軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

他人を納得させるには、それ相応の実績が必要だ

ハモキンに招待された洞窟の中は、入り口の狭さに比べて思いのほか広かった。隅には物資が詰め込まれているであろう壺やら樽やらが置かれており、更に寝床と思われる敷物が五つほど並べられている。

そんな洞窟の中央で、ハモキンが小さな焚き火に火をつけてそこに腰を下ろす。

「おいおい、洞窟の中で火なんて使って平気なのか?」

「天井に煙抜ける穴、開けてある。大きいのは無理。でも小さい火なら平気」

「そっか。器用なことすんなぁ」

ハモキン達はここで暮らしてるんだから、本人が言うならそうなんだろう。一応軽く注意しつつも、俺は焚き火を挟んでハモキンの正面に座り込んだ。ひんやりした地面の感触が尻に伝わるが、お貴族様じゃあるまいしそんなことは気にしない。

「ここには、俺の他四人暮らしてる。でも今みんな出かけてる。帰ってきたら紹介するから、少し待て」

「了解。ってか、五人だけなのか? あの集落から逃げてきたにしちゃ少なすぎると思うけど……」

すぐに捕まって牢屋に入れられたためよく見てはいないが、俺の記憶も照らし合わせればあそこには三〇〇人くらいが暮らしていたはずだ。となるとざっと半分でも一〇〇人は男がいるはずなのに、五人というのはいかにも少なすぎる。

そんな俺の疑問に、ハモキンが軽く苦笑しながら焚き火をつつく。

「ははは、勿論他にも男、いる。でも一カ所に集まるとすぐに見つかる。だから俺達少しずつ分かれて暮らしてる」

「ああ、そういうことか。確かに逃げること だけ(・・) に特化するなら、少人数の方がいいもんな」

「そうだ。俺達女、殺したいわけじゃない。だから今は逃げるしかない」

「難しいところだな」

集落にいるのが単なる敵なら、一カ所に集まって防衛しつつ力を蓄え、時が来たら総力戦を挑めばいい。が、その敵が身内となれば話は別だ。

極力相手を傷つけたくないとなれば、拠点を防衛する戦いすら避けなければならない。そうなると逃げの一択しかなくなるため、小集団で戦闘そのものを回避するしかないのだろう。

「つっても、それで意見がまとまってるのか? 中には『女なんて力尽くで言うことを聞かせればいいだろ!』みたいな奴がいただろ?」

「確かにいる。でもそういう奴、皆に殴られてすぐ大人しくなる。

男は戦士。戦士は死ぬのも仕事。でも女は母。母いなくなる、子供いなくなる。そうしたらあっという間に集落滅ぶ。だから女大事にしない男、みんなから軽蔑される。だからできるだけ戦わない。やられてもやり返さない」

「そうか……ハモキン達はスゲーなぁ」

力を持てば、人はそれを振るいたくなる。殴れば解決してしまうことを殴らずに解決するのは一見すれば迂遠な対応ではあるが、それは力の使いどころをきちんと理解しているということだ。

もしもっと短絡的な集団であったなら、俺達が辿り着いたのは血に染まった集落だっただろう。一つ前の世界で嫌というほど思い知らされている。たとえ俺が神すら恐れる魔王であったとしても、死んだ人間を生き返らせることなどできないのだから。

「ま、でも良かったぜ。そこまで方針が一致してるなら、俺としてもハモキン達に全力で協力できる。なら当面の目標は女を正気に戻すことになるわけだが……何か当てはあるのか?」

「うむ、それなんだが……」

焚き火に照らされながら問う俺に、ハモキンが眉根を寄せて難しげな表情になる。

「以前に一度、集落の女を攫ってきたこと、ある。最初のうち変わらないが、一週間くらいするとだんだんと元に戻っていくの、わかってる」

「お、そうなのか? それなら……」

となると、影響を受けるのはドナテラの周囲にいる間だけってことだ。思わぬ朗報に喜ぶ俺だったが、ハモキンの表情は厳しいままだ。

「でも、俺達女匿う場所、無い。元に戻った女、ドナテラ達が攻めてきて連れ戻された。一緒だと逃げ切れない」

「あー、そりゃまあそうだな」

狩りや戦闘に慣れた男だけの小集団で逃げるのと、助け出した女性を庇いながら逃げるのでは難易度が全く違う。ましてやこっちは女性を助ければ助けるだけ動きが鈍るわけだから、「相手を傷つけない」という縛りがある以上どうやったって最後は奪還されることになる。

