軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 今世は悪役令嬢?

ギフトの印象が強烈すぎて霞むのだけど。

そもそも、この異世界転生、それ自体がキナ臭くはある。

まず今世の私が、乙女ゲームの悪役令嬢のような気がしてならないのだ。

前世に明確な〝原作〟の記憶などはないため、あくまで仮定、そういう雰囲気を感じるという話になってしまうのだが……。

そう思う理由はいくつかある。

最たるものは、どうにもヒロインっぽいセラフィナ・アスティエールの存在。

彼女はギフト『聖女』を授かった子爵令嬢だ。

しかも、今まで領地の田舎で過ごしていたらしく、天真爛漫で、猪突猛進なところがある。

その性格は優しく元気な善人。見た目は可愛らしく、明るい。

今のところ転生者ヒドイン系の人物ではなく、本物ヒロインちゃんと私は認識している。

そして彼女のお相手のような目立つ四人がいる。

同じくギフトを授かった四人の同級生イケメン男子たち。

ヴィンセント・フォン・グラムザルト第一王子。

ジークヴァルト・アイゼンハルト侯爵令息。

ジュリアン・ヴァレンシュタイン侯爵令息。

ベネディクト・サンプリエール氏。

王子、側近騎士、側近頭脳派、聖職者と見事にキャラが別れているのもポイントが高い。

また、彼ら四人とヒロインちゃん、私の六人は陛下に呼び出され、謁見の間に集まった。

そこで、先日起きた『聖女誘拐事件』の犯人グループが、ギフト複製できる水晶を持っていたことが判明したと知らされた。

王国で暗躍する謎の存在が、聖女である彼女を狙っているのだ。

きっと、それを聞いたヒーローズは彼女を守りたくなるだろう。

ギフト持ち同士の連帯感や親近感もあると思う。

聖女ということで教会との関係もあるし、彼らは若い正義感と責任感をもって、学園でもヒロインちゃんの周りを固めるだろう。

そうなると面白くないのは私……のはずである。

というのも、もちろん理由がある。

もし、私に前世の知識がなかったなら私のギフトは正体不明のギフトだった。

他と比較すれば圧倒的な ハズレギフト(・・・・・・) 。

有益なギフト狙いの組織からは狙われる理由が薄く、ヒーローズも私を守ろうとはしない。

するとしても、ヒロインちゃんとは明確な差を見せてくるだろう。

ハズレギフトの公爵令嬢と聖女の子爵令嬢。

その対比が様々な噂を駆り立てていく。

さらに私にはギフトを授かった公爵令嬢ということでヴィンセント殿下との縁談があった。

今現在も私は殿下の『婚約者候補』という扱いになっている。

候補っていうところがねぇ。

よくある悪役令嬢ものであれば、きっと私が殿下の婚約者だっただろう。

それならば殿下とヒロインちゃんが仲良くなるのは〝不貞〟となってしまう。

しかし、今の私は候補止まりなのだ。

これならヴィンセント殿下が聖女と親密になっても文句は言えない。

彼らに非はなくなり、あるとすれば私がその立場に嫉妬してどうこうの展開だけが残る。

とくに殿下とヒロインちゃんがこれから親しくなればなるほど、私への風当たりは強くなっていくはずだ。

また、私は学園入学前に襲撃を受けたことがある。

そこでは馬車を襲われ、油を撒かれて、火をつけられてしまった。

原作があるかは知らないけれど。

私は、その時に大やけどを負う……はずだった、のではないかと思う。

実際の私はギフトのおかげで無傷だったが。

ハズレギフトなうえ、火傷を負って容姿も貶められる公爵令嬢。

顔か体に火傷跡が残ってしまっていたら、精神的にも悪い方向に寄り、他者への寛容さや優しさを失っていたと思う。

少なくとも半年で精神的に立ち直れた自信はない。

すると、そこから学園での私の評価はどんどん悪くなり……。

と、そこまで容易に想像ができてしまう。

また別方向の悪役令嬢要素もある。

私は前世の記憶、西遊記の記憶があるため、ギフトの使用を躊躇していたのだけど。

そんなものがなく、ただ『強い力を持つギフト』とだけ認識していたら?

細かい能力は使用できずとも、自動発動できるものだけで充分でもある。

火傷を負い、世を儚み、殿方たちに守られる美しいヒロインちゃんに嫉妬し、自身と比較し、比較されて。

ハズレギフトと罵られながら、それでも力があるとわかって。

悪い方向へ、悪い方向へと人生の舵を切っていた可能性が否めない。

神様は私に暴れ回り、人々を傷つける〝悪役〟を期待してこのギフトを授けたのではないか?

