軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

偉い奴が許すと言えば、どんな悪事も違法ではない

「フフーン、とうちゃーく!」

新たな世界に降り立ったティアが、その場でステップを弾ませる。可愛らしくはしゃぐその姿を見れば、俺の頬も自然と緩んでしまう。

「ははは、ご機嫌だなティア」

「そりゃそうよ! だって おろしたて(・・・・・) だもの!」

ポンと叩いたティアの腰には、俺の作った「銀霊の剣」が佩かれている。あの時よりも性能のいい魔導炉を使い、希少金属も潤沢に突っ込んだことにより、当時よりも性能は一割増しだ。

ちなみにここで「たった一割かよ」とか言うやつは、世界中の鍛冶屋にぶん殴られることになる。一定以上に完成した装備の性能を一割引き上げるというのは凄いことなのだ。

「それに、エドだってそうでしょ?」

「ん? まあな」

ニッコリと笑って問われれば、俺もまた思わずニマニマとした笑みを浮かべてしまう。俺の腰、左側に佩かれているのはいつも通り「 夜明けの剣(ドーンブレイカー) 」だが、右側に佩いているのは刀身のない柄だけの剣だ。

そう、俺は遂に「薄命の剣」も新たに造り出すことに成功したのだ。「 夜明けの剣(ドーンブレイカー) 」と違って色んな力を乗せたりはできないが、切れ味だけならこの「薄命の剣」に敵うものはほぼ存在しない。

流石に勇者の剣が時々持っている「どんなものでも斬る」みたいな訳のわからんトンデモ能力には劣るが、人の造った武器という枠の中ではこの「薄命の剣」こそが最高の切れ味を持っていることは疑う余地がないのだ。

「ううー、試し切りしたいわ! 適当な魔獣とかいないかしら?」

「それは流石に物騒じゃねーか? 気持ちはわかるけど」

新しい武器を手に入れれば、試したくなるのが冒険者の性だ。俺だってそうしたい気がないわけじゃねーが、かといってやってきたばかりの世界でいきなり魔獣を探して歩くのはいただけない。

「っていうか、ここは普通に魔獣がいる世界なのよね?」

「あーん? まあ、多分な」

ここでようやく周囲をしっかり見回してみると、今回もまたありがちな街道沿いの森の中だった。木々の隙間から遠くに町が見えるが、その町並みはよく見慣れた感じであり、キャナルのところみたいに馬鹿でかい石の塔……ビルが建ち並んでいたりはしない。

「この感じだと普通の……普通ってのも違うのか? とにかくいつもの感じの世界だと思うし、とりあえずは町に行ってみようぜ」

こういう感じの景色には何十と思い当たるため、これだけだとここがどの世界だか判別がつかない。ただこういう場所だと大抵町に行けば勝手に勇者に巡り会うため、そうすれば流石にわかるだろう。

「……途中で魔獣に襲われてる馬車とかいないかしら?」

「こらっ!」

物騒なことを口走るティアの頭をペシッとひっぱたいてから、俺達は並んで町まで歩いて行く。幸か不幸かそんなティアの望みが叶うこともなくごく普通に町に辿り着き、そのまま大通りを歩いていると、不意に通りの向こう側に立派な鎧を身につけた大柄な男の姿が目に入った。

「あー! そうか、ここか……」

一九〇センチほどの恵まれた体躯を鈍く輝く金属鎧に包む、黒目黒髪、短髪の三〇代くらいの男。何の苦労も無く発見したそいつこそがこの世界の勇者であり、その姿を確認すればここがどこだかもうわかる。

ここは第〇三一世界。これといった特徴も無い、ごくありきたりな世界だ……世界としては、だが。

「おいティア、あれがこの世界の勇者だ」

「あの人? うわ、確かにすっごく強そうね」

「ああ、強いぞ。強いんだが……まあいいや。じゃ、さっくり声をかけて勇者パーティに入れてもらうか」

「え、そんな簡単に仲間になれるの?」

「ああ。ここは俺に任せてくれ」

驚くティアに頷いて返すと、俺はそのまま通りを進んで勇者の前まで行く。すると向こうもこちらに気づき、足を止めて俺達に声をかけてきた。

「む? 何だ?」

「勇者ゴウ様とお見受けします。是非とも我らをゴウ様の旅の仲間にお加えください」

「そうか。いいぞ!」

「ありがとうございます!」

「えっ!?」

秒速で進んだ俺とゴウのやりとりに、ティアが驚きの声をあげる。が、ゴウはそれを気にすることなくそのまま俺達の横を通り過ぎて歩いていき、俺達もまたその後を着いていく。

