軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

硬く結んだ切れない絆は、時として重い足枷となる

「アレクシス、左!」

「フッ、問題ない! 『 満月光剣(フルムーンスクレイパー) 』!」

目の前の魔獣を切り飛ばしつつ、念のためにあげた俺の警戒の声を鼻で笑ったアレクシスが聖剣の力を込めた技を放つ。かつては三日月の如き斬撃を飛ばす技だったそれは今では丸く輝く白銀の光弾を撃ち出しており、その射線上にあるものは木だろうと魔獣だろうと悉く吹き飛んでいく。

「やっぱスゲーな、本物の聖剣……使い勝手は明らかに悪くなってるけど」

「それはまあ、否定しきれないね。だがここでならば何の問題も無い……そうだろう?」

「だな!」

俺達が激闘を繰り広げているのは、人と魔族の領域を隔てる魔境と呼ばれる広大な森。人間の世界でこんな剣を振り回せば周囲の環境を壊しすぎて大変なことになるが、こと魔境であればどれだけ破壊活動を働いたとて、溜まりに溜まった濃密な魔力の影響で数日もあれば元に戻ってしまうのだから関係ない。

(あの聖剣が封印されてたのって、絶対強すぎるからだよなぁ。最初の武器がこれは、そりゃねーや)

凄い武器を手に入れることも本人の強さの一つだとは思うが、身の丈に合わない強すぎる力をいきなり与えられたら、それに振り回されて歪な成長を遂げるってのはよくわかる。

性格の悪い謎だと思ったが、あれを突破できる程度の実力と思慮深さを身につけた者だけがこの力を扱えるって制限をつけたのは完全な正解だ。

「エドー! アレクシスー! こっちも終わったわよー!」

「ガッハッハ! この程度の雑魚でワシの筋肉を阻むなど、一〇〇年早いわ!」

「お、そうか。じゃ、ちょいと休憩にするか」

と、そこで丁度残っていた魔獣を倒しきったティア達もやってきて、俺は「 彷徨い人の宝物庫(ストレンジャーボックス) 」から適当に野営道具を取りだして並べていく。以前に買った魔導具のおかげで水は幾らでも出せるし、食料だってタップリと持ってきている。魔境に突入してから既に一週間ほど経っているが、まだまだ先を見据えて節約するなんて必要はこれっぽっちもない。

「……あれからもう六ヶ月か」

流石に火は熾せないが、魔導具があれば熱源は事足りる。食後の紅茶を口にするアレクシスが、ふとそんな呟きを漏らす。

「六ヶ月前、君に出会わなければ……今頃僕達は何処で何をしていたんだろうね?」

「ん? そうだな……あくまでも俺の予想だが、今頃だとトルッタ辺りで海賊退治とかしてるんじゃねーかな?」

「トルッタ? ああ、そう言えば確かに、少し前にあの辺で海賊が暴れているという話を耳にしたような……相変わらず細かい情報を仕入れている男だ」

「へへっ、まーな」

苦笑するアレクシスに、俺もまた曖昧な笑みを浮かべて答える。そりゃあ一周目での行動は大体覚えてるからな。まあここまで大胆に変わっちまうと今となっては本当にただ知っているだけで、過去を……いや、未来をか? 懐かしむくらいの役にしか立たないんだが。

「六ヶ月、六ヶ月かぁ……不思議。エドとはもっとずーっと一緒にいるような気がするのに、まだたった六ヶ月なのよね」

「ガッハッハ! すれ違うだけの一〇年よりも、共に過ごした一日の方が記憶に残ることもある。時の長さなど大した意味はないのだ。ワシの筋肉のように高密度でなければな!」

「うぅ、多分いいことを言ってるっぽいのに、筋肉のせいでどうしても素直に受け入れられない……」

「何を言うか! 筋肉は素晴らしいぞ!」

「オッサンは相変わらずだな……ほらティア、こっちの肉はいい具合に焼けたぞ」

「わーい!」

相変わらずなゴンゾのオッサンと、笑顔で肉に齧り付くティア。そんな二人に視線を向ければ、二人もまた俺の方を見てくる。その目には深い信頼が宿っており、決してただの荷物持ちに向けられるような視線ではない。それは実に温かくて光栄なのだが、それこそが目下の悩みの種でもある。

(マジでどうすっかな……)

