軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

適当な予想ほど意外と当たっていたりする

魔獣の異常増殖の原因は何か? そんなこの世界における定番の謎に迷うことなく「誰か」だと答えた俺に対し、アメリアが楽しげに口元を歪ませる。

「ほほぅ、随分とはっきり言うのだな。その根拠は何だい?」

それは勿論、俺はこの世界に魔王がいると知っているから……などと言ったりはしない。真実は差し引きつつも、俺はこの世界で得た知識だけを使って自分の推論を語っていく。

「ものすごく簡単に言っちゃうと、消去法ですね。もし『何か』である場合、確かに古代の超文明が残した魔導具ってのはありそうだと思うんですよ。戦争に使うために魔獣を増やせる魔導具を作ったけど、魔獣を制御する部分に欠陥があったせいで魔獣が異常繁殖、それに飲まれて文明が滅びて魔導具も壊れたけど、何かの拍子でその増殖部分だけが再稼働してしまった……とか」

「うわ、何それ! 何か凄くありそうな感じね!」

「うむ。私も話を聞くだけで納得してしまいそうな推論だが、何故それが消去法で消えるんだい?」

目を輝かせて話に食いついてきたティアとアメリアに、しかし俺は残念ながら小さく肩をすくめてみせる。

「いや、だってこれ『謎の古代文明』があることが前提じゃないですか。そういう文明があって、しかもその文明が魔獣を増殖させるような魔導具を作ったって、その両方を満たすのは難しいでしょ。それとも俺が知らないだけで、実は古代文明の存在が何処かで確認されてたりするんですか?」

「……いや、残念ながら私も聞いたことがないな。所詮は下級貴族だから上層部がそういう情報を秘匿している可能性までは否定できないが」

「無いですって。だってそんなのが本当に確認されてるなら、多分もっと必死に『黒の森』に侵攻して、魔導具の確保に乗り出すはずですし」

「そうよね。そんな凄いものなら『存在する可能性』だけでも軍が動くわよね。実際魔獣は襲ってきてるわけだし」

俺の答えにティアはつまらなそうに唇をとがらせ、アメリアは少しだけ残念そうな表情になる。俺も浪漫は大好きだが、浪漫というのは現実と結びつかないから浪漫なのだ。

「むぅ、ではエド君の意見では、『何か』の可能性がより低いから、結果として『誰か』だということかい?」

「ですね。人の手で作った何かがあるよりも、魔獣の突然変異とかの可能性の方がずっと高いと思います。たとえば……そう、スライムとか」

「スライム?」

俺のあげた魔獣の名に、アメリアが不思議そうに首を傾げる。

スライムとは、丸い核の周囲を粘液状の体が覆っている魔獣だ。知能は低く雑食で何でも食べるため、油断しているときに木から頭の上にでも落ちてくれば脅威だが、意図して生物を襲うことはなく大抵は地面で草だのなんだのを食べているので、基本的には意識されることのない魔獣でもある。

「ほら、スライムって単体で増殖するでしょう? 要は完全な自己複製ができるってことですけど、もしそのスライムが異常進化して、自己複製の能力が強化されたら?

スライムの本体はあの核ですから、例えばゴブリンの体に核が入り込むことで、無限に増殖するゴブリンが生まれたら? あるいはそれが他の魔獣にも及ぶなら……世界中にあるありとあらゆるものを食べ尽くし、その栄養で無尽蔵に増えるスライム魔獣。それが新たな餌を求めて襲いかかってきてるとか……どうです?」

「それは……恐ろしいな。だが、そんなことが本当に可能なのか?」

「可能性はゼロじゃないかと。俺達人間だって男の胤が女の腹に入って赤ん坊になりこうやって成長するわけですから、栄養と情報があれば肉片から完全な体を生み出し続けることができるってのは、謎の魔導具があるって話よりはあり得ると思いますよ」

「むむむ……」

俺の言葉に、アメリアが腕組みをして考え込み始める。今適当にでっち上げた話にしては確かにありそうな気がして、実は俺もちょっと驚いていたりする。多分いるはずの魔王が俺っぽいスライム人間だったりしたらどうしよう……いや、そりゃ倒すんだけどさ。

「エドは想像力が豊かなのねぇ。私なんて魔獣が地面からポコポコ生えてくる感じしか思い浮かばないわ」

「ポコポコって……ま、案外真実ってのはそのくらい単純かも知れねーけどさ」

「はは、全くだ」

パスタをツンツンとフォークでつつきながら言うティアに、俺とアメリアは思わず笑みを溢す。ちょうどいい具合に気が抜けたこともあり、その後は違う話題で談笑を続けながらその日の食事も楽しく終わった。

毎日押し寄せてくる魔獣と戦い、それが終われば美味い酒を飲んで仲間と馬鹿騒ぎしたり、たまにアメリアに誘われて一緒に食事をしたり……それは危険ではあっても充実を感じさせる日々。結局上手い打開策も見つからないままあっという間に時が過ぎていって……しかしこの世界はそんな停滞をいつまでも許してくれるほど優しくはなかった。

