まってるギョ」

無造作に近づいてくるギンタに、俺は警戒すること無く立ち続ける。するとギンタは俺の手を取り、ニカッと歯を見せて笑った。

「助けてくれてありがとうギョ! この訓練は大成功……エドの勝ちだギョ!」

「おう!」

ガッチリ握手をして、俺はその言葉を受け入れた。そのまま肩を組んで遺跡を出ると、先に脱出していたらしいティアが目をまん丸に見開いて俺達を凝視してくる。

「え、嘘!? まさかエドが捕まっちゃったの!?」

「ん? ああ、そう言われればそうなのか?」

「ギョッギョッギョッ。むしろオレがエドに捕まえてもらったんだギョ?」

「アッハッハッハッハ!」

「ギョッギョッギョッギョッギョッ!」

「えぇ? 何で二人で笑ってるの……?」

戸惑いを露わにするティアをそのままに、俺とギンタは顔を見合わせ大声で笑い合った。