軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第195話 ロザリーの話

受付のお姉さんに桐ヶ谷さんを呼んでもらい、エントランスで待っていると、すぐに桐ヶ谷さんがエレベーターから降りてきた。

「やあ、山田さん。二日連続ですみませんね」

桐ヶ谷さんがいつもの笑顔でこちらにやってくる。

「いえいえ。大事なことですから」

500万ももらえるからね!

「そう言ってもらえるとありがたいです……行きますか」

「そうですね」

俺達は協会を出ると、桐ヶ谷さんの案内で歩いていく。

すると、1、2分で喫茶店に到着し、中に入った。

店内は懐かしい木の香りが漂い、カウンターといくつかのテーブルがある。

他にお客さんもおらず、年配のマスターがコップを磨いていた。

静かで心休まる昔ながらの喫茶店という感じがする。

「いらっしゃい」

「どうもー。あと2人来ますので奥のテーブルをお願いしますね」

「どうぞ」

マスターが頷いたので一番奥のテーブルに桐ヶ谷さんと並んで座った。

「並ぶと変な感じがしますね」

変な目で見られない?

違うよ?

「お互い、スーツだから大丈夫ですよ」

確かにそうか。

俺もかなり社会人の感覚が抜けてきているな。

「それもそうですね。しかし、良い店ですねー」

「でしょ」

店内を見渡していると、マスターがこちらにやってくる。

「ご注文は?」

「コーヒーをお願いします」

「私もそれで」

「かしこまりました」

マスターが頷き、カウンターに戻っていく。

「良い店なのにお客さんがあまりいませんね」

「ウチ御用達の店なんですよ。今日は貸し切りです。悪魔の話をしますからね」

あ、そういうこと。

俺達がそのまま待っていると、マスターがコーヒーを3つ持ってきた。

そして、俺達のところに置くと、最後の1つを俺達の対面の席に置く。

「ん?」

「マスター? まだ来てませんよ」

「はい? 何がですか?」

え?

「……山田、前を見ろ」

ミリアムに耳元でそう囁かれたので正面を見ると、ロザリーが艶めかしい足を組み、優雅にコーヒーを飲んでいた。

「うーん、良い香り。やっぱりコーヒーはブラックよね。私、苦いの大好き」

いつの間にかそこにいたロザリーがいやらしく微笑む。

「ロザリー……」

「これが愛を司る悪魔ですか……なるほど。とんでもない……」

桐ヶ谷さんがロザリーをじーっと見る。

「桐ヶ谷さん、ロザリーの魅了に負けたらダメですよ。確かにとんでもなくエロいですけど、気力で耐えましょう」

「ん? いや、そういう意味ではなく、魔力と隠蔽能力がとんでもないって言ったんですが……」

あれ?

「山田さん、褒めていただいて嬉しいのですが、魅了魔法は使っておりませんよ。昨日からずっと……」

あれ?

「ミリアムー」

肩にいるミリアムを抱いて撫でた。

「にゃー」

「あ、いたんですか。これまたとんでもない隠蔽能力ですね」

桐ヶ谷さんがちょっと呆れた表情でミリアムを見る。

「山田さん、溜まってます? 悪いことは言わないからさっさとどっちも抱いてしまいなさい。どっちも拒否しませんし、もっと愛が深まりますよ。ふふっ」

桐ヶ谷さんの前でどっちもとか言うな。

っていうか、ほっとけ。

「ロザリー、加賀美さんは?」

嫌な話題はスルー。

これが大人だ。

「ああ、それです、それ。オリエがインフルエンザにかかっちゃいました」

は?

「インフルです? 昨日は元気そうでしたけど」

「急に来ましたね。今朝、病院に連れていき、薬をもらいました。今頃、ベッドの上でエッチな夢でも見ていることでしょう」

エッチな夢のくだりはいらんだろ。

「加賀美さんでも病気になるんですね」

「ええ。キョウカさんと違って病気になるんです。山田さんも昨日、オリエと濃厚接触をしているのですから気を付けてくださいね」

ロザリーが濃厚接触とか言うと、すごくいやらしく思ってしまう。

クソッ! これも魅了か!

「手洗い、うがいをしていますから大丈夫です」

「そうですか。気を付けてくださいね、キョウカさんと濃厚接触していた山田さん」

濃厚接触言うな。

ルリの方が濃厚接触だったし、何なら皆でピザを食べたわ。

「桐ヶ谷さん、どうします? 加賀美さんがダウンしちゃったみたいですけど」

帰りません?

