軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

円満の秘訣は、無駄を楽しむ心の余裕である

とまあ、そんななんやかんやがありつつも、俺達は無事に……無事に? 勇者パーティを再結成することができた。ただ新生勇者パーティの旅が順調かと言われれば、必ずしもそうとは言えない。

「行ったぞバーン!」

「任せろ! 超! 稲妻メッチャ斬り!」

俺の声に合わせて、バーンが青白く光る剣を振り下ろす。勇者の剣ではなく実剣を使っているのは、バーンなりの俺への配慮らしい……まあ勇者の剣は切れないものが多いんで、単に使いづらいだけかも知れんが。

「シャァァァァ!?」

そんなバーンの攻撃に、ヒュージポイズンスネークの長くて太い胴体が焦げ付きながら輪切りになる。それによって飛び散った血がほんのわずかに俺の服に引っかかり――

「大変です! 今すぐ 滅却(かいふく) しますね!」

「うおっ!?」

背後から感じた殺気に、俺は慌てて身をよじる。すると神の光を宿した掌底をスカッたエウラリアが、何とも不満げな顔で俺の方をジロリと見た。

「チッ、外しましたか……いえ、違います。エドさん、 消滅(かいふく) しましょう?」

「今完全に舌打ちしたよな!? てか俺は別に怪我なんてしてねーんだけど?」

「ですが、ポイズンスネークには毒がありますし」

「そりゃあるけど、別に血が毒なわけじゃねーだろ?」

ポイズンスネークは当然毒を持っているが、それはあくまでも牙に繋がる毒腺から滲むもので、ポイズンスネークの血が毒なわけじゃない。だが俺の真っ当な指摘に、エウラリアはもの凄くいい笑顔で猫なで声を出す。

「ふふふ、念のためというやつです。さ、私に全てを委ねてください。神の慈悲は痛みも苦しみも無くエドさんを 抹殺して(救って) くれますよ?」

「そんな顔する奴に委ねるわけねーだろ! てか性格変わりすぎじゃね?」

「そう? エウラリアは以前からこんな感じだったわよ? ひたすら自分の意見を押し通そうとするところとか、そのまんまじゃない」

「えぇ……?」

平然とそう言うティアに、俺はひたすら困惑する。ぬぅ、我の出し方の方向性が変わったから印象も変わったとか、そういうことなのか? 全く分からん……

ちなみにだが、エウラリアが俺に使っているのは回復魔法という名の神の力なので、食らうと普通に痛い。実際に傷つくわけじゃないんだが、だからといって箪笥の角に頭をぶつけた時くらいの痛みを進んで味わいたいと思うような奴はまずいないだろう。

「おいエウラリア、その辺にしとけ。エドが超! 困ってるだろ?」

「……勇者様がそう仰るのであれば」

そんなやりとりを見かねて苦笑するバーンに止められると、両手を広げてがに股でにじり寄ってきていたエウラリアがスッとその佇まいを戻し、清楚可憐な少女然としてバーンの側に立った。その変わり身の早さは呆れるのを通り越して賞賛してもいいほどだろう。

「まったくヒデー目に遭ったぜ……」

なので俺もティアの側に立ち、思わずそんな愚痴をこぼす。だが俺を見るティアは楽しげに笑い、感慨深げにバーンとエウラリアの方に視線を向ける。

「お疲れ様、エド……フフッ、何だか楽しいわね」

「いやいや、俺、連日命を狙われてるんだけど?」

抗議の声を上げる俺に、しかしティアは笑顔のまま言葉を続ける。

「でも、エドはエウラリアを追い出したりしないじゃない。それってエドも楽しんでるってことでしょ?」

「あー……まあ、否定はしねーけどさ」

確かに俺は神の力に脅威を感じてはいるが、エウラリアという個人を邪魔だとは思っていない。相容れぬ存在をただ排除するだけだったら神と同じだ。ならば多少危険であっても、わかり合える道を捨てたくはないのだ。

あとはまあ、今も昔もエウラリアがティアを責めなかったというのも大きい。エウラリアは神の徒として一貫して俺と敵対している反面、俺が死んだ後もティアを糾弾したりしなかったみてーだし、それは今回も同じだ。

