軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たとえその目に映っていても、意識しなければ気づけない

魔王を倒す画期的な方法を考える……口にするのは簡単だが、実現するのはそうじゃない。たかだか数日程度で良案が浮かぶはずもなく、今日も今日とて仕事を終えた俺は、酒場で仲間達とジョッキを打ち付け合い酒を飲んでいる。

「カーッ! たまんねぇな。この一杯の為に生きてるぜ!」

「……ガストルお前、本気で毎回その台詞を言うんだな」

「そう言うなよエド、俺なんかガストルのこの台詞を聞かねーと一日が終わった気がしなくなっちまったぜ」

「俺も俺も! 何かこう……今日も無事終わったなって感じで、ホッとするんだよな」

「何だよお前等、俺の事大好きか? なら酒の一杯くらい奢ってくれても――」

「「「それは断る」」」

声をそろえて言う俺達に、ガストルが思い切り顔をしかめる。が、それも一瞬。すぐに大笑いをしてエールを流し込めば、赤ら顔はあっという間に上機嫌だ。

そうしていつも通りに飲食を楽しみ馬鹿話に花を咲かせていると、不意に俺の背後からいつもとは違う来客がやってきた。

「フム、随分と楽しそうだな」

「おー、嬢ちゃん……じゃねえ、隊長!?」

「えっ!? お偉い騎士の隊長殿が、こんな酒場に何の用ですかい?」

酔っ払い共の口調は荒いが、別に嫌みを言っているわけではなく酔った思考が疑問を垂れ流しにしてしまっているだけ。それは件の女性騎士も理解しているようで、その顔に浮かんでいるのは怒りや苛立ちではなく単なる苦笑だ。

「私は別にお前達の隊長ではないのだが……っと、そうだ。今日私がここに来たのは、最近入ったばかりの新人が大活躍しているというから、一度話をしてみたいと思ったのだ」

「なんでぇ、エドがご指名かよ! チッ、何でこんなヒョロガキばっかりモテるんだ!?」

「おいエド、ティアちゃんには黙っててやるから、あとで具合を教えろよな?」

「隊長殿! 俺も割と頑張ってると思うんですけど、俺にはご褒美はないんですか!?」

「お前等マジでその辺にしとけよ……すみません。こいつらは後でぶん殴っておきますんで」

「ははは、気にしなくていい。確かに私は騎士であり貴族でもあるが、こんなところで身分を振りかざすほど無粋じゃないさ。少しいい店を取ってあるんだが、一緒に食事でもどうかな?」

「ありがとうございます、お受けします」

今日もまた背後で騒ぎ立てる馬鹿野郎共の声を聞き流しつつ、俺は女性騎士と一緒にその場を後にする。が、店を出たところで足を止めると、彼女が俺に話しかけてきた。

「そうだ、実はもう一人食事に誘いたいと思うのだが、構わないだろうか?」

「もう一人ですか? 俺は構いませんけど、誰を?」

「うむ、実は君の他にもう一人、同じ日に入って活躍している女性がいるのだ。確かエルフの精霊使いだったか……」

「あー、ひょっとしてティアのことですか? それなら俺の友人……というか、ここまで一緒に旅をしてきた仲間ですから、何の問題もありません」

「ぬ、そうなのか? それはまた偶然……いや、君の実力に伴った仲間であれば、そちらも強いというのは道理か。ではティア君も誘って三人で食事をするとしよう」

「わかりました。ティアなら多分、後衛組と飲んでるはずなんで……あそこの酒場ですかね」

「うむ、行ってみよう」

俺の発言に彼女が頷き、訪れた店であっさりとティアを見つけると、三人になった俺達は彼女の案内で見るからに高級な店の個室へと通される。そこで全員が席に着くと、彼女が改めて自己紹介をした。

「では、改めて名乗らせてもらおう。私はレバーデッド王国ドラスドン駐留軍第三隊に所属している、アメリア・カールトンだ」

「カールトン様ですね。俺はエド、流れの傭兵です」

「私はルナリーティアです。エドと同じく流れの傭兵です」

「エド君にルナリーティア君だな。よろしく。ああ、公式の場ではともかく、普段から様付けなどしなくてもいいぞ? アメリアでいい」

「えっと、いいんですか? 貴族の女性を呼び捨てにするのはマズいのでは?」

「あー、いや、呼び捨てではなく、普通に『アメリアさん』でいいと言ったつもりだったのだが……」

「おぉぅ、そりゃそうですよね。すみません」

ちょっと困った顔をするアメリアに、俺は素直に頭を下げる。そしてそんな俺をティアが呆れた表情で見つめてくる。

「まったく、何やってるのよエド……あ、私のこともティアで構いません。よろしくお願いします、アメリアさん」

「ああ、よろしく」

とにもかくにも和やかに挨拶は終わり、俺達は適当な会話をしながら食事を勧めていく。最近の活躍に始まり、出身地やら来歴やらを聞かれたが、その辺はきちんと考えてあったので大丈夫だ。俺もティアも無難な受け答えをし、アメリアにしても深く突っ込むほどの興味があるわけでもないだろうから、それなりに会話が弾み次々と話題が切り替わっていく。

「そうだエド君。ちょっと聞いてみたかったんだが、このドラスドンで一週間ほど戦った君としては、ここでの戦いに何か違和感を覚えたりしなかったかい?」

「違和感、ですか? それは何か意図があっての質問でしょうか?」

「うむ。私は一八で騎士に任命されてから、七年間ずっとこの城塞都市で戦ってきた。つまるところ他の場所での戦いを知らないのだ。だが傭兵ということなら内地で活動している魔獣との交戦経験も豊富なのだろう? ならばそことこちらで魔獣の活動に差異があったりするのかと気になってな」

「ああ、そういうことですか。ならまず一番違うのは、やっぱり襲撃の頻度でしょうか。内地というかここ以外の場所で、こんなに頻繁かつ大量に魔獣が襲ってくるような場所はありません。

魔獣だって生き物ですから増えるには時間がかかりますし、食料だって必要なわけですから、それらを全部無視して連日襲ってくるというのは圧倒的な違和感ですね」

「ふむ、それは確かにそうだろうな。誰もがこれを異常だと感じているし、その原因を調べるために幾度となく調査隊が『黒の森』に送り出されたが、未だ究明には至っていない。まああれだけの数の魔獣がいては一〇〇歩踏み込むことすら難しいだろうから、やむを得ないと言えなくもないが……」

顔をしかめるアメリアに、俺も大きく頷いて返す。ほぼ無尽蔵に湧き続ける魔獣の群れの中に留まり、何処かにあるかも知れない何か……なんて不確定要素の塊を調べるとなれば結果が出なくて当然だ。

「後は、そうですね。多分ここの魔獣って、全く同じ場所に同じタイミングで復活してますよね」

「…………何?」

何気ない俺の一言に、アメリアの表情がにわかに険しくなる。

「どういうことだ? 何故そう思う?」

「あくまで俺の予想ですけど、あいつらって全滅に近い被害を受けると、おそらく森の奥で復活するんだと思うんです。少なくとも物見の監視が通るような場所で湧いて出てきてるならとっくに認知されてるでしょうし」

「……そうだな。続けてくれ」

「で、森の奥で復活した魔獣は、すぐにこっちに向かって移動を始めるんだと思うんです。でも魔獣って一口に言っても、種類によって移動速度は違うでしょう? オーガやトロールなんて大物は足が遅いですけど、ウルフとかボアなんかはあっという間に森を駆け抜けて町の近くまでやってくる。だから基本的には奴らの襲撃が一番多くなる。

で、全滅に近い被害を受けるとまた森の奥で蘇ってこっちに向かってきますけど、その途中でオーガ達に追いついたり追い越したりして、その辺のタイミングによって町の側まで来た敵の部隊構成が変わってるんじゃないかと」

「それは……実に興味深い意見だな。だがそれが本当だというのなら……」

「魔獣の種類ごとに倒してから再襲撃までの時間をきちんと計測したら、事前にいつどんな魔獣が襲ってくるかわかるようになる……かも知れないですね。逆手に取られて足をすくわれる可能性もあるんで、過信は禁物でしょうけど」

ぐいっとジョッキを傾ける俺の顔を、アメリアは真剣な表情で見つめ続けていた。