軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

011 エリンさんのお願い (3)

「あの風系統の素材、私たちが取りに行ったんだよなぁ……」

「その際は、お世話になりました」

どこか遠い目で宙を見上げるアイリスさんに、私も彼女たちから聞かされた苦労話を思い出し、頭を下げる。

「いや、私たちがやると言ったんだ。店長殿が気にする必要はない」

「そうよ。店長さんは止めていたのに、アイリスがやるって言うから……」

乾燥食品製造機(ドライフード・メーカー) に必要な風系統の素材。

それが得られる場所が近くにあることは知っていたが、当初私は、レオノーラさんに頼んで入手する予定だった。

師匠に頼んでも良いけど、レオノーラさんとの繋がりは大事だし、ウチには持ち込まれていなくても、レオノーラさんの所は産地近くの錬金術師のお店。

在庫もあるだろうし、値段も手頃だろうと思っていたから。

けど、それを聞いたアイリスさんが『私が採りに行く!』と手を上げたのだ。

場所は判っているし、情報もある。

彼女たちの実力を考えると、おそらく不可能ではない。

でも、少し大変かも、と私はそれとなく止めた。

『アンドレさんたちと一緒に行った方が安全では?』と。

ちょうどそのとき、彼らが村にいないのを知った上で。

「だ、大丈夫だと思ったんだ! 私だって、下調べはしたんだぞ?」

「まぁ、確かに大丈夫ではあったけど、苦労はしたわよね」

「く、苦労と努力があって人は成長する。良い事じゃないか!」

「……本当にそう思ってる?」

「……ちょっとだけ、早まったかとは思っている。すまない」

ケイトさんからジト目を向けられ、アイリスさんは一瞬沈黙、気まずそうに視線を逸らし詫びの言葉を口にした。

それを聞いたケイトさんは、柔らかい表情に戻って『ふぅ』と息を吐いた。

「まぁ、良いんだけどね。そんなアイリスのフォローをするのが私の役目でもあるから」

「で、でも、お二人が頑張ってくれたので、この村の保存食も充実して、お父さんの利益も……ほとんど変わってないですが、売り上げは伸びてますから!」

ロレアちゃんによると、ダルナさんは村人から仕入れている保存食には、ほとんど利益を乗せずに販売しているらしい。

その理由は、言うまでもなく利益の分配。

比較的恩恵を受けやすい宿屋や鍛冶屋などに比べ、農業を主体にしている村人は、現金収入があまり増えていなかった。

私がお願いした仕事や村で借家からの分配金はあるが、それでも収入に差があることは間違いなく。

たぶん、それを補う意味もあるのだろう。

その分、ダルナさんの利益は減るが、保存食をサウス・ストラグから運んでくる必要がなくなり、村人の保有するお金も増え、結果的に雑貨屋で買い物をする機会も増える。

採集者も美味しい保存食であれば購入量も増えるし、全体としての売り上げが増えた結果、経営自体は少し楽になったらしい。

「そう言ってくれるのはありがたいのだが、私が取りに行かなくても、店長殿は入手できたんだよな? それに、頑張りで言えば、ロレアだろう。新しくできた保存食、そのかなりの部分に関わっているって聞いたぞ?」

「えぇ。単純な乾燥野菜や乾燥肉を除く料理全般、ロレアちゃんが手伝ったのよね?」

「それは私も聞いた……というか、私も協力したしね。魔力の面で」

試作品を作ろうと思えば、 乾燥食品製造機(ドライフード・メーカー) は絶対に必要。

だが、普通の人では何度も稼働させるような魔力は持っていないし、その度に屑魔晶石を消費していては、コストがかかりすぎる。

エリンさんもさすがにそこまでは負担できないと思ったようで、魔力面で私に協力を依頼してきたのだ。

――先にロレアちゃんを落とした上で。

ロレアちゃんと共に頼まれれば、私も嫌とはいえず、試作品作りに必要な 乾燥食品製造機(ドライフード・メーカー) の稼働魔力は、屑魔晶石ではなく、私の魔力から供給することになった。

