作品タイトル不明
第十話 子が子なら、親も親
「きゃあっ」
リベルタは、何が起こったのか分からず、頭を抱えて蹲った。
そして、大きな何かが、庇うように自分に覆いかぶさってくれている気配を感じる。
恐る恐る目を開けると、シャイネンに抱きしめられていた。
そして、シャイネンの張った結界を思い切り殴ったフレルトは、反動で後ろにひっくり返り地面に転がっていた。
「フレルト・ポルポ。君は、殺傷能力のある武器で同級生に襲いかかった。これは、学園のルールに違反する。即刻荷物をまとめて家に帰りなさい」
教師として、シャイネンは、的確に指示を出す。
しかし、その目は怒りに血走っていた。
天真爛漫で、ちょっと、いやかなり変人味のあるリベルタだが、大切な生徒に変わりはない。
それを剣でバッサリ切ろうとした少年を、出来ることなら時空の狭間に閉じ込め永遠に暗闇を彷徨わせたいとさえ思う。
「お、俺は、悪くない!」
「では、どこが悪くなかったのかを原稿にまとめて学園に送りなさい。判断は、学園長に任せましょう」
「そんな………」
立ち上がる気力すら失ったフレルトは、救護班により担架で運ばれ、そのまま迎えに来た公爵家の馬車に乗せられて帰っていった。
そこまでのことを、しでかしたのだ。
退学で済めば、よしとしなければならない。
「はぁー、ビックリした」
フレルトが去った後、リベルタは、シャイネンに連れられ、合同研修へと戻った。
最後に別れる際、シャイネンは宝剣を手に、
「リベルタさん、この剣は、私物持ち込みということで、学校が保管しますね。卒業式の日に、お返しします」
と言った。
「えー。シャイネン先生が貰ってくれていいのに」
「私が貰うと、賄賂になります」
自分に向かって猪突猛進に愛を向けてくる十二歳の少女に、シャイネンは、可笑しみを感じていた。
ずっと身分を隠し、素性を知られることのないよう影のように生きてきた彼にとって、リベルタは、太陽のように眩しい。
しかし、それは、まだ愛とか恋とかで語られるレベルの思いではなかった。
それが変わるのは、4年後。
百年ぶりに誕生した聖女が、学園に入学してきた時である。
その後、フレルトは、退学することはなかった。
リベルタの母に、フレルトの母チャルラが泣きついたからだ。
「フローラ、そんなに怒らないで。ちょっとした、行き違いだったのよ。あの子も、リベルタちゃんのことを好きなはずよ」
「チャルラ、落ち着いて考えてみて。好きな人を剣で切ろうとするかしら?」
「あら、それなら、そんな危ない物を持ち込んだリベルタちゃんにも、罪はあるんじゃないかしら?」
子を守るためとはいえ、こちらに責任を転嫁しようとする親友に、フローラは愕然とした。
「貴女……そんな人だった?」
「うちは、公爵なのよ。家名に傷をつけるわけにはいかないの」
「伯爵家なら、いいと?」
「そんな事言ってないわ。ちゃんとフレルトには反省させる。責任を取って、こちらに婿入させるから」
「いらないわよ!」
子供時代からの親友だと思い今まで付き合いを続けてきたが、どうやら、あちらはずっとこちらを見下していたようだ。
「何故!学園トップで入学したフレルトが、伯爵家ごときを継いでくれるのよ?」
「今じゃ、最下位を彷徨っているらしいじゃない。それに、うちは、『伯爵家ごとき』ですから、わざわざ『公爵家ごとき』に助けて貰わなくても大丈夫です!」
流石リベルタの母というべきか。
普段温和な人間ほど、怒らせると恐い。
「今回だけは、リベルタにも非があったと認めましょう。しかし、貴女の息子がした事を、私は、一生許せそうにありません。」
ダン!
フローラは、テーブルを両手で強く叩くと、その勢いで立ち上がった。
「二度と、お目にかかることはないと思いますが、お元気で!」
さっさと出ていけと眼力で訴えると、流石のチャルラも、帰るしかなくなった。
それでも、悔しさを抑えきれず、
「伯爵家の分際で!後悔しても、知らないわよ!」
と顎を上げて威嚇した。
それに対して、フローラは、スンと表情を無くし、
「貴女との付き合いを続けてきたことに後悔しているわ」
と冷静に答えた。
近くで見ていた使用人達は、
『我らが女主人の勝ち!』
と心の中で、拍手する。
こうして、長年に渡って続けられてきたポルポ公爵家とベリッシモ伯爵家の友好は途絶えた。
その話を聞き、社交界が揺れる。
常々ポルポ公爵家の横柄さに辟易してきた人々だが、ベリッシモ伯爵夫人が仲を取り持つことで、なんとか均衡を保っていたのだ。
『ベリッシモ伯爵家に見捨てられたポルポ公爵家は、もう終わりだ』
その噂を聞いた貴族は、ひっそりと静かに引く波のように、ポルポ公爵家から離れていく。
その事に本人達が気付くのは、もう少し先の話である。
第一部完