「ちょ、ちょっとエド!? 何今の?」

「何って、ゴウさんの仲間になったんだよ」

「そうだろうけど! でも、え? そんな簡単に!?」

「ガッハッハ! 俺は来る者は拒まんし、去る者は追わん! そういう細かいことは気にしないのだ!」

「は、はぁ……」

歩きながらも一応振り返り、豪快に笑って言うゴウにティアが何とも言えない表情を浮かべる。そしてその表情のまま、ティアがそっと俺の手を掴む。

『ねえこれ、大丈夫なの?』

『ああ、平気平気。ゴウさんはそういう人だからな。つーか、こんなことで驚いてたらこれから先がもたねーぞ?』

『もっと驚くことがあるの!? なら最初に教えておいてくれてもいいんじゃない?』

『うーん、それもいいんだが、ちょっと内容が多すぎるというか、濃すぎるというか……その都度説明した方がよさそうだから、少し我慢してくれ』

『むぅ、エドがそう言うなら……わかったわ、ちょっとだけ覚悟しておく』

腑に落ちないという表情をしつつも、ティアが俺から手を離す。その後は一応自己紹介をしつつ進んでいくと、ゴウがとある民家の前でその足を止めた。

「よし、今日はここからだ」

そう言ったゴウが、民家の扉に手をかける。だが鍵がかかっていたらしく、ガタガタと数度扉を揺らしてからゴウは隣の家へと移動していく。

「? ゴウさん、何をしてるんですか?」

「ん? 入れる家を探しているのだ」

「入れる家……? そこに住んでる人に用があるとかじゃなくてですか?」

「そうだぞ……お、ここは開いてるな」

三軒目にして扉が開き、ティアの問いを聞き流したゴウが民家の中に入っていく。俺は無心でその後に着いていき、それを見たティアもおずおずと追いかけてくる。

「さて……フンッ!」

パリーン!

「は!?」

民家に侵入したゴウが、壁際にあった壺を徐に床に叩きつける。すると壺は小気味よい音を立てて砕け散り、その破片が辺りに飛び散る。

「ちょっ!? いきなり何してるのよ!?」

「何って、壺を割っているのだが?」

「だから何で壺を割ったの!?」

「それは勿論、俺が勇者だからだ……フンッ!」

「??????」

混乱するティアをそのままに、ゴウは更に壺を割っていく。そうして全ての壺を割り終えると、今度は適当な部屋に入り込んで箪笥の中身を物色し始めた。

「エド! エド! あの人箪笥の中を漁り始めたんだけど!?」

「ああ、そうだな」

「何でそんな反応なの!? これって泥棒でしょ!?」

「いや、それがなぁ……」

「こっちには何も無し、こっちは……おお、これは!」

ごそごそと他人の家の箪笥を漁っていたゴウが、その中身を頭上に掲げる。そこ持っていたのは薄くてスケスケな女性用の下着だ。

「えっちな下着か! これはいい値段で売れるぞ!」

「エド、今すぐこの人を衛兵に突き出しましょう! もしくは私が今この場で吹き飛ばすわ!」

「待て待て待て待て!」

今にも詠唱を始めそうなティアを俺が必死になだめていると、戦利品をゴソゴソと腰の鞄にしまい込んだゴウが立ち上がってこっちを見る。

「まったく、さっきから何を騒いでいるんだ?」

「貴方が泥棒みたいな……っていうか泥棒そのものなことをしてるからでしょ! いくら勇者だからってそんなことしていいと思ってるの!?」

「思ってるが?」

「なっ!?」

全く悪びれる様子の無いゴウに、ティアがその場で絶句する。ああ、それは俺が一周目に通った道だぞティア。

「な、なん、なんで……!?」

「勇者にはあらゆる場所に潜入し、そこにある壺を壊したり箪笥の中身を漁ったりして、冒険に必要なものを接収する特権がある。そんな事常識ではないか」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

絞り出すようなティアの叫びが、家主のいない民家の中に響き渡った。