軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61 襲撃

アジトにいるのは悪そうな男たちだった。

男女差別を言い出したくはないが、ここまでわかりやすい構図もない。

悪党と被害者の女性たちの構図。

被害者たちを救出するのはマストだ。

でも、同時にこいつらが何者で、何を目的とした集団なのか把握しておきたくはある。

もちろん、眼前の被害者救出より優先度は低いけど……。

もしかしたら、今後の事件をこいつらが起こすのかもしれない。

それも聖女とヒーローズが活躍するような悲惨なものをだ。

聖女の能力がねぇ。

あの能力で活躍する機会が生じる。それ即ち、誰かが大怪我をしているとか、瘴気に汚染されているとか、そういう状況になるはずだから。

〝ゲーム期間中〟に、そういった大事件が起こるはずなのだ。

長くてもヒロインが学生時代を過ごすこれから三年以内に事件は起きる。

これは、その前段階かもしれない。

ベネディクト氏は、ただギフトで発信機をつけただけだった。

彼がすぐにこの場に現れ、被害者たちを救済してくれる目処は立っていない。

後日、ベネディクト氏がこの付近を調べることで犯罪グループの痕跡が発見されるとか。

彼女たち被害者の身元を調べてみて、そこから様々なことが判明するとか。

そういうエピソードなのかも。

事件の凄惨性を引き上げるためのモブ被害者たち。

ヴィルヘルムと同様、メインストーリーの外で犠牲になる人々。

転生者かつ推定原作知識のない私は、そのシナリオに縛られる必要はない。

むしろ先読みして、裏をかいて、本来のシナリオなんてぶっ潰す。

悪役令嬢としては国の火種なんて潰しておくに越したことはないでしょう。

だって、どこから事件の原因が私のせいにされるか、わかったもんじゃないもの。

仮にこいつらが推定原作で、実は悪役である私の手先となって働く連中だったとしても。

私はそんなシナリオ、知ったことじゃないので無関係だ。

「なんだ、そいつら」

「例のクソガキどもだよ」

「ああ……。それが、なんでここに連れて来てやがるんだ?」

「ハッ。自分が将来伯爵になるんだから俺らに媚びでも売れってさ」

「はぁ? ははは! バカなことを言いやがるな!」

「ギャハハ! ギャンブルに負けて借金塗れになって、挙句の果てに俺らの小間使いやっているガキが伯爵様かよ!」

うわぁ、絵に描いたような悪党グループだ。

後腐れなくぶちのめしても、お釣りが出そう。

ジークヴァルトくん、これこそ君のイベントじゃないかい?