「だから俺達、今、人集めてる。一気に集落攻めて、全部の女達連れ去る」

「ん? それならドナテラ一人を捕まえて他にやった方が早くねーか?」

一〇〇人以上の女性を捕まえて運ぶより、ドナテラ一人をどうにかした方がどう考えても楽だ。そんな俺の素朴な疑問に、しかしハモキンは更に渋い表情になる。

「…………ドナテラ、強い。俺達じゃ勝ち目ない」

「そうなのか?」

「そうなのだ。光る星落ちてから、ドナテラ急に強くなった。普通に戦うと三人がかりでも押さえられない。殺すならともかく、捕らえるの難しい。

それに、ドナテラの周りいつも他の女、いる。集落の女達、ドナテラと違って別に強くない。戦闘に巻き込む、とても危険」

「ほーん? あのドナテラがなぁ」

俺の印象にあるのは、あくまでもか弱い女性であったドナテラだ。が、どうやら謎の光に魅入られたドナテラは、戦士としても一級の強さを誇るらしい。

それに、周囲に他の女がいるというのも厄介だ。敵でありながら護衛対象であり、何なら人質すら兼任するというのは厄介極まりない。確かに最低でもドナテラの周囲から他の女性達を引き離さないと安全に戦うのは難しいだろう。

「そういうことなら、俺がドナテラを引き受けるか?」

「エド? ありがたいけど、無理。エド、ドナテラの強さ知らないからそんなこと言える」

「まあそりゃそうだけど、割と自信はあるぜ? あー、それとも一度俺が単独で当たってみるか? そんで行けそうなら具体的に作戦を練るって感じならどうだ?」

「む……」

俺の提案に、ハモキンが腕組みをして考え始める。今の提案なら最悪でも痛い目をみるのは俺だけだから、ハモキン達に大きな負担がかかることはない。

が、ハモキン達からすればこれは身内の問題で、俺は今日会ったばかりのよそ者でしかない。そんな奴の言葉をここであっさり信用して受け入れるほど、ハモキンもまた馬鹿ではなかった。

「うーん。流石に俺一人じゃ決められない。仲間戻ってきたら話し合う、それでどうだ?」

「勿論それでいい。ちなみに仲間ってのは、この拠点にいる奴らだけでいいのか?」

「いや、できれは森中に散ってる男達、みんな話聞きたい。この作戦とても重要。もし失敗したら、集落の警備一気に厳重になる」

「それもそうだな。わかった。じゃあ……」

「連絡取って集まるまで、一週間くらい欲しい」

「よし、じゃあそういうことで」

ハモキンの提案を了承し、待つこと一週間。狭い洞窟のなかにむさい男達が集まり……その中の一人が明らかに見下したような視線を向けてくる。

「おいハモキン、こいつがドナテラと戦う、本気か?」

「本気だ。こいつエド、強い戦士」

「強い!? そんなの嘘、こいつ強くない!」

「……おいオッサン、誰が強くないって?」

突然の言いがかりに、俺は低い声で目の前の男を睨み付ける。そいつは二メートル近い巨体とそれに見合う筋肉を身につけており、見た目だけなら確かに俺よりずっと強そうだ。

が、見た目と強さが必ずしも一致するわけじゃない。こういう奴は最初に分からせてやらないとずっと文句を言ってくるので、ここは強気に出させてもらおう。

「勿論オマエ。オマエ強くない。見ればわかる」

「へー。見た目で強さがわかるってんなら、実際に勝負しろって言ったら逃げねーよな?」

「勝負!? オマエ、この俺と戦うか!?」

「そうだ。後で色々言われねーように、ここでねじ伏せといてやる」

「面白い。オマエ表出ろ! ハモキン、いいな?」

「ハァ……エド、いいのか?」

「ああ、いいぜ。弱いと思われるのは困るしな」

「わかった」

ため息をつくハモキンを先頭に、俺とそのオッサンが洞窟の外に出る。すると当然のように他の奴らも外に出てきて、俺達の周囲を囲んですっかり観戦モードだ。

「それじゃ、勝負始める。最初はガルガドから、いいか?」

「最初? ああ、いいぜ」

よくわからねーが、最初ってことは交互に攻撃するとかだろうか? だったら基本先攻が有利なはずだが、ならばこそ俺はそれを譲る。どうせなら完璧な強さってのを見せつけてやった方がいいだろうしな。

ということで、俺はあえて構えることをせず悠然とその場に立つ。するとガルガドがニヤリと笑い、腰に着けている鞄に手を入れた。

「見て驚け! これが俺の最高傑作!」

そのでかい手が前に突き出され……手のひらの上に何か乗っているのが見える。あれは人形、か? そんなもんで一体何を……?

「集落で一番でかい乳の女、ブブララの人形だ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

「流石ガルガド、凄い完成度!」

「しかもあれ、まさかマシマシか!? 本物より乳、更にでかい!」

「…………ん?」

周囲の男達から歓声があがり、ガルガドが得意満面な笑みを浮かべている。そしてその笑みのまま、俺の方に挑発的な視線を向けてくる。

「さあ、次オマエの番! 俺よりエロいもの、見せてみろ!」

「……何て?」

この日俺は、生まれて初めて他人に喧嘩を売ったことを後悔した。