その代わり、試作品に必要な食材はすべて無料で提供されたし、余った食材や作った試作品はウチの食卓に上ったので、別に損をしたわけでもない。

消費する魔力なんて、私からすれば微々たるものだし、何よりロレアちゃんが楽しそうだったから。

ちなみに、魔力以外の私の協力は試食のみ。

料理自体には一切関わっていない。

「その節はお世話になりました。結局、報酬はもらってないんですよね?」

「それはロレアちゃんも同じだよね? 材料の現物支給だけで」

「村のため、採集者のためですから。大きな視点で見れば、結果的に私の実家にも、このお店にも利益はありますからね」

「おぉ……まだ十三歳とは思えないしっかりとした考え!」

「私も、もう少ししたら、十四歳ですからね。いつまでも子供じゃありません」

そんな事を言いながら、『えへん!』と胸を張るロレアちゃん。

そっか、そろそろ誕生日なんだ?

確か、冬頃って言ってたっけ。何か考えておこうかな?

誕生日のお祝いなんて余裕がある家庭でしかやらないけど、幸いなことに、今の私は余裕があるからね。

「しかし、そのおかげで、私たちも野営で美味しいものが食べられるのだから、ありがたい話だ」

「以前と比べると、雲泥の差よね」

しみじみというケイトさんに、私もまた、深く頷く。

ロレアちゃんのおかげで最近はお世話になる機会もないけれど、以前の保存食の味気なさは、私もよく知っている。

そのお手軽さから頻繁に利用していたけど、別に美味しいと思って食べていたわけじゃない。

短時間で用意でき、錬成の時間を確保できるから多用していただけ。

それと比較すれば、ロレアちゃんが作った保存食は圧倒的に美味しい。

もっとも、コスト面の問題から、そのすべてが採用されたわけじゃないみたいだけど。

レシピ自体は完成しているので、高くても良いのであれば、受注生産はしてもらえるらしい。

「ところで店長殿。私たちは明日から暇になるのだが、何か手伝えることはあるだろうか?」

「暇に、ですか? 準備は良いんですか?」

「問題ない。テントは店長殿に借りられるし、耐熱装備を含め、必要な道具の手入れは怠っていない。食糧は今日手配してきたので、あとは出発を待つのみなのだ」

「でしたら、出発まで、近場で採集を行えば良いのでは?」

「私はそう思ったのだが、ケイトが――」

アイリスさんが言葉を濁し、ケイトさんの方を見れば、彼女はこくりと頷き、困ったように眉を寄せる。

「今日もそうだったんだけど、ノルドさんが村の周りをうろついているのよ」

「もうですか? 研究熱心なんですね」

「そうね。でも、そうなると、私たちが森に行ったら、彼に関わることになりそうで……」

「ダメなんですか? どのみち、数日後には一緒に仕事をすることになるんですよね?」

「そうなんだけどね。でも、彼って、厄介事を持ってきそうな雰囲気があるのよね、私の第六感的には」

報酬は良いので仕事は請けたが、なんとなく面倒そうな人。

だからこそ、仕事でもないのにあまり関わる時間を増やしたくないらしい。

「気持ちは解ります。ああいうタイプの人って、無意識に、悪意もなく、そして自然に、周りに迷惑を掛けるんですよねぇ……」

錬金術師養成学校にも、いた。

それも複数。

有能なのに、何故か問題を起こして、しかも解雇されたりはしないんだよね。

いや、有能だからこそ、解雇されていないのかな?

無能で問題を起こすなら、残っているわけないよね。

「それでは明日、お二人には手伝っていただきましょうか」

「ああ、何でも言ってくれ。ただし、細かい作業は、ケイトの担当な!」

「ちょっと、アイリス。革を縫うのなんて、私もほとんど経験ないわよ? 力が要るんだから、むしろあなたの分野だと思うけど」

「むぅ。裁縫は得意じゃないんだが……」

「はぁ……。あなた、一応、女の子でしょ? 上級貴族ならともかく、しがない騎士爵夫人が裁縫もできないって、致命的じゃない」

「大丈夫ですよ、ケイトさん」

呆れたようなため息をつくケイトさんを制し、私は「ふふふ」と笑う。

「おぉ、もしかして店長殿が、そちら方面を担当してくれるのか? ならば私は良き夫として――」

「違いますっ。テント作りのことです!」

同性婚の場合、貴族としての役割分担がどうなるのかは私も知らないけど、今はそっちじゃない。

「こほん。私には秘策がありますから」

咳払いをして気を取り直し、私は再び「ふふふ」と笑った。