守る系ギフトなんだから、こういう時こそ出てくるべきだよ、君ぃ。

人はそれを肉の盾という。

「で? どのガキが、そんなことを言ってやがんだ」

興味を引いたのか男の一人がそんなことを聞く。

当然、私ことトビアスの味方など、ここにはいないので、あっさりと売られたわ。

指を指すんじゃないわよ、バカタレ三人組のうち二人。

「こいつか」

「ああ、躾けてやったんだが、まだ反抗的な目をしていやがる。こいつ、腹になんか仕込んでやがってよぉ。まだ殴った手が痛ぇ。くそ、ふざけやがって……」

別に何も服の下に仕込んでなどいない。金剛不壊の体を勝手に殴りつけてきて相手が自爆しただけだ。

それにしても、どいつもこいつも雑魚っぽいわぁ。

ヒーローが活躍するための『やられ役』なんだろうなぁ、きっと。

別に被害者が助けられるなら、それでもいいんだけど。

こういう余裕があるのも孫悟空だからなのよね。

前世の私だったら怯えて何もできず、震えているはずだ。

それは、ここにいる被害者たちの気持ちでもある。きっと恐ろしくて不安だろう。

「おい」

アジトにいた男が、偽トビアスな私の胸倉を掴む。

「まだそんな馬鹿なことを言ってやがんのか?」

さて。暴れだすタイミングはどうしたものかしら。

私は胸倉を掴まれながら堂々と返す。

「あの女たちをどうするつもりだ? この将来伯爵のトビアス様に、こんな下っ端の仕事を手伝わせやがって」

「ト、トビアス……!?」

「何言ってんだ、お前は!」

顔面蒼白になるルチウスとティモシー。

あまりのことに驚愕している様子。

「このトビアス様が、今からお前たちのボスになってやる。ほら、ありがたく思えよ?」

「……なんだこいつ? 頭がイカれてるのか?」

あら、やり過ぎちゃった?

トビアスったらごめんねー、この評価は全部貴方のものよ!

うーん、やはり七十二変化、他人に渡していい能力じゃない。だって冤罪作り放題だもん。

「バカは使えるが、イカれ野郎はいらねぇなぁ……」

「殺すか?」

おっと危ない。殺しも躊躇わず、選択肢に入る集団か。

「どうせなら、こいつも売ったらどうだ?」

「女しか要らねぇって話だろ」

『女しか要らないって話』とは、またさらに黒幕がいるのか。

何人かのグループを経由して黒幕に辿り着けないようにしているみたい。

このノリで黒幕まで追っていくのは流石に骨が折れるわね……。それに今夜だけでは片がつきそうにない。

エミリア嬢と違って被害者たちの安全確保も不十分。

流石にこれ以上、優先順位は動かせないか。潜入調査はここで終了だ。

「ま、オマケだ、オマケ。おい、こいつも縛っておけ!」

「へぇへぇ」

「はは、バカなこと言った代償だ。高くついたな、クソガキ」

というわけで。

ベタベタな悪党たちに、哀れトビアスくんは捕まったのでした。

おお、トビアスよ、捕まってしまうとは情けない。

すすり泣く声が聞こえてきた場所に一緒に放り込まれるトビアスくん。

放り込んだあとは、監視もつけずに男たちが行ってしまう。

アジトの中の、奥にある部屋だ。

牢屋ではないが鍵の閉まった扉と、その先に賊が複数人いることがわかっている。

窓などはなしで、部屋に扉は一つだけ。地獄の扉だ。

被害者たちも拘束済み。この状況では、彼女たちが自主的には逃げられないわね。

私も後ろ手に縛られてしまった。

うーん、でも、これくらいなら……。

私はぶるりと体を揺らし、呪文を唱える。

「 解索法(かいさくほう) 」

術により、あっという間に私を拘束していた縄が解ける。だが、その縄を手で抑えて解放されたことをひとまず誤魔化す。

ただの縄が孫悟空を捕まえておけるはずもないのだ。

「…………」

捕まえられている被害者たちは、いずれも女性のようだ。

人数は四人。ここに偽エミリア嬢も放り込まれていた本来は被害者が五人だった。

一応、この中に連中の仲間がいる可能性がなくはないわよね。

人質の中に犯人の一味を紛れ込ませて、彼女たちの脱出の邪魔をするのはありがちなパターンだ。

念のため彼女たちの反応を見てみよう。

「 収(しゅう) 」

偽エミリア嬢の変化を解く。はらりとその場に落ちるのは一本の髪の毛。

「え?」

「え、何……?」

何が起きたのか理解できない様子の四人。その反応を見極める。

理解ができないのは間違いない。

怯え、震え、驚愕して。涙目になっている者。諦念を抱く者。睨みつけて怒りを示す者。

概ね、そこに怪しいものはなさそうだ。

彼女たちは、純粋に被害者である可能性が高い。

私はさらに耳を澄ませる。

聞こえる範囲では、このアジトに彼女たち以外に被害者らしき声はなさそう。

この場の彼女たちさえ守れれば、それでいいわね。

さて。

暴れるにあたって正体を晒す必要はない。

かといって、私がトビアス姿のままでヒーローじみた活躍をしてしまうと、彼女たちが勘違いから元のクズ犯罪者トビアスに感謝して、彼とお近付きになろうとしてしまう可能性がある。

