軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128 羊脂玉浄瓶

「カーマインは他人のギフトを奪えるのか」

「いえ、今回のは特殊事例だと思うわ」

「そうなのか?」

今回は、ギフト『混世魔王』で使役したのが〝花果山の猿〟だったからできた芸当だろう。

「『花果山』関係だけは全部、私のものというか。ラグナ卿のギフトは奪えないと思うわ」

「ははは! よくわからんが強気だな!」

単なる事実なのだが。

「「「「ウキキィ!」」」」

銀の輪を頭に嵌めたミニ四健将が一緒になって笑う。

そして、ミニ筋斗雲に乗り、ふわふわと私の回りを漂ってみせる。

……でも、ちょっと待って?

今回の件、原典における『孫悟空が混世魔王を倒したあと、連れ去られていた花果山の猿たちを連れ戻した』というエピソード昇華の一環だからできたことよね?

西遊記のエピソード昇華だからこそ『混世魔王』の男が花果山の猿たちを使役できていた。

九尾狐理精の小妖使役もそうだろう。

孫悟空のギフトも同じで、原典で使用した道具類を使用できている。

ということは、だ。

『原典において孫悟空が倒した』ギフトについては、ギフトの正体を狙って倒すことができたりしないだろうか。

西遊記に出てくる敵は、孫悟空がすべてを倒したわけじゃあない。

よく天界からの助力を受けて倒してもらったりしている。

紅孩児を直接倒したのだって孫悟空じゃないわ。

また元から天界の住人だった敵たちは、エピソードの終わりには天界へ連れ帰られるオチになっている者も多い。

紅孩児、黒風大王などは金の環を嵌められ、仏の弟子となり、天界へ渡る。

天界へ連れて行かれる組については、私のギフトではどうにもできないと思う。だけれど。

〝下界で孫悟空が倒した〟敵ならば、先ほどと同じ要領でギフトの破壊をできないか?

たとえば『圧竜洞九尾狐理精』は、明確に本家・孫悟空が殺した妖怪となる。

その原典エピソードの昇華ならば?

「…………」

私は、ラグナ卿が捕まえてきた九尾狐理精の女に視線を向ける。

「ねぇ、ミニたち。彼女のギフトは今やったように奪える?」

「「ウキィ?」」

なんで『私どもには、そんなことわかりませんが?』みたいな感じなのよ。

いつもどういう感覚でミニ・マイン・ニューバージョンを生み出しているの。

「じゃあ、彼女のギフトだけを破壊することはできる?」

「「ウキ? ウキー……?」」

新たに加わったミニ四健将にも視線を向け、意見を求める。

この子たちもミニ猪八戒と同じく独立型になったってことよね?

私のエネルギーを消費せず、独自に活動するミニ・マイン。

まったく消費しないわけではないかもしれないわね。

マリンが喜んで世話をしそう。

マリンとミニ猪八戒、ヴィルヘルムたちは元気かしら?

まだ離れてからそこまで日も過ぎていないけれど。

「そもそも『混世魔王』のギフトから魔猿の召喚能力を貴方たちは奪ったの?」

「「「「ウキ!」」」」

あ、こっちは自信満々、得意気に頷いてきたわ!

つまり本当に男からギフト能力を奪ったのか。

「もしかして、もう彼は『混世魔王』のギフト自体を使えなくなった?」

「「「「ウッキィ!」」」」

頷いたわ! じゃあ『混世魔王』の ギフトを(・・・・) 倒せた!?

私はラグナ卿やエミリア嬢と視線を合わせた。

「他人のギフトの奪取、および破壊ができるギフトか?」

「条件が満たされた場合に限ると思うけど、一部のギフトならそれが可能かもしれない。あ、ラグナ卿のギフト『 聖嬰大王紅孩児(せいえいだいおうこうがいじ) 』は、たぶん無理。よね?」

「「「「ウキ!」」」」

ミニ四健将が大いに頷く。

やはり紅孩児の破壊・奪取は無理らしい。

だが、これは朗報だ。一部のギフトは私のギフトで破壊ができる!

これなら被害を減らせるわ!

「ええとね? 『孫悟空は九尾狐理精を打ち殺し、幌金縄を奪った』はずだけれど。混世魔王と同じようにできたりしない? 私がすでに幌金縄を持っているから話としては変だけれど……」

「「「「ウキィ!」」」」

私がそう尋ねると、ミニ四健将が他のミニ・マインたちに指示する素振りをみせる。

あ、やってくれそう! これはいけるのでは!?

「ちょっと! ねぇ! ラグナ(・・・) ・ ヴォルテール(・・・・・・) !」

次の標的となり、焦った九尾狐理精の女はラグナ卿に呼びかける。

私たちは捕縛した彼女に対し、警戒心を弱めていた。

ミニ・マインたちが監視してくれているのもあったけれど。

「 なんだ(・・・) ?」

ラグナ卿は返事をする。

視界の端。九尾の尾が、何やら白色の綺麗なガラス瓶のような物を抱えているのが見えた。

ガラス瓶? 見たことのないものだ。その次の瞬間。

「おっ……」

「え!?」

ラグナ卿が、あっという間に 吸い込まれた(・・・・・・) 。

九尾の尾が構えていた白色の瓶へ。

ラグナ卿が吸い込まれた途端、九尾の尾がうねり、すぐにその蓋を閉めた。

「は……!?」

「「「ウキッ!?」」」

咄嗟のことすぎて、さらに驚愕の展開すぎて、思考が止まり、固まってしまう。

「あははは! 盛って(・・・) やったわ!」

今のは、まさか……まさか!?

「 羊脂玉浄瓶(ようしぎょくじょうへい) !?」

紫金紅葫蘆(しきんこうころ) 、金角たちが使用した〝ひょうたん〟と同じ能力を持つ瓶!

同じ能力だからと、あえてそちらを使おうとはしてこなかったもの!

使ってこなかったせいで見ただけでは〝それ〟だと気づかなかった!

「ハァ!」

拘束されていた状態から九尾の尾が縄を切り裂き、彼女を自由にする。

ラグナ卿が瓶に 盛られた(・・・・) !

まずい! あれは中に入れられた相手を溶かして殺すものよ!

金剛不壊の肉体を持つ孫悟空だからこそ耐えられたが、ラグナ卿といえど他の人間も同じとは限らない! むしろ危険だわ!

「ふふふ、形勢逆転かしらぁ? いい? 動くんじゃあないわよ? じゃないと、この瓶に封じた彼をすぐに殺すわ!」

「そんな……!」

驚愕するエミリア嬢。私だって驚きを隠せない。

なぜ、九尾狐理精が幌金縄だけでなく、羊脂玉浄瓶まで使えるのか。

それは原典にはない挙動だ。

「さぁ、 者行孫(しゃぎょうそん) ? 今度は、あの子たちを返してもらおうかしら? この男が殺されたくなければねぇ?」

「くっ……。なぜ、あの子たちを狙うのよ?」

「狙う? 人聞きの悪い。あの子たちは私の子供だもの」

「はぁ?」

この女はベラゴート伯爵の後妻だ。

しかし、伯爵が明らかに操られている様子だったという。

なら、ほぼ無効の婚姻であり、兄妹の実の母は別にいる。

「私と〝 母子(おやこ) の契約〟を交わした子供たちはね。あのような悪魔の姿、『金角大王』と『銀角大王』になるのよ。だから、あの子たちはもう私のものなの」

「それは……!」

こいつもエピソード昇華型ギフト。

金角・銀角は元々は天界の童子だった。

彼らは五つの宝を天界から持ち出し、下界に降りてきたのだ。

しかし、そんな背景を持つ彼らが三蔵一行の前に立ち塞がってきた時には、なぜか彼らには『母』がいて、その母が幌金縄を管理していた。

五つの宝を物理的に持ってきているため、下界に転生したというわけでもないはずである。

それは行間を読めば、金角・銀角が宝を『義母』に献上し、管理を委ねる代わりに義理の親子の契りを交わしたと解釈できなくもない。

そうして地域の妖怪グループに兄弟は参入したのだ。

つまり、この一連の事件、主体は金角・銀角にあるのではなく。

彼らの義母、圧竜洞九尾狐理精こそが基点となり、平頂山の再現となった? 中心は彼女なのだ。

加えて混世魔王が『猿をさらった時に法術で意識を奪った』ように伯爵を操っていて?

〝五つの宝〟の他のすべても『兄弟からの献上品』として、幌金縄と同じように彼女の管理下にあると?

知性のない鬼と化した金角・銀角の代わりに五つの宝を使う敵!

「カ、カーマイン様、ラグナ卿が!」

「落ち着いて、私の後ろに下がっていて、エミリア嬢」

どうする? 私はあの瓶の能力を知っているのだから今すぐに殺すかどうか、決める能力はないはずだと知っている。

だが時間の問題でもある。

使役型で金角・銀角を含めた平頂山エピソード全体の再現ができるとすれば、もしかして彼女、小妖の軍勢も召喚できたりするのでは……?

まさか最強のラグナ卿が、こんなところで抑え込まれるなんて!

いきなりの状況に冷や汗を流しつつ、打開策を考える。

「ほら、早くしてくれない? 者行孫(しゃぎょうそん) 」

「……貴方の目的はなんなの?」

「あら、時間稼ぎに乗るつもりはないわ。ここはもうだめだってわかったから。でも、この男を捕まえられたのは、いい収穫。あの子たちを回収したら、もう貴方になんて用はない」

「……ギフテッドを集めているのに私を無視するって?」

「ええ、貴方は危険だもの。私一人で相手することなんてないわ」

くっ! それはたぶん正しいとは思う。

孫悟空が敵に警戒されるのは定番中の定番。

「……ん?」

私の眼は異変を捉えた。

それは九尾の尾が抱えている白色の瓶、ラグナ卿が盛られた羊脂玉浄瓶の異変だ。

白く美しい見た目のはずが、何やら赤く染まって?

あれって赤熱している?

「は? なに……熱っ!?」

思わずといったふうに彼女は瓶を捨て、飛びのく。

地面に落ちても簡単には割れない瓶。だが。

ボボボボボ!

途端、白い瓶が勢いよく燃え上がり、表面の一部が赤熱し始める!

熱によって内側から溶かされていくような、そんな様子で。

「な、な、な……!?」

その場の全員が驚愕する。もちろん私もだ。

ドロリ、と。鉄が溶けるかの如く瓶の表面が溶け落ちて、そこから。

ヴォオオオオオオオ!!

「ハハハハッ!」

黒煙と火炎が吹き上がり、彼の豪快な笑い声が響く。

「きゃああ!?」

火炎と黒煙とともに五行車に乗ったラグナ卿が飛び出してきたのだ。

まさか封じられた状態から自力で脱出してきた!?

孫悟空でさえ外から封が開けられるのを待っていたのに!?

「おお、外だな!」

ラグナ卿が五行車で空を駆け、旋回してから堂々と帰還し、そう言って笑った。

やっぱり、もう彼一人でいいんじゃないかしら!?