軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 実質魔王の悪役令嬢

「それで、貴方は?」

「は?」

シトラス侯爵令嬢が私の返しに絶句する。

さっきまで得意げな顔だったのに。

「ギフトを授かった皆様は素晴らしい。はい、わかりました。私がそれについて知らなかった。はい、わかりました。で? 貴方はそれを私に伝えて? それで? そう語る貴方はいったいどんなギフトをお持ちなの?」

「わ、私は持っていないわよ……!」

「まぁ、ギフトを持っていないことは別に普通のことですけどね」

「そうよ!」

「でも、ギフトを持っていないことは、私を愚弄していい理由にはなりませんよね? 素晴らしいギフト持ちが他にいることは、貴方を特別な存在にはしませんし。いったい貴方はどの立場から私に向かってそのような態度なのかしら?」

「それは……」

私はここでシトラス侯爵令嬢に歩み寄った。

もちろん、笑顔で。こういう時は笑顔の方が怖いのだ。

「貴方の語ってくれた情報は有益だったわ、ありがとう、シトラス侯爵令嬢」

「わ、わかれば……」

「でも私、貴方の態度は気に入らない。ねぇ? まだ続ける? 貴方の語る言葉で、私が臆すると思う? ましてなんの関係もない貴方に怯えると? ねぇ、シトラス侯爵令嬢?」

「ひっ……」

ものすごく顔を近付けて圧をかけてみる。

孫悟空はまったく関係ない、公爵令嬢の圧だ。

「ね、もういいでしょう? ここまで貴方の一方的な話に付き合ってあげたの。感謝して立ち去ってくれる? 今度は敬意というものを学んでから来てちょうだいね?」

そう呟きながら、優しく頬に指を添えてあげた。

「……!」

それで終わりだ。シトラス侯爵令嬢は軽く捨て台詞を吐きながら去っていった。

あとはクラスメイトたちに謝って、空気を柔らかくしておく。

入学初日から本当、なんだったのかしらね。

でも、たぶん彼女は小者だと思うわ。そこまで気にしなくていいでしょうね。

初日の日程が終わり、下校間際の時間。

私は教室で一人残り、窓の外を眺めていた。

今日は早い時間で終わったから、まだまだ日は高い時間だ。

「はぁ……」

深く息を吐き出す。

薄々と疑っていたけれど、やっぱりこの世界はそっち系の世界である可能性が高い。

例のギフト持ち男性四人と、聖女の子爵令嬢。

彼らがもし、ヒロインと攻略対象たちのような存在だとしたら。

「私が悪役令嬢ポジションよねぇ……」

どう考えてもそうとしか思えないのだ。

五人の素晴らしいギフト持ち。

対する私はハズレギフトの公爵令嬢。

原作があるか知らないけど、きっと物語の私は、さらに火傷を負っていたんだと思う。

『聖女』は最近判明したように言っていた。

入学の少し前に聖女と発覚したのなら、まだ王家から声もかかっていないだろう。

でも、ヴィンセント殿下はきっと学園で彼女に接触する。

すると、できあがる噂は、殿下と聖女の素晴らしい出会いと関係性の物語だ。

それは光の物語。だが光あるところに影が生まれる。

私は彼らの都合のいい当て馬にされるに違いない。

聖女と違って、なんだかわからないハズレギフト。

容姿も火傷まみれで美しさを失っているはずだった。

そのくせ権力を使って、殿下の婚約者候補に居座る悪女。

その果てに私は……?

「はぁ……」

深く、深く溜息をつく。

しかもだ。 性質(たち) が悪いことに私のギフト。

これは 実質(・・) 、 魔王(・・) なのだ。

『斉天大聖』という名は、お釈迦様が名付けたのではない。

孫悟空が暴れ回ったすえ、勝手に自称しているだけの名だ。

むしろ、どちらかというと天界への権力誇示や反逆の意味合いが強い名前なのよ。

また、この名を名乗った頃の孫悟空は仲間・兄弟に六人の魔王がいた。

牛魔王とかもそれね。兄弟分なの。

孫悟空本人はプライドが高いからか、斉天大聖を名乗っていた。

でも、周りからは『あの魔王め!』なんて言われていた。

つまり、斉天大聖とは魔王の名である。反逆の魔王といったところなのだ。

「この世界でそんな物語が知られているわけないから、この世界でバレたら細かい説明を抜きにして『魔王』のギフトってことになるわよね、これ」

ハズレギフトと思っていた私のギフト、実は魔王でした!

……である。

悪役令嬢ポジションのうえに、ギフトの実態は魔王。

はい、アウトー。ツーアウトよ。破滅フラグ、立ちましたー。

これは絶対にバレるわけにはいかない。

たとえ、その気になったら王都の人間を皆殺しにできそうであっても。

G4と聖女やらが本気で向かってきたとして、

『それ、孫悟空を攻略できるの?』

……と、なるとしても。

「まぁ、最悪。処刑されるとしても火炙りくらいは耐えられそうなのよねぇ」

だって私、孫悟空だし。

いえ、別に自認は孫悟空ではないけれど。

「……危なくなったら筋斗雲で他国に逃げよ」

うん、無敵だ。怖いのは乙女ゲームでも、その登場人物たちでもない。

私が怖れるのは、お釈迦様だけである。

「今日も教会にお祈りに行っておきましょう」

そう考えて私は教室をあとにした。

宗派が違う?

いえ、きっとお釈迦様と我が国の神様には交流があるのよ。

じゃないとギフトで孫悟空は授けまい。

こうして私の破滅フラグを如意棒でぶっ壊しにするぜライフが始まった。