軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109 山での救助活動

「山で焦って行動したら、二次被害が出るわ。私たちが遭難したり、足を滑らせたりしないように

気をつけないと」

人助けをするにしても場所が悪い。

これは私よりも山を知っているエミリア嬢の方がわかるだろう。

遭難時を想定したような彩色の明るい服を着用している彼女だ。

私の意見には頷いてくれて。

「そうね。でも聞こえた以上、見捨てられないと思う」

おお、なんと善良な。 行者(ぎょうじゃ) はその心に打たれたかもしれない。

「俺が見に行きますよ」

と、護衛の男が言うのだけれど。

「失礼ですが、貴方は山には慣れているのですか」

「……いや」

そうよね。まぁ、近場に山があったら訓練に使うこともあるかもだけど。

どうにも平地で騎士をやっていて、今回だけ護衛に抜擢されたように思える。

「エミリア嬢が指示を出してくれますか。この山に一番詳しいのは貴方ですから」

「私が? でも、スウェンさん、貴方は……」

「まぁ、私も山に慣れているとまでは言いませんけど。それなりに動ける方なので」

胸を張って、そう言ってあげると、エミリア嬢は少しだけ悩んでから、意を決して力強く頷いてくれた。

私は笑って彼女に応えてあげる。

「では、声のした方角をきちんと把握するところから始めます。慎重になりすぎても間に合わないかもしれませんが、道を踏み外さないように気をつけて」

エミリア嬢の言葉に私と護衛の男性が応えて頷く。

機を見計らい、私は肩に乗せて透明になっているミニに指示を飛ばす。

「お願い。本当に困っている人がいるのなら先に助けてあげて」

「ウキッ」

小声でのやりとりだが、山中に他者の会話などの雑音がなく、あやしまれないようにするので一苦労だ。

肩から少しの重みがなくなり、どうやら見えないまま、ミニは声のもとへ向かったらしい。

さて。本当に要救助者がいるのか、それとも賊の企みか。

山に出かける令嬢と、山で罠を張る賊。どちらが悪いのか。

何より、これは日常的なトラブルなのか、それとも運命的なものなのか。

フィナさんがここにいたら、運命なんだろうなと思えるのだけど。

しばらく慎重に足を進めながら、こちらからも呼びかけていく。

私は、先日の声を聞いたこともあるから疑いを持って返ってくる声を聞いた。

「こっちだ! 早く来てくれぇ!」

まず、声は男性ね。元気がある。

「弱ってはいない声ね。足を滑らせたばかりか。少なくとも数日間も彷徨っていた人間の声じゃないわ」

「……確かに。言われてみるとそうね」

「なら、こちらもそこまで焦る必要はないわね。余裕をもって、自分たちの安全を確保しながら、慎重に動いてもいいと思う」

「……うん、確かに」

私の意見に護衛の男性も『なるほど』と頷いている。

だが、落ち着く私たちに対して、逆に焦っているのが相手だ。

「おい、何をしているんだ!? 早く来てくれよ!」

声には、かなり近付いているけれど。

「……なにかおかしいと思うわ。少し止まりましょう」

余裕がまだあるとなったところでそう告げると、救出に焦りのあったエミリア嬢も立ち止まってくれた。

私は耳を澄ませて、救助を求める声だけではなく、周囲にも気を配る。

「スウェンさん……?」

「しーっ」

指を立ててエミリア嬢に沈黙させ、前に出ておく。

何かあったとしても、まず私がどうにかなった方が被害は少ないからね。

なにせ私には金剛不壊の肉体があるから。

「ウキッ」

「ん」

すると、耳元でミニの声がした。

どうやらいつの間にか戻ってきていたらしい。この子が戻ってきたということは救出済みか、それとも?

「……助けるべき人がいたのなら一回。敵がいたのなら二回。手の甲を叩いて教えて」

「ウキッ。……ウキ、ウキ」

肩に添えた手の甲が二回叩かれる。

というか『ウキ』の数が二回なのでお察しだ。

どうやら敵の罠らしい。わかっていてエミリア嬢たちを行かせるわけにはいくまい。

ただ、私の方も耳を澄ませてみてわかったことがある。

救助を求める声を出しているのが一人いるとして。

他にも息を潜めている音を拾ったのだ。

……山中でよくもまぁ。襲う側だって危ないでしょうに。

ただ、山といっても日本の山のようなイメージではない。

樹木の密度というか、種類というか。日本のそれより広い印象。

今いる場所も傾斜はそこまでではなく、標高もおそらく高くない。

もしかしたら街道付近の森に潜むくらいの感覚かもしれない。

街からエミリア嬢が山に来るのを見ていて動きだしたか。

賊の数は多く感じる。正確に把握できないのか、それとも実際に多いのか。

私の目的は運命か否かを見極めることだ。

エミリア嬢が窮地に陥れば救う気でいる。

でも、できるかぎり事態を自然に委ねて、この一件がどういった性質の出来事なのか計っておきたい。

それによって私の中でのエミリア嬢の位置付けも決まってくる。

モブなのか、ネームドなのか。

現実の彼女を見ていないのではなく、トラブルへの巻き込まれやすさの意味で。

私がこの地に訪れたせいで起きる事件とは思いたくないなぁ。

「エミリア嬢。貴方はこのまま、あの声を助けに行くべきと思いますか」

「え? それは……もちろん」

「でも、どうもあやしいように思います。街道も少し外れてしまっていますし。もし、何かあったら捜索側も見失ってしまうんじゃ?」

「それは……」

「街道からここまでの道のりに、捜索側がわかりやすいように目印をつけておくのはどうでしょう? 幸い、あの声は元気なようですし」

「…………」

エミリア嬢が、本来はこの状況でどう判断し、どう行動する人物なのか。

それによって起きるはずの出来事はどういうものか。

もし、彼女とラグナ卿に縁が結ばれていたら、どういうことが起きえたのか。

私はそういうのを探ろうとしていた。でも。

「スウェンさんは学園で私を助けてくれた人よね?」

「え?」

思いも寄らない方向の言葉が来た。

「貴方の声には聞き覚えがあったの。学園で、あの時、私を助けてくれた彼女のことを捜してみたのだけれど、見つけられなかった。でも忘れていないわ、貴方の声」

私は前方を向いていた体をエミリア嬢の方へ向け直して、彼女を見た。

真剣な表情だ。そして確信を抱いている者の顔。

「もしかして、あの男性の声。危ない人の声なの? 貴方の判断を聞かせて」

エミリア嬢は逆に私にそう問うてきた。

あらぁ。見事に介入失敗した気がするわ。

絶対に『本来の運命』なんてものとは違う方向に進んでいること、うけあい。

慣れないことはするものではないらしい。