軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話:暗殺者は決闘を受け……ない

ディアが窓を開けた瞬間、悪寒が走った。

理屈じゃない第六感。

暗殺者だからこそ持っている、危機感知能力が警鐘を鳴らしている。

ほとんど無意識にディアの肩を引いて背中に庇い、ファール石に魔力を込めて、臨界状態に持って行き、窓から身を乗り出して外を見る。

城壁の遥か後方から一人の大男がディアに向かって槍を投げた。

男は逆立った赤髪で筋骨隆々とし、獰猛な笑みが嫌になるほど似合っていた。

トウアハーデの眼で視ると、その男の周囲はこの世のものとは思えないほど禍々しい魔力に満ちている。

あれは、本当に人間か!?

魔力が見える眼だからこそ、わかってしまう。

俺の瞬間魔力放出量とは比較にならないほどの大魔力が槍には込められていると。

臨界状態のファール石を魔力で弾いて射出する。

大男が投げた槍は変形し、先が割れてさかむけになって広がりながら加速する。

その速度は【銃撃】で放つタングステンをも凌駕していた。この眼でなければ捉えられなかっただろう。

槍が通ったあとは大地が抉れ貴族派の兵もヴィコーネ領の兵も一瞬でミンチになっていく。槍の穂先だけでなく、周囲に不可視の刃が作られている。

あれは、槍でありながら、大量殺戮兵器だ。

男の投擲した槍と指で弾いたファール石がぶつかる。

このファール石は特別製。指向性を持たせ爆発が前方に集中する。

超音速の槍と、三百人分の超魔力による鉄片含みの爆発が衝突。

槍が爆発を突き抜け、城壁を粉々にし、城の壁に突き刺さり止まった。

もし、ファール石の爆発で威力を減衰させていなければ、不可視の刃で周囲を斬り刻み、この屋敷も俺たちも無事では済まなかった。

壁に突き刺さった槍がかたかたと動きはじめ、持ち主のもとへ向かっていく。

……これが神器か。

情報は集めていたし、ようやく一つ購入の手はずが整いつつあるが、実物は初めてみた。

その男と目があった。その男との距離はおおよそ、六百五十メートル。俺の【銃撃】ですら届きこそすれ精密射撃が不可能な距離。

この距離で、奴は槍投げで的確にこちらを狙った。

神器の性能か? それもあるが、それだけじゃない。あの男の技量とありえない放出魔力量が可能にした。

放出量だけが異常で、総量は並だと思いたいが、それはあまりにも希望的観測だ。

とにかく、いますべきは返礼だ。

魔術を詠唱する。

銃ではない、砲を呼び出す。

ライフリングが施された、120mm砲。

銃身も分厚く、弾丸も比例して大きくなりまるで牛乳瓶のような異質な弾丸。

そして、銃身が分厚いということは、より強い爆発に耐えられるということ。

全力を込めた爆発でも耐えてくれる。

「二人とも、耳を塞いで口を半開きにしろ! 【砲撃】」

手札の中では四番目に威力が高い必殺の魔術が発動される。

タングステンの超重量、超硬度の弾丸がライフリングにより超高速回転しながら男に向かい放たれる。

【銃撃】とは比較にならない。あれをライフルだとすればこちらは戦車の主砲。

なにせ、タングステンを押し出す火力は、正真正銘の全力爆発魔術。この超極厚の砲身だからこそ、全力を注げる。

勘違いされやすいが、超大型砲の命中精度はライフルを上回る。

速度が速く到達時間が短ければ重力の影響は小さくなり、運動エネルギーと質量が大きいほど風などの影響が少なくなり精度があがる。

【銃撃】では四百メートルが限界だが、【砲撃】なら一キロまでは狙い撃てる。

……問題は、少々派手すぎて暗殺に使うには適さないぐらいだ。

【砲撃】において、砲口初速は1650m/s。マッハ5にも到達する。

0.4秒で六百メートル先に着弾した。

轟音が響き渡り、土煙が上がる。

戦車砲はこの部屋にスパイクとアンカーを固定して放ったおかげで、壁にひびが入り、窓という窓が割れている。

ディアと、ヴィコーネ伯爵は口をぽかんと開けている。

「うわぁ、ルーグの【砲撃】久しぶりに見たよ、これ、あの人、跡形も残ってないんじゃ」

「今のはなんだね?」

「俺の暗殺術の一つです。遠くの目標を殺すために使います」

「暗殺とはいったいなんなのかわからなくなってきたよ」

さて、あの程度で死んでくれるといいのだが。

その答えはすぐに出た。

土煙が晴れると、男は健在だった。

額から血を流し、相変わらずの獰猛な笑みを浮かべている。

こちらも笑ってしまいたくなる。

いっそ、外れていてくれたほうが希望が持てた。

戦車砲にも匹敵する【砲撃】が直撃しておいて、その程度の損害とは。

男が叫んだ。

「痛てえええええええええええ、これが痛みか! 初めてだ。悪くねええな、おい!!」

ここにまでその叫びが聞こえる。

ディアが震えている。

男の筋肉がさらに膨れ上がり、服が弾けとび、さらには鬼のような角まで生えてきた。

……心当たりがある、Sランクスキル【ベルセルク】。

怒りをトリガーにして、身体能力と魔力を上昇させ、さらに憤怒のオーラにより攻撃と防御に上昇補正を受ける。

つまるところ、さきほどの槍投げをしたときよりも、今の砲撃を額で受けたときよりも、この男は力強く、堅くなった。

条件付きでしか強化できない分、他のSランクスキルを凌駕する上昇幅があるスキル。

次に【砲撃】が直撃しても、まったく痛痒を与えることができないだろう。

「ルーグ、ディアを連れて早く逃げたまえ。あの男が出てきた以上、もはや死を偽装する余裕すらない。さきの内戦は、あの男が終わらせた。あの男は誰も止められないと王族は降伏したのだ。一人で戦争を終わらせる男がアレだ。まさか、こんなに早く来てしまうとは」