そうなったら二次被害が出てしまうので、それは避けておこう。

即ちトビアスくんの好感度ダウン作戦だ。

「ハッ! お前ら、バカな奴らだな! このトビアス様に迷惑かけやがって!」

とか被害者たちにも喧嘩を売って印象を悪くしておいて、と。

「貴方、何を言って……」

やり過ぎて、のちに助けられたとなった時、記憶の混同でトビアスの評価が上がるとか。

『実は、彼が私を救ってくれたヒーローだったのね? きゅん!』みたいな。

そのパターンも避けましょう。

被害者から、きちんと嫌われる加害者になる。

「黙ってろ、ブス」

「なっ……」

「ああ、くそ、こんなバカ女たちのせいで、この俺様までよぉ……!」

はい、これでトビアスくんの印象、最悪になりました!

おめでとう!

たとえ無罪放免になったとしても貴方の評判はガタ落ちよ、トビアスくん!

といったところで。

私はスルリと手を上げて、髪の毛をいくつか掴む。

変化した状態は、物理的に変身しているので、髪の毛も短い。

私だけ拘束され切っていない光景を見てしまい、目を見開く女性たち。

「 瞌睡虫(かしすいちゅう) 、眠れ」

四人に毛を吹きつけ、その毛が虫へと変化する。

拘束されている彼女たちには抗う術もなく、虫が彼女たちの鼻に止まったかと思えば、次の瞬間に、たちまち眠りこけてしまった。

「安心して眠りなさいな、私が守ってあげるから」

さーて。孫悟空の大暴れ、始めちゃいますか。

「 身外身法(しんがいしんほう) 」

うなじの毛をいくつか引き抜き、吹きつける。

すると、それらはまたたく間に何体ものミニ・カーマインたちへと変化する。

「「「「ウキーッ!」」」」

小さな私の分身たちが、小さな筋斗雲に乗り、小さな如意棒を片手にポーズを取って声を上げる。

「七十二変化、変われ!」

ボボボボン! と、いつぞやの『赤髪の妖精』姿へと変身させておく。

「命令、このアジトにいる犯罪者たち、全員をボコボコに打ちのめして。ただし絶対に死なせてはダメ。気を失うくらいに打ちつけてやって! そして拘束すること!」

私は髪の毛を何本か指で切り、その毛に息を吹きかける。

「七十二変化、変われ!」

髪の毛を〝縄〟へと変化させる。

法宝である 幌金縄(こうきんじょう) は複数出しできないみたいだからね。

「これを使っていいわ。では、行って! 暴れてきなさい!」

「「「「ウッキィー!!」」」」

ミニ・カーマインたちが縄を持って飛んでいく。

私たちを閉じ込めていた部屋の扉は、あっという間に破壊されたわ。

「 火眼金睛(かがんきんせい) 、如意棒」

一応、ギフトをオンにしてフルスペックになっておく。

被害者たちの周りを確認して、あやしいものがないかチェック。

ベネディクト氏の〝影〟は別にこちらについてきていないみたい。

ルチウスに張りつけたあとは、そのままかしら?

念のためベネディクト氏をはじめ、主要キャラのところへ視界を飛ばして確認。

あれから大きな動きはなさそう?

