軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 選挙管理委員会、発足

西遊記の物語で有名なのは、孫悟空が三蔵法師のお供になってからの後半だ。

三蔵法師というと善良でお人好しなイメージがある。

でも、けっこう三蔵法師こと、お師匠様は孫悟空のことを疑うことが多い。

そもそも孫悟空は信用してはいけない妖怪だ。

伊達に天界で大暴れしたうえ、五百年も幽閉されていない。

だからこそ『 緊箍児(きんこじ) 』と呼ばれる黄金の輪を頭につけられ、三蔵法師の監視下におかれている。

といっても、西遊記後半だけを見ると『どうして孫悟空のことを信用してやらないんだ』と思ってしまう場面が多々ある。

前提として悪さをしまくった大妖怪、魔王だったという信用のなさを知らない読者が多いからだ。

孫悟空は、その能力の高さで、敵対する妖怪の悪事を未然に察知してしまう。

人間に化けた妖怪を見破って、さっさと倒すとかね。

『 火眼金睛(かがんきんせい) 』には、そういう真実を見抜く力もある。

けれど、孫悟空と読者にとってそれは真実だけど、他の者から見たら『孫悟空が突然、人間に襲いかかった』と受け取られてしまう。

そして疑われて一悶着ありつつ、最終的には孫悟空がパワーで解決し、三蔵法師や仲間たちの誤解を解き、悪党退治が完了。

これが西遊記の黄金パターンだ。お約束となっている。

疑われること、信用されないことは、前半から読めば孫悟空の自業自得な面が強い。

お前、暴れまくっとったやろがい、信用できるわけねぇだろ、である。

突然なんの話? と思うかもしれないが、思ったのだ。

後半の孫悟空と悪役令嬢の立場って似たようなものかもしれないな、と。

具体的にいうと、人に信用してもらえない。

事件の犯人だ、或いは孫悟空は悪党なんだ、と。そういうふうに見られてしまう。

悪役令嬢もそうだ。

事件の黒幕なのは彼女だ、彼女は悪辣な人間に違いないと思われてしまう。

そんなシンパシーを孫悟空に感じる昨今。

お元気でしょうか、お師匠様。

私は今、選挙管理委員会の発足に立ち合っています。

そして、そこに居合わせたメンバーを紹介しましょう。

「…………」

一人目、ジュリアン・ヴァレンシュタイン侯爵令息。

G4の一人、ヴィンセント殿下の側近、眼鏡をかけた頭脳派枠だ。

そんな彼がいつもの冷淡な態度を翻して、これみよがしに敵意を私に向けてきている。

ウキーッ! である。

「……!」

二人目、セラフィナ・アスティエール子爵令嬢。

ここで出てくるか、ヒロインちゃん。

君の出番は生徒会が決まってからではないのか。

今ここはまだ、ただの選挙管理委員会である。

君がここにいたら、生徒会選挙に立候補できないのでは?

なお、キラキラした目を私に向けているが今日は流石に大人しい。

問答無用の聖女ビームを浴びせてこない。成長したわね。

三人目、謎の男子生徒Aくん。

本当に知らない人。高身長でそれなりに美形。

容姿だけならG4入りしても遜色ない雰囲気がある。

ただ、にこやかな表情からはどうにも裏が読めない感じ。

それは貴族らしい態度といえるかも?

以上、私を合わせた四人のイカしたメンバーでした。

「……以上かしら? 選挙管理委員会の人員は?」

私は三人に向けて口を開く。

そもそも、このメンバーだと司会進行役って私なのかしら。

「ヴィンセント殿下からはそう聞いています」

「そう。教員は? 参加してくれないの?」

「……言い出したのはマロット公女だったはずですが」

「提案したのは私だけれど、企画と立ち上げは殿下ね。私はここには呼ばれただけよ」

「無責任ですね」

これである。

G4たちは、なんだって私にこう敵対的なのかしら。

ヒロインちゃんをいじめた覚えはないし、そういう証言も出ていなそうなのだけど。

やっぱりギフト関係で思うところがあるのか。

そりゃ、私だけ『空を曇らせることのできる』謎ギフトだものねぇ。

エリート集団のプライドを傷つけたギフテッドの面汚し扱いかな。

「まず、自己紹介からしましょうか? 私はカーマイン・マロットです」

座ったまま、軽く名乗る。

「私はセラフィナ・アスティエールです!」

ヒロインちゃんが元気よく続いてくれた。

やっぱり裏表は感じられない。私に好意的に見えるのはありがたいことだ。

「……ジュリアン・ヴァレンシュタインだ」

「セシル・ランバートだ。元生徒会」

「あら、貴方は生徒会メンバーだったの?」

男子生徒Aくんの名前はセシルだった。さらに元生徒会。

「ああ」

「ふぅん。でもいいの? 残っている生徒会メンバーといったら、例の一件ではただの被害者。なら返り咲こうとは思わないの?」

「どうせ殿下が勝つだろうからな。殿下に選ばれていないなら意味がない」

悲観的ねぇ。

「でも、殿下に認められそうな人が、ここに一人いるから枠が一つ空いているんじゃない?」

「……」

あ、ジュリアン氏が睨んできている。

ヒロインちゃんの前だけど気にしないのかしら。

「ああ、その枠には入ってほしい人がいるからな」

「そうなの」

推しがいるのかしら。まぁ、ここで深く聞くことでもないわね。

「不正はさせないぞ」

と。ジュリアン氏がぶちかました。

こっちを見て言うな、ウキーッ!

「だってさ、公女様。言われてるぜ」

セシル氏が笑って言う。

「お前もだ、ランバート伯爵令息。誰を推薦したいのか知らないが」

「はいはい、わかっていますよ、噂の側近様」

「もし、誤魔化そうとしても……」

そこでジュリアン氏が言葉を切り、私を見ながら続ける。

「私のギフト『真理の探究』の前では、如何なる不正も意味を成さない」

「はいはい、側近様のギフトのおかげで去年度からの横領が見事に発覚しました、ありがとうございますよ、ってな」

まぁ、新事実発覚だわ。

どうやらジュリアン氏のギフトが横領を暴いたらしい。

彼のギフト『真理の探究』は分析や解析能力に優れているという。

しかも使い魔型だとか?

そういうギフトがあるのなら不正を暴く方面に使うのがベストか。

今年度に入ってから不正が暴かれた理由も、そういうことなのだろう。

そうなると、やっぱり生徒会の入れ替えは既定路線なのかも?

キャラクターとギフトによって、必然的に結果が見えていたわけだ。

「マロット公女、貴方はいったい何を隠している?」

「はい?」

私は首を傾げる。

「私の『真理の探究』は貴方のギフトも見通している」

「……まぁ」

私の奥の手、切り札がバレているの? それはまた。

「だが、いくら分析、解析してもわからない」

「あら?」

孫悟空にパッシブで隠蔽能力なんてあったかしら?

能動的に隠蔽するようなことはできそうだけど。

無意識で正体を隠すようなエピソード、あったかなぁ……。

「文字は読み取れても、その文字が読めないのだ。洗礼水晶と同じだ」

「ああ、そういう」

それは読み取れてはいるけど、普通に日本語が読めないだけね!

「だが貴方は読めたという。答えてもらおう。貴方のギフトは、いったいなんだ」

ジュリアン氏は、私を睨みつけながらそう尋ねた。