軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:暗殺者は勇者を見る

休憩時間終了十分前になったところで筆記試験の結果が張り出された。

生徒たちが群がっていく。

なにせ、休憩が終われば次の試験が始まる。途中経過が確認できるのは今しかないのだ。

「あれ、ルーグ様。試験結果を張り出してる紙が2つあります」

「使用人枠は別に張り出すんだ」

貴族は使用人を一人まで連れてくることができ、その使用人が魔力を持っている場合、希望をすれば主と同じクラスになり、授業を受けられる。

とはいえ、魔力を持っている使用人は全体で十人もいない。

クラス分けの際には、使用人たちを含まずにそれぞれに枠が決められている。

「やった、やりました。使用人枠では私が一番です! あと右に(六位)って書かれてますね。なんでしょう? ふう、ルーグ様に恥をかかせずに済んでほっとしました」

「六位は全体での順位だ。胸を張っていい成績だな。普通にだって、Sクラスが狙える」

「すごいね。私も手ごたえあったけど、負けたかも。私も結果を見たいのに、ぜんぜん見えないよ」

人だかりで順位表に近づけないため、後ろからのぞき見をしようとディアが飛び跳ねているが、背の低い彼女には厳しいようだ。

「ディア、肩を貸そう」

「きゃっ」

彼女を肩車する。ディアが珍しく、かわいい声を上げた。

「ありがと、でも、ちょっと恥ずかしいよ……それに、私はお姉ちゃんなのに。こんな子供っぽいの」

「今は妹だから、大丈夫だ」

そう、ディアは偽の戸籍とはいえ妹だ。

だから、兄としてこれぐらいはする。……それにしてもディアの太ももはいいな。すべすべして温かくて。

ごほんっ、だめだ。そういう下心があってやったわけじゃない。

「順位は見えたか」

「うん、見えるよ。えっと、ルーグが一位だね。あれっ、嘘、一位が二人いる。さっきの人、あのキザ男も一位だ」

……なるほど、ノイシュはただの口だけ男じゃなかったか。

歴史を学んだ教材そのものに誤記がない限りは満点を取れると予想していた。

なら、ノイシュも満点か、それに近い点数を取っている。

「私は三位だね。ううう、悔しい。ひそかに一位を狙ってたのに」

「いや、充分すぎる成績だ。実技は魔術と体術。ディアなら魔術で大きく稼げるだろうし、体術も悪くない。十分にSクラスを狙える」

「魔術なら、誰にも負けないよ。ルーグ相手ならちょっと怪しいけど」

ディアの詠唱と魔力操作は芸術の域にある。

単純な出力では俺が勝るが、細かい制御では勝てる気がしない。

「そういえば、勇者様の成績はどうだ。そこからなら見えるだろう」

「名前知らないから、わかんないよ」

「いや、わかる。エポナだ。エポナ・リアンノン」

勇者が現れたという情報を聞いてから、色々と調べた。

そして、勇者は生まれたのではなく覚醒したことがわかっている。

ただの一般人が突然、勇者として生まれ変わったのだ。

エポナ・リアンノンはトウアハーデと同じく、男爵家の生まれ。

それも、貴族でありながら魔力を持たずして生まれた落ちこぼれであり、リアンノン男爵家はエポナ以外の子がなかなか生まれないこともあり、かなり辛い目に遭っていたようだ。