つまるところ、エウラリアは立ち位置こそ決定的に違うが、その根本はバーンと同じく善人なのだ。だからこそ俺達は、ちぐはぐな勇者パーティとしてやっていけているのだから。

「……そう言えば、ティアこそ最近、割とエウラリアと話してるよな? てか、下手すりゃ前より仲良くなってねーか?」

「そうね。私が感じてたモヤモヤの正体もわかったし、エウラリアの方もエドに対する態度を隠す必要がなくなったから、お互い素直に話せるようになったの。エドの秘密を聞いてきたり……フフッ、楽しいわよ?」

「あー、さようでございますか……」

これ以上踏み込むと、きっと無駄に痛い目をみる。そんな気がして俺はそこで会話を切った。女同士のこの手のやりとりに首を突っ込むのは、バーンのような勇者でなければ許されないのだ。

「楽しいわ……本当に楽しい。エドがいてバーンがいて、エウラリアがいて……そりゃ完全に気を許せるわけじゃないけど、それは普通の旅だってそうだし。ああ、旅ってこんなに楽しかったのね……」

「ティア…………」

感慨深げなティアの言葉に、俺はかける言葉がない。いや、そもそも言葉なんて無粋だ。今俺ができることは、ティアと一緒に目一杯旅を楽しむことだろう。

「おーいバーン! この近くに川があるっぽいから、そこまで行ったら休憩しようぜ!」

「ん? そうなのか? 超! 了解だぜっ!」

バーンの了解を得て、俺達は森の中を流れる川に辿り着いた。緩やかな流れで水深も深いところで一メートルほどしかないが、澄んだ水の中にはちらほらと魚影も見える、いい感じの場所だ。

「超! いい場所じゃねーか! 時間もいいし、ここで超! 飯を食おうぜっ!」

「わかりました。ではエドさんの飲み物は私が用意しますね」

「それは飲むと喉が焼けそうだから遠慮しとく。で……こいつだ!」

もはや魔王と知られている以上、能力を隠す必要もない。俺が「 彷徨い人の宝物庫(ストレンジャーボックス) 」から大きめの魔導具を取りだして組み立てると、すぐにティアが側によってきた。

「ねえエド、それ何?」

「フッフッフ、まあ見てろって」

興味津々のティアを横に、俺は設置した魔導具に大きめの肉……何日か前に仕留めたレプルボアの肉を、マギストッカーに入れといたやつだ……をセットし、魔導具の横についているハンドルに手をかけ……回す!

ティンティロン♪ ティロロティンティロン――

「わ、何!? 音楽が流れ出したわよ!?」

「うぉぉ、何やってんだエド!?」

「まさか、魔王の洗脳音楽!?」

周りが驚きの声をあげるなか、俺は流れる音楽に意識を集中しつつ慎重にハンドルを回し続け……ここだっ!

「ハッハー! どうよ、上手に焼けたぜ!」

「エド! エド!? 何それ! 何それ!?」

「フッフッフ、こいつは第〇九二……あー、ちょっと遠いところで手に入れてきた、魔法の肉焼き器だ! ほれ、食ってみろ」

ニヤリと笑った俺が差し出すと、ティアがこんがり焼けた肉に豪快にかぶりつく。するとその耳がトロンと垂れ下がり、顔中に幸せが広がっていく。

「んほー! おいひい!」

「俺にも! 俺にもくれエド! てか俺にも焼かせてくれ!」

「いいぜ。ほら、こうやって……」

俺が説明してやると、バーンが大はしゃぎで肉を焼き始める。当然ティアも自分で焼きたがったし、ティアが教える形でエウラリアも自分で焼いている。

「うぉぉぉぉ! 超! 上手に焼けたぜっ!」

「むぅ、どうして私が焼くとコゲ肉になるのでしょうか……きっと魔王の呪いか嫌がらせに違いありません」

「あはは……ほら、私の焼いた肉、食べていいわよ」

「ありがとうございます……くっ、美味しい……っ」

皆が楽しく肉を焼き、笑顔で語り合いながら肉を食う。そこに悲しい雰囲気などなく、ただ幸せな時だけが思い出として降り積もっていく。

魔王を倒しこの世界を「追放」される日は、きっともうそう遠くない。だからこそこの一日を大切にしようと、俺もまた笑顔でこんがり肉に齧り付いた。