軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第208話 タイプ

パーティーに着ていく服を用意した翌日の水曜日。

この日も昼間はゆっくりと過ごし、夕方になると、キョウカがやってきて、俺の部屋で着替えだした。

「今日は俺とキョウカだけで行くから留守番をお願いね。立食って言ってたし、晩御飯はいらないから」

「わかりました」

「お気をつけて」

ルリとモニカが頷く。

なお、ミリアムさんはコタツの中でおやすみだ。

「お待たせしました」

着替え終わったキョウカが微笑みながら戻ってくる。

「もう偽令嬢キョウカさんになってるんだ」

「今日はこれでいきます」

「一応、聞くんだけど、そんなに人格を変えて大丈夫なの?」

なんか心配だ。

「それは勘違いです。人格を変えているわけではありません。人には色々な一面があります。温厚なタツヤさんだって怒る時もあれば、イラつく時もあるでしょう?」

「それはもちろんそうだよ」

会社勤めだった時は特にそうだった。

だからタバコを吸いだしたのだ。

「それは私もです。普段はバカで皆さんに迷惑しかかけていない頭のおかしい私もしおらしい面や乙女な部分もあるのです。暗示はそれを前面に出しているにすぎません」

そこまで卑屈にならなくても……

「キョウカは良い子だよ」

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」

キョウカは嬉しそうにほほ笑む。

「お世辞じゃないよ?」

「そうですか……でも、ユウセイ君はそう思っています」

思ってそう……

「ユウセイ君はああいう子だからね……」

「まあ、ユウセイ君はいいです。とにかく、暗示を使ったからといって人格が変わっているわけではないのでご安心を」

「ちなみに、俺も使えるの?」

「おすすめはしません。これは感情のコントロールです。感情というのは時に己を守ります。剣しか使えない私はこの暗示であえて恐怖心を失くし、戦うのです。遠距離を主とするタツヤさん向きではないです」

恐怖か……

俺はバルトルトに恐怖した。

それは防衛本能だ。

もし、あの時、暗示で恐怖を失くし、無鉄砲に突っ込んでいたらどうなっていただろう?

俺にはキョウカやユウセイ君ほどの経験はないからヤバかった気もする。

恐怖はあの時の俺のように感じすぎてもダメだが、失いすぎてもダメなのだろう。

「キョウカ……でも、おばけは怖いままだよね?」

「斬れないものは怖いです」

だから絶対に君なら斬れるよ……

「わかった。俺は俺のままでいるよ」

「それが良いです。私、タツヤさん、ユウセイ君……それぞれタイプが違います。だからこそ、補っていけばいいのです」

戦いのことはキョウカやユウセイ君に従った方がいい。

魔力や実力ではなく、踏んできた場数が違うのだ。

「そうだね。ごめん、変な話をした。準備もあるし、行こうか」

「ええ」

俺達は転移をし、借家に飛ぶ。

そして、ラヴェル侯爵の屋敷に向かい、屋敷に通されると、あっという間にキョウカがメイド達に攫われてしまった。

俺は残ったメイドに指示されたので一人で客室に向かい、燕尾服に着替える。

「うーん、似合ってるのかな?」

なんとなくスマホを取り出し、自撮りをした。

撮った写真を見ながら微妙だなーと思っていると、ノックの音が部屋に響く。

「はい?」

『私だ。準備はできたかな?』

この声はラヴェル侯爵だ。

「はい。着替えました」

そう答えると、扉が開き、ラヴェル侯爵が部屋に入ってくる。

ラヴェル侯爵は俺が着ているような燕尾服ではなく、軍服だ。

「うむ。似合っているではないか」

ラヴェル侯爵が頷きながら近づいてきた。

「そうですかねー? 侯爵はこういう服じゃないんですね」

「私は軍人だからな。軍人はほとんど軍服だ。こういう時にこの勲章を自慢するんだ」

ラヴェル侯爵の胸にはたくさんの勲章が付いていた。

それだけ軍功があるということだ。

「キョウカも上級悪魔を倒しましたけど、もらえないんですかね?」

「貴族夫人がもらうのは聞いたことないな」

それもそうか。

刀を振り回す貴族夫人はウチだけ。

「ドレスに勲章が付いてても変ですしね」

「そうだな。まあ、夫人の功績は貴殿のものになったのだろう。だから辺境伯だ」

こっちの世界でも功績をもらってしまうのか。

本当に悪い気がする。

「マリエル様は?」

「まだ準備だ。女は長い。本当に長い」

昨日の話を聞いていると、マリエル様と相性が良くないんだなーって思ってしまう。

でも、仲が良いのは知っているし、そういうのは関係ないんだろう。

愚痴多めだけど……

「昨日、本当にそうだなと思いましたね」

「だろうな。どうだ? 私の部屋で一杯やらんか?」

え? 飲むの?

「お酒を飲んでいいものですかね?」

「どうせ向こうで飲むんだから同じことだろう」

飲み会前に飲んだことはないな……

まあ、暇なことは確かだし、付き合うか。

俺達はラヴェル侯爵の執務室に向かい、ワインを飲んだ。

話題はもちろん、マリエル様の愚痴であり、俺は聞き役に徹した。

そして、辺りも暗くなった辺りでメイドが呼びにきたので1階に降りる。

すると、玄関のところで待つドレスに着替えたキョウカとマリエル様が待っていた。

「おー、なんか良い感じだね」

「ありがとうございます」

キョウカがニッコリと微笑む。

「貴殿は褒め方が下手だな」

「一切、褒めない人よりマシでは?」

ラヴェル侯爵が呆れたように言うと、すかさずマリエル様の苦言が飛んできた。

「お前はいつ見ても綺麗だ」

「ハァ……キョウカさん、男性には期待しないことです」

ため息をついたマリエル様がさっさと出ていく。

「ラヴェル侯爵様、女性には色んなタイプがいます。マリエル様はしっかりとした方ですが、いつまでも新婚気分でいたい乙女なタイプです。それを忘れてはなりません」

そうなんだ……

「う、うむ。覚えておこう」

キョウカに忠告されたラヴェル侯爵がたじろぐ。

「参りましょう」

「そうだな……」

俺達はマリエル様を追って、屋敷を出ると、馬車に乗り込み、城に向かった。