軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

他人任せにできないことなら、自分自身でやればいい

「エドー!? ねえ、エドー!?」

「おぅおぅ、そんなに何度も呼ばなくても聞こえてるってーの」

「エドっ!」

斜めになったロックワームの体内をズリズリと登って外に出ると、何とも生臭くなった俺の体にすかさずティアが飛びついてくる。

「エドの馬鹿! 何であんな無茶したの!?」

「いや、別に無茶じゃねーだろ? ティアの魔法で内臓が焼けてるのはわかってたから溶かされることはねーし、この状態なら掘った穴を埋められることもねーしな」

「埋める? 穴を?」

「ああ、そりゃそうだろ? こんなでかい奴が通った穴がそのままだったら、あっという間に山が崩壊しちまうじゃねーか」

「……それもそうね。でも、どうやって?」

「ん? ロックワームは鉱石しか食わないだろ? でも鉱石ってのは土と一緒に存在してるわけだ。つまり土は排――」

「……わかった。もういいです」

請われたので説明したというのに、何故かティアがそっと俺から顔を逸らして距離を取る。むぅ、何たる理不尽。

「それで? 首尾はどうだったんだ?」

「フッフッフ、それは勿論……この通り!」

呆れた顔をするアレクシスに対し、俺は満面の笑みを浮かべつつ鞄経由の「 彷徨い人の宝物庫(ストレンジャーボックス) 」から銀色に輝く金属塊を取りだしてみせる。

「うわぁ、綺麗! で、でも、これ……アレなのよね……」

「ふーむ、あれほどの巨大な魔獣でこの程度の大きさなのか」

「いや、十分だろう。純ミスリル塊なんて、僕でも初めて見たよ」

俺が地面に置いたのは、一抱えもある大きさの純ミスリル塊。持った感じではおそらく五〇キロほどあり……端的に言って大収穫だ。

「アレクシスが見たことないって……これ、どのくらいの価値があるの?」

「ん? 未加工の素材だからこれだけだとそこまでの高値はつかねーけど、金で買えるものでもねーからな。これを扱える鍛冶師の伝手がある金持ちなら、城が丸ごと買えるくらいにはなるんじゃねーか?」

「うえっ!? そんなに!?」

俺の値踏みに驚いて変な声を出したティアが、「アレなのに……アレのくせに……」と呟きながらツンツンとミスリル塊を指でつつく。そんな子供みたいなティアを尻目に、俺はアレクシスとの相談を続けていく。

「つきましては勇者様。こいつの使い道なんですが……」

「わかっている。僕の方で高名な鍛冶師を紹介しよう。そうすれば――」

「いえ、それは必要ありません。ただ、何処かの工房を一週間ほど借り受けることは可能でしょうか?」

「……それは、君にも伝手があるということかい?」

「それはもう。伝手というか何と言うか……実は俺、荷物持ちと剣士の他に、鍛冶にもちょっとだけ自信があるんですよ」

神のいかさま(チート) 、ここに極まれり。一〇〇年の経験値舐めんなよ?

「ほほぅ、こいつはいいな」

名状しがたい表情で俺を見たアレクシスの計らいにより、俺はアトルムテインにある小さな工房を一つ借り受けることができた。手を焼いて貰った礼に純ミスリル塊をいくらか渡そうとしたんだが、アレクシスには「そもそも君が見つけた魔獣なのに、この僕に手柄をかすめ取れなんて言うつもりかい?」とファサッと髪を掻き上げながら言われたので、丸ごとそのままが俺の「 彷徨い人の宝物庫(ストレンジャーボックス) 」に入ったままだ。

「炉もきっちり手入れされてるし、道具も揃ってる……これ予備とかじゃなくて誰かが日常的に使ってる場所だよな? 本当に借りて大丈夫だったのか?」

「ええ、問題ありません。勇者様から十分な補償金は受け取っておりますし……なによりあのロックワーム! あんなものが退治されずにいたならば、この町は取り返しが付かないほどの大惨事に見舞われたことでしょう。その感謝を思えばこの程度の事は何でもありませんよ」

