軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

031 高価な薬草を育てよう (4)

自分がやるわけじゃないけど、魔力操作の練習を見るのは地味に疲れる。

いや、むしろ自分がやるよりも疲れる。

きちんと操作ができているか、他人の魔力を『見る』必要があるから。

軽く目元をマッサージしながらしばらく待っていると、私の前にコトリとカップが置かれた。

立ち上る香気に鼻をくすぐられ、気持ちが落ち着く。

私はロレアちゃんに「ありがと」とお礼を言って、その温かいお茶を一口。

ほどよい温度と渋みが心地好い。

「ふー、美味しい」

「お粗末様です。……あの、サラサさん、魔力操作が上達する、何か良い方法とかありますか?」

「当然だけど、基本的には地道な練習だね。魔法を精密に使ったりするのも効果的だけど、今のロレアちゃんが使える魔法だと向いていないから、これはそのうち、かな? あとは 錬成具(アーティファクト) を扱うのも効果があるよ。魔力を流す感覚というのが解るから」

「 錬成具(アーティファクト) ……魔導コンロとかでも、ですか?」

「あのへんは一般人でも使いやすくなっているから、そこまでじゃないけど……以前ロレアちゃんがフライパンを熔かしかけた魔力炉なんかは、ある意味最適」

あれはウチにまだ魔導コンロが導入されていなかった頃。

貧相で手抜きな食事をしていた私に、ロレアちゃんが『私が作ります!』と言って、料理を作ってくれたことがあるんだけど……その時に使ったのが、工房に置いてある魔力炉。

大型のものじゃなく、ちょっとした鍛冶作業に使う小型の物だったんだけど、小型でも金属を熔かせるだけの能力はあるわけで。

注入魔力の操作が未熟だったロレアちゃんは、結果、家から持ってきたフライパンをダメにして、大火傷をしかけた。

フライパンの方は私が直したけど、あのときは私もちょっと焦った。

ついでに、もう一つ失敗もあったので、当然だけどあれ以降、工房で料理なんてさせていないし、すでに台所が整備された今では、する必要もない。

それを思い出したのか、ロレアちゃんもまた、気まずそうに目を伏せ、口を曲げる。

「あ、あれは……苦い思い出です」

「うん、さすがに私も、あれに触らせる気はないよ。今はまだ」

本格的に錬金術師の修業を始めてからかな?

当分は知識面を伸ばす予定だから。

「他の物だと……そうだね、ちょうどそこに置いてある育苗補助器なんかは危険がなくて良いかも」

「あれですか。綺麗な 錬成具(アーティファクト) ですよね」

私の前に座ってお茶を飲んでいたロレアちゃんは、カップを置いて立ち上がると、窓際の育苗補助器の前に立ち、ポットをじっと観察する。

「まだ芽は……出てませんね」

「さすがに一晩じゃ出ないよ~。補助するだけで、成長を促進するわけじゃないから」

育苗補助器の機能は植物の最適環境に近付けるだけなので、発芽にかかる期間は普通に植えた場合とそんなに違いはない。

植物の中には一晩で芽を出すような成長の早い物もあるけど、今回植えた物はいずれも価格の高い――つまり、栽培の難しい薬草。

簡単に芽を出すはずもない。

「あ、でも、育苗補助器の方は、昨日見たのと少し違いますね。なんだか、光が薄くなったような……?」

「え、ホント? そんなすぐに判るほど魔力消費はしないはずだけど……」

「でも、ここ、違いませんか?」

私も立ち上がり、ロレアちゃんの横に移動して育苗補助器を見る。

ロレアちゃんが指さしているのは、側面に配置された魔晶石。

それは明らかに昨日よりも白さが劣り、魔力消費の兆候が見て取れた。

「……ホントだ。んぅん?」

この育苗補助器、私がお店を空けることも考えて、やや多めに魔力を蓄えられるように設計している。

普通ならわずか一日で、魔力の消費が判るような変化は起きるはずがない。

にもかかわらず、そうなっているわけで……。

もしかして、作るときに何か失敗したかな?

「……ま、補充しておけば良いか。動作には問題ないみたいだし」

「あ、サラサさん。私がやってみても良いですか?」

「そうだね、いいよ。やってみて。ここに指を置いて」

「はい……。確かにこれは……魔導コンロを使うのとは違いますね」

「でしょ? でも、ちゃんとできてるよ」

ややぎこちないながら、魔力はきちんと補充されている。

そのまま見守っていると、やがてロレアちゃんが育苗補助器から手を離す。

「ふぅ……。私にはこれぐらいが限界でしょうか」

「うん、あまり無理しないでね。大体、満タンだし」

私はチョイと育苗補助器を触って足りない分を注ぎ、魔力をほぼ消費しきって、ふらつきそうなロレアちゃんに手を添えて椅子に座らせる。

「どのぐらいまで消費すると行動に支障が出るかとか、どのぐらい休めば回復するかとかを把握するのも重要だからね。しばらく座って休んで」

「はい。ありがとうございます」

私がロレアちゃんの身体に手を添えたまま隣の椅子に腰を下ろし、少しぬるくなったお茶を飲めば、ロレアちゃんは気怠げにテーブルに身体を預け、空いている椅子をぼーっと眺めた。

「……アイリスさんたち、今頃、どうしているでしょうか?」

「う~ん、サラマンダーはいないから、危険性は低いだろうし、順調にいけばそろそろ帰路につく頃だと思うけど……同行者が研究者、だからねぇ」

自分の興味優先で、予定外の行動をするのが研究者だと、私は思っている。

ちょっと偏見入ってるけど、たぶん、そこまで外れてはいない。

それを考慮すると、下手をすれば途中で盛大に道草を食い、やっと現地に着いたぐらい、なんてことすらあり得る。

「まぁそれでも、食糧の都合があるから、その範囲で戻ってくるとは思うけどね」

さすがに、食糧の現地調達をしながら粘る、なんてことはないと思いたい。

サラマンダーの洞窟周辺で確保できる食糧なんて、溶岩トカゲぐらい。

研究第一で他のことは二の次みたいなノルドさんはともかく、それに付き合わされるアイリスさんたちが可哀想すぎる。

「でも、危なくないのなら、ちょっと安心です」

「うん、ま、何かあっても、その時のために――」

と、まるでタイミングを計っていたかのように、家の中に声が響き渡った。

「助けて欲しいにゃん! 助けて欲しいにゃん!」

「「………」」

どこか聞き覚えのある声に、普通ならその人が口にしそうにない言葉。

何だか冷たく見えるロレアちゃんの視線が、私にグサリと突き刺さる。

「……サラサさん、これは?」

「これは共鳴石、つまり、アイリスさんたちからの救難要請だね。何か自分たちでは解決できない問題が発生した模様」

「いえ、そうではなく。あ、いや、そっちも重要ですが、この台詞は?」

「これ? 単なるベルの音とかだと聞き逃すかもしれないから、アイリスさんにお願いして、絶対に気付く音にしてみた」

「――という 体(てい) で?」

「アイリスさんに、可愛い台詞を言わせてみたかった」

「サラサさん……」

ロレアちゃんの呆れたような声に、ちょっぴり刺激される私の罪悪感。

でもむしろ、そのために共鳴石を作ったといっても過言ではない!

何の音かを決める過程で、色々楽しませてもらったから!

羞恥に染まるアイリスさんが――こほん。

その代わり、共鳴石自体はタダで提供したから、問題ないよね?

「しかし、実際に使うことになろうとは」

「あっ! つまりこれって、アイリスさんたちが危険な目に遭ってることですよね!?」

「間違えて壊しちゃった、ということも考えられるけど……たぶん?」

「た、大変じゃないですか!! どうしましょう!?」

慌てて立ち上がろうとしてふらついたロレアちゃんを支え、再び椅子に座らせてから、私は静かに応える。

「落ち着いてロレアちゃん。そのために 錬金生物(ホムンクルス) を同行させているんだから」

「そうでした! い、急いで確認してください!」

「了解。ちょっと遠いから、大変だけど――」

錬金生物(ホムンクルス) と意識を同調させると、自分の身体の方がちょっと疎かになる。

本当は寝た状態が一番なんだけど、不安に揺れるロレアちゃんの瞳を見ると、『ちょっと横になってくるね!』とは言いづらい。

私は椅子に腰を落ち着かせ、両手をテーブルに置いて身体を安定させると、ゆっくりと魔力を練り始めた。