軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話:暗殺者は必殺技を試す

ピクニックに出かけていた。

タルトはバスケットを持って上機嫌そうに歩いている。

早朝から、気合を入れて弁当を作っており、今から食べるのが楽しみだ。

「やっぱり、料理。私も覚えようかな。タルトにポイントたくさん稼がれてるよ」

「俺としてはディアには、料理を覚えるより、魔法研究で頑張ってほしいんだがな」

「そうですよ! 料理までディア様にやられてしまうと私の立つ瀬がないです」

「……タルト、俺はそういう意味でいったわけじゃないんだがな」

「しょうがないな。じゃあ、料理はタルトに任せるよ。私は得意分野の魔法でポイント稼がないとね。はいっ、これ」

「新しい魔法か」

「そうだよ。ルーグに頼まれてたの。今までは、より強力な魔術とか、より複雑な魔術とか作ってたけど、より速い魔術。速さに特化した魔術を考えてみたんだ。限界まで情報圧縮して、極限まで短い術式で成立させたんだ。単純な魔法で精度もよくないけど、とにかく発動が速いし使い勝手がいいよ」

「ありがたいな。実戦での魔法はいかんせん、使いにくいからな」

魔法には詠唱が存在する。

近接戦闘をしながら詠唱を行うのが非常に難しい。

実戦では、風の鎧といった一部の魔法以外はほぼほぼ使えない。

タルトが愛用している風の鎧は、意のままに動く風の鎧をまとうことができるため、戦闘前に詠唱を終えてしばらくその恩恵を受けることができる。

だが、ほとんどの魔法はそうはいかない。

もともと、前衛に守ってもらいつつ詠唱を完了させるのが魔法使いのスタイルであり、近接で魔法が使えないのは仕方ないのかもしれない。

……ただ、その仕方ないをなんとかしたいと思っていた。

そのために、ディアといろいろと研究しており、その一つが速さに特化した魔法。

ディアの式を読み解く。

極限まで式を圧縮したそれは芸術的で美しいとすら思った。

なんてセンスだ。これは俺には組めないな。

「いい式だ。俺の【式を織るもの】でさっそく、新しい魔法にしてみせる」

「ふふん、なんと三行だよ。私たちなら一秒で発動できるね」

「だな」

高速詠唱のために舌の訓練をしており、常人よりもずっと速く詠唱が可能だ。

たった三行の魔術式であれば一秒、いやそれ以下で発動できる。

これなら、戦闘でとっさにということができるだろう。実用圏内だ。

「火属性なのが残念です。私には使えません」

「タルトは、風の鎧があるからいいじゃないか」

「あれ、戦闘が始まる前に小声で詠唱を始めることで実戦でも使えていますが、一度解けちゃうとかけ直しが絶望的なんです」

それもそうだな。

あれは強力な魔法だけあって、詠唱時間も長い。

タルトが物欲しそうにディアの顔を見る。

「わかったよ、風の術式も組んであげる。でも、その代わり、またケーキを焼いてね。……タルトのケーキって高い材料使っているわけじゃないのに妙に美味しいんだよね。技術も、うちのパティシエたちより優れているわけじゃないのに」

