軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ:暗殺者ルーグ・トウアハーデの生き方

あの決闘のあと、いろいろとあった。

さらに時間をかけて調べたが、やはり【クランの猟犬】ことセタンタも、神器ゲイ・ボルグも見つからなかった。

そして、貴族派は撤退したことに加え、セタンタとの取り決めがあったものの、報復の危険性が高いと考えたヴィコーネ伯爵は生き残った家臣たちに私財を分配し、それぞれがヴィコーネ伯爵領を離れるよう指示した。

ヴィコーネ伯爵は伝手を辿って身を隠し、力を蓄え、いつか逆賊を討つと言っている。

そして、ディアは俺と共にトウアハーデに向かう。

ディア・ヴィコーネという名前を捨てて、トウアハーデで新たな戸籍を用意して別人として生きることになる。

父のことだから、戸籍の用意などに抜かりはないだろうし、ヴィコーネ伯爵はディアがこの国にいるように偽装工作を行うと言っている。

不謹慎だが、ディアと一緒に過ごす日々は魅力的だし、彼女と一緒なら新たな魔術の研究が捗る。俺としては喜ばしいことだ。

……そして、対勇者用の切り札を使ってしまった。それも大勢の目の前でだ。【グングニル】の原理と性質を見抜いた者はいないだろうが、それでも一度晒した 手札(カード) は信頼性が落ちる。

新たな、新魔術の開発。それも【グングニル】を超えるものを作り出す必要があり、そのためにはディアの協力が必要だった。

今はディアをお姫様抱っこして帰路についているところだ。

こうして走るのは肩で担ぐより疲れるし、複雑骨折したがゆえに手術を行い自己治癒力を高めている左腕はまだ若干痛む。だが、こうするのは精神的にとてもいい。ディアの温かさと柔らかさを楽しめる。

