軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第168話 山田め ★

今日はキョウカさんが来るということでクラリスと一緒に待っていた。

「マリエル様、キョウカさんに剣を贈るんですか?」

クラリスが椅子に立てかけてある剣を見ながら聞いてくる。

「ええ。剣術が得意って言ってましたし、贈りものです」

「普通、女性に剣を贈ります?」

「本人が剣が好きって言っているんですからそれでいいでしょう」

「よくわからない趣味ですね」

それは私もそう思う。

『奥様、キョウカ様とモニカ様がいらしています』

ノックの音と共に部屋の外からメイドの声が聞こえてきた。

「どうぞ」

許可を出すと、キョウカさんとモニカが部屋に入ってくる。

「こんにちはー」

モニカは無言で頭を下げ、キョウカさんは相変わらずのバカ面で明るく挨拶をしてきた。

「こんにちは。まあ、かけなさい」

そう言うと、2人は席についたのでお茶を淹れる。

「急に呼び出してすみませんね」

「いえいえ。昨日は仕事があったんですけど、結局、やることもなくて暇だったんですよ」

昨日、仕事だったのに今日、王都に来たようだ。

呼び出したのは私だが、もはや転移魔法を隠す気もないわね……

「そうですか……なら良かったです」

「いえいえー。あ、ルリちゃんがまたお菓子を焼いてくれましたよ。リンゴの紅茶ケーキです」

キョウカさんはそう言って、空間魔法から籠を取り出し、テーブルにケーキを並べていく。

「紅茶、ケーキ……」

「へー……」

私とクラリスは同時に自分達が飲んでいるお茶を見た。

「香りが良くて美味しいんですよ」

本当に?

苦くない?

「……クラリス」

「はいはい。いただきまーす」

物怖じしないクラリスは普通にケーキを食べ始める。

「ふむ、ふむ……」

クラリスは食べながら自分の何も乗っていない皿を見て、私の皿の上にあるケーキを見た。

そして、籠の中身を確認し、首を傾げる。

「マリエル様は好きじゃないかもしれませんね」

嘘つけ。

「食べてみましょう」

ケーキをフォークで一口サイズに切り、食べてみる。

すると、鼻を抜けるように紅茶の良い香りがし、リンゴのうま味がした。

「なるほど……甘さも控えめで美味しいですね」

これは夫も好きそうだ。

「良かったです。ルリちゃんが自信作って言ってました」

あの娘、欲しいな……

山田の養子なんかやめて、ウチに来ればいいのに……

「良い娘を持ちましたね」

「はい。自慢の娘です」

そう……

もうこの家族のことを深く考えるのはやめた方が良いかもしれない。

キョウカさんの笑顔を見ると、心が痛いし……

「良いことです。さて、キョウカさん、今日はあなたに渡すものがあります」

「渡すもの?」

キョウカさんが首を傾げる。

「はい。これです」

椅子に立てかけていた無骨な剣を取ると、キョウカさんに渡した。

「剣、ですかね?」

「本当は鞘や柄を装飾品なんかで飾るんですけどね」

夫にそう言ったのだが、剣好きはそういうのを好まないと言っていた。

「へー……ちょっと抜いてみてもいいですか?」

「どうぞ」

許可を出すと、キョウカさんが鞘から剣を抜く。

そして、じーっと剣を根元から先まで見始めた。

…………あれ?

なんか雰囲気違わない?

さっきまでのバカ面はどこに?

「キョウカさん?」

「……何でしょう?」

声が低い……

というか、目つきが変わってない?

さっきまでの笑顔が消え、完全に軍人になってない?

もしかしなくても、キョウカさんってヤバい人だったり……

「奥様、奥様」

モニカがキョウカさんの肩を叩く。

「……何?」

キョウカさんがまたしても低い声を出した。

「お戻りください。今はお茶会ですよ」

「それもそうか……昨日、斬れなかったから欲求不満なのかもしれんな」

誰ー!?

この人、誰ー!?

「あんた、殺人鬼か何か?」

物怖じしないクラリスが平然と聞く。

すると、キョウカさんは剣を鞘にしまい、笑顔に戻った。

「違いますよー。昨日、悪魔と遭遇したんですけど、タツヤさんに譲ったんです」

「悪魔? 貴族婦人が何してんのよ?」

「私、悪魔を倒す専門家なんです」

へー……

確かにキョウカさんは魔力も高い。

「そうですか。立派なことだとは思いますが、あなたは貴族の家の妻だということを忘れないように。夫というのは家では役に立ちませんからあなたが守るのですよ」

「わかりました!」

しかし、複雑な家だな。

正妻が悪魔退治の専門家で愛人は村の運営の責任者。

さらには子供は……いえ、これはいい。

うーん……まあ、小さい領地だし、家族でうまくやりくりしているんだろう……と思っておこう。

「しかし、キョウカさん、あなた、いつも同じ服ですね」

前から気になっていた。

似合っているし、上等な服なんだろうけど、いつも同じだ。

「あー、こういうお茶会に出られる服は一着しかないんです」

まあ、辺境の人間だし、お茶会なんかないか。

とはいえ、山田は何をしているんだろう?

妻に一着しか服を買ってやらないとは……

軍人で気遣いができない私の夫ですら買ってくれるというのに……

「キョウカさん、時間はありますか?」

「大丈夫ですよ。仕事も落ち着いて暇ですんで」

「では、服を買いに行きましょうか」

「え? 服ですか? 私、お金を持ってきてないです」

おい、山田……

リンゴで儲けているんだから妻に金くらい持たせろよ。

もしかして、管理癖がある男なんだろうか?

うーん……いや、よそ様の家のことだし、苦言を呈するのはやめよう。

「服くらい私が買ってあげます」

「いいんですか?」

「あなた方から得た物を考えれば安いくらいです。クラリス、お供しなさい」

「はーい」

買い物に行くことにしたので残っているケーキを食べる。

うん、美味しい。

生地がホロホロと落ちるアップルパイよりもこっちの方が好きだわ。