軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

融通が利かないのなら、強引に帳尻を合わせればいい

常識というのは、全く違うよりちょっとだけ違う方が受け入れづらい。そんな常識の奔流に弄ばれたティアを俺が宥めて過ごしていると、程なくしてゴウが宿にやってきた。これから食事をするというので、俺達もそれに同席するべく近くの酒場兼食堂へと足を運ぶ。

そしてこの際だからということで、ティアがゴウに積極的に話しかけていた。

「ねえゴウさん。私はよく知らないんだけど、他にも勇者の特権ってあるの?」

「む? そうだな。壺と箪笥を漁る権利以外だと、自由に仲間を選ぶ権利だろうか?」

勇者の特権という部分を除けば、基本的にはゴウはごく普通の善良な人間だ。ティアの問いに軽く考えてからそう答えると、エールの入ったジョッキを傾け二、三度喉を鳴らしてから話を続けていく。

「勇者には三人まで、旅の仲間を選ぶ権利が与えられる。これはどんな相手でもよく、双方が合意さえすれば犯罪者だろうが王侯貴族だろうが仲間にできるというものだ。そして仲間になっている間は、その者にかけられた責務が免除されることになる」

「責務を免除?」

「そうだ。犯罪者ならその間は逮捕されなかったり、あるいは牢獄から出て活動することができるし、貴族なら領地の経営に代官を派遣してもらったり、商人なら自分が抜けたことで生じる損失を補填してもらえたりだな。

お前達は傭兵なのだろうから、きちんと申請しておくんだぞ? そうすれば前年の収入を平均した上での報奨金が、日割りで支払われるはずだ」

「へー、随分手厚いのね」

「だな。あとは色々悪用できそうな制度だ」

感心するように頷くティアを横に、俺はニヤリと笑みを浮かべてみせる。だがゴウはそれを軽く受け流し、笑いながら話を続ける。

「ガッハッハ! そういう風に考える奴は当然いるだろうが、別に罪が免除になったりするわけではないからな。俺の仲間になっていても新たに罪を犯せば普通に捕まるし、三人という人数制限があるから延々と『勇者の仲間』としての特権を持ち続けることもできん。双方の合意……つまり俺が駄目だと言えば、即座に仲間じゃなくなるわけだからな」

「その辺はしっかりしてるのね。っていうか、勇者パーティってそんなに頻繁に入ったり抜けたりするものなの? それだと連携の練度が上がらなくて大変そうだわ」

「まあ、人にはそれぞれ都合があるからな。例えば単に強いものと戦いたいという奴がいた場合、強敵と挑むときには仲間になってくれるが、小さな村の問題を片付けたいなんて時には面倒がって抜けてしまう。

他にも自分の故郷を守るために手伝ってくれる者ならそれ以外の場所に行けば当然着いてはこないし、逆に異国に出るためにパーティに加入する者もいる。

勇者というのは魔王を倒すために世界中を巡ることになるが、全ての生活基盤を捨ててそれに着いてくるというのはなまなかな覚悟ではない。いつかはそういう仲間に巡り会うかも……と思いはするがな」

「うーん、確かに難しい話よね」

ティアがいたアレクシスの勇者パーティだって、最初からあのメンバーだったわけじゃない。何人も入ったり抜けたりを繰り返して最終的に勇者アレクシスにティアとゴンゾのおっさん、そして俺という形に落ち着いたわけだが、俺は途中で抜ける気満々だったしな。もし真っ当に俺が抜けたならば、その穴を別の誰かが埋めることになっていたんだろう。

「にしても、ホッとしたわ。ゴウさんって、ちゃんと話ができる人だったのね」

「? どういうことだ?」

「あ!? ううん、こっちの話。ごめんなさい、気にしないで」

「そうか。気にするなというなら気にしないぞ! ガッハッハ!」

慌ててパタパタと手を振るティアに、ゴウは本当に何も気にしていない様子で笑う。うんうん、この調子なら二人の関係は大丈夫そうだ。

その後は和やかに食事を終え、次の日には俺達は町を出ることになった。ゴウの希望で縦一列になって歩く俺達に、ゴウがさしあたっての目的を語ってくる。

「今回の目的地は、この先にある洞窟だ。この辺一帯の交易に使われている洞窟に魔獣が住み着いてしまったせいで、人の行き来ができずに困っているらしい」

「魔獣か……ならそいつの討伐が目的ってことでいいんですか?」

「そうだ。三日ほど歩くと麓の村に着くから、そこで事情を聞いてから挑むことになる。狭い空間での戦闘になるだろうから、そのつもりでいてくれ」

「了解」

「わかったわ」

端的な説明に頷きつつ、俺達は道を行く。途中幾度か魔獣に襲われたが、街道沿いに現れる魔獣なんて大した強さじゃない。三人での連携を確かめるように軽く倒して進んでいけば、特に何事も無く件の村へと辿り着いた。