「……………………」

戦い終わって、いつもの酒場。だが俺達の前にジョッキが並んでも、そこにいつもの笑顔は無い。第一声をあげるべき人物の席が空白のままだからだ。

「…………チッ! カーッ! たまんねぇな。この一杯の為に生きてるぜ!」

「ジョナサン、お前……っ!」

目の前に置かれたジョッキを荒々しく手に取り、傭兵の一人がそう口にする。それを咎めるように別の傭兵がその男……ジョナサンのことを見たが、ジョナサンはダンッと音を立ててジョッキをテーブルに叩きつけた。

「うるせぇ! 誰か……誰かがこう言わなきゃ始まんねーだろ!? 俺だって、こんなこと……」

「……悪い」

「ケッ。ガストルの野郎、下手打ちやがって……」

場の全員の表情は一様に暗く、湯気の立つ料理に誰も手をつけない。

わかっていた。俺を含めてみんな、そんなことは覚悟していた。「死線」なんて呼ばれる場所で戦っていれば、死ぬことだって珍しくないし、だからこそ相応の報酬が支払われている。

あるいは金のため。あるいは名誉のため。あるいは誰かを守るため。あるいは単に戦いのスリルを求め続けるため。様々な理由で俺達は戦い……ほんの少し引きの悪かった奴が脱落した。ただそれだけの日常が、俺達のところに回ってきただけの話だ。

「……いつまでも落ち込んでても仕方ねーよ。俺達は俺達で楽しくやろうぜ。じゃなきゃガストルだって寂しがるだろ」

「エド……だよな。よっし、俺達が騒いでガストルの馬鹿を盛大に送り出してやろうぜ!」

「おーい、姉ちゃん! 酒の追加ガンガン持ってきてくれ! 今日はガストルの弔い合戦だ!」

「テメェら、人を勝手に殺すんじゃねぇ!」

盛り上がる俺達のテーブルに、用足しを終えたガストルが戻ってくる。そのまま開いた席にどっかりと腰を下ろすと、冷えたエールを一息に呷ってその口を開く。

「カーッ! たまんねぇな。この一杯の為に生きてるぜ!」

「へへっ、やっぱりガストルはそうじゃねーとな!」

「当たり前だ! 俺は死ぬまで変わらねーぜ!」

仲間の言葉に大口を開けて笑うガストルだったが、決していつもと同じというわけじゃない。その右肩の先には、あるべきものがスッパリと無くなっていた。

「とは言え、死にたいわけじゃねーからな。助かったぜエド。ありがとな」

「気にすんな。ってか、俺がもうちょっと早く助けに入ってりゃ――」

「それは言うなって! 死ぬはずだったのが腕一本で済んだ! なら大もうけじゃねーか。感謝することはあっても恨む気なんて更々ねーさ! まあでも詫びの印に酒を奢ってくれるってんなら……」

「それは断る」

「即答かよ! そこはちょっとくらい悩めよ!」

「で、ガストル。やっぱり行っちまうのか?」

お決まりのやりとりをする俺とガストルをそのままに、別の仲間がガストルに話しかける。それは治療室から出てきたガストルが口にしていたことの確認だ。

「ああ。流石にこの腕じゃ『死線』で戦うのは無理だからな。田舎に帰って村の用心棒でもするさ。片腕でもゴブリンくらいは追い払えるだろ」

「まったく、ここの報酬を全部酒と女につぎ込んでなきゃ腕の再生だってできただろうに……」

「馬鹿野郎! いつ死ぬかもわかんねーのに金なんて貯めとくわけねーだろ! いいんだよ、俺は太く短く生きるんだ!」

そう言って笑うガストルの顔に、後悔の色は無い。まあ反省もしていないようなので、それがガストルの生き様なんだろう。

「ハァ、仕方ねーから今日くらいは奢ってやるよ」

「お、いいのかエド!? おーい姉ちゃん、店の酒全部持ってきてくれ!」

「馬鹿か!? 奢るのは一杯だけに決まってんだろ!?」

「何だよ、今日で最後なんだからケチくせーこと言うなって!」

「お前は最後でも俺はここで生活してくんだよ! おい、今の注文は取り消しだからな! 持ってきても絶対金は払わねーぞ!」

「エドが奢るんじゃしょうがねぇ。俺も奢ってやるよ……炒り豆を三粒くらいくれ!」

「じゃあ俺も。肉串を二……いや、一本くれ!」

「お前等俺に辛辣すぎねーか!? くっそ、おいエド、一杯だな? なら姉ちゃん、この店で一番高い酒をくれ! 味とかどうでもいいから、とにかく一番高いやつだ!」

「そこはちゃんと美味い酒を頼んどけよ……」

馬鹿な注文をするガストルに、俺は思いきり苦笑してみせる。死ではなくても別れは別れ。運ばれてきた糞みたいに強い火酒をひと舐めして思い切り顔をしかめるガストルをみんなで腹を抱えて笑い飛ばして別れを済ませ……少しだけ静かになった日常で、俺達は今日も戦い続けるのだった。