軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話 彼は、神の作り給うた奇跡である

「私が、担当教師で良いのかい?」

二十歳にして結界師として名を馳せて学校の先生になったシャイネン・ナーハフォルガーは、突然の申し出に驚いていた。

『空間魔法の研究』をする3人の生徒の話は聞いていた。

そして、その担当をめぐってスパイトロフ副学長が裏工作をしていることも。

しかし、兄である現王の手前、身分を明かすこともできず間に入ることを躊躇っていた。

だだ、感情として、どうしても許せない。

このまま、みすみす能力のある学生を大人の餌食にして良いのか?

せめて、副学長以外の担当者を付けてやることは出来ないのか?

自問自答していたシャイネンの元に、なんと、その本人達が3人揃ってお願いに来たのだ。

そこに、運命のようなものを感じ、シャイネンは、自分の執務室に彼らを通した。

「先ずは、お話だけでも聞いていただけないでしょうか?」

断られると他にアテのないトワレは、必死に懇願する。

思案顔で顎を擦る彼の手は、ゴツゴツとふしくれだっており、魔法系とは思えない逞しい体つきをしていた。

結界には興味ゼロで授業を取っていないリベルタは、今日が初顔合わせ。

そんな彼女は、攻略本に隠しキャラの簡易的な情報しか載せなかった運営を呪った。

『こんなにタイプなんて、聞いてない』

シルエットのみで顔面のビジュアルが公開されていなかった彼は、実は、リベルタの大好きなメガネ男子だった。

しかも、フレルトの黒縁とは違い、銀色に輝くメタルフレーム。

一見温和で人当たり良さそうに見えるが、今も自分自身の周りに薄い結界膜を張り、自分のテリトリーを完璧に守っている。

それは、半径2メートル。

立ち話をするには、微妙に遠い。

「まぁ、取り敢えず、座って話そうか」

手狭な部屋に置かれたソファーは、せいぜい二人掛け。

そこに三人の学生は、ギュウギュウに座り、テーブルを挟んでシャイネンと話をすることになった。

「ほぉ、これは、凄いですね」

試作品のマジックバッグを手に取り、感嘆のため息を吐く。

そして、そんな彼の顔をガン見しながら、リベルタも感嘆のため息をついた。

『彼は、神の作り給うた奇跡である』

攻略本に一行しか載っていなかった彼のビジュアル説明だが、確かに嘘偽りはないとリベルタはゴクリとツバを飲んだ。

髪の色は、燃えるような鮮やかな赤。

勿論、二重の大きな瞳を縁取る睫毛も、赤。

形の良い唇は艷やかで、発する言葉は子宮を直撃するような低音ボイス。

二の腕はシャツ越しにも分かるほど逞しく、ボタンを二つ開けた開襟部分から覗く厚い胸板に頬を埋めたいと思った。

細マッチョが理想だと思っていたが、さにあらず。

本当の意味で均整の取れた筋肉美を知らなかっただけだった。

そして、彼の真剣にバッグを見定める視線には、一片の侮りもなかった。

どうせ学生が作ったものだからなどと、上から目線でないところに好感が持てた。

現在十二歳のリベルタの周りには、前世ではお目にかからなかったオコチャマしかいない。

最近交流のあるクルーガーですら、まだ、十四歳。

前世を足すと百を超えると言われても、見た目は子供。

ゲーム内や観賞用になら良いが、恋愛対象となると犯罪臭がして本気にはなれない。

しかし、シャイネンは、一応前世の常識と合わせても成人枠だ。

しかも、穏やかそうな雰囲気は、憧れていた研究所の所長にも似ている。

御歳七十を超えていたが、ロマンスグレーのナイスガイだった。

ゲーム廃人の上にオジ専というあり得ない二面性を持つ彼女に、リアル彼氏が出来なかったのも頷けるだろう。

「先生、好きです」

思ったことが口から出るのは、リベルタの良さであり悪さでもある。

馬鹿正直な友に、トワレは、苦笑するしかない。

笑い飛ばされるか、はぐらかされるか。

トワレもクルーガーも、この後、なんとリベルタを慰めたら良いかと考えていたが、

「ありがとう。光栄だけど、六年後に学園を卒業して、それでも好きだったら言ってくれるかな?そうしたら、ちゃんと考えて返事をさせてもらうよ」

シャイネンは、いたって真摯に返事をしてくれた。

子供の恋心など、3日も経てば忘れてしまうかもしれない。

しかし、冷たくあしらわれた記憶は、一生消えないだろう。

ただ、ここで特筆すべきは、

『ちゃんと考えて返事をさせてもらう』

と明言したところだ。

今まで数え切れないほどの告白を受けたが、他の生徒には、言っていない。

この時点で、シャイネンは、この類まれな才能を秘めた少女に興味を抱いていたと言っていい。

「担当教員の件は、少し待ってもらえるかな?学園長とも相談してから返事をさせてもらうよ」

この学園で前世の記憶のあるリベルタ以外で、彼の身分を知るのは学園長だけだ。

スパイトロフ副学長を抑えるためにも、調整を図ってくれるのだろう。

「「「よろしくお願いいたします」」」

3人仲良く頭を下げ、シャイネンの執務室を出たあと、そのまま自分達が研究室として与えられた部室まで帰ることにした。

「全く、お前は、もうちょっと考えてから喋れ。会ったその日に告白とか、全然誠意が感じられない」

告白され過ぎてウンザリした経験があるクルーガーは、リベルタの軽いノリに眉をひそめた。

しかし、前世でも、推しのために全精力を注いだ彼女は、何事も一点集中だ。

シャイネンへの告白も本気だし、この後、推す為に何が出来るかばかり考えている。

「先生、お金好きかな」

「嫌いな人間はいないと思うけど、生徒からお金を巻き上げたら、それ犯罪だから」

「じゃあ、差し入れは?その下に、お金を……」

「うん。1回お金から離れようか」

馬鹿な後輩ほど可愛いとは言わないが、夢中になると何をしでかすかわからないリベルタを放っておけないトワレ。

そんなトワレを、根気があって優しくて懸命な姿は美しいなと思うクルーガーは、自分が百年間で初めての恋に落ちていることに気づいていない。

三者三様。

思考回路も趣味趣向も違うメンバーだが、その後、学園で長く語られる天才達だということは間違いなかった。