「よーし、着いたぞ! では早速……」

「事情を聞きに行くのね?」

「民家を回って壺を割り、箪笥を漁るぞ!」

「……………………」

張り切るゴウの発言に、ティアの目が一瞬だけ光を失う。そんなティアの手を引きながら着いていくと、今回もゴウは平然と民家に入り込んだ。だがそこには今までと違って住人がおり、いきなり家に入ってきた俺達の事を驚きの顔で見つめている。

「えっ!? あ、勇者様……!?」

「ああ。邪魔するぞ」

どんな手段を使ったのかはわからないが、ゴウが勇者であることは世界中の誰もが知っているらしい。ならばこそゴウは咎められること無く家の中を歩き回り、壺を割って箪笥を物色していく。

パリーン!

「ふむ、何も入ってないか」

「……………………」

「ねえエド、私罪悪感で胸が張り裂けそうなんだけど」

「頑張れティア。慣れるんだ」

無言で見つめる家主の前で泥棒じみた行為をする勇者を見守るというのは何とも複雑な気分だが、それが普通だと言うのだから受け入れるしかない。そんなゴウが隣の部屋に移動すると、そこには五歳くらいの男の子がいた。

「ゆうしゃさま!?」

「ああ、そうだぞ……壺は無いが箪笥はあるな」

驚く子供を一瞥してから、ゴウが徐に箪笥を漁る。

「お、銅貨三枚か」

「あっ…………」

見つかった小銭をゴウが鞄にしまい込む。だがその様子を見た男の子があからさまにしょんぼりしており、その子にティアが優しく話しかける。

「ねえ貴方。あのお金は貴方のだったの?」

「う、うん。その……おかあさんのたんじょうびに、おくりものをしようとおもってためてたの」

「そう……勇者ゴウ、今すぐそのお金を箪笥に戻しなさい! じゃないと貴方の頭を吹き飛ばすわよ!」

「ちょっ、ティア!?」

割と本気の表情で剣に手をかけるティアに俺が慌てて声をかけるも、ゴウの方は平然とティアに答える。

「無理だな」

「無理!? 貴方、こんな小さな子供がお母さんのためにって貯めていたお金を盗んで、恥ずかしいと思わないの!?」

「思わん。これは勇者に与えられた特権だ。それを行使することを恥と感じるようでは勇者たり得ない」

「――っ! だったら……」

「だが……」

ティアが剣を握る手にグッと力を入れようとしたところで、ゴウがゴソゴソと鞄を漁り始める。

「どうやらもちものが一杯になってしまったようだ。何か捨てねば移動できんな……これでいいか」

ゴウが鞄の中から薬草の束を取り出し、近くにあったベッドの上にぽいと投げ捨てる。

「えっと……?」

「勇者が捨てた物は、それを最初に拾った者に所有権が移る。後は好きにすればいい」

困惑する男の子に、ゴウはそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。そしてそんな背中を、俺とティアは何とも言えない表情で見送り……ティアの手から力が抜ける。

「何なのよもう……っ!」

「あの、おねえちゃん?」

「あー、ほら、あれよ。その薬草、売ると銅貨五枚くらいにはなるはずだから、それでお母さんに何か贈ってあげるといいと思うわ」

「そ、そうなんだ……ありがとう、なの?」

「うぅーん、お礼を言われるのは違う気もするけど……とにかくそういうことだから、お母さんと仲良くね」

「うん……」

どうにも腑に落ちないという複雑な表情を浮かべる男の子をその場に残し、ティアが俺の手を引き部屋を出る。そのまま家からも出れば、外にはゴウが待っていた。

「来たか。次の家に行くぞ」

「ねえゴウさん。あの子がお礼を言ってたわよ?」

「それは俺の与り知らんことだ。俺は一杯になった道具を捨てただけだからな」

ティアの言葉に、ゴウは振り返ることなくそう口にする。その表情は見えないが、その声はどことなくホッとしているように感じられた。

「はいはい、そういうことにしておくわ……ハァ、本当にこの世界の勇者って面倒くさいわね。それともゴウさんが面倒くさいだけなのかしら?」

「ははは、どうだろうなぁ」

妙な特権と融通の利かない勇者。呆れたようなティアの問いに、俺は今回もまた苦笑するくらいしかできなかった。