「加賀美さんには後日、単独で話を聞くことにしましょう。それよりも……」

桐ヶ谷さんがロザリーを見る。

「うーん、私、この男は好きじゃないですね。感情が薄いです。私は山田さんのような大人ぶってるけど中身は子供な方が好きですね」

好きとか言うな。

ドキドキしちゃう。

「どうも。でも、私は子供じゃないです」

「いえいえ、子供ですよ。でも、男の人はそれでいいのです。いつまでも子供心を忘れずに人生を楽しんでください。でも、愛を忘れてはいけませんよ? この愛を司る悪魔ロザリーが愛のアドバイスを致しますと、何でもない日にでも花を贈ると良いですよ。あれらはそういうのを好みます。あなたには花の良さがまったくわからないでしょうけどね」

クソッ!

俺の中には確実になかった発想だよ!

ありがとうございます!

「どうも……」

「愛を大切に……で? 話があるんでしょう? 何でしょうかね?」

ロザリーが足を組み直した。

「確認ですが、あなたは教団が呼んだ悪魔という認識でよろしいですか?」

桐ヶ谷さんがまったく表情を変えずに聞く。

「ええ。そうです。呼ばれている気がしたので召喚に応じました。本当はあの程度の召喚魔法陣に応じなくてもいいんですが、私は男性に乞われたり、命じられると断れないんです」

またエロく感じることを言う。

「そうですか……以降は教団では何を?」

「詳しくは山田さんがどぎまぎしちゃうから言えませんが、適当に遊んでましたね。たまに悪魔を召喚してほしいと頼まれたから召喚の魔法陣を設置したくらいです」

学校に召喚の魔法陣を設置し、フィルマンを呼んだのはロザリーだ。

「教団を抜けたのは方向性の違いから?」

「ええ。私は愛を司る悪魔です。愛こそが私の生命力であり、生きる目的。少しでも愛を増やし、愛を育むことが生きがいなのです。あなた方も見たでしょうが、教団は愛を育むどころか壊します。まあ、そういう愛もあるかなと思って、温かい目で見ていたんですが、ディオンはダメです。あれは残虐の悪魔。愛なんか知りません。あれを重宝するような所にはいられないと思い、山田さんを頼ったわけですね」

頼ってはなくない?

「ふむ……加賀美さんの使い魔になった動機は?」

「本当は山田さんが良かったんですけど、不甲斐ないからですね。さっさと抱けよ。愛を見せろ」

うるせーなー……

「ふーむ……山田さんのことは置いておいてもそれで加賀美さんですか?」

「バーで飲んでたら性欲マックスな人がいたんで声をかけたんです。意気投合してカラオケに行きましたね。そのままオールして、連絡先を聞かれたんで契約したんです」

楽しそうだな、おい。

「今はどこに?」

「オリエの家に住んでいますよ。家事担当が私。今朝もおかゆを作りました」

良い女ですなー。

ウチのルリには勝てないけどね!

「あなたはこれからどうするんです?」

「何も。私は愛以外には興味がないんですよ」

「我々と敵対する意思はないと?」

「敵対? 大きく出ましたねー。まあいいです。敵対なんかありえませんよ。何度も言いますが、私は愛を司る悪魔。争いではなく、平和を好むのです。まあ、愛を巡る争いは好きですけどね。寝取り、寝取られ、脳汁ドバドバ」

脳破壊されろ。

「桐ヶ谷さん、この人はこういう悪魔です。会話するだけ無駄かと……」

「そのようですね。ひとまずは監視対象にするといったところですか」

「監視です? 転移しまくってますけど」

しかも、隠蔽魔法もある。

「監視役が加賀美さんということです」

あ、そういうこと。

「それで良いと思いますよ。私はどうでもいいですからね。まあ、オリエのために一つ助言をしますが、教団の生贄についてはあまり公表しない方が良いですよ」

そりゃそうだろ。

ショッキングすぎるわ。

「ロザリー、それはどういう意味でしょうか?」

桐ヶ谷さんの雰囲気が変わった。

「生贄とは悪魔に人間を捧げることでしょう? 教団はそういう方法で悪魔を呼ぼうとしたわけです。そして、これは正解です。悪魔はそれでも呼べます」

え?

「本当ですか?」

「ええ。教団は方法というか手順をちょっと間違えていましたがね。でも、そういう方法があるのは事実です。ですので、公表は控えた方がいいですよ。何しろ、悪魔よりも人間の方が恐ろしいですからね」

ロザリーが楽しそうに笑う。

「…………参考にしよう」

「どうぞ。話は以上ですね。オリエが心配なので戻ります。では、皆様方の愛が永遠でありますよう……ごきげんよう」

ロザリーはコーヒーを飲み干すと、いつものセリフを言い、ウィンクをしながら消えていった。