軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅立ちとは去ることではなく、一歩前に進むことだ

「遂に終わったんですね……」

「ああ、そうだな」

あの後、急速に不安定になっていった魔王の部屋から飛び出した俺達は、その勢いのままに城の外まで避難していた。それとほぼ同時に城を覆っていた結界が消え去り、威容を誇った魔王城が周囲の町並みと同じ瓦礫へと変貌していく。

それを感慨深く最後まで見届けると、リーエルが改めて俺達に深く頭を下げながら声をかけてくる。

「ありがとうございます、エドさん。ティアさん。お二人のおかげで、魔王討伐という偉業を成し遂げることができました。この世界に住まう一人の人間として、心から感謝の言葉を捧げさせてください」

「あー、いいっていいって。なあティア?」

「そうよ! 一緒に戦った仲間なんだから、そんなに畏まられたら寂しいわ」

「そう、ですか……フフッ、ならそうさせていただきます」

柔らかく笑うリーエルに、俺達もまた笑顔を交わし合う。見上げた空は青く澄み渡っており、この世界の新たな門出を祝福しているかのようだ。

ちなみにだが、ティアに切り飛ばされた腕は既に治っている。リーエルの魔法だけだと難しかったが、魔王が死んで少ししたところで追放スキルが使えるようになっていたため、「 包帯いらずの無免許医(リジェネレート) 」で再生させたのだ。

てか、ここまででかい怪我を治したのは初めてだったんだが、切断面からみるみる肉が盛り上がって腕になっていくのは正直ちょっと怖かった。これは確かに魔王の力だなと思わず納得しちまったくらいだ……閑話休題。

「それに、まだ完全に終わりってわけじゃねーだろ? 魔王軍の残党とかいるだろうし」

「そうですね。ですが大勢は既に決しておりますから、後は時間の問題かと」

「そりゃ一〇万人もいたらあっという間よね。あー、私達の時もそのくらい援軍がいれば……」

「そしたら俺は、どうやって追放されるか悩みに悩んでたと思うけどな」

冗談めかしたティアの発言に、俺も苦笑しながら乗っかっていく。もしあの世界で同じような連合討伐軍が形成されていたら……本当にどうしただろうな?

「そうだよな。今回みたいにサクッと魔王のところまで辿り着いちまったらわざと怪我をしてパーティを離脱するのすら難しそうだし……最悪最初の時と同じようにティアの着替えでも覗くか?」

「エドのエッチ!」

「ふがっ!?」

俺の鼻先をティアがペチンとひっぱたき、その可愛らしい頬を膨らませる。

「ああ、エドさんはやはりエロスの人なのですね! ですが今やエドさんは魔王を倒した勇者、であれば私の身くらいはお礼としてお捧げしても……」

「エドのエッチ!!!」

「ぐはっ!?」

頬を染めて腰をくねくねさせるリーエルを前に、俺の鼻先にティアの拳が炸裂する。さっきよりも三倍くらい痛い。

「それは流石に理不尽じゃないですかねティアさん?」

「ふーんだ! 乙女の敵には容赦なしよ!」

「す、すみません! 私のせいで……」

「別にリーエルのせいってわけじゃ……いや、リーエルのせいか? 深く考えるといいことが一つもなさそうだからそれは置いておくとして、それじゃ魔王も倒したことだし、いよいよお別れだな」

「えっ!?」

俺の言葉に、リーエルが驚きで目を見開く。だがその反応こそ驚きだ。

「何で驚くんだ? 魔王を倒したんだから、俺達の旅はここまでだろ?」

「それはそうですけど、でもほら、せめて祝勝会というか、世界中の皆さんに魔王を倒したという報告くらいはしてもいいんじゃありませんか? お二人の雄姿を見たいと思っている方は沢山いるでしょうし」

「いや、それをやると俺達が 帰りづらく(・・・・・) なるじゃん? もし『追放』が失敗したらそうするしかねーけど、そうじゃねーなら今が一番いいタイミングだ。俺とティアは魔王と戦うも相打ち、死体も残らず消し飛んだってことにすればつじつま合わせは簡単だろ?」