「えっと、その、愛情がたっぷりだからですかね?」

「どうして疑問形なんだよ」

タルトとディアが笑い合う。

たしかにタルトの焼くケーキは美味しい。

素材も調理法も普通なのに、とてもほっとする味だ。

「それにしても、この山は歩きやすいね。ピクニックにはぴったりだよ」

「はい、けっこう道が整備されてます」

「このあたりは、行軍で使われるからな。手入れが行き届いている」

人の手が入っていない山を登るのはひどく疲れる。

道らしき道がなく、草木を鉈で払いのけながらでないと、ろくに進めない。

その点、この山は道が用意されていていい。

「そろそろ道を逸れる。ここから先は、ここまでのようにはいかないぞ。だが、獣道の先に、いい場所があるんだ」

「使用人服はダメって言った理由がこれですね。こんなところをあの服で入ったら、スカートとか、いろいろ引っ掛けちゃいます」

「そうだね。この服は動きやすくていいよ」

三人とも、トウアハーデの戦闘服を纏い、その上からローブを羽織っていた。

露出部が少なく、体にくっ付くようなフォルムなので、獣道も踏破しやすい。

ローブを畳んで鞄に詰めて、先へ進む。

俺が先頭で、邪魔な木々をナイフで切り裂きながら進み、目的の場所に出た。

「うわぁ、綺麗な河原ですね。とっても広々として。水の音に癒されます」

「ここなら暴れ放題だね」

「ああ、だからここを選んだんだ。まずは腹ごしらえをしよう」「はい、お弁当を広げますね」

タルトがシートを敷いて、バスケットを開く。

今日は大きなパイだった。

それをカットすると、なかからひき肉たっぷりのミートソースが顔を出した。実にうまそうだ。

切り分けたパイを配膳する。

「今日は、ミートパイを焼いてきました」

「美味しそうだね。でも、こうするともっと美味しいよ」

ディアが魔術を使い、ミートパイを温める。

炎属性の魔法だが、炎を使わずに対象を内側から熱する魔術。……これもディアに作ってもらったものだ。

本来は暗殺用であり、音もなく触れれば殺せるという非常に便利なもの。

「あっ、ディア様だけずるいです。私のも温めてください」

「俺のも頼む……こういうやり取り、前もあったな」

式を織るもので、俺が魔法にしているため、俺も使えるのだが、微妙な制御をこなす自信がない。

おそらく、温めすぎてしまう。

「しょうがないね。はい、どうぞ」

「うわぁ、お外で熱々の料理なんて贅沢です。ディア様はやっぱりすごいです」

「タルトのミートパイもすごいぞ。こいつはいい。サクサクで、トマトと牛肉の贅沢なソースが流れ出て。奥から顔を出すとろけたチーズもたまらない。リッチな味だ」

「ひき肉なんで、意外と安いんですよ。トマトも、学園内で育てているもので、タダでもらえました」

休日は、食堂も閉まっており、食料配給もない。

こうして、安くて美味しいものを作ってくれるタルトには感謝だ。

「そういえば、ルーグ。あの子のこと見てなくて良かったの?」

ディアが言っているのはエポナのことだろう。

この二人には、エポナが暗殺者に狙われていることを教えている。

「俺との模擬戦を見ただろう。あれを殺せるものなんてまずいない。それに、ノイシュに見ているように頼んだ。というのが建前だ。……隙を晒して罠を仕掛けた。うまくいけば引っ掛かってくれる」

それらしき痕跡や気配はあったが、遠巻きに様子を窺っているだけで行動に移していない。

慎重な暗殺者だからこそだろう。

しかし、こうして隙を見せれば動くかもしれない。

「ちゃんと考えているならいいけどね」

「もちろんだ」

ディアに言ったように、エポナが殺されることは心配していない。むしろ、タルトにトウアハーデの眼を与えるために必要な実験台の確保こそが主目的だ。

「じゃあ、始めようか。ディア、俺がさきほどの術式を書き記した。これを使ってみてくれ」

「うん、やってみる。近距離で使える高速魔法……みてて」

ディアが詠唱をする。

「【瞬炎】」

一秒にも満たない時間で詠唱が終わり、炎が噴き出た。

強い魔力が込められているだけあって超高温だ。

人を焼き殺す程度容易いだろう。

「うん、ただ炎を放つだけ。収束してないからすぐに拡散するけどとにかく即応力はあるね。威力も、魔力を込めれば込めるだけ威力があがるし」

「そうだな、便利だ。どんな体勢だろうと放てるのがいい」

たとえば、剣での斬り合いで体勢を崩し、次の攻撃を避けようがない状況、そこで炎をぶちまけてやるなんて使い方ができる。

一秒未満で発動する魔法なんて想定外。

初見なら無条件で当てられる。

「いい魔術を開発してくれた」

俺自身も使ってみたが、非常に使い勝手がいい。

全力で魔力を込めてみたが、なかなかの火力だ。

射程が短いのは弱点ではあるが、許容範囲内だ。

「今のを見て、改めて思いました。私も、こういう魔法が欲しいです。これの風ヴァージョンなら、相手を吹き飛ばしたり、体勢を立て直したり、一気に加速をしたり、炎より使い勝手がいいかもしれません」