俺がこの世界を出るには、仲間と認められたうえで勇者パーティから追放されなければならない。既に六ヶ月間一緒に行動しているので「パーティの一員として認められる」という条件は達成済みだが、あまりにも信頼されすぎてしまったため、追放されるという方の条件達成が正直かなりきつい。

まず、手ひどく裏切るような真似は却下だ。そんなことするくらいならそもそも二周目なんてやってないからな。かといって追放されるように仕事の手を抜くのも事ここに至っては難しい。

深く信頼されるということは、手を抜いたとしても「サボってる」じゃなくて「何か事情があるか、体調が悪いのではないか?」という心配の方が先に立ってしまうからだ。

(いっそ前みたいに、ティアの着替えでも覗いてみるか? いやでも、あれはあくまで俺を心配しての行動だったから、今の俺が偶然覗いたくらいじゃ追い出されねーだろうし……)

ゲヘゲヘいいながら執拗に覗きまくればいつかは追い出されるだろうが、それは迂遠すぎるし嫌すぎる。あと怒られたり嫌われたりするのなら我慢できるが、ティアに本気で泣かれたりした場合、立ち直れない勢いで俺が傷つくので駄目だ。

(こうなると、足の一本も落としてみるしかねーか?)

腕ならまだしも、足が無くなれば流石に旅は続けられない。帰還用の転移結晶は人数分用意してあるので、おそらくはそれで送り返されることになるだろう。

だが、意図的に足を失うほどの負傷をするのはこれもまた難しい。理想としては俺だけが敵に気づいた状態で不意打ちさせ、誰かを庇う形で足を失うのが一番だが、そんな都合のいい状況が早々転がっているはずもない。

(認められすぎるってのも困りもんだな。どうにかして……)

「ねえ、エド?」

「ん? 何だ?」

思案に耽る俺に、不意にティアが話しかけてくる。そちらに顔を向けてみれば、まん丸に見開かれた翡翠の瞳が俺の事をじーっと見つめてくる。

「もう一ヶ月以上前から、エドってばずーっと何か考えてるわよね? もうそろそろ私に相談してみてもいい頃じゃない?」

「っ!? な、何のことだ? 全然、まったく、これっぽっちも心当たりがないんだが?」

「ふーん……?」

思いきり図星を指され、それでもとぼける俺にティアがあからさまに不機嫌そうな声を出す。

「まあいいけど。でも、私ってそんなに頼りにならない?」

「……何を言ってるのかわかんねーけど、そんなことはねーだろ」

言って俺がポンポンとティアの頭を叩けば、それに合わせてティアの頬がぷっくりと膨らんでいく。

「むー、またそうやって子供扱いして! 私の方が八〇歳くらいお姉さんなんだからね!」

「はっはっは。そーかそーか」

精神年齢で言うなら、俺は一二〇歳ちょいですよ? 二〇歳も年下の女の子なんて子供で当然じゃないですか。

「可愛いなぁティアは。飴とかいる?」

「いらないわよ! フーンだ、エドの意地悪!」

プンプンと怒りを露わにしてそっぽを向くティアに、俺は内心で少しだけ寂しく笑う。

(ありがとな、ティア)

ここからどう転ぶにしても、別れの時は近い。万が一魔王を倒してしまって勇者パーティが「解散」になった場合にどうなるのかがわからない以上、何が何でもその前には追放されなければならないのだから、ここまで来ればどれだけ長くてもあと二ヶ月かそこらの付き合いだろう。

そしてそんな別れを、俺はこれからまた一〇〇回繰り返さなければならない。その後にまたここに戻って結末を見ることが許されるのかはわからないが……少なくとも三周目はないだろう。

ならば今度こそ悔いのない別れと、憂いのない結末を。そのために今は自分に出来ることを精一杯やるしかない。

(ま、ひとまずは魔境を抜けてから考えるか。その先がどうなってるのかわかんねーし、ひょっとしたらいい具合に追放される何かがあるかも知れねーしな)

まるで自分に言い聞かせるように内心で呟き、俺はいつの間にか湧き出していた「このままこの世界に骨を埋めるのもいいのでは?」という考えを押し潰す。そしてそれを忘れるように戦いに没頭すれば、俺達は遂に人類初の魔境踏破者となることに成功し……

「これは……っ!?」

「そんな、何で!?」

「……ははっ、結局こうなるのかよ」

俺達の前には、大地を埋め尽くすほどの魔王軍が立ちはだかっていた。