加えて、エポナ・リアンノンは不思議な点が多い。

戸籍上は間違いなく男ではあるが、調べれば調べるほど女性ではないかという疑念がわいてくる。

こうして、実物を見ても、どちらかがわからない。

「エポナ、エポナっと。あっ、いた。下から八番目」

「……ありがとう。だいたいわかった」

ディアを下ろす。

今回の勇者は高度な教育を受けた形跡はないようだ。

ということは、魔術的な訓練も受けてないはず。

基本的には、ただの脳筋だと考えていいだろう。

「勇者って、すごい人かと思ったけどそうでもないんだね」

「結局、今までの人生で何を積み重ねたかだ。規格外の能力を持って生まれても、それだけじゃ駄目なんだ。だが、まだ十四歳。これから伸びるだろう」

そのためにこそ学園があるのだ。

「あの、ルーグ様。さっきから、なんか、周りの人からすっごく見られているような気が」

「この成績だと仕方ない」

名だたる貴族の子女たちが俺たちに注目している。

俺と同率一位のノイシュは公爵家であり、好成績でもおかしくないが、男爵家の俺たちがこれだけの成績が取れるというのが不思議であり、忌々しい。

ようするに、受けてきた教育や頭の良さで下位貴族に負けたのに納得がいかない。

だが、そういうのを気にしない奴もいたようだ。

「ぶっちぎりで一位を取ったと思っていたけど、まさか僕に並ぶなんてね。やっぱり、君は僕が思っていた通り優秀だ」

なれなれしく肩を抱く、金髪の美少年ノイシュ。

「お互い、後半も頑張ろう」

「もちろん。僕は首席入学を狙っているからね。負けないよ……一応言っておくけど、公爵家に花を持たせるために、わざと成績を落としたら承知しない。譲られた首席になんて価値はないからね」

「わかってる。俺も全力を尽くすよ」

全力を尽くすというのは嘘じゃない。あくまで、見せていい力の範囲でだが。

休憩の終わりを告げるベルがなり、再び教官がやってきて後半戦の開始を告げた。

午後の実技試験も半分が終わっていた。

まずは魔術の試験だ。

一番得意な属性を申告し、定められた魔法三種類を詠唱して発動し、採点される。

採点基準は、放出した魔力量・放出した魔力の変換率・詠唱速度・魔法精度の四点。

俺は魔力を抑えて、あくまで常識の範囲内で極めて優秀という程度の魔力で詠唱を行った。

その結果は二位。

「ふふん、魔法じゃ誰にも負けないから」

隣で一位がどや顔している。

「さすがですね。すっごい綺麗な詠唱で見惚れちゃいました」

「俺は魔力の変換が気になるな。何度見ても、どうやったら、あれだけ無駄なく変換できるのかわからない」

魔力を無駄なく魔法へ変換とする。

それは極めて重要な技術だ。ゆえに俺自身も嫌になるほど試行錯誤をしているのだが、どうしてもディアに勝てない。

一般的な魔力持ちの場合は、七割が基準で、俺は九割前後でばらつく。だが、ディアの場合は常に九割五分。

これはただ単に、燃費が良くなり、魔法の威力が上がるだけじゃない。変換しきれなかった魔力による悪影響がないため精度があがる。

俺とディアの変換率はたったの五分しか変わらないが、その五分が大きい。

「私は五位です……いっぱい、ルーグ様に教わったのに」

タルトが肩を落としている。

ちなみに、タルトの上にいるのは、ノイシュと勇者エポナ。

ノイシュの詠唱を見て、彼が努力家であることを確信した。

一流の師匠がいるのは間違いない、センスがある。だけど、それだけではあれほどの魔法は使えはしない。

血のにじむような努力が必要だ。

キザ男で派手好き。だけど、その裏には確かな努力がある。

そして、意外なのはエポナだ。

あれはめちゃくちゃだ。魔力変換効率は悪い。せいぜい五割~六割の一般水準以下。詠唱も遅い。精度も悪い。

だが、魔力放出量が規格外すぎて、それだけで総合成績でノイシュやタルトを抜いた。

「なあ、ディア。あれ、信じられるか。火属性の基本魔術、【火炎球】をどうしたらああなるんだ」

「うん、私も信じたくない。あんな、でたらめで、へたくそな魔術なのに。もし、ちゃんと鍛えて、普通程度のうまさで唱えていたら、どうなったんだろ」

【火炎球】。その名の通り、こぶし大の炎の球を生み出す魔術。

ふわふわとゆっくりと飛翔し、当たれば表皮が焼けてしまう程度。

だけど、勇者の放った【火炎球】は違った。

まるで圧縮された太陽のような灼熱の弾丸が、音をも超える速度で射出され、進路上にあるすべて灰燼と化し、遥か彼方へ消えていった。

……初級魔法でこれだ。おそらく、単純な魔力量だけでなく、魔法を強化するスキルがある。

あれと戦うと考えるとぞっとする。

せめてもの救いは、詠唱が拙く、初級魔法ですら数十秒時間がかかること。

それも、この学園で学んでいけば消える弱点。

こんなものを見せられたせいで、今のうちに殺してしまいたいと思ってしまった。

そして、体術。

まずは、各種測定を行う。

筋力、瞬発力、跳躍力、持久力、反射神経etc.

