軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第151話 アップルパイ

翌日の土曜日はキョウカとユウセイ君がウチに来て、思い思いに過ごしていた。

ユウセイ君がコタツに入りながら漫画を読み、キョウカがおしゃべりをしている光景はもはや日常となってきている。

2人はこの日も夜までウチにおり、夕食を食べて帰っていった。

そして、その翌日の日曜日も2人は朝からウチに来ていた。

ただし、ユウセイ君はいつものようにコタツに入って漫画を読んでいるが、キョウカは異世界用のローブに着替えていた。

「うーん、ホント似合わないなー、お前……」

ユウセイ君が漫画を机に置くと、キョウカを見ながらしみじみとつぶやく。

「そんなことないよ。かわいいでしょ? タツヤさんとモニカさんは似合っているって言ってるよ。ルリちゃんもかわいいってさ」

キョウカがそう言うと、ミリアムがルリを見る。

すると、ルリが無言で首を横に振った。

多分、言ってないんだろう。

「いやー……なんでだろう? 昔から知ってるからかな? 多分、和服のイメージが強いせいか……」

キョウカの和服といえば、いつぞや袴姿くらいだが、確かに似合っていた。

むしろ、似合いすぎていたくらいだ。

というか、刀との相性がバッチリすぎてちょっと怖かった。

「ユウセイ君、私は人斬りキョウカちゃんじゃなくて、男爵夫人なんだよ? 貴族婦人なの。おほほ」

「おほほって……じゃあ、まずは刀をしまえ」

よく言ってくれた。

俺もずっと気になっていた。

「向こうの世界は治安が日本ほど良くないから自衛のためなんだが?」

「そこは旦那に守ってもらえよ、男爵夫人」

「なるほど……弟子は良いこと言うね」

キョウカは頷くと、空間魔法を使って、刀をしまい、腕を組んできた。

「あー……その格好だとまだ健全に見えるな。確かに良いかもしれん」

いつも制服だもんね。

協会の人達もパパ活って笑っているし。

「タツヤ様、奥様、そろそろ参りましょうか」

モニカが笑いながら促してきた。

「そうだね。ルリ、ミリアム、ユウセイ君、留守番よろしく」

なんでユウセイ君がいるんだろうと思わないでもないけど、この子は完全に飯目当てだ。

「わかりました」

「行ってくるにゃ」

「任せろ」

3人が頷いたので転移魔法を使い、王都の借家に飛んだ。

「相変わらず、転移ってすごいなー。モニカさん、まずはクラリス様のところですか?」

部屋の中をキョロキョロと見渡していたキョウカがモニカに確認する。

「いえ、クラリスは先にマリエル様のお屋敷に行っているそうです」

あの人、我が物顔だしなー。

「なるほど。じゃあ、行きましょうか」

「はい」

俺達は借家を出ると、マリエル様のお屋敷に向かう。

そして、クラリス様のお屋敷の前を通り、隣のマリエル様のお屋敷にやってきた。

「おはようございます」

マリエル様のお屋敷の前で番をしているいつもの門番に声をかける。

「おはようございます、山田男爵様。中で奥様がお待ちですのでどうぞ」

門番が笑顔で挨拶を返し、促してきたので門を抜け、お屋敷に向かう。

「山田男爵様かー……やっぱり違和感がある」

「慣れですよ。私は誇りに思います」

モニカが深く頷いた。

以前、ラヴェル侯爵に自分についてくる者達のためにも自信を持たないといけないと言われたが、確かにそうだろうなと思う。

でも、名前がなー……

全国の山田さんに悪いけど、俺も一ノ瀬か橘か桐ヶ谷が良かった。

「自信、か……まあいい。そのうち出てくるだろう」

「はい。立場が人を作るのです」

モニカが言うと、説得力があるな……

俺達が屋敷の前まで行くと、メイドさんが待っており、マリエル様が待ついつもの客室の前まで案内してくれる。

そして、ノックをし、部屋を開けると、マリエル様とクラリス様がお茶を飲みながら待っていた。

「マリエル様、おはようございます」

「ええ、おはようございます。まあ、かけなさい」

マリエル様に勧められたので席につく。

「クラリス様もおはようございます」

「どうもー。持ってきた?」

クラリス様は相変わらずのマイペースな挨拶をすると、急かしてきた。

「ええ。どうぞ」

空間魔法から籠を取り出し、クラリス様に渡す。

以前、要望があったクラリス様へのおみやげだ。

「何、何ー?」

クラリス様は笑顔で籠を開けた。

「おー! おー……? ……パン?」

クラリス様が首を傾げながら籠から献上品を取り出す。

「アップルパイですね。リンゴを使ったお菓子です」

まあ、コンビニで買った菓子パンだけど……

袋から開けてバスケットに入れただけだ。

「ふーん……朝ごはん食べたんだけどなー」

クラリス様はそう言いながらもアップルパイを食べる。

「およ? ほろほろする?」

クラリス様がアップルパイを齧ると、パイの細かい生地がテーブルにパラパラと落ちた。