室内を確認していく俺に、工房の鍵を開けて案内をしてくれている人がニコニコしながらそう言ってくれる。

ま、アレクシスは権力を振りかざすことを躊躇わない反面、必要以外で権力を振るわない奴だから、無理矢理借りたってことはないだろう。金払いの良さとか「勇者の仲間に工房を貸した」なんて自慢話ができることを考えれば、むしろ俺が俺がと競争になった可能性すらあるしな。

「では、何か足りないものがありましたら、役所の方にご連絡ください。一般的な消耗品であればツケで買っていただいても構いません。後日こちらでお支払い致しますので」

「いやいや、そこまでは頼めませんよ! ありがとうございます。では、大事にお借りします」

そう言って頭を下げると、案内してくれた人が鍵を置いて工房から出て行った。そうして工房に残ったのは、俺一人……ではない。

「で、これからどうするの?」

「どうするって、そりゃこいつを加工するんだけど……本当に見てるのか?」

鍛冶の準備を始める俺を、ティアがキラキラした目で見つめてくる。

「自分で言うのも何だが、見てて楽しいものじゃないぞ?」

「あら、それを決めるのは貴方じゃないでしょ? 楽しいかどうかは私が決めるの! だからエドは気にしないで」

「はぁ……まあいいけど。一応すげー熱くなったりするから、無理はするなよ? あと俺が集中している間は声をかけても反応しねーだろうから、その時は鍵をかけて適当に出て行っていいから」

「え? 私が鍵をかけちゃったら、エドはどうするの?」

「そのくらいはどうにでもするさ」

お城の宝物庫ってわけじゃねーんだから、こんな工房の鍵なんてどうとでもなる。勿論「どうにかしている」ところを見られたら不審者待ったなしだが、今回は俺がここを借りることは周知されているため、この工房の入り口で多少カチャカチャやったところで通報されることはないだろう。

「どうにでも、ねぇ……エドって本当に何でもできるのね」

「何でもはできねーよ。できねーことだって一杯あるさ……ああ、この手はいつだって取りこぼしてばっかりだ」

ティアの笑顔が、ふとあの日看取った最期の笑顔と重なる。まだ訪れていない、そして二度と辿り着かせない未来を憂うことに意味があるのかはわからないが……その苦い記憶が俺から消えることは決してない。

「……エド?」

「ヘッ、何でも無い。さて、それじゃ一丁やりますか!」

フルフルと頭を振って雑念を振り払うと、俺は炉に火を入れ、「 彷徨い人の宝物庫(ストレンジャーボックス) 」から純ミスリル塊を取り出す。ミスリルは溶かすのにそれほどの高温は必要ないが、ミスリルの特性を最大限に生かすには温度管理は極めて重要なのだ。

「熱すぎれば無駄に揮発するし、冷たすぎれば溶け方にムラが出る。魔道炉がありゃ簡単なんだが……」

魔力で熱を調整できる、全世界の鍛冶屋垂涎の品、魔道炉。だがそれがあるのはもっと先の別の世界であり、この世界にはその技術がない。俺の追放スキルを駆使すれば作れないことはないのだろうが、流石に炉の設計図なんて事細かに記憶してないので事実上は無理だ。

故に、俺は慎重に炉に石炭をくべていく。炉の温度管理にも「 見様見真似の熟練工(マスタースミス) 」は有効だが、スキルに頼り切っているようじゃ本当に良い物はできない。

「……よし、いいだろう」

頃合いを見て、俺は手に入れたミスリル塊を炉に入れる。そうして程なくすれば溶けたミスリルが炉の口から垂れ、俺はそれに徐に鎚を打ち付ける。

造るのだ。未来を。変えるのだ、結末を。二度と仲間を失わなくてすむように、運命を切り開く武器を、運命から逸脱した俺の手で造るのだ。

一打ち一打ちに、魂を込める。如何に追放スキルがあるとはいえ、それは決して楽な作業じゃない。

だが、手を抜く気などこれっぽっちも起きない。あの日見たティアの顔を思えば、たとえ万回振り下ろそうとも鎚を持つ手が震えることなどない。

最高を。最強を。俺はただひたすらに ミスリル(みらい) を打ち続けた。