それらを測定していく。

ここで輝いたのはタルトだ。

これらの測定は、一見ただの身体能力の優劣を競うように見えるが、魔力持ちの場合、むしろ魔力による身体能力の強化技術が重要になる。

体全体をまんべんなく魔力で強化するより、体の動きに連動するように各部の強弱を変えるほうがいい。

だが、それは高等技術であり、それをできるものは限られる。

俺が見たところ、受験生でそれができるのは俺とタルト、ノイシュぐらい。

ディアはまだまだ勉強中だ。

とはいえ、そういう技術をあざ笑うかのように、稚拙な強化で勇者は圧倒的な性能を見せつけてすべての項目で一位になった。

勝てる気がまったくしない。比べること自体が間違っている。

あれは、化け物だ。

いや、化け物という言葉すら生ぬるい。

筆記で情けない点を取って、勇者から離れていった取り巻きもすでに戻り、元気にエポナへとくっついている。

ただ、気になるのはエポナが息苦しそうにしていること。

作り笑いをしているが、辛そうだ。

人間付き合いが苦手らしい。

そして、それこそが友達になるきっかけになると、計算をしていた。

いよいよ、最後の試験になる。

最後の試験は実戦。魔法と身体能力、その総合的な技術を見る。

実際に現役の騎士たちがやってきて、生徒と手合わせをする。

武器は刃引きをしており、さらには魔力による自己治癒力強化を得意とする魔法使いが傍に控え、医師もいる。

……もちろん、現役騎士に勝てるわけがない。

大事なのは勝敗じゃなく、試合の内容であり、そこを評価される。

騎士学園の闘技場は広く、六つのリングが並んでいる。

戦う順番が早いタルトは控室に移動して、ディアと二人で観戦してた。

「けっこう、すごい人がいるようだね」

「そうだな。早めに、同期の力が視れて良かった」

……教育に力を入れているのはトウアハーデだけじゃない。

代々、騎士を輩出する家系。武勲のみで地位を築いた家系、そういう家は幼い時から徹底的に戦闘兵器として子供を育てる。

中には、現役騎士に匹敵するものもいた。

「ルーグ、タルトは大丈夫かな?」

「大丈夫だと思うぞ。なにせ、ああ見えて強いからな」

槍を使ったタルトは、現役騎士すら凌駕する。

トウアハーデ、そして転生前の技術と知識を使ってそうなるように鍛えた。

そのタルトが、リングの上に現れた。

普段はスカートに隠してある槍をすでに取り出している。

騎士と向かい合い……あろうことか、試合開始前に騎士が頭を下げた。

試合前の礼ではなく、純粋に感謝の気持ちを伝えている。

タルトは困惑して、わたわたとしている。そして、騎士が何かを話したあと、タルトは顔を真っ赤にして、それから何かを必死に頼み込んでいた。

何事かと、会場がざわめく。

だが、本人たちは何事もなく試合を開始し、タルトが勝利を収めた。

まさか、使用人の女の子が勝つとは思わず、すべての視線がタルトに集まった。

試合前にあんなことがあったこと、使用人で女性であることから、やっかんで八百長だと騒ぐものもいたが、そういう連中は取るに足らない。

それなりに戦えるものはタルトの槍の冴えを見れば実力だとわかるし、わからない連中は視界に入れる価値もない。

タルトが戻ってきたので、試合前のことを問う。ちなみにディアは順番が近づいてきたので控室に向かった。

「あの、戦場で実戦経験を積んでいた時期があったじゃないですか。そのとき、命を救った人でお礼を言われました」

「……あの時か」

ムルテウに居たころ、タルトには実戦経験が足りないことを問題視して、一時期戦場で実戦を経験させた。