ヴィコーネ伯爵がご丁寧に説明してくれる。

戦争を一人で終わらせるか……。

それならトウアハーデのほうが上手だ。こちらは戦争が起きる前に終わらせているのだから。

男は、喜色満面でこちらを見ながら、叫びを続ける。

「厄介な魔術を使う女がいるから来いと言われて来てみりゃ、こいつはすげえもんを見つけたぜ。そこのおまえ、選ばせてやる! このまま、一人残らず皆殺しにされるのか、騎士らしく俺と決闘するか! てめえが勝てば、全軍引かせてやる。二度とヴィコーネ領に手を出させねえ! 間違っても逃げんじゃねえぞ。そんなことをされたら俺は自分を抑える自信がねえ! 初めてまともに喧嘩できそうな相手が見つかったんだからよう!」

今のセリフでだいたい彼の考えていることがわかった。

彼はおそらく、三日以上持ちこたえているヴィコーネ伯爵領を疎ましく思い、貴族派の連中によって派遣された。

そして、彼は強すぎるがゆえに退屈しており、初めて自分を傷つけることができた相手を見て喜んでいる。

闘争心の塊のような男だからこそ、まともな決闘というものに憧れており、人生で初めて決闘ができる 相手(おもちゃ) を見つけてはしゃいでいる。

……それは油断であり、驕りであり、付け入る隙だ。

無敵だと思っていた男に致命的な弱点を見つけた。

「ヴィコーネ伯爵、ディア、完全に目をつけられた。基礎スペックが違いすぎて逃げられない。決闘を受けると返事せざるを得ない」

「そんな、ルーグ。でも、ルーグなら、あの人に勝てるよね?」

ディアが心細そうに問いかけてくる。

俺はゆっくりと首を振る。

「決闘なら百パーセント負けるな。逃げられない理由と一緒だ。基礎スペックが違いすぎる。そもそも【砲撃】で死なない以上、魔術を使わない物理攻撃、決闘中に使えるような詠唱時間が短い魔術で、あいつを殺す手段が一つもない。おそらく、もって十秒だ」

そう言いながら、俺はタングステンの両手槍を魔術で生み出す。

タングステンは超重量の金属でもあるので、両手槍、それも太めのものを作れば重量は100キロを超える。

そして、もう二つの魔術を槍に向かって放つ。

「なのに、どうしてそんなに平然としているの!? 負けたら死んじゃうんだよ。決闘なんて無謀だよ。私も一緒に戦う」

「決闘じゃ勝てないと言っただけだ。……決闘を受けると宣言するが、決闘なんてするつもりはない。だから、この槍はこうする」

窓から槍を捨てる。

ディアが不安そうに目に涙を貯めている。

作ったばかりの槍を窓の外に捨てるなんて気が狂ったとでも思っているのだろう。

だけど、これには大きな意味がある。

「ディア、俺は兵士でも騎士でも、ましてや勇者でもない。暗殺者なんだ。決闘などしない。……俺にできるのは暗殺だけだ。今回もそうする」

何の問題もないと微笑みかけた。

暗殺というのは、意外とバリエーション豊富だ。

この状況からでもできる暗殺がある。

というより、もうすでに暗殺のために必要な工程のほとんどを終わらせた。

「ヴィコーネ伯爵ついてきてください。向こうが、この戦争を騎士同士の決闘で決着をと言うのなら、あなたが立ち会う必要があります」

実のところ、戦争の勝敗を一人の騎士に託すというのは、この世界では珍しくない。

戦力が拮抗している場合、戦争が長びいてお互いに疲弊してしまう。そうならないよう、もっとも腕の立つ騎士を選んで決闘をさせて勝敗をつける。

そして、予め決められていた契約を履行するのだ。

……こういう、騎士の仕事には一生縁がないと思っていたが、向こうから指名されれば、付き合うしかない。それに、ちょうどいい暗殺の目くらましになってくれる。

計画が狂いっぱなしだ。しかし、予想外の事態など起きて当然。それでも、臨機応変に対応し続けることこそが暗殺者に必要なこと。

ディアを救う。その目標が達成できれば過程はどうでもいい。

「わかった。行こう。巻き込んでしまってすまない。……残った戦力すべてで、あの男を止め、その間に君とディアに逃げてもらう手もあるが……」

「やめたほうがいい。あの男が相手だと、そんなことをしても一分も持ちません。それに、その必要はない。さっきから言っているでしょう。俺はあの男を暗殺する」

あの男の規格外の強さの理由はなんだろう。

もし、あれが本当に勇者と言うなら殺してしまうのは問題かもしれない。

だが、あえてそれは考えない。

ここであれを暗殺できなければ、どっちみち終わりでその先を考えるなんて贅沢は許されない状況だ。

まずは殺す。それから考える。

暗殺者(おれ) にできることはそれだけだ。