それも、 性質(たち) の悪いことに『あーあ、ギフトは善行にも使えるものだったのに。暴れ回って、悪いことをしたのはキミ自身の選択だね!』と。

悪役令嬢の責任で、悪党だったと突きつけられる展開だ。

どうしてもその道に進むしかなかった被害者ではなく。

救いの道があったはずなのに自ら道を踏み外した悪役。

悪役の責任にすることで、気持ち良くヒロインちゃんやヒーローたちに成敗される役回り。

……そういう感じじゃないかなぁ、と。マインちゃん思うわけ。

「はぁ……」

とまぁ、これが私の今世についてだ。

推定悪役令嬢、カーマイン・マロット。

だからなのか、明らかに前世より今の私の方が頭とかいい気がする。

孫悟空ギフトがあまりに強すぎるけど、素のスペックがそもそもハイスペックなのだ。

さす(・・) 悪役令嬢。

「……うん」

今までのことを思い出し、整理したことで、混乱も落ち着いてきた。

そろそろ現状について確かめていくとしよう。

私はベッドの上で、上半身だけ体を起こす。

体調不良はなく、また頭の痛みも引いている。

「ん……」

見覚えのない部屋でベッドの上で寝かされているという、貴族令嬢としては、かなりヤバめの状態だけど。

気を失う直前の状態を考えると、これはおそらく保護と治療の名目で運ばれたあとだろう。

私の衣服は……学園の制服のままだが、汚れなどは払われている。

流石に着替えなどを勝手にしはしなかったか。

見るからに外傷があるならともかく、無傷だろうし。

女性の使用人とかに私の肌を確認させたかな? 火傷の心配をしてね。

まぁ、とにかく貞操の心配はしていない。

私を助けたのは、間違いなくヴィルヘルム・アイゼンハルト小侯爵だろう。

彼は推定ヒーローであるジークヴァルト・アイゼンハルト卿の兄だ。

私の推測に過ぎないが、ヴィルヘルムは〝原作〟で死ぬ予定だったと思う。

だからこそ、私は筋斗雲で現場に駆けつけて彼と共闘した。

緊箍児が発動したせいで気を失ったあの時、あの場にはヴィルヘルムしかいなかった。

「助けられた、かな?」

二重の意味で。私が助けられたし、私も助けられた。

私が無事にこうして屋敷に連れられてきているのがその証拠だ。

「……鏡、あった」

私は、ベッドからゆっくりと降りる。鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。

私の頭には見事な〝金の冠〟が嵌められていた。

「……やっぱり、原典の緊箍児というより、〝最〟の方の緊箍児じゃない? そのままのデザインでもないけれど」

原典の緊箍児は、もっとシンプルなデザインのはずだ。

本当にただの黄金の輪っかという感じで、おでこの部分がクルッとなっているアレ。

でも今、私の頭に嵌っている黄金の輪はどこか〝冠〟のように見える。

原典の緊箍児より、縦幅がゴツめの奴よ。

まぁ、デザイン的には緊箍児と言い張れないことはない、みたいな。

「これを見て、ヴィルヘルムは私を本物の聖女と言ったのね」

確かに元ネタを知らなければ、ただの黄金の冠にしか見えない。

私が……自分で言うのもなんだけど……悪役令嬢らしく美少女系なのも相まって、服装さえ整えれば、まさに聖女という体だ。

「なんで原典寄りのデザインじゃないのかしら」

問題はそこじゃないだろうと思うのだけど、どうしても気になるわ。

「……もしかして、私の知識基準?」

私が西遊記について詳しいのは、最初に原典を読んだからではない。

現代版の西遊記モチーフの漫画・アニメを観てから、原典を知っておこうと思って元ネタの西遊記を摂取したオタクだ。あとはサブスクにあるドラマ版とかね。

なので私の原典知識は、主に書籍とネット情報になっている。

そこにあるのは基本的には〝文字情報〟だった。

実は多々ある孫悟空デザインをあんまり知らない。原典ビジュアルもだ。

だから、一番印象深い緊箍児がこうして形になったとか?

「それとも、この世界風?」

ヴィルヘルムがこの姿を見て、聖女と認識したように。

そう言って誤魔化せなくはないデザインだから?

デザイン云々をいったら如意棒や七星剣も何基準のデザインなのかって話だけど。

「それより問題は……」

私は緊箍児に手を触れる。

そして、ググッと力を込める。

「……! ……!」

だけど、やっぱり私では外せない。

まさか一生このまま? それとも十四年間の旅を経て、仏になれと?

「そんな殺生な……」

お師匠様、これ本当、どうにかなりません?

お釈迦様、どうかお慈悲を……。

「はぁ……」

私は深く、深く、溜息をつくしかできなかった。