「はい。まさか、あの時一緒に戦った人と会うとは思ってなかったのでびっくりです」

「それから、何か頼み込んでいたが、なんだったんだ」

「あれは、その、戦場では恥ずかしい二つ名で呼ばれて、あの人、私の活躍と、二つ名を教官たちにアピールするって言ったので、絶対やめてくださいって。その、二つ名が恥ずかしくて呼ばれたくないんです」

「そう言われたら気になるな」

「……ルーグ様、ぜったい他の人に言ったらだめですよ。……【雷速の戦乙女】です……こんなの絶対、人前で言われたくないです」

【雷速の戦乙女】か。たしかにタルトの戦闘スタイルにはあっている。

高度な身体能力強化技術と風による加速を駆使した超速。

それだけでなく、柔軟な体と、優れた反射神経でその速度域でも単調な動きにならず、自らの体を使いこなす。

まさに、雷の戦乙女と言える。

……ただ、弱点もある。タルトは未だ成長中であり、今はぎりぎりその速度でも技を振るえるが、まだ速くなっている。

このままでは自らの速度に動体視力が追いつかなくなる。いずれ、トウアハーデの眼を与える必要があるかもしれない。

「そういえば、ルーグ様の試合はいつですか! 見るのを楽しみにしていたんです」

「俺のは最後だから時間があるな。それより、ディアの戦いが始まりそうだ、応援してやらないと」

「早く言ってください!」

ディアが剣で打ち合い始めた。

しかし、劣勢気味。

五分ほどして決着がつく、善戦はしたものの、敗北してしまった。

ディアは実家で一通りの戦闘訓練を受けているものの、魔法メインだ。最近になって俺が本格的な近接戦闘を教え始めたが、まだまだ基礎段階だ。

「惜しかったですね」

「あそこまでやれれば十分だ。あれならいい点数をつけてもらえるだろうし、今の実力なら、あれ以上は望めない」

拍手を送る。ディアは全力を尽くした。

ディアがリングを去る。そして、入れ替わりにやってきたのはエポナだった。

その相手は、騎士団長。

騎士の中で頂点に立つ男。それは役職だけじゃなく実力もだ。そんな男が、フルメイルの完全装備。

あの鎧、ただの鎧じゃないな。超希少金属ミスリルを使っている。鉄の鎧とは比較にならない強度と硬さを持っている。

いい判断だ。彼クラスで、超一流の装備がなければ刃引きをしていようが、殺される危険性が高い。

試合が始まる。

エポナが消えて、騎士団長の前に現れたと思えば、拳を振りぬいたポーズで固まり、騎士団長まで消えてしまった。遅れて、轟音が響く。

騎士団長の行方を捜していると二度目の轟音が聞こえた。

エポナの拳、その直線状にある観客席に鎧を着こんだ騎士団長が数メートルはめり込んでいる。

エポナのほうをよく見ると、周囲に砕けたミスリルの欠片が散らばっていた。

……拳でミスリルを砕いたというのか。

勇者はやばい。そんなことわかっているつもりだった。

まさか、ここまでとは。

トウアハーデの眼ですら動きが見えなかった。

つまり、あそこに立っていたのが俺なら、騎士団長と同じ末路をたどっていただろう。

加えて、勇者は未熟だ。故に、まだまだ強くなる。

「セタンタより、やばいな」

認めよう。あの勇者は現時点ではセタンタに劣る。

だが、一年もしないうちにあれ以上の化け物になる。

俺も強くならないといけない、暗殺ですら今のままじゃできるか怪しい。

決意を新たにする。

そして、俺の番が来たのでリングに降りる。

無難に、それなりの善戦を見せてから負けるつもりだったが、少し熱くなった。

このほてりを沈めるため、少しがんばって見ようか。