軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33 疑惑

これは推定乙女ゲームの規定路線シナリオなのだろうか。

この六人が、わざわざ陛下の前にまで呼び出されたのだ。

しかも正体のわからない悪党たちは『聖女』のギフト持ちを狙っていると判明した。

そうなれば、推定ヒーローの彼らはヒロインちゃんを守りたくなるはずだ。

だって彼女は狙われているのだから。

そこで交流が増えていって、ドラマが展開される?

……そんな王子や彼らに守られるヒロインちゃんを横に見ながら、相手にもされないハズレギフトの私は、どんどんヒロインちゃんに嫉妬の炎を燃やしていく?

うわぁ、ありそう!

そうか、そう来たか。もしかして、ここからがシナリオの本番なのでは?

いや、この推理が正しいかはわからないけど。

ここに来て、ぐぐっと乙女ゲーム感が強まってきた気がする。

私が悪役令嬢になり得る要素も色濃くなった。

それはそうと一大事だ。

まさかギフトを複製する技術なんてものが存在するとは。

複製が可能としてもギフト『斉天大聖孫悟空』を十全に活かせる人間なんて、この世界にはいない?

現にギフトで解析しても、ろくな情報が出てこなかったのだから、余計に。

でも、パッシブで発動する能力だけでも厄介だし、何かの技術で、孫悟空が使える術など解析されて使いこなされても厄介だ。

私以外の転生者が他にいて、孫悟空について詳しい者だって現れるかもしれない。

何より、よくないのが『 七十二(しちじゅうに) 変化(へんげ) 』である。

これを悪用すれば、国王のふりでも、高位貴族のふりでもできてしまう。

顔を変えての犯罪だって可能だし、他人を陥れる手段など、いくらでも思い浮かぶ。

冤罪のし放題だし、潜入のし放題。

文明社会で世に放たれていい能力ではない。

それは今の私もなのだけど!

その他にも考えるだけで危険な能力がある。

たとえば、孫悟空は 巨大化(・・・) もできるのだ。

普通に、物理的に王都を大破壊できてしまう。

『 法天象地(ほうてんしょうち) 』、孫悟空の体を巨大化する術。

私はするつもりはないが、破壊を目論む者の手に渡るのは絶対にだめだろう。

いや、巨大化の術が使えるかの検証はまだしていないのだけど、他の様々な能力が備わっているので、おそらくできると思う。

……あと、笑い話のように聞こえるかもしれないけど。

仮に日本人の転生者が他にもいて、このギフトを授かった場合。

その人物が、西遊記について詳しいとは限らないのは確かだ。

孫悟空の細かい能力なんて万人が知っているとは思えない。

けれど、とんでもなく困ったことに『孫悟空が巨大化する』ということについて、原典を知らなかろうと、そのように考える者は、かなりの数がいるはずだ。

それはもう世界的に有名な、あのアニメのせいで。

そう。原典を知らなくても、日本人の多くが、孫悟空は『大猿になって大暴れ!』ができると考えてしまう可能性が高いのだ。

そして、それは実際に実現してしまう。

できることに気づけば、それはもう大量破壊兵器に等しい。

一人だけ進撃する巨人である。都市破壊なんてお手のもの。危険レベルがわかるだろう。

今の私も、実はその『危険物』なのよねー……。

もちろん、そんな知識待ちが現れるかもしれない、というのは、私の他にも転生者がいる場合の話なのだが。

私という前例がいる時点で除外できない懸念だ。

つまり、どう考えても、このギフトが他の者の手に渡るのはアウトである。

「聖女のギフトを奪う、いや、複製しようとした、ですか。恐れながら陛下、それについて詳しく聞いてもいいでしょうか」

ヴィンセント殿下は、父上とは言わずに陛下と呼び、問う。

国王も鷹揚に頷き、応じた。

「質問があるのなら聞いてみよ。それについてわかっていることを答えた方が早かろう。ヴィンセント以外の者たちにも直答を許す」

私たちは互いの顔を少しだけ見合う。私はフィナさんとだ。

「では、まず私から。その複製されたギフトは、決して消えないものなのですか? 一度、複製されてしまえば、その者もまたギフテッドとして生涯、その力が使える?」

「複製されたギフトは授かるものではないようだ。その道具を保有している間だけ使える。生活魔法の力を込められた魔道具と同じ類のようだな」

「……なるほど」

生活魔法は、普通にちょっとした火とか水とかを出せたりできる。

その力の込められた魔道具は、前世の家電みたいなものだ。

つまり、この世界には『超常の力を道具に込める』という概念が元から存在する。

ならばギフトだっていけるだろう、と。そういう発想で作られたのだろうか。

いや、本当。孫悟空の存在感のせいで、せっかく魔法が使える異世界なのに魔法の影が薄いわね。

次に質問したのはジュリアン氏だ。

「道具ならば、その水晶は壊せるのでしょうか?」

「それはもちろん、そのはずだ」

「では、複製されたギフトを使い続ければ、それは壊れるのですか? 耐久性はどれくらいですか?」

「その検証はできていないが、連中を尋問した答えとしては、無尽蔵に使える物ではないようだ。ただ、それは今の技術の問題であって、いずれはもっと長期的に使えるものになる可能性はある」

「……わかりました」

技術としては革新的ねぇ。

『聖女』のギフトは悪用が難しいものばかりのはずだ。

善行に使うことが前提ならば、悪くはない技術なのだけど。

しかし、誘拐なんかして、強引にギフトを複製しようとした連中の目的が善行とは思えない。

次の質問はベネディクトさん。

「聖女を誘拐した者たちが何者なのかはわかっているのでしょうか? そのような技術を持っているのならば、裏に相応の組織がいるかと思いますが」

「それはまだわかっていない。どうやら捕まえた連中は末端の者だったらしいからな。その背景にまで、まだ手は届いておらぬ」

「そうですか……。ギフトの複製は、神への冒涜に等しい行為かと思います。王家はこの件を、どのように判断されていますか?」

「まだ何も定まってはいない。ただ、そういう技術が、我らの知らぬ間に確立されていたのが事実であり、対応はこれからだ。それには教会も関わってくることだろう。ギフトの複製が〝異端〟と見なされる可能性は大いにある。無論、神に直接ギフトを授かったであろう、お前たちは別だがな」

「……承知しました」

異端か。そりゃあそうよね。

現代日本の一般人的には、そういう話ってちょっと遠い印象だけど。

この世界は普通に王都などの都市部に大々的に教会があるし、大司教もいる。

異端認定や破門といった言葉が、すぐそばにある世界観だ。

次の質問はアイゼンハルト卿。

「王家は、聖女を誘拐した目的は、なんだと考えておられますか?」

「目的? 聖女のギフトの複製以外にか?」

「はい、陛下。仮に自分が、他者のギフトを奪えるとして。なぜ、それが『聖女』なのかという話です。それは犯人、黒幕につながるものかと思います。たとえば、自分の『不落の守護者』を奪えれば、兵を強化できます。それが目的ならば『聖女』ではなく、自分のギフト『不落の守護者』を狙うはずです」

「……そうかもしれないな」

「であれば『聖女』を狙った理由が気になります。聖女のギフトは人を守り、人を癒すギフト。破魔などもありますが、現状はそれが役立つ機会はないと聞いています。つまり、そのような技術を生み出した者たちは、力強くなれる『不落の守護者』でも、他の有用なギフトでもなく、『聖女』を狙う必要があった。そうではないでしょうか」

「他の者は狙いにくかっただけかもしれぬぞ。アスティエール嬢は子爵家の娘だ。王子であるヴィンセントを狙うよりは、よほど楽な相手であろう」

「確かに陛下のおっしゃるとおりです。しかし、その一件には自分も関わりましたが……。当時、アスティエール嬢のそばには、マロット公爵令嬢もいたはず。ならば、公爵家の護衛もついていたはずであり、標的とするには、むしろ困難な対象であったと思います。それなのに彼女をわざわざ狙った」

アイゼンハルト卿は、そこで私に体を向けた。

「『聖女』のギフトを欲する動機があり、また当時のアスティエール嬢のそばにいて、むざむざと彼女を誘拐させた。公爵家の護衛は意図して遠ざけられ、そのあとは都合よく、アスティエール嬢と無事に帰還。まるで何もかもが、たった一人の企みのようではありませんか? アスティエール嬢が解放されたのは、彼女のギフトの複製がすでに済んでおり、用済みとなっていたからではないでしょうか」

その場にいる者たちの、何より国王の視線がすべて私に集まった。

アイゼンハルト卿はこう言っている。

カーマイン・マロットこそが犯人だ、と。