「お行儀が悪いですよ。もっと丁寧に食べなさい」

マリエル様が苦言を呈するが、パイはなー……

「いや、これ、すごいサクサクしているんですよ――って、美味っ! 何これ!?」

クラリス様が驚きながらアップルパイを食べていく。

なお、テーブルはパイ生地がボロボロと落ちていた。

「あなたという子は……」

マリエル様がパイ生地が落ちまくっているテーブルを見て、呆れ切っている。

クラリス様はそんなマリエル様を尻目にドンドンと食べ、ついには1つを食べきった。

「いやー、すごく美味しいです。これはいけるな、うん、いける」

クラリス様はそう言ってバスケットに再び、手を伸ばす。

アップルパイは4個買ったのだ。

「美味しいんですか?」

マリエル様がじーっと見る。

「ええ。とっても! リンゴの味がする新食感のパンですね。あと3つかー……1つ食べて、残りは帰ってから…………マリエル様、お一つどうぞ」

さすがのクラリス様もじーっと見てくるマリエル様を見て、空気を読んだようだ。

俺はずっとさっさと渡せよって思ってた。

「では、一つ……確かに見たことがないパンですね。それにボロボロと落ちます」

マリエル様がアップルパイを手に取ると、やはりパラパラとパイ生地が落ちていく。

「パイと呼ばれるものです。私もあまり詳しくはないのですが、そういうパンとでも思って頂けると……」

「まあ、これがクラリスの言う新食感なんでしょうね……」

マリエル様はそう納得しつつ、アップルパイを一口食べた。

「…………ふむ。なるほど」

マリエル様は一口食べると、ハンカチを取り出し、アップルパイをその上に置いた。

「お気に召しませんでしたか?」

「いえ、とても美味しいですし、こんなものは食べたことがありません」

この世界にはパンがあってもパイがないんだろうな。

「ありがとうございます。リンゴはこのように加工しても美味しいのです。これはリンゴを砂糖で煮詰めたものが入っています」

多分……

詳しくは知らない。

「なるほど……これは素晴らしいものだと思いますし、リンゴの可能性も十分に理解しました。しかし、このアップルパイなるものはお茶会に不向きですね」

マリエル様はそう言いながらテーブルに落ちたパイ生地を掴む。

「あー……確かにそうかもしれません。個人で楽しんで頂けると……」

散らかるし、あまりお行儀は良くないかもしれない。

「そうなるでしょうね。数は用意できますか?」

数……

「用意できるかできないかで言えば、できます。ですが、日持ちはしませんよ?」

アップルパイの賞味期限は短いと思う。

「確かにそうかもしれませんね……では、ウチで作りなさい」

つ、作る?

「えーっと、私は不得手でして……」

「誰もあなたに頼んでいません。あなたは男爵でしょうが。これを作った者は…………誰ですか?」

マリエル様はチラッとキョウカを見たが、すぐに『こいつはないな……』って顔をして、俺に視線を戻し、聞いてきた。

「マリエル様、ひどーい。私だってその気になれば作れますよー」

キョウカがマリエル様の表情を見て、不満を漏らす。

「そうですか……では、あなたに作ってもらいましょうかね」

「え? え? …………練習してから」

最近はルリと料理をしているが、お菓子を作ったことはないのだろう。

元々、キョウカは斬る……切るのが得意だけど、料理を得意とはしていなかったはずだ。

「マリエル様、こういうお菓子を作るのが得意なのは娘なんですよ」

実際、ルリは上手。

「あー、そういえば、娘がいるんでしたね…………10歳の」

気のせいではなく、マリエル様の目が冷たくなった。

「い、いえ……」

キョウカの子じゃないってのに……

普通に考えてキョウカが6歳の時の子になるぞ。

ありえないだろ。

…………まあ、だからマリエル様もクラリス様もドン引きしているんだろうけど。

「まあ、いいでしょう。今度、その娘を連れてきなさい」

え?

「娘をですか? 遠いんですけど……小さな子に遠出はちょっと……」

「白々しい…………では、こう言いましょうか。あなた達夫婦は10歳の幼い娘を放ったらかしにして、王都に来ているんですか?」

あ、そうなっちゃうね。

っていうか、転移がバレているのは確実っぽいね。

まあ、馬車で10日はかかるというのに呼び出したらすぐに来るんだからわかるか。

「娘に聞いてみます……」

「よろしい」

マリエル様は頷くと、置いておいたアップルパイを食べだした。

すると、クラリス様はすぐに残り2つのアップルパイが入っているバスケットを閉め、ささっと空間魔法に収納する。

「………………」

マリエル様がアップルパイを食べながらそんなクラリス様をじーっと見る。

しかし、クラリス様はけっして目を合わさないようにしながらガン無視し、優雅にお茶を飲んでいた。

俺はそんな2人を見て、本当に仲が良いんだなーっと思った。