ダンスパーティーは解散になっているが、ちらほらと生徒が会場に残っている様子。

俯瞰視点じゃないから確認しづらいけど。

私はさらに分身を二体出して、新たな命令を下す。

「「ウキッ!」」

「命令、会場に戻ってエミリア嬢の保護を連携。どうにかしてフィナさんにエミリア嬢が保護されるように仕向けて。フィナさんが無理そうなら、信用できそうな人の前にエミリア嬢の姿を見せること。ただし極力、貴方たちの姿は見せないように。行って!」

「「ウキーッ!」」

二体のミニ・カーマインが壊れた扉の向こうへと飛んでいく。

ちょっと上手くいくか心配だけど。

思ったより、こちらが手間取りそうだから、そろそろエミリア嬢をどうにかしないとね。

私が戻るのが一番なんでしょうけど、新たに発見した被害者の四人も、どうにかしてあげないといけないから。

そんなことをしている間に、アジト内では怒号が飛び交っていた。

もちろん私の耳は、それらを拾っている。

「なんだこいつら!」

「痛ぇ! くそ! こいつらが噂の魔獣か!?」

「「「ウッキー!!」」」

ミニ・カーマインたちは大暴れしているようだ。うんうん。

「私の出番ないかもねぇ」

ミニ・カーマインたちは優秀だ。

「くそ! 女を連れて逃げるぞ!」

あら。こっちに来る足音が聞こえる。

「 隠身法(おんしんほう) 」

私は姿を消して、横に移動し、如意棒を構える。

「おい、お前ら、すぐにこっちに来やがれ! 逃げたら承知しねぇ、」

「ウキーッ!!」

ドガッ!

「ひょごっ!?」

如意棒を思いきり、男の〝すね〟に向かって振り抜いてやった。

「いっ、ぎゃ、がああああ!」

走ってきた勢いもあって男は思い切り前に転ぶ。

それだけでも痛いだろうに鉄の棒で、しこたま、すねを打たれては、たまったものじゃあるまい。

「おい、何をしていやがる、バカが!」

続いて二人目の男が壊れた扉から飛び込んできたので。

「アチャアアアア!」

「うぎゃっぱ!?」

今度は、お腹を思いきり殴り、男は扉の向こうへ吹っ飛んでいく!

「あはは! 入れ食い、入れ食い!」

お師匠様、こいつらは悪い奴らです! ここで如意棒をしこたま食らわせてやりますよ!

これぞ、お師匠様の教え通り!

私は扉から打って出る。透明のままで。

連中からすれば悪夢のようだろう。

飛び回る赤い妖精たちが暴れ、さらに透明の暴れん坊がいるのだ。

情状酌量の余地なし!

すねを打たれて、のたうち回っている男の服を如意棒の端にひっかける。

「はいっ!」

「うわぁああああッ!?」

力任せに男をぶん投げて、家具を巻き込みながら吹っ飛んでいく!

「うわぁあ! なんなんだ!」

「「「「ウッキィーーー!」」」」

ミニ・カーマインたちと連携し、暴れ回る、暴れ回る!

だいたい片付いたかなぁ、と。あとは彼女たちを連れていくだけ。

そう思ったところで──。

「……オラァアアッ!」

ドガッ!

「きゃっ!?」

アジトの正面、玄関扉が謎の怒声とともに吹っ飛ばされた!?

「な、何……!?」

壊れた玄関の向こうに立っていたのは、見知らぬ男性だ。

「…… 臭う(・・) なぁ、おい」

野性味溢れるというか、アジトにいた他の連中と比べると圧倒的な美形。

しかし彼らの頭目というには、かなり若いように見える男。ヴィルヘルムと同年代くらいか。

その謎のワイルドマンが、鼻をクンクンとひくつかせたかと思うと。

「そこだッ!」

「えっ!?」

一直線に私に向かって突進してきた!?

今の私、透明になっているのに!?

男が背負っていた黒い槍を引き抜き、思いきり振り被る。

完全に私を狙っている!

「オラァッ!」

「くっ!」

ガキィイイン!

咄嗟に如意棒を横向きにし、謎の男性の槍の一撃を受け止めた。

その途端に解けてしまう私の透明化。

「へっ、やっぱりな。 臭った通り(・・・・・) だ」

不敵に笑う目の前の男性。

私は、あまりにも突然のできごとに理解が追いつかなかった。