「ディア、これで良かったのか?」

ずっと気になっていたことを問いかける。

「……こうなっちゃったのは悲しいよ。だけど、ルーグのおかげで本当に悲しいことにはならなかった。ありがと」

結局、ヴィコーネは領地も財産も家臣も失った。

それでも最悪の事態だけは避けられたと思う。

「トウアハーデでの生活に慣れるまでは大変だと思うが、がんばってくれ」

「その心配はないよ。だって、二週間もすごしたことがあるし、トウアハーデ領のことが好きだもん。それにルーグがいるしね」

俺を心配させまいとして努めて明るい声を出している。

ディアは気丈な子だ。

すでに日は沈んでいる。それは逃げのびる俺たちにとっては都合がいい。

「ねえ、ルーグ。どうして、命がけで助けに来てくれたの? たぶん、トウアハーデには何の利益もなかったよね」

「ディアのためだ。ディアが俺を呼んだら駆け付けるって約束をしていたしな」

「……そう、そうなんだ。ルーグ、さっきも言ったけど、ありがと。私は私のやり方で恩を返すから」

「気にするな。あの約束をしたきっかけがディアへの恩返しだからな。恩返しに恩返しされたら、永遠に恩を返し続けあうことになる」

あの約束はディアに無理を聞いてもらったかわりに、なんでもすると俺が言ったことがきっかけで結ばれた。いわば恩返しでもある。

「そうだね。でも、一生恩を返し合うって、ちょっと素敵かも」

「たしかにな」

まだ、心の靄は晴れない。

だけど、少しだけ明かりがともった。そんな気がする。

それからなんとかトウアハーデに戻って来る。

【超回復】があって本当に良かった。

俺の腕の中で気を失うようにしてディアは眠っている。やはり、無理をして疲れ切っていたのだろう。

屋敷に戻ると、足音が聞こえた。

やってきたタルトは俺を見ると目を潤ませて、胸の前で手を組んだ。

「お帰りなさい、ルーグ様。無事に帰ってきてくださったんですね! 良かった。本当に」

「まさか、寝ないで待っていたのか?」

「そんなこと……ないですよ」

嘘だ。目を見ればわかる。

俺の体力を温存させるために、前を引いて疲れはてた体で起きているなんて無茶だ。

この子は俺と違って【超回復】なんてないのに。

そんな無理はするなと怒ろうとしてやめた。

今、かけるべきはそんな言葉じゃない。

「ありがとな。タルトが頑張ってくれたから、最後の最後で集中力が持った」

……【グングニル】は極限の魔術。

計算は複雑、魔術は緻密、槍を放つ際にはほんのわずかのブレも許されない、相手を着弾ポイントに誘導するには神経をひどく消耗する。

ほんのわずかでも集中力が欠けたら失敗していた。

タルトのおかげで、行きで一時間、楽をできた。それでできたほんの少しの余裕があったからこそ成功した。

俺はそう思っている。

「はいっ! ルーグ様のためになれたのなら、頑張った甲斐がありました……その方がディア様なんですね」

タルトは俺から何度もディアについての話を聞いたことはあるが、直接会ったことはなく、興味深そうに見ていた。

「起きたら紹介する。この領地で住むことになるだろうし」

「ううう、とってもとってもきれいな方です。お人形さんみたい。嫉妬しちゃいます」

そういうタルトもかなりの美少女であり、嫉妬をすることなんてないのに。

照れくさいからそんなことは口に出さないが。

気配を感じて、そちらを向くと父がいた。

「よく、任務を果たした」

「後で詳しく報告しますが、残念ながら初めて暗殺を失敗しました」

本当なら、暗殺の偽装をしてから攫うはずだったが、セタンタとの決闘に勝ったせいで敵兵が逃走し、暗殺の偽装をできなかった。

「ディアがそうして生きているならそれでいいだろう。ルーグのことだ。正体がばれたり、ディアをここに連れてきたとばれるような間抜けは晒していないのだろう?」

「はい、それは間違いなく」

「なら、いい。ゆっくりと休みなさい……不甲斐ない父の代わりに、友の願いを叶えてくれて感謝する」

それから……と父は言葉を続ける。

「一件だけ、緊急の連絡を伝える。ルーグが出発したあと、アルヴァン王国に勇者が誕生したという連絡が回ってきた。勇者が現れたということは、これから魔物が増え、魔族が現れる。ルーグも気にしておいてくれ」

勇者が現れた。

ということは、セタンタは勇者ではなかったのか?

それは朗報ではあるが、同時に不安要素でもあった。あれが勇者ではないとしたら、あの理不尽なまでの強さはなんだ?

ただの人間があの強さだというのは不可解だ。

加えて、この国に勇者が居たのにバロール商会の情報網にかからなかったのも気になる。

逆に考えれば、ただの人間があそこまで強くなるための何かが存在するということでもある。セタンタのことは徹底的に調べてみよう。……もしかしたら、今まで以上に強くなれるかもしれない。

「はい、気をつけます。ディアはこれからどうするんですか?」

「もちろん、戸籍は用意してある。トウアハーデで生きてもらう。ディアの銀髪はひどく目立つ。この国でその髪を持つのはおまえと、エスリぐらいだ。かといって染めてしまうにはあまりに惜しい。……なので、ルーグの妹の戸籍を使う。別の用途に使うためだが、作っていたものがある。おまえの妹なら銀髪でも不自然じゃあるまい」

ディアが妹、意味がわからない。

たしかに、うちの家系なら銀髪でも不自然というのはわかる。

だけど……。

「なぜ姉ではなく妹?」

「別用途で用意していた戸籍が妹だったのもあるが、忘れたのか? 来月にはアレだ」

「あっ」

そうか、忘れていた。

確かに、妹でないとまずい。

「ディアは身長が低いし、顔も童顔、それにあれだろう。妹で十分通る」

父がディアの胸を見て言ったことは俺の胸のうちにしまっておこう。

母を見る限り、そういう家系かもしれない。

「かしこまりました。ディアにも話しておきます」

年上の妹なんて愉快なものになったと聞けば、きっと怒るだろうがちゃんと話せばわかってくれるはずだ。

「うむ、そうしてくれ。……最後にだが、勇者はおまえと同じ年だ。そうなれば必然的に、もうすぐ出会うことになる。あそこでな」

心臓が高鳴る。

そう、五年前からこの国で決められたルールが一つある。そのせいで、貴族たちは十四で成人してからすぐに結婚することはなくなり、十四で婚約、十六で結婚が一般的になった。

勇者が同い年であれば、ルールに従う限り、必ず出会うはずだ。

「失礼のないようにします」

「もしかすれば、勇者はあそこで同行者を探すかもしれんな。我らには使命がある、余計な面倒は抱え込みたくはないが……もし、必要とあればそちらを優先しても構わない。王族とて文句は言わないだろうさ」

……ようやく、殺すべきターゲットを見られる。

あそこで徹底的に監視をしよう。

魔王を殺すまでは殺せない。

その間、ありとあらゆる能力を知り、弱点を見抜き、まる裸にしよう。

勇者に恨みはない。

勇者を殺さないで世界を救う方法も探す。

一度目の俺とは違い、必要のない殺しはしないと決めている。

だけど、ディアやタルト、マーハ。大事な家族たちと過ごす愛すべき世界のために勇者を殺すしかないのなら……迷わず暗殺するだろう。

それこそが、自分の意思で暗殺をすると決めたルーグ・トウアハーデの生き方だから。