軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何でもかんでも、ハッキリさせればいいというものじゃない

「お待たせ致し……あの、何かあったんですか?」

「ああ、お帰り。いや、別に何もねーよ。またバーンが馬鹿なこと言ってるだけさ」

わちゃわちゃした空間に、話題の人物が戻ってくる。が、当然何も知らないエウラリアは戸惑いの表情を浮かべており、俺はそれを宥めるべく適当なことを言う。

真面目な話、エウラリアが俺に好意を持っているかというのは割と重要なことだ。色恋は人の持つ感情のなかでは十分に強く、それによって崩壊したパーティなんて枚挙に暇が無い。

だからこそ俺は、ある程度余裕の出てきた一周目中盤以降は異性からの好意を 買わない(・・・・) ことに注力していた。すぐに出て行って二度と戻れない世界に心を残すなんて誰にとってもいいことはないし、本気で好かれたりするといざ「追放」となったときに庇われてしまい、帰還に支障が出る可能性もあるからだ。

神にそう創られたとはいえ、俺が自分の目的のために他者の好意を踏みにじることを繰り返してきた最低のクズである自覚はある。特に最後の方は心が麻痺してしまっていて、「家に帰る」という目的達成に近づく高揚感が罪悪感すら塗りつぶしてしまっていたところもあるが……それでも決して、辛くなかったわけではないのだから。

とは言え、まさか正面から「俺の事好きなの?」などと聞けるはずもない。ここは一つ慎重に――

「なあなあエウラリア。エウラリアってエドのこと超! 好きなのか?」

「はぁっ!?」

いきなり正面から質問を投げかけたバーンに、俺は思いきり変な声をあげる。え、何だコイツ!? それそんな普通に聞いちゃうのか!? 馬鹿なのか!? それとも勇者なのか!?

……ああ、いや。バーンは勇者だったな。あと馬鹿だ。間違いない。

「えっと……ご質問の意図がよくわからないのですが?」

「だから、エドのことを男として好きなのかってことだよ! ティアと奪い合ったりするのか? それともまさか……ハーレム展開!? くそっ、エドなんて超! もげちまえっ!」

「お前いい加減にしろよマジで。ごめんなエウラリア。この馬鹿は今すぐぶん殴って黙らせるから、気にしないでくれ」

もしエウラリアが勇者バーンの籠絡を目的の一つとしてパーティに加入していたとしたら、この状況はあまりにも酷い。とりあえず俺はこの馬鹿勇者に常識や配慮といったものを叩き込むべくギュッと拳を握ると、その脳天目がけて容赦なく振り下ろす。

ゴスッ!

「ぐはっ!? 超痛ぇ!? 何すんだエド!」

「そりゃこっちの台詞だ。おいバーン、お前今のままだと一生モテないからな? 知り合う女性全員から虫を見るような目で見られる人生を送ることになるぞ? 『バーン様は随分と正直な方でいらっしゃるのね』とか引きつった笑みで遠巻きに見られて終わりだ」

「うぉぉ、何だその具体的な未来は!? 超! 嫌だぜっ!?」

「知るか。自業自得だ」

「……あの、すみません。そもそもどうしてそのような話になったのでしょうか?」

涙目で頭をさすりながら騒ぐバーンに、エウラリアが遠慮がちにそう問う。普段はあまり感情を表に出さないエウラリアだが、今はハッキリと戸惑いが浮かんでいる。

「ん? だってほら、俺にエドのこと超! 聞いてきただろ? 生まれ故郷とか、好きな食べ物とか!」

「……確かに色々お聞きしましたけれど、それはこれから旅をするにあたって、失礼がないようにするためです。というか、同じことを勇者様にもお聞きしましたよね?」

「…………あれ? そうだっけ?」

「はい。普通にお聞きして、教えていただきました」

「……そう言えばそんな話をした気がするな。で、でもじゃあ、何で俺には直接聞いて、エドには聞かなかったんだ? それってやっぱり、エドの事が超! 好きで直接話しかけるのが恥ずかしかったからとか……」

「エドさんは基本的にティアさんと一緒におられるので、何となく話しかける機会がなくて……それで勇者様にお尋ねしたんです」

「おっと、そりゃ悪いことしたな。でも気にしないで話しかけてくれていいんだぜ?」

「ありがとうございます。そのご配慮に感謝致します」

言われてみれば、確かに他の女性といつも一緒にいる男には話しかけづらいよな。軽く謝罪する俺の言葉にエウラリアがぺこりと頭を下げてそう言い……バーンが悪戯がばれた悪ガキみたいな顔になる。

「じゃあまさか、全部俺の超! 勘違いってことか?」

「……エドさんに好意を抱いているかどうかに関しては、この場では回答を差し控えさせていただきたいのですが」

「えっ!? それってやっぱり――」

「悟れ馬鹿! どっちだって言っても問題になるから言わねーって意味だよ!」

こんな状況ではどう答えても角が立つ。だからこその曖昧な言い回しを察することのできないバーンに、再び俺の拳が炸裂する。

「ぐほっ!? 超!!! 痛ぇ……なあエウラリア、俺の頭へこんでないか? 回復してもらってもいい?」

「はぁ……では、こちらにどうぞ」

完璧に同じところをぶん殴ってやったせいか、本気で痛そうにしているバーンがエウラリアに回復魔術を求めてお辞儀するように頭をさげ、そこにエウラリアが手を添えて痛みを癒やしていく。何とも平和で、底抜けに間抜けな光景だ。

「ってか、ティア? さっきからずっと黙ってるけど、どうしたんだ?」

そんな二人をそのままに、俺は何故か会話に入ってこなかったティアの方に声をかけて近づく。ティアもこの手の話は好きそうな気がしたんだが、どういうわけかその表情は冴えない。

「うーん、やっぱり……」

「何だよティア、まさかティアまでバーンの言うことを真に受けてるとかじゃねーんだろ?」

「違うわよ。そうじゃなくて……でも…………ごめんなさい、ちょっと思うことはあるんだけど、これは口に出すべきじゃない気がして」

「……? よくわかんねーけど、別に言いたくないことがあるなら言わなくたっていいぜ? そんな事今更気にする仲でもねーだろ?」

ティアと過ごす二周目の旅は、俺の主観ではもう何十年も経っている。言わず聞かずとも察することはできるくらいにはなっているし、わからないことはわからないで済ませられる程度の信頼はある。

だから、言いたくないことを無理に聞くつもりもないし、聞かないと落ち着かないなんてこともない。相手の知らないこと、わからないことなんてあって当然で、暗闇の向こう側を覗かなくても不安になるような薄っぺらい関係ではないのだ。

だが、そんな俺の回答にもティアは表情を変えること無く言葉を続けていく。

「そうなんだけど……でも、エドは知っておいた方がいいかも知れないことなの。だけど私の口からそれを言うのは凄く嫌な感じで……あー、こういうのってどうしたらいいのかしら?」

「流石にそこまで言われると気になるんだが、俺にどうしろと?」

「そうねぇ……なら、できるだけ私と一緒にいてくれない? それで問題の半分くらいは解決すると思うから」

「はぁ……結局何もわかんねーけど、ウチのお嬢様がそう言うのであれば、喜んでご一緒させていただきましょうかね」

具体的な理由はこれっぽっちもわからなかったが、俺が行動する理由としては「ティアがそう望んだから」で十分だ。俺は静かにティアの隣に立ち、そんな俺の手をティアがそっと握ってくる。てっきり「 二人だけの秘密(ミッシングトーク) 」でも使ってくるのかと思ったが、俺の頭の中にティアの声が響いてくることはない。

「ティア?」

「ねえ、エド?」

「ん?」

「私のこと……置いていったりしないわよね?」

翡翠の瞳が不安げにこちらを見上げ……だから俺は、ティアのおでこをピンと人差し指で弾く。

「イタッ!? 何するのよ!」

「ははは、らしくねーこと言うからだ。置いてく? 世界の壁まで越えて俺を追いかけてきたのは何処の誰だったんだ?」

「……フフッ、そう言えばそうだったわね」

「そうさ。それに俺は神でもどうにもできなかった不滅の魔王様だぜ? 死ぬことはあっても消えることはねーんだ、なら何処にいてもどんな姿になっても……今度は俺がティアに追いつくさ」

「あら、なら競争ね? 私負けないわよ?」

「俺だって負けねーよ! いや、そもそも置いて行くつもりがねーし。ほら、んなあり得ないことを考えてねーで、ちゃんと元気な顔になれ。でないともっとデコピンしちまうぞ?」

「ちょっ!? 乙女のおでこを何だと思ってるのよ! エドのエッチ!」

「エッチって……」

「見たかエウラリア。あれがモテる男の超! イチャつき術ってやつだっ!」

「なるほど。参考になります……」

ふと気づけば、わざわざ距離を取ったバーンとエウラリアがこっちを見ながらこそこそと何かを話している。こうして見ると、やっぱりエウラリアが俺を好きというのは違う気がするが……まあそれはそれとして。

「おいバーン。さっきの今でくだらない内緒話とはいい度胸だな? よーし、明日からの稽古は今までの三倍くらい厳しくしてやろう!」

「そうね。私の方もたっぷり教えてあげるわ! 一緒に本を読みましょうね?」

「うげっ!? 超! やぶ蛇だぜっ!? 逃げるぞエウラリア!」

「……訓練で怪我をした場合は、癒やしの魔術を使わせていただきます。頭の疲労は……ごめんなさい、ちょっと無理です」

「味方がいねぇ!? くっそ、それでも俺は! 超! 逃げ切ってみせるぜぇっ!」

雄叫びをあげながら、バーンが一人で走り出す。この周囲には気配が無いとはいえ、ここはまだ魔獣のはびこる森の中なんだが……絶対忘れてるな、あの感じだと。

「はぁ、ホンットどうしようもねー勇者様だな。みんな、追いかけるぞ!」

「はい」

「りょーかい!」

呆れる俺の言葉に、エウラリアとティアが追従する。なおまたしても糸に絡め取られたバーンを発見するのは、これから五分後のことであった。