それには同意だ。

風の鎧と用途は似ているが、即時発動なのが大きい。

「まあ、任せて。風のも作るよ。私は使えないけど、タルトもルーグもうまく使ってくれそうだし。さて、私の魔術の実験は終わったよ。次はルーグの番だよ」

「そうだな俺の必殺技を披露するとしよう。……俺は、ずっと魔法の袋、その使い方を考えていた。結局、武器をいくらでも持ち運べるという点を有効活用するところに行きついた。例えば、俺の【銃撃】だ。あれは銃を生み出し、弾丸を込めて、爆発魔法を使うという使い方をするため時間がかかる」

「そうだね、でも魔法の袋を使えば、初めから弾を詰めた状態で持ち運べるから発動は短くなるね。でも、それって地味じゃない」

「それだけならな。だが、言っただろう。いくらでも持ち運べると。だから、こういうこともできる」

魔法の袋に供給していた魔力を断ち切る。

すると、異空間が収縮し、中身が一気にぶちまけられた。

ぶちまけられたのは、戦車砲サイズ、【銃撃】ではなく【砲撃】用、それが二十も。その砲すべてに魔力を臨界まで込めたファール石が込められていた。

サイズが気にならないなら、より威力が高い砲にするべきだし、数を増やせばその分、攻撃力があがる。

魔力を放出し、取り出したすべての砲のファール石を臨界突破状態に。

みしりと音がなりファール石がはじけ飛ぶ予兆が現れた。

加えて、さきほどから詠唱を続けていた魔法を完成させる。

「【磁力操作】」

磁力を使った力場で、砲すべての向きを制御、空中に固定された二十の砲が唸り始める。

慣れたもので、ディアもタルトも忠告せずとも、耳を塞いで口を半開きにしている。

「斉射!」

二十の【砲撃】がまったくの同時に放たれた。

単発とは比べ物にならない威力と範囲。

川の向こう岸が焦土と化す。

大成功だ。

……ただ、計算違いが一つあって、空中に固定して撃つつもりが、反動に耐え切れず、砲がすべて反動で後方にぶっ飛んでいる。

後ろに味方がいるときは危なくて使えないな。

やはり、地面に固定してから放つか、あるいは無反動砲にするか、対策は必須だ。

なにはともあれ。

「これが、魔法袋を使った必殺技だ。【砲撃】を同時に何十発でも目標に向かってぶちまけられる。名をつけるなら、【砲撃斉射】だ」

一発一発が戦車砲にも匹敵する威力の斉射。

それも、準備時間がほとんどない。

これは新たな必殺技と言って問題ないだろう。

「いったい、こんなの何を想定して使うんだよ! ドラゴンだって余裕だよ!」

「はい、少なくとも人間に使う魔法じゃないと思います」

「勇者相手だとこれでも心許ないからな。【神槍】をぶち当てたいところだが、あれは戦闘では使えない。次点として、こういうのを作ってみたんだ」

「やりすぎだよ!」

「言ってるだろ。これでも心許ないと。……実際に戦った俺だからわかるんだ」

それほどまでに勇者は強い。

だからこそ、俺以外にあれを狙っている暗殺者がいるとは信じられないのだが。

「さて、必殺技の練習は終わった。これからは久々に広いフィールドを使った訓練だ。今までの成果を見せてくれ」

「いいよ。私が成長したってところを見せてあげる」

「私だって、まだまだ強くなってますから!」

微笑を浮かべる。

それから、二人を徹底的に鍛えた。

久々の広いフィールド、そしてうまい飯でいつも以上に身になる訓練だったと言える。

ディアなんて、体力を使い尽くして、帰りは俺が背負うことになってしまった。

「ルーグ様、今日はとっても楽しかったです」

「そうだな、やっぱり学園は息が詰まる。外に出るのは悪くないな」

今日はいい休日になった。

……帰れば罠をチェックしよう。

無事、暗殺者が釣れていれば、よりいいのだが。