「そんなこと……っ!」

責めるような目をしつつも、リーエルはそこで口をつぐむ。リーエルは決して肩書きだけの聖女じゃない。その力故に数え切れないほどの命を背負い、その若さと美しさは自分の所属するアーレーン教を超えて政治利用されることだってある。

ならば当然、俺達が戻ればどうなるかもわかっている。勿論大枠では大歓声を受けるだろうし、色んな国と築いてきた協力関係があればそう無下に扱われることもないはずだ。

が、関係が深いということは切りづらいということでもある。俺達は単にこの世界から去るだけだからどうでもいいと言えなくもないが、ここに残るリーエルは違う。ある日突然俺達が姿を消したならば、魔王討伐を共にした仲間としてリーエルの元に問い合わせが殺到するのは必然だ。

「私の立場や存在が……お二人の足を引っ張ってしまっているのでしょうか?」

「それも間違っちゃいねーけど、そもそも根本的には俺達が魔王を倒したっていう事実があるのが原因だからなぁ。

ま、人生出会いがあれば別れもある。悩んでも仕方ねーさ。ってことで、やってくれ」

「……いいんですか?」

「ええ、お願い」

「……………………わかりました」

そっと手を繋ぐ俺とティアを見て、リーエルが祈るように胸の前で手を組み、まっすぐに俺達を見つめる。

「異世界より訪れし勇者達の力によって、この地の魔王は打ち倒され、世界に安寧がもたらされることでしょう。その勇気と仁愛に、心からの感謝を。

ありがとう。そして、さようなら。この命ある限り、私はお二人のことを忘れません」

ピコンッ

『条件達成を確認。帰還まで残り一〇分です』

無理に笑顔を作っているようなリーエルの言葉を受け、俺の頭の中にいつもの声が聞こえる。

「おっ、いけた!」

「それは、問題なく『追放』できたということでしょうか?」

「ああ、そうだな。これで――っ!?」

不意に、俺の胸にリーエルが飛びついてきた。がっしりと腰に腕を回され、見上げる瞳には溢れんばかりに涙が湛えられている。

「何故!? 何故『追放』なのですか!? 私はこんなにも、こんなにも感謝しているのに……私にはお二人を、幸せを願って送り出すことすら許されないのですか!?」

「はは、ありがとなリーエル。でもいいんだ。『追放』という概念そのものは俺にはどうしようもない。アホみたいな拡大解釈が許されてるだけでも相当な進歩なんだ。

そして今、リーエルのおかげで更に一歩進めた。俺達は……魔王を倒してから帰ることができるようになったんだ」

「そうよリーエル。貴方のおかげで、これから先もやるべき事をやりきってから世界を去る目処が立ったわ。だからありがとう。この先私達が訪ねる全部の世界を救うきっかけを作ってくれて。貴方は間違いなく聖女だったわ」

「ティアさん……っ!」

俺から離れたリーエルが、今度はティアに抱きつく。そんなリーエルの背中をさするティアの顔は何処までも優しく、まるで聖女を抱き留める聖母のようだ。

「さ、ティア。そろそろ……」

「ええ、そうね」

ぐずるリーエルから離れたティアが、俺の呼びかけに手を差し出してくる。そうして二人で手を繋ぐと、俺は最後にリーエルに声をかけた。

「なあリーエル。お前のおかげでこの世界から魔王が消えた! もし もう一度繰り返しても(・・・・・・・・・・) 、この世界にはもう二度と魔王は生まれない! 誇れ! お前は未来永劫この世界を救ったんだ!」

「エドさん……はい、わかりました!」

「楽しかったわリーエル! もう会えないのだろうけれど、それでも私達はずっと友達よ!」

「ティアさん! 勿論です! でも、会えないなんて言わないでください! あの術式を元にして、きっとまたお二人に会いに行きます!」

「ふふ、そう? なら再会を楽しみにしておくわね。あ、でも無茶はしちゃ駄目よ? 私みたいに寿命を削ったりしたら絶対に許さないから!」

「わかりました! その分おばちゃんかおばあちゃんになってしまうかも知れませんけど……」

「いいじゃない! それじゃ――」

「またな!」

『三……二……一……世界転移を実行します』

初めて見送りながら、初めて見送られながら。手を繋いだ俺とティアの体は光となってこの世界から『追放』されていった。