軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

121 兄妹

『こちらに使用人専用の入口があります』

「ウキー」

三体のミニ・マインが布を掴んでアンリエッタさんと一緒に移動している。

隠身法で彼女を隠すためなのだが、見た目は子供騙しの布被りオバケだ。

中身も幽霊なのでデフォルメされたと言ってもいいかもしれない。

使用人用の入口の前に来て、ひとまず確かめてみる。鍵がかかっているようだ。

私は人差し指と中指で剣指を結び、扉を指差す。

「 解鎖法(かいさほう) 」

カチリ、と鍵が開く音がしたので扉を開いて中に入る。

幸い、すぐ目の前に人がいることはなかった。

屋敷の中の空気は淀んでいる。

これは妖気がどうとかではなく、ただ掃除が行き届いていない、廃れた空気のせいだろう。

多くの使用人が入れ替えられたと聞くが、新しい使用人は仕事をしていないのかしら。

『こちらです。階段を上がって……』

人が少ない。伯爵家とは思えないほどに。

代わりに雇われたはずの使用人たちは?

ドアマットな子供たちが使用人のように働かされているとのことだが……。

人を雇う代わりに働かせているの?

『この部屋をロクサーヌお嬢様が使っていました』

今まで通りの部屋にそのまま暮らせているのかしら?

ドアマット定番の屋根裏部屋とか、階段の下部屋とかに移されているのでは?

そう思いつつ、解鎖法を使い、扉を開く。

『ロクサーヌお嬢様!』

「ウキー!」

布オバケ状態のアンリエッタさんが部屋に飛び込む。

普通に怖いのでは、その状態。あ、見えないか。

『あれ……?』

彼女に続いて私も部屋に入り、様子を見る。

やはり、ここには伯爵令嬢はいないようだ。

「いないようね。一応、隠れていないかを確かめてから次を捜しましょう」

『は、はい……』

耳を澄ませて、部屋に隠れていないかを探る。

隠し部屋とか普通にありそう。

とりあえず、この部屋にはいなそうなので次は兄の部屋を捜す。

屋敷は広く、三階建てで闇雲に捜していても見つけるのは難しい。

変化で使用人に化けて聞き出すか、誰かを捕まえるか。

伯爵令息の元々の部屋は同じ階層にあるらしく、少しの移動で辿り着く。

だが、やはりそこにも兄妹はいなかった。

それより以前に問題なのが……。

「どうして、ここまで人がいないの?」

『……私にはわかりません。新たに雇われた使用人が入っていたはずです』

そうよね。

アンリエッタさんが殺されたあとで辞めていったか。

同じように消された可能性もある。

……残念だが、アンリエッタさん以外は助けられないだろう。

せめて伯爵家の兄妹を助けられればいいのだが。

「アンリエッタさん、この家で一番、 よくない部屋(・・・・・・) へ案内して」

『よくない……?』

「日当たりが悪くてジメジメしているとか。屋根裏部屋、地下室、とにかくその部屋に押し込められることが不幸な感じの部屋。他に当てがあるならそこへ向かうけど、闇雲に捜しても仕方ないでしょう?」

『わ、わかりました』

伯爵家兄妹の部屋は三階にあったため、ひとまずそのまま屋根裏部屋へ向かう。

ただし、そちらにも誰もいなかった。

「……伯爵夫人は追い出され、使用人たちは入れ替えられた。兄妹は使用人のように働かされていて伯爵は人が変わったように」

屋敷は、まともな運用がされている様子ではない。

ただ、さらに気になることがある。

「でも、屋敷全体では、ずっと人がいなかった様子じゃないわよね。埃もそれほど積もっていない」

『そうですね……。最近まで、いえ、少し前まではきちんと掃除はされていたような。そんな

様子だと思います』

この状況。

元から人がいなかった、というより『今はいない』という感じだ。

エミリア嬢が訪ねてきたから? 示し合わせたように、あの少しの時間で使用人たち全員が姿を隠した?

そこまで統率された動きを? 新たに雇われた使用人たちが?

どうしてそんなことができたか、どういう動機かはさておき。

それが『起きた』ことは事実と考えよう。

ギフトなんてものがある世界なのだ。どうとでもできるものとする。

火眼金睛の遠視は見知った相手でないと視界が飛んでいかない。

だから伯爵家の兄妹を視ることはできない。

また、先程から聴覚のギフトはオンのままだ。

それでも会話を拾えていないので、近くに隠れている様子ではない。

……近くに潜んでいたとしても全員が沈黙しているか。

ベラゴート伯爵は、なり代わり、もしくは洗脳されている疑惑がある。

洗脳ができるならば、使用人たちを洗脳していてもおかしくない。

そういう状態? なんだか領都の様子といい、すごく不気味だわ!

人気のない屋敷を探り、とりわけよくない場所へ案内してもらう。

そこは使用人たちが使う部屋の、さらに奥まった場所で、人が使っていることなど見た記憶はないという。

まぁ、単なる空き部屋にすぎない。

地下牢のようなものは元からなかったか。

その部屋へ近付くと微かな音が聞こえた。

ようやく人がいる場所へ来たらしい。

「解鎖法」

鍵をあけ、扉を開く。すると部屋の中、その隅に影が二人分あった。

『ロクサーヌお嬢様! クラリオ様!』

「……!?」

「え、アンリエッタ?」

ビンゴ。伯爵家の兄妹をようやく見つけたわ。

「なんだ? 扉が開いて、声がするのに誰も……」

『スウェン様、姿を』

「はいはい」

私は隠身法を解く。

「うわ!?」

「きゃあ!」

「ああ、ごめんね。急に姿を見せて。でも怖がらないで。貴方たちの敵のつもりはないから」

『ロクサーヌお嬢様!』

「アンリエッタの声……。え? もしかして」

アンリエッタさんは『布オバケ』状態だ。

「布は外してあげて」

「ウキ!」

私が命じるとミニ・マインたちが布を剥ぎ取り、幽霊メイドを露わにする。

「アンリエッタ!」

『ああ、ロクサーヌお嬢様、よくぞご無事で……!』

最後に残ったまともな使用人だったのだろう。

メイドであってもロクサーヌの覚えはあったようだ。

「アンリエッタ! どうして……その姿は……?」

『……申し訳ございません、お嬢様。私はどうやら何者かに襲われたらしく……』

「まさか、幽霊になって?」

そう尋ねたのは少年、クラリオ・ベラゴートだ。

十四歳と聞いていたが、やせ細っているためか、もう少し幼く見える。

私と二、三歳違いとは思えないほど。

『……はい』

「そんな……。アンリエッタは死んでしまったの?」

『たぶん、ですが。しかし、幸か不幸か、私はそれでギフトを発現したようなのです』

「……ギフト?」

『はい! どうやら幽霊になって助けを求めに行けるギフトのようで。それでお嬢様たちを助けてくださる方をお連れしたのです!』

「そんな……」

二人の健康状態は悪そうだが、一人きりではなく兄妹が一緒にいたからか、きちんと話せる様子。

心が壊れるまではいっていないらしい。よかったわ。

「貴方たちは助けるつもりよ。でも、その前に教えて。いったい何があったの?」

私は片膝を突き、部屋の隅に二人で座り込んでいる彼らに話しかける。

「貴方は……?」

「私は……今はスウェンを名乗っておくわ。アンリエッタさんに事情を聞いて、この家にやって来たわ。頼れる騎士様とお隣の男爵令嬢と一緒にね。貴方はクラリオ・ベラゴート?」

「はい……」

「アンリエッタさんを連れてきたのだから、信じてもらえる?」

私の言葉にクラリオとロクサーヌは顔を見合わせ、アンリエッタさんを見る。

アンリエッタさんが信じていいと言うように力強く頷いてくれた。

そのおかげで彼らも私を信じてくれるようだ。

「わかりました。貴方を信じます、スウェン様」

「ありがとう。それで何が起きたの? 今、この屋敷の中を捜し回ったんだけど。使用人が一人もいなかったわ」

「……僕たちにも、正確なことはわからないのです」

聞いてみると、途中まではアンリエッタさんから聞いた話と同じだった。

人が変わった伯爵、追い出された伯爵夫人。

入れ替えられた使用人たち、代わりに働かされていた兄妹。

いなくなってしまったアンリエッタさん。

「でも、ただ僕らのことを嫌っているとか、見下している人たちとは違っていて、どこか不気味なんです、彼らは」

「不気味」

「父の言うことは聞くのですが、ただそれだけの人形のような……」

「伯爵の言うことは聞いていたの?」

「はい。ですが、その父もどこか……病気のようで。どんどん顔色が悪くなっていき」

うーん、なんだろう。

ここまでトラブルを引き起こしているのは、この世界観的には西遊記系だと思うんだけど。

敵の正体がいまいちピンと来ないわね。

「伯爵は黒水晶の飾りを今も身に着けている? アンリエッタさんから聞いたのだけど」

「黒水晶……。ああ、はい。身につけています。思えば、あれを身につけてから父がおかしくなっていったように思う……」

アンリエッタさんの考えと合っているのね。

黒水晶は身に着ければギフトを使えたり、その正体を召喚できたりするのかと思ったんだけど。

どういう用途なのよ?

そういえばキメラにも埋め込まれていたし……。

ギフト複製や奪取に使えるけれど、そもそも万能アイテムとか、そういうこと?

「新しく入った使用人たちの姿が見えないけど、どこに?」

「わからない。僕らは、ただ急に部屋にいるように命じられて、押し込められるままだった」

「その時までは使用人たちはいたのね?」

クラリオが、こくりと頷く。

やはり私たちが来たから使用人たちは、こういう挙動をしたらしい。

「……アンリエッタさんの死体がどこにあるか、貴方たちはわかる?」

「え、死体が……?」

「そう。彼女の死体を見つければ、私のギフトと組み合わせて、彼女を元に戻せるかもしれない」

「え!?」

ロクサーヌが目を輝かせる。

本当にアンリエッタさんは信頼されていたのだろう。

「本当ですか? そんなことが……すでに亡くなっているとしても?」

「特殊も特殊のイレギュラーなことだけどね。アンリエッタさんのギフトに心当たりがあるから、もしかしたら、ってだけの話。でもできるかもしれないなら、やらない理由はないでしょう?」

「……そうですね」

クラリオはロクサーヌに視線を落としてから、うなずく。

「ですが、僕たちはアンリエッタが殺されたことすら知りませんでした。その……」

「うん」

「……アンリエッタは逃げた、と言い聞かせられていました」

『え!』

驚くアンリエッタさん。

「誰が言ったの?」

「父です」

「そう。使用人が逃げだすような家政をしていたんだって、むしろ恥よね、その台詞。伯爵としての自覚が足りないあたり、やっぱり操られているのかしら」

「え」

「ん?」

あら、もしかして操られている、という言葉に反応した? 違う?

「……父は、アンリエッタを傷つけようとして言ったんだと思います」

「そういう心の機微はわかっているのね。でも、以前までの伯爵とは違うとか? そういうことを言う人だったの?」

「いえ、そのようなことはありませんでした……」

なんか、操られているだけなら無機質な人形になりそうだけど。

わざわざ子供を傷つけるような台詞を言うのは乗っ取りとか、なり代わりっぽい。

悪意という意思があるわよね?

「それで、アンリエッタさんの死体に心当たりは?」

「確信はありませんが……もし、彼女を殺して、死体を処分するつもりなら……」

「ええ」

「裏庭にある、今は使われていない井戸に捨てたのか、と……」

「井戸!」

西遊記の 烏鶏国王(うけいこくおう) も井戸に突き落とされて殺されたのよねぇ。

ギフトは運命まで再現しないと思っているのだが、ここは被るのか。

「OK。今すぐ把握すべきことは聞けたわ。あとは貴方たちを救出する」

ヴォルテール家の方で医者のスタンバイをしてもらえるように手紙は出している。

もちろん手紙を出したのはミニだ。

ラグナ卿の直筆手紙なので、すぐに手配してもらえるだろう。

幸い、こうして話せるレベルの二人だが医者に診せた方がいい。

縮地を使えば移動できるし、隣領だから落さないように抱えて筋斗雲で運ぶのもいいだろう。

二人を移動する手段を考えていた、その時。

ドゴォオオンッ!

「きゃあ!」

「うわっ!」

『きゃっ……!?』

屋敷に轟音が鳴り響く。

どうやら、あちらは始まったらしい。

ラグナ卿が臭いを嗅ぎつけて暴れ始めたか。

あるいは襲いかかられたか。やはり連れてきてよかった、ラグナ卿。

私だけで動いていたら、あっちの戦闘担当も私だったはずだ。

身外身法である程度のカバーができるとはいえ、手が回らなくなる。

やはり、あらゆる動きに仲間が必要ね。

「すぐに逃げましょう、あっちはおそらく戦闘を始めたわ」

「戦闘、戦い……!? なぜ、誰と誰が」

そりゃあラグナ卿とベラゴート伯爵が、じゃない?

「そんなことを気にするのはあと。それとも、何か一緒に連れていきたい人がいる?」

ロクサーヌの方はアンリエッタさん以外、気にする人間はいなそうだ。

だが、クラリオの方はどうか。

「──私も一緒に連れていってもらいたいわねぇ?」

「……ッ!」

ゾワリ、と。

鳥肌が立つような気配を感じ、その声がした扉の方を振り返る。

「勝手に子供たちを連れていこうとするなんて悪いお嬢さんね」

そこにいたのは、妖艶な美女だった。

銀というより白い髪色。だが、年老いてはおらず、白く艶のある長髪をしている。

口紅が濃いせいか、色気がすごい。

私と同世代の体ではなく、明らかに成人済みの大人の女性だ。

女性のエネミー